忍者ブログ
変換なしの雑食夢

ran

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

蘇芳

「ひひひ。良きお目覚めよの」
「朝か?」
「おきりゃるか?これはまた。随分と食い散らかしよって」
「ああ。」
「まるで獣の所業よな」
「刑部」
「やれ、女。生きておるか?うむ…三成。遣り過ぎよ」
「知らん。」
「ほれ誰ぞ。医師をよばしゃれ。内々よ。奥方に知られぬ様にな」
「で、何の用だ。」
「おおそうよ。奥方が朝餉を待たしゃられる。如何する?」
「姫様が?!すぐ参る」
「ひひひ。」






姫様の局は私の部屋より一番遠い。元々姫様の侍女を詰め差すつもりのそこは6畳二間の小さな部屋で申し出を受けたのち刑部が意匠を整えた部屋だ。そこに姫様はおいでなのだろうか?帰られた秀吉様と半兵衛様と共に大阪に帰ってしまったのでは無いかと不安にかられたものの私が来るのを見て姫様付きの侍女たちが準備を整えている。杞憂に終わるらしい。殿様でございますが、という声に入って頂いて下さい。と玉の様な声が聞こえる。美しい、姫様の声が





「おはようございます」
「姫様!お待たせしてしまい、申し訳ございません!!!」
「…ふふふ。酷いお髪をされておいでですよ。さぁこちらに。」
「?」
「櫛を。寝癖が」
「い、いえ!あなた様のお手を煩わせる様なことは」
「?」
「あの」
「あ…」
「姫様?」
「お嫌でしたら」
「?!??そうでは無く!いえ、その」
「無理をなさらないで。ああ、昨日の側を。お運びいたします」
「?!」
「誰か」
「お、お待ちください!そうでは無く…あの」
「御前様?」
「…」
「え?顔が赤く…お風邪でも召しましたか?」
「姫、様。もう一度」
「?」
「先程の」
「…無理はなさら」
「そこでは無く。私をお呼び下さい」
「御前様?」
「…姫様」
「それももうおかしいですね。」
「奥」
「はい。」
「…髪をお願いしもよろしいですか?」
「ええ。朝餉に入ってはなりませんから。縁に。」
「はい」


そう言うと姫様は美しい指で私の髪を撫でると美しい髪ですと仰られるので天にも昇る気持ちとなっているのをこの方は知らないだろう。
どれ程、乞い求めているか。




「出来ました」
「ありがとうございます」
「御前様の髪は美しくて宜しいですね。瞳と合わせて月の様です」
「は?」
「御前様?」
「いえ…」
「朝餉は?」
「奥、も」
「はい」



そうして美しく微笑みになる。其れだけで、恐れ多くも愛しさが満ちてくる。この方が愛しい。恋しい。愛しあいたい。


のに


『恋をする感情など不必要よ。弱き証ぞ』




この言葉が重くのしかかる。この感情はあってはならぬものなのだ。強く無くてはならない。秀吉様の様に。




『御前様』




私はこの方をお見捨て出来るのだろうか?道具として見られるのだろうか。



其れが強さを求めるのに必要なことなのだろうか?









蘇芳






「…」
「やれ奥方」
「刑部様」
「婚家の居心地は如何か?」
「ふふふ」
「局の名が決まったのでな。三成は諸用の為、我が」
「そうでしたか」
「湖の影と書いてこけい。湖影の局よの」
「湖影、ですか」
「気に入らぬか?」
「いえ。殿の決めた事に異存があるはずありません」
「左様か」
「刑部様…何かする事はありませんか?」
「ないない。ぬしは大阪の時の様にただ安らけく過ごされよ。」
「そうですか。わかりました」
「?」

拍手

PR

常世色

「美しい」
「美しき姫君が殿の奥方に成られた。」
「ああ。石田様もお幸せになられるなぁ」
「もう少し丸くなられれば間違いなく良き殿様ぞ」


そんな声が聞こえてくるので私は驚く。
治部は思いの外兵から慕われているのだと言えば刑部が笑う。驚かれるわなぁと。あれでも一国を統べる領主故と言われて合点が行く。殿と呼ばれる治部を私は知らない。横に座っているのは私の知っている治部ではないのだから。



「姫様」
「はい」
「宜しいのですか?」
「貴方様こそ。其れにもう儀式は済んだのですから。私も貴方の妻の一人となりました。…姫、ではなくなったのですよ」
「っ」
「局の名を付けなければ不自由になりますね」
「?」
「もう静かにしりゃれ」
「刑部」
「客も入りよる。叫ぶな、三成」
「善処する」





見世物の様な気持ちになる。雛飾りの様と言われるもののその様に良いものでは無いだろう。ふと、角かくし越しに視線を感じる。なんと呼べば良いのだろう。旦那様?御前様?後で聞いてみよう。ただ、あまり使う機会は少ないだろうけれども
ちらりと治部の方を見る。白の裃は私の白無垢の同じ。ただ、扇子を持つ手が少し震えている。耐え難いのだろうか?この様な茶番は。
少し視線を上げると顔が見えてくる。誰かと話しているのだろう。お酒をお飲みになられて、大丈夫なのだろうか?あんな苦いものをと思っていたらこくりとこと無さげに飲み干してしまった。微塵も酔った風が無いのだから矢張り殿方だったのだろう。
不意に、こちらを見て。瞳が合う。



「っ」



凄い勢いで逸らされてしまった。
其れはそうだろう。と納得して私も視線を元の場所に戻す。見えるのは白無垢の生地だけ。其れで良い。目を閉じ耳を塞ぎ口を紡いで人形の様に生きて行けば良いのだから。




「奥方様。そろそろ」
「…はい」
「?」
「殿はそのままお待ちを」
「姫、様?」
「…失礼いたします」
「…???」
「やれ三成。」
「刑部。何故姫様は中座成された?」
「床の支度よ」
「…は?!」
「驚くか?ひひひ。あまりがっついて嫌われては終いよ」
「そんな事!姫様に無体な事は」
「夫婦故」
「う…」
「だが、のう。今宵は」
「殿」
「?!」
「支度が整いました。」
「…わかった」
「やれ、ああ。行ってしもうたか。」
「吉継君」
「おお、賢人」
「伝えた?」
「いや、知らずに行った。ぬしの持たせた文が役に立とう」
「そう。…これで良かったのかな?」
「なにをいまさら。言い出したのは賢人よ」
「売り言葉に買言葉だったのだけどもね。うん、そうか。知らずに行ってしまったか」
「…」










常世色







障子を開ける手が震える。
夫婦になったのだ。彼の方と、私が。この先に起こりうる事を思案して顔が赤くなるのを感じる。拒絶されても。たとえ泣かれたとしても止められる気がししない。



「入ります」
「っ?!」
「姫さ…貴様何者だ!!!」
「ひっ」



喉を鳴らす女は私が待ち焦がれていた人では無い。知らない女が寝着に身を包み床で座っている。震える手で文を渡してくるが、其れどころでは無い。




「貴様如きが何故ここにいる!姫様は何処だ!」
「あ、あの」
「言え!沈黙は許可しない!!!!」
「竹中様が、新枕をと」
「何?!!!」
「その、文でございます」
「っ!…」
「石田様?」
「何故だ…。何故、貴様などを抱かなくてはならない!!!」
「ひっ」
「…誰か!!!」
「姫様に!」
「貴様如きが彼の方を呼ぶな!!!」
「くれぐれもと頼まれました。」
「…は?」
「貴方様を満足させる様に、と」
「何?…そうか。」
「?」
「おい、貴様」
「っ?!」
「声を出す事も身悶える事も許さん。唯、抱かれる人形になれ」
「ん!」
「声を出すな」
「んぐ!」
「後悔しろ。よりにもよって今宵ここに来た事を」
「んー!!!」






この女が、名家の出だろうが何だろうか私には関係無い。



『私に構わないで!』





矢張り姫様は私をお嫌いなのだろう。新枕を変えるくらいなのだから。
しなやかに伸びるだろう腕、艶やかな声、あの美しい瞳。何一つ私には手に入らないのだろう。
こんな女の者などほしく無い。唾棄すべき存在。嫌悪が勝る。





「っ姫様」



なのに私はこの女を抱かなくてはならないのだ。

拍手

灰薔薇色

「では行って参ります」
「僕たちも明日には行くよ。」
「姫」
「はい兄上」
「…」
「今迄、身にあまるお心を頂きました。感謝してもし尽くせません。半兵衛も養育始め感謝いたします。弱気私はお二人にご恩を返せる方法はこの様な事しかありません。道具として、兄上の駒として十分にお役に立てます様婚家先でも尽くしてまいります。」
「我は」
「初めて城に上がりましたおりの約束を果たすことになるだけです。第一兄上も半兵衛もそう言っておいでたではありませぬか。豊臣のために尽くせと。其れは、この様なことで正解なのでしょうか?」
「…」
「要らぬと。役に立たぬとお思いならば打ち捨ててくださいませ。お二人が私を考慮するとは思いませんが、これを」
「何だい?」
「辞世の句です。」
「君、は」
「死の覚悟を持ってまいりますのでご安心をなさってください」
「そんな、白無垢を着ていうことではないだろう」
「半兵衛」
「僕だって秀吉だって割り切ってたよ!でもね。僕も秀吉も、生まれた時から君を知っているんだよ?だから死ぬとか言わないで」
「半兵衛、死は平等です」
「は?」
「己が手で決められませんが私は死ぬることができます。其れで良いんです。私は、道具ですから。そう、言われ続けておりましたし。皆そう思っておられましたから」
「っ」
「草臥れるまでは其々でしょうし、使われ方とて決められません。ですが、数少ない中私は己が道を誤らぬ様に。役割を間違えぬ様にしたいのです」
「姫」
「そろそろ刻限ですね。兄上、半兵衛。さようなら」








そう言って私は立ち上がる。輿は庭まで来ている。侍女は刑部の用意したものだろう。手を取られその中に押し込まれる。不意に二人の方を見ると安堵した顔をしているのかお怒りなのか。逆光でわからない。多分、どちらかだろう。御簾が、かかる。一層のこと網でも打ってくればいいのに。そうすれば私の心境がよくわかるのに。




「お苦しくありませぬか?」
「ええ。」
「何かありましたらお呼び下さい」
「佐和山までどのくらいですか?」
「あっという間ですよ。船着場迄島様がお迎えに上がっております。」
「わかりました。ごめんなさい。少し眠ります。」







籠に揺られ、船にそのまま乗せられてついた佐和山は言われた通り思ったよりあっという間だ。見過ごしに見える風景は大阪と違うが栄えている。




「姫様〜。籠から顔だしちゃだめっすよ」
「…」
「あらら?」
「ずっとこの様で。流石豊臣第一の姫君であられます」
「そりゃあね。三成様の奥方様だもの」





まどろみの中ついた先。お部屋の前でございますと御簾を上げられる。




「久しいの」
「刑部。いえ、大谷様で宜しいですか?」
「今まででの方が良いなぁ。」
「ですが」
「姫様!」
「やれ来よったか」
「石田様」
「?!何故その様な呼び名で」
「やれ三成」
「ここは大阪城の延長とお思いくださいませ。どうぞ。お心安らかに」
「ふふふ」
「では長旅の疲れを癒してくださいませ。私はこれで」
「ひひひ。我もよな。」
「ではまた後日」
「ん」








灰薔薇色







白無垢の姫様を直視することができなかった。可憐で美しいあの人が我が城にいるとは。内心、こられるとは思わなかった。理由をつけて延期されると思っていたのに



明確な拒絶は一時的なものだったのか?




頭に少しよぎってしまったこの言葉を隠すことはできない。明日からは夫婦。三成と呼んではいただけないだろうか?いや、恐れ多いことを考えてはならない。



「まだ仕事、か?」
「あ、ああ。明日からは慌ただしくなるからな」
「左様か。ついにこの日が来たな。」
「…」
「大事に為されよ。そうすれば姫にもぬしの真心が伝わろう」
「ん…」







拍手

瑠璃色

「宜しいか?」
「刑部?如何したのですか?」
「佐和山の城で姫が過す部屋の事よ」
「刑部にお任せ致します。」
「そう、か」
「用件は其れだけでしょうか?」
「いや…先だっての失言を詫びに来た」
「良いのですよ。」
「だが、の」
「?」
「我の言葉で三成との事を悪しきものにするのは、気がひける」
「悪しきも何も…刑部。私は」
「?」
「…いえ。気になさらないで。其れより。側を確認されましたか?私は治部の好みは知りませんがあなたはよく見知っておいででしょう?」
「ひひひっ。確かに美しい女たちよ。だがあれは姫で十分よ。」
「ふふふ。そんな世辞を言っても仕方ありませんよ。」
「本当よ、ほんと。」
「刑部らしくもありませんね。」
「…姫?」
「ああ、そうです。ひとつお願いがございます」
「ん?」
「私はこちらの部屋で。侍女は少なく。此方の棟に彼女たちを」
「は?」
「刑部?」
「気、は確かか?」
「?」
「この様な狭い場所にぬしを押し込められるはずはない。此処は側の一人の部屋よ。ぬしは此方」
「私には過ぎたるものです。お願い致しますね」
「ぬ…やれ姫」
「はい?」
「その様な檜扇も続ける気かえ?」
「…ええ。」
「あいわかった。添えるか否かわからぬが。三成の寝所から一番遠く狭い部屋が良いとの事。考慮しよう。」
「ありがとうございます。」
「一度、顔を見せしゃれ」
「…」
「他意はない。いやある、か。ぬしが本に心配よ」
「刑部」
「…」
「これでよろしいですか?」
「仔細承った。我は失礼するがぬしは少し休ましゃれ」
「ええ」
「婚儀の日に倒れよると困るからなぁ」
「ふふふ。刑部らしい」
「?」
「いえ何でもないのです。では」
「ぬ…」
「少し休みます」
「あいわかった。あ、そうよ。」
「?」
「三成も寝ず食べておらん。文でも何でも良い。食べる様に申してくらしゃれ」
「では。その様にお伝えください」
「…」
「刑部」
「では失礼する」








瑠璃色









「との事よ。」
「そう、か。」
「三成?」
「お心に沿う様にしてくれ」
「あいわかった。」
「…」
「少し休みしゃれ」
「いや、もう少しだけ」
「婚儀に触る。来週には帰って支度がある故」
「…船で帰る。その時に休めば良い」
「三成」
「黙れ刑部」
「…ひひひ」

拍手

鈍色

「見てごらん。三成君からの結納の品だよ」
「ええ」
「食事は?」
「頂いております。皆様は?」
「うん。楽しく呑んでいるよ。」
「なら、宜しゅうございます。」
「姫?」
「如何しましたか?」
「ん。何でもないよ」
「半兵衛も宴の席に。この様な場所でいらっしゃる暇はないでしょ?」
「まぁ。そうなんだけど。秀吉が」
「兄上が?」
「表に出れずとも音ならわかるから箏でも笛でも奏でろとの事だよ」
「承りましてございます。松。箏を」
「はい」
「頼んだよ」




もうあれから何日も人の顔を見ていない。檜扇と言うのはこういう時に役に立つなと思いつつ縁に置かれた箏の前に座る。人払いをと言うと松ははいと答えるだけだ。素っ気ないなと白分の事を棚に上げて思う。見て欲しい。見てほしくない。この両極な願望が激流の様に流れてきて痛くて痛くて仕方がない。でも、私はいきているし、思考求められずにいる。何より、姫であり続けなくてはならないのだから。
ああ、そうだ。今は其れより、箏だった。
何を、弾こうか。思いつかない。



「あ、聞こえてきたね」
「うむ。」
「三成君に吉継君。すまなかったね。作法として姫はこの場には出せないけど。」
「いや、良い良い。三成も」
「三成?」
「はっ!申し訳ございません」
「ふふふ。君は本当に姫が好きだね」
「其れは!その…」
「構わん。あれは末の妹。一番可愛がった娘よ。幸せになるのなら其れが一番良い」
「幸せ」
「やれ、三成」
「私が姫を幸せに…」
「悩む事はないよ。君以外に姫を託す事は出来ないと前々から思っていたのだから。今回は急な話の体になってしまったけれども、前々から決まっていた事なんだよ」
「…三成」
「はっ」
「無理か?」
「…」
「ならば仕方が無い。」
「秀吉様?」
「我が妹は弱き者ぞ。故に枷になる折はすぐさま切り捨てて構わん」
「は?」
「そうなったとしても貴様は我が親族のまま。分かったか?」
「は、い」
「秀吉。ちょっと待って」
「恋をする感情など不必要よ。弱き証ぞ」
「っ?!」
「太閤」
「…姫は姫。我が下賜した道具の一つと思え。」
「秀吉!」
「そうでなければ…いや、いい。精進しろ。婚礼は佐和山にて一月後だ」
「待って!秀吉。話がある」






庭越しの宴会場が少し騒がしい。何かあったのだろうか?そう思いつつも箏の音を止める事はできずにいる。







鈍色








「ごめんね。三成君」
「いえ」
「秀吉は君が姫を秀吉そのものの様に見ているのが駄目みたいだね。」
「は?」
「そこは訂正しておいた。親愛と恋慕は違うとね。幸せにできる自信がないのかな?」
「…私は姫に厭われている存在、ですから」
「そう」
「半兵衛様!この婚姻をなかった事には出来ませんか?!」
「其れは…無理だね。」
「しかし、私の存在が姫を傷つけるのでしたら」
「君が拒否をすればすぐに違う男に嫁がせるつもりだ。彼女の意思は関係ない」
「…」
「自然、君は後継者から外れる。僕はね、君以外にいないと思っているんだ。」
「半兵衛様…」
「ごめんね。僕にも彼女の心中は読みかねているんだよ。悲しみの深淵にいるのはわかる。けど何故そこまで行ってしまったのかはわからないんだ。」
「深淵、ですか?」
「うん。だから秀吉もイライラしてるんだろうね。」
「…姫様」

拍手