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変換なしの雑食夢

ran

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常世色

「美しい」
「美しき姫君が殿の奥方に成られた。」
「ああ。石田様もお幸せになられるなぁ」
「もう少し丸くなられれば間違いなく良き殿様ぞ」


そんな声が聞こえてくるので私は驚く。
治部は思いの外兵から慕われているのだと言えば刑部が笑う。驚かれるわなぁと。あれでも一国を統べる領主故と言われて合点が行く。殿と呼ばれる治部を私は知らない。横に座っているのは私の知っている治部ではないのだから。



「姫様」
「はい」
「宜しいのですか?」
「貴方様こそ。其れにもう儀式は済んだのですから。私も貴方の妻の一人となりました。…姫、ではなくなったのですよ」
「っ」
「局の名を付けなければ不自由になりますね」
「?」
「もう静かにしりゃれ」
「刑部」
「客も入りよる。叫ぶな、三成」
「善処する」





見世物の様な気持ちになる。雛飾りの様と言われるもののその様に良いものでは無いだろう。ふと、角かくし越しに視線を感じる。なんと呼べば良いのだろう。旦那様?御前様?後で聞いてみよう。ただ、あまり使う機会は少ないだろうけれども
ちらりと治部の方を見る。白の裃は私の白無垢の同じ。ただ、扇子を持つ手が少し震えている。耐え難いのだろうか?この様な茶番は。
少し視線を上げると顔が見えてくる。誰かと話しているのだろう。お酒をお飲みになられて、大丈夫なのだろうか?あんな苦いものをと思っていたらこくりとこと無さげに飲み干してしまった。微塵も酔った風が無いのだから矢張り殿方だったのだろう。
不意に、こちらを見て。瞳が合う。



「っ」



凄い勢いで逸らされてしまった。
其れはそうだろう。と納得して私も視線を元の場所に戻す。見えるのは白無垢の生地だけ。其れで良い。目を閉じ耳を塞ぎ口を紡いで人形の様に生きて行けば良いのだから。




「奥方様。そろそろ」
「…はい」
「?」
「殿はそのままお待ちを」
「姫、様?」
「…失礼いたします」
「…???」
「やれ三成。」
「刑部。何故姫様は中座成された?」
「床の支度よ」
「…は?!」
「驚くか?ひひひ。あまりがっついて嫌われては終いよ」
「そんな事!姫様に無体な事は」
「夫婦故」
「う…」
「だが、のう。今宵は」
「殿」
「?!」
「支度が整いました。」
「…わかった」
「やれ、ああ。行ってしもうたか。」
「吉継君」
「おお、賢人」
「伝えた?」
「いや、知らずに行った。ぬしの持たせた文が役に立とう」
「そう。…これで良かったのかな?」
「なにをいまさら。言い出したのは賢人よ」
「売り言葉に買言葉だったのだけどもね。うん、そうか。知らずに行ってしまったか」
「…」










常世色







障子を開ける手が震える。
夫婦になったのだ。彼の方と、私が。この先に起こりうる事を思案して顔が赤くなるのを感じる。拒絶されても。たとえ泣かれたとしても止められる気がししない。



「入ります」
「っ?!」
「姫さ…貴様何者だ!!!」
「ひっ」



喉を鳴らす女は私が待ち焦がれていた人では無い。知らない女が寝着に身を包み床で座っている。震える手で文を渡してくるが、其れどころでは無い。




「貴様如きが何故ここにいる!姫様は何処だ!」
「あ、あの」
「言え!沈黙は許可しない!!!!」
「竹中様が、新枕をと」
「何?!!!」
「その、文でございます」
「っ!…」
「石田様?」
「何故だ…。何故、貴様などを抱かなくてはならない!!!」
「ひっ」
「…誰か!!!」
「姫様に!」
「貴様如きが彼の方を呼ぶな!!!」
「くれぐれもと頼まれました。」
「…は?」
「貴方様を満足させる様に、と」
「何?…そうか。」
「?」
「おい、貴様」
「っ?!」
「声を出す事も身悶える事も許さん。唯、抱かれる人形になれ」
「ん!」
「声を出すな」
「んぐ!」
「後悔しろ。よりにもよって今宵ここに来た事を」
「んー!!!」






この女が、名家の出だろうが何だろうか私には関係無い。



『私に構わないで!』





矢張り姫様は私をお嫌いなのだろう。新枕を変えるくらいなのだから。
しなやかに伸びるだろう腕、艶やかな声、あの美しい瞳。何一つ私には手に入らないのだろう。
こんな女の者などほしく無い。唾棄すべき存在。嫌悪が勝る。





「っ姫様」



なのに私はこの女を抱かなくてはならないのだ。

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