忍者ブログ
変換なしの雑食夢

ran

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

銀英伝

「あの人を忘れる事は出来ないし、私はもう軍人と結婚する気はないわよ」と目の前の人にいう。ヒルダは困ったような顔をしてそうとだけ言った。結婚する気はもうない。5年という年月は私にとってとても幸せな時間だった。あの人の姓を失いたくはないし、あの人を1人にする気はない。

「何よりあんな気持ちもう沢山よ」
「本当に好きなのね」
「貴方だから言うけど」
「?」
「凄くシャイで優しい人なのよ。あの人」
「…」
「想像できないでしよ?」
「ええ」
「でもそうなの」
「そう」
「でも急に如何したの?」
「いいえ、ただ貴方は若いし」
「気を使わないで。財政が苦しいのならば出て行くから。また何処かで下宿するわ」
「下宿?」
「ええ」
「家は?」
「思い出が多すぎるもの」
「そうね」

かちゃりという音。1年経ったのだからと色々な人が声をかけてくる。1年。あっと言う間だった。アルクが歩いてこちらに来る。元々は此の子のセカンドマザーにと言う話だったはずが脱線した。


「セカンドマザーも」
「ダメ?」
「ええ」
「如何して」
「言ったら隠居していい?」
「事によるわね」
「私は元々は場末の売春婦だったの」
「え?!」
「これを知っているのは死んでしまった、陛下とキルヒアイス閣下と夫だけ。徹底的な箝口令を出してくれたから大丈夫だったけど。もう潮時ね。其れこそ此の子のセカンドマザーになってしまったら、色々と困るわ。」
「あうー」
「可愛いアルク公の未来に影を落とすわけにはいかないもの。」
「そんなこと」
「セカンドマザーにはミッターマイヤー夫人が適材ね。」
「…」
「結婚もあの人だから気にしないと言ってくれた」
「そう」
「そのうえきっと私はあの人を忘れる事は出来ない。他に好きな人ができたとしてもきっと心と何処かにあの人が居る」
「ごめんなさい」
「謝らないで」


そう言って私はヒルダにアルクを抱いてもと尋ねる。ニコリと笑って抱き上げた此の子には一辺の不幸もないよう願うのだった




愛した者

拍手

PR

銀英伝

あれから半年。陛下も崩御された。ヒルダとは「未亡人になっちゃたわね。」と時々言う。緩やかな様な慌ただしい様な。ただ、皇帝亡き後の人事は滞りなく済んだらしい。私には関係ないけどといえばキョトンとされた。
ここを去るつもりだった。というより去らざる得ないだろうと。そう言えば今回の人事辞令書を手渡される。


「何これ?」
「あなたの分よ」
「…私の楽しい隠居生活は?」
「何話かしら?」
「宮廷画家と相談役って?私に何相談するの?何もわからないわよ。」
「いいの。貴方はそこにいて今みたいな感じでお茶をしてくれれば」
「…」
「私を見捨てる気?」
「ラインハルト閣下より貴方が怖いわ」


そう言って私は頭を抱える。今頃あの人たちは何してるんだろう?敵味方なく戦ったりしてるのかしらといえばそうかもねと。そこでアルク皇帝閣下が泣くのでお暇する。



「遅いぞ!」
「あー…今日はビッテンフェルト提督を描く日だ」
「嫌そうだな」
「ムサイ」
「どういう意味だ」
「そのままです」



そうかと言って椅子に座る。それ、私のといえば不服そうにソファへ行く。いや、硬い椅子に座って満足しないでよ。そう言いたいけどこの人に何を言ったところで通じないだろう。

「何をしてたらいい?」
「談笑でも」
「誰を相手にだ」
「副官は?」
「置いてきた」
「連れて来てって」
「まぁ貴公聞きたいことがあってな」
「?」




不意に顔を上げる。わざわざあの出来た副官を置いてきたのだかわ相当な理由だろう。


「ミュラー提督とどうだ?」
「やっぱり描くの辞めようかしら」
「どうして」
「あの人が亡くなって半年。再婚する気は毛頭ありません。大体如何してミュラー提督なの?」
「そ、それはだな」



たじろいでいるのでその姿を絵にして差し上げましょうか?といえば不服そうになる。本当にこのひとは…。そう思って鉛筆を滑らす。



「ミュラー提督は高官で武勲もあります。何処ぞ良縁を結ぶ様に皇妃殿下にも言っているのですけどね。」
「皇妃は何と?」
「意中の者が居るからほっとく様にと」
「そ、そうか」
「だから、ビッテンフェルト提督もほっておいて差し上げましょう」
「…だがな」
「大体貴方も未婚でしょう?早く相手を見つけて」
「ぐ」
「この手のネタで女に言い勝てると思ったら大きな間違いですよ。」
「分かっている。後だ」


まだ有るのですが?言うと今何処に住んでいるのだと聴かれるので横の部屋を指す。帰ると嫌でも思い出してしまう為、何よりも墓が近いのだ。公の夜泣きの手伝いも出来るしと言えばゆっくりとうなづかれる。それが余りに不穏で夜這いに来たら高くつきますよとだけ伝えると何故か憤慨される。理由は正々堂々と夜這いするから姑息な手は使わないだそうだ。あいも変わらず面白い人だと思う。


「私は変わっているけど貴方はズレているわね。」
「どういう意味だ」
「そのままです。まあまあかなぁ?」
「ん?」
「此れ如何する気ですか?」
「自室に飾る。貴公の絵は魔除けになるからな」
「そんな用途?!」
「嫌な奴がすごすごと帰ると」
「なんか怖いなぁ」
「良いだろう?それだけ雄々しくかけているということだ」
「…」
「如何した?」
「いや、貴方に抛められるとは」
「?」
「貴方のそういうところは良いと思うのですがね」



そう言って鉛筆を置く。
今は陛下の絵を描かないといけないかわ少し待っていてくださいねと言えばドアをノックする音が聞こえる。今日もいらっしゃったのかしらとビッテンフェルト提督に開けてきて欲しいと言う。両手を見せて。さすがに真っ黒なそれを見せたら従ってくれた。今から茶を淹れるし。お茶に誘おうかなと密かに思う。

「ビッテンフェルト提督?!」
「ミュラー提督。」
「肖像画のデッサンです。今ひと段落つきましたからお茶します?」
「宜しければ」
「俺は帰る」
「なにを言ってんですか?まだ描かないといけないのに!」
「だ、だがな」
「良いではないですか。」
「すまん」


誰に謝ってんだと思いながらテーブルにティーセットを置く。お菓子は食べるのかなぁと思いながら取り敢えず置いておく。


「コーヒーはないのか」
「みんなそういいますね。」
「夫人は御嫌いなのですか?」
「飲めないんです。昔から」
「そう、ですか」
「飲みます?コーヒーが良いなら持ってきてもらいますが」
「いや、たまにはいい」
「この間、ヘル ユリアンと話す機会がありまして。彼は無類の紅茶好きだったな。」
「あら良い趣味だわ」
「その時少しだけ教えてもらって、此れを」
「?」
「夫人にと思いまして、その」
「わっ!こんな高いお茶。どうしたんですか?」
「おいしいお茶らしいです。良かったら」
「本当に…。この間も頂いたばかりで申し訳ないです。」
「此の間?」
「ええ。よく顔を出して下さるんですよ。」
「いや、その」
「余り無理をなさいませんように。只でさえ忙しいのですから」
「…貴方に会えれば大丈夫です」


そう言って微笑まれるものだから、私も微笑み返す。



「貴方に想われる人は幸せですね。」
「は?!」
「でもあまり私を相手にすると勘違いされてしまいますよ」
「「え?」」



そう言ってお茶の葉を手に取る。これで入れてきますねと言えば返事がない。ビッテンフェルト提督に至っては珍しく憐憫の眼差しでミュラー提督を見つめている。ああいう表情も出来たのねと思いながら嬉々として水屋に向かうのだった




黒い服のワルツ

拍手

銀英伝

部屋から出るといつもの3人が所在なさげに立っていて笑ってしまう。あのビッテンフェルト提督まで静かなのだから不気味だ。夫は中で寝ていますわ。といえばうなづいて。そして何か言いたそうなのを手で制して「陛下には秘匿で」というと再びうなづいてくれる。
私はありがとうございますと言って一礼すると玄関に向かう。



「オーベルシュタイン夫人」
「ミュラー提督」
「お送りします。」
「大丈夫。心配なさらないで」
「ですが」
「ではこれを皇妃殿下に」
「え?」
「ミュラー提督」
「はい」
「お腹が空いたわ」
「はい」
「きっと眠たくなるし眠るのね」
「はい」
「そしてあの人が居ないのに、私は」
「オーベルシュタイン夫人」
「ごめんなさい。ミュラー提督」
「いえ」
「ダメですね。」
「当たり前です」
「あの人に怒られるかしら?」
「いいえ。」
「そう。」


そう言って私は手紙を渡すと車に乗り込む。ありがとうございますとミュラーに言えば手を握られる。



「提督?」
「必ず」
「?」
「必ずお帰りください。」
「戦地に行くのではないですよ」
「それでも」
「?」
「必ず。」
「…はい」



うなづいて、ミュラー提督を見ると少し安心して送り出してくれる。走り出す車。ミラー越しに運転手と目が合う。気がつくだろうなと思いながら首を横に降ると悲壮な顔になる。誰にも言ってはいけないと言えば当たり前ですと返す。なる程彼が信用していたはずだ。
あの人は嫌われていたけど家のものには慕われていた。不器用でやさしい人。これをだったと過去形にするのには余りにも時間が足りない。半身を抉り取られな感覚だった。
いつの間にか着いた我が家もどこか余所余所しい。5年という年月は長かった様な短かった様な。


「何かありましたら奥様を部屋にお通しする様にと」
「ん」
「葬儀は?」
「わからないの。まず部屋に」
「はい」


そう言ってとおされた部屋は思った以上に閑散としていてあの人らしい。黒い机の上に不自然なほど白い封筒は私の名前が書かれている。



「用意周到ね。」


よく見れば何枚か重ねてあって一番下は少し変色している。
どれを読んでも業務的で、葬儀のこと遺産のこと残された使用人のこと。何よりも愛犬のこと。事細かに書かれていて思わず笑ってしまう。私に対しては最初はこれらを守るなら後見をつけて好きにしろと書かれ、次は貢献は要らず文が同じ。そして最近はミュラー提督を頼って長生きすることと結ばれている。
最後の一番新しい手紙を読む。


「奥様?」
「ずるい人」
「?」
「愛されてるか心配してたの。好きと言ってくれてもああでしょ?」
「はい」






誰よりも先にお前を助けに行きたかった。
愛していると公然で言えるミッターマイヤーが苦々しく思えた。
お前を不安にさせ傷つかせたことを後悔している。どうか泣かないでほしい。墓にはお前の絵を入れてくれ。それで十分だ。後は幸せになってくれ。

この世で唯一愛した女へ


愛を込めて




「口で言えないからって伝わらないと思ったのかしら?」
「…」
「馬鹿ね。」
「奥様」
「私を幸せにできるのも不幸にするのも貴方次第なのに」
「っ」
「ラーベナルトさん。葬儀の手配を」
「はい」
「静かなのが好きな人だったから」
「わかっています。」
「私は王宮に一度帰ります。」
「はい」



そう言って机を撫でる。ふと、私の名前をあの人が呼んだ気がした。





最期の告白

拍手

銀英伝

本当に嫌になる程いつも通りだった。
朝起きてパウルさんが隣にいて。閣下の容態の話をして。産まれてきた可愛らしいアレク公の話をして。いつかは私も母親になりたいと言ったのだ。そうだなと言わず無理だとも言わず、お前に似たらやかましく泣くのだろうなと淡々と言っていたのに。これはないんじゃないか?私は他の誰でもなく。貴方の子供が欲しかったのよ。


「泣く、な」
「泣くわよ。」



爆破に巻き込まれたと聞いた時、心臓が止まるかと思った。側近の方が連れて行ってくれる間、何かの間違いであってほしいと何度も祈った。けど、貴方は素人めにみてもこと切れる寸前でベッドに横たわっている。


「パウルさん」
「…」
「ねぇ、何か喋って」
「…部屋」
「部屋?家の貴方の部屋?」


コクリと頷いて手が伸びてくる。
愛しい手。誰よりも愛しく何よりも大切なパウルさんの手。
いつもの様に強く握り返してこない。私の頬に手を置いて両手で包むと少し困った様な顔をしてそして笑った。


「す、」
「?」
「き」
「パ」
「追う、」
「あなた…」
「な」
「ん」
「たの、んだ」


そう言うと力が抜ける。どんなに繋ぎ止めてもどんなに泣いてももう貴方は帰ってこない。


「死を閣下には秘匿にと」
「わかってる」
「葬儀もうち内で」
「ん」
「最期まで御心配していました」
「王朝を、でしょ?」
「…」
「この人らしくて。」
「夫人」
「ごめんなさい。一人にして」
「ですが」
「追ったりはしない。彼の人に言われているから」
「…」
「また笑って閣下に会いに行かないと。」
「はい」
「でも今日は無理。ちゃんと立ち直るから、お願い、します」



かちゃりと部屋を出て行った事を確認して私は泣いた。
声を出さずに、泣いた。何回泣いたかわからない。もうこのまま死んでしまえたらどんなに楽だろう。
汚れた顔を拭いて彼の顔を見る。悔しいけどいつ寝ている姿のままだ。



「好きよ。大好き」


帰ってこない返事。もう二度と彼の声は聞けないのだろう。暖かな手も何もかも。私は全部を失ってしまったのだ。



唯一残ったのは金色の指輪。ドレスとこれと。貴方からもらった目に見えるものはこの2つだけだけれども。見えないものは数え切れないほどある。



「ありがとう。私を愛してくれて。」


そう言って私は彼の唇にキスを落とす。
いつもとは違う冷たさにまた泣いてしまうとわかっていても。


せずにはいられなかったのだ。



深淵を覗く

拍手

銀英伝

もし何かあったらミュラー提督を頼れ

パチリと爆ぜる暖炉の前でそう言われて、私は横に座る夫を見る。
微動だにせずただ真っ直ぐと火を見ながら何かを考えている彼の頭の中はどうなっているのだろう?私にはわから無い。
どうしたと言われて泣いていることに気がついた。困ったような。呆れたような。そんな顔をしてパウルさんは涙を拭う。


「私に飽きたのかな?とか」
「違うな」
「別れたいのかな?とか」
「もしそうならそう、言う」
「そんなことより。」
「如何した?」


貴方にもしもが在るのが嫌という。そういって両手で顔を覆って泣いてしまうとため息と共に頭を撫でられる。


「あるだろう」
「ないようにして」
「無理を言うな」
「無理を可能にするのが仕事でしょ?」
「…違うな」
「…そうか」
「ああ」



犬にするような撫で方をやめ髪をすかれる。
初めてのことで驚いてしまうものの其れだけ事態が逼迫しているのだろう。私の是非でどうにかなるのならこの人がどうにかしている。それがどうにもならないから今言ってくれているのだろう。


「愛してるわ。ずっと」
「死んだら愛さなくていい」
「無理ね」
「おい」
「新しく結婚したとしても貴方を忘れることはできないわ。」
「…」
「貴方が居なくなってもきっと貴方の匂いと声と温度は忘れられない」
「そうか」
「それでもいい?」
「お前が苦しくなければな」
「苦しいわよ。絶対」
「後は追うな」
「寂しくない?」
「無駄だからな。」
「そうかぁ」
「提督には言ってある。」
「準備万端じゃない」
「あれには」
「鶏肉でしょ?」
「ああ」
「みんなそのままに出来るところまでそのままにして置く」
「それで良い」



抑揚一つ変えずに火を見るパウルさんを見る。
視線に気がついたのだろう?どうしたと言って涙に濡れた頬に触れる。
冷たくて暖かい。厳しくて優しい。

私だけの指。



「ねぇ」
「?」
「ありがとう」
「礼を言われるような事は何もしていない。」
「愛してくれて」
「…」
「私を慈しんでくれて」
「ああ」
「幸せだわ」



そうかと言って頬にキスをされる。
後どれくらいだろう。こうしていられるのも。こう、愛しているのを伝えられるのも。


「寝る?」
「ああ」
「寝かせないでね」
「お前」
「其れくらいサービスしてよ」




でもこの人を選んで後悔などない。




別れまでのカウントダウン

拍手