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変換なしの雑食夢

ran

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15年越しに告げる三成

「読んだ」
「ああ。渡しておいた新作か…どれだ?」
「男女問題」
「…恋愛小説といわしゃれ。どうだった?」
「焦れったいを通り越して呆れた。女がとっとと愛している言えば終いだろう」
「情緒のない男よのう。その駆け引きが良いのよ。今の女たちにはなぁ」
「意味がわからん。が」
「ん?」
「最後は悪くない」
「結ばれぬが…良いのか」
「ずっと側にはいられる。そこは好ましい」
「成る程。主らしい。書き直す部分もあるが…大体はこれでよかろう」
「刑部」
「ん?」
「誰が書いた?書き下ろしか?」
「そうよなぁ。」
「?」
「気になるか?」
「気になるの言えばそうだな」
「?」
「何処かで読んだ事がある気がする。が、名前が出ない。喉の奥に引っかかった小骨のようだ」
「ひひひ」
「?」
「本に主は面白い。やはり秘書課を止めて我と共に編集をせぬか?」
「貴様の道楽には付き合わん。大体、期限は後3年だ。そうすれば貴様もまた秀吉様の元に馳せ参じろ」
「しかしなぁ。主の審美眼は良いものなのだが。太閤の膝元には我がおらぬでも十分よ。病弱故。だから主がこちに来い」
「断る!」
「それは残念、ざんねん」
「で」
「?」
「誰だ」
「ひひひっ」
「おい」
「さて参ろうか」
「?」








呼び鈴の音で目を覚ます。ああ、転寝をしていたようだ。ひと伸びしてはーいと返事をする。築100年に近い古民家は文化的価値というより破格の安さが売りだった。おかげでよく声が聞こえる。一軒家を1LDKの値段で借りているのだから致し方ない。しかし、意外と気に入っている。初めて私が手にした自分の城なのだから。ただ。相手が相手なのだ。今でも何処かに黒づくめの男が目を光らせているだろう。適度に自尊心を満たして逃亡させないための布石。本当に嫌な男だ。




「はいはいっと。」
「やれ、嬢」
「あ。大谷さん」
「そのような姿で出てきてはならぬよ。」
「今終わったところなの」
「左様か」
「うん。」
「食べたか?…朝より以前の食事も」
「うんん。」
「ほれこれ」
「うわっ。野菜!」
「主の引きこもり体質にはほとほと困ったなぁ」
「出て行くと迷惑かかるし。」
「左様か」
「幽閉されているようなものよ。…入って大谷さんも食事まだでしょ?」
「実はなぁ。もう一人おるのよ」
「?」
「三成」
「…三成?」
「おい、刑部!ここは…姫様?」
「…久しぶり」
「!!!」
「やれ三成。今嫌な音がした。」
「卵買ってた?」
「ああ」
「残念なことになったね。」
「もったいない故濾して茶碗蒸しにでもいたそう」
「そうだね。三成さん」
「は、はい!」
「…ご飯食べて行きなよ」
「し、しかし!」
「それと」
「?」
「私は豊臣の後継者でもなんでもないから、さ。そう畏まらないで」
「え?あ…はい!」





割れた卵は思いの外ひどい有様ではなくて一息つく。荷物を受け取ろうとするものの、それを許さないのは相変わらずだ。ご飯作れないわといえば嫌々渡してくれる。本当に嫌なのだろう。かおが酷い






「まぁ良いや。座ってて」
「し、しかし」
「大谷さーん。書けたの机の上」
「あいわかった」
「三成さんも連れて行って」
「ですが」
「普通に食べられる?」
「あいも変わらずよ」
「そうなんだ」
「っ」
「やれ、三成」
「あ、ああ」
「そういえばのぅ」
「ん?」
「主のものを三成に読ましたよ」
「えー…。どうせ焦れったいとかでしょ?」
「ああ」
「いえ、その様な…」
「いや良いよ。あれはそういうのだし。三成さん、恋愛って感じじゃないし」
「どういうのか?」
「忠誠」
「…」
「ひひひ。」
「姫様」
「いつの時代よ。」
「嬢」
「私はもう豊臣財閥の姫様でもお嬢様でもないわ。」





あの日。あの時まで私はあの男が好きだった。本当に好きだったのだ。のに、他の男に嫁げという。自分よりふた回りも上の下卑た男の元へ。




「それでも」




愛した男はこの世の誰よりも私を女と見ていた。
使える女と。

全てが嫌になり私はあの家を出た。大谷さんにあったのもつい最近。ここも気に入ってたのになぁと思いながら引越しの手立てを考える。
おくびにも出さずに蒸し器のふたを開けると茶碗蒸しがいつもより歪にできていた



「…あの」
「三成さん?何?」
「聞こえませんでしたか?」
「ん?」
「…私にとって貴方は姫様なのです」
「ふーん」
「以前の様に」
「豊臣には帰らないよ」
「…以前の様に貴方が他の、人を見て」
「…」
「恋していたとしても。私は貴方には笑っていて欲しいのです」
「大谷さん!?」
「ひひひ。残念ながらこの事ばかりは我より三成が先に気づいたのよ」
「あの!?三成さんが!!!」
「私にとって女は貴方だけですから」
「…は?」
「恋しく思う相手の視線の先くらい。私にもわかります」
「え?あ…うわっ!?落とした!!!」
「ひひひ。姦しい」










15年越しに告げる三成







「姫様」
「また来たの?」
「許可は得ています」
「誰の」
「秀吉様の!」
「あーて言いたいこといっぱいあるけど良いや。さっき担当の子がお土産置いていってくれたの。いる?」
「お茶を淹れてきます」
「ありがとう」
「いえ」
「三成さんも忙しいのに大丈夫?」
「はい!」
「…兄様にアドレス教えた?」
「はい!」
「はぁ…寝てないって苦情が来たの。それ食べて帰りなさい」
「ですが…」
「…」
「…」
「…ご飯も食べる?」
「はい!」
「本当に…そっち仮眠室だから寝てなよ。出来たら起こし…顔赤いよ」
「ひひひひひひ」
「私も寝るけど、むさいおじさんも寝てる。一番寝てるのは大谷さんよ」
「…刑部」
「遅筆な私が悪いのよ。さて、と」
「お茶です」
「早くお嫁さんもらいなよ」
「!!!」
「三成さーん」
「…」
「…」
「…」
「…姫様が」
「まだそこまでは絆されんぞ!」
「っち」
「でもまぁ」
「?」
「恋人くらいなら格上げしてあげる日も近いかもねー」
「!?!?!??」






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守る女と三成

美しい女だった。
誰よりも強くあろうと努力を惜しまない女だった。
熱り立つ男共を冷静に抑えられる稀有な女だった。
幼い折より寝食を共にし、秀吉様の為に生きようと誓い合った友だった。


私が初めて共に生きたいと切望した女だった。





「…誰?」
「…」
「お願い。背中に立たないで。見えないから刀を振り回すわけにいかないの」






先だっての戦で目を失った。もうあの美しい両目を見ることは出来ないと今この状態で深く知る事になる。私は彼女の前で柄に手をかけているのだ。本来なら窘められたり、逆に怒られたりするのにそれすら気がつかない。懇願し刀に手を伸ばすことすらできないでいる。
秀吉様の一兵卒としての死。そして戦人であり両目を失った彼女は女として妻として求められる事はないだろうと刑部が言う。戦人故の恐怖と、両目を模した女を求めるものはいないと。それ以上に。半兵衛様が危険であると判断されたのだ。今の彼女は赤子と同然でもし捕らえられ拷問されでもしたら機密が漏れてしまうと。





「?」
「…」
「三成…かしら?」
「…」
「…」
「何故、わかった?」
「ああ。やっぱり三成だわ」
「おい」
「貴方は何も言わないと思ったから。他なら何か言うはずでしょ?用があれば、特に」
「そう、か」
「ありがとう」
「?!」
「もう私は無理ね。半兵衛様にも三行半を突きつけられたみたいだし」
「…」
「戦人としての駒にも人質としての駒にもならないもの。」
「…」
「…泣いているの?」
「!」
「涙の匂いがするわ」
「…殺すように言われた」
「そう」
「だ、が」
「馬鹿ね」
「?!」
「死ねと言われたら私は自分で死ぬのに」
「な」
「あなたにそんな事させないわ」





そういった刹那彼女は髪に挿していた簪で胸を一突きする。
『もし武器も何もかも取り上げられて捕虜になるくらいなら私は私の手で死んでやるわ。この簪はその為のものよ。女っ気とかそういう風に思わないでちょうだい。』
そうった言葉がよりによって聞こえてくる。思い出したくない。聞きたくない。



失いたくない!






「っ!」
「みつ、なり」
「あぁ…血が…」
「喉を突けば、良かったけど」
「何故だ」
「ん?」
「何故、私を置いていく」
「置いて…いないわ。」
「何故だ!何故お前が!こんな、めに」
「三成」
「!」
「三成…手を出して」
「あ、ああ!私はここだ」
「三成の手だ」
「おい」
「…貴方は秀吉様をお支えしてね」
「!」
「私は姿を変えて貴方を、守るわ」
「おい…」
「両眼のないものが側にいたら殺さないで…私だから」
「死ぬ事は許さない!」
「…貴方の子も孫もずっと。石田の護りになるわ。けど」
「?」
「人として、あなたと会うのは。…会う事はこれで最後」
「!!」
「三成」
「何だ!」
「生きて…」
「死ぬな」
「ずっと…貴方の側にいるわ」
「ああ…」
「ふふふ。苦しい」
「!」
「でも最後が貴方…」
「?!おい!!!」
「よかっ、た」






そう言って彼女は二度と目を開けなかった。苦しんで苦しんで、あっけなく死んでしまった。
葬儀も質素に行い土へ帰って行った彼女の墓に行くのが私の平素の日課になった。誰も止めない。止めることができないその行為を私は行った。秀吉様ですら黙認してくださったのはありがたかった。
向かわれが終わった後、不思議なことが起こった。



死ぬ直前に彼女が言った通り両目を喪した動物が現れるようになったのだ。



一度目に現れたのは白い猫だった。

現れるや否や刺客に襲われるのを教える為それらの顔を引っ掻いて無残に切り刻まれた。私はその骸を抱いて盛大に泣いた。


二度目に現れたのは白い鼠だった。

害獣と皆が嫌ったものの、私は側に置いた。
鳴きもしない静かな鼠だった。戦場にも連れて行く有様は皆笑いはしたが刑部だけは違い彼女の名を呼んで可愛がっていた。
幾つかの戦場でその鼠が珍しく鳴いた。何事かと驚き聞いたがただ泣くばかりで私は大いに困った。刑部に聞きに行くかと床を立って刑部の部屋に着くか否かの時。屋敷が揺れた。部屋は燃えていて暗殺を企まれたことを知った。彼女はその炎で燃えてしまった。





三度目は黒い犬だった。
戦場に立つ彼女のように勇敢で良からぬものを押し返していた。
だが私に向けられた毒矢の盾になって死んでしまった



四度目は白い蛇だった。私には寄らず無理やり娶った嫁との間に生まれたこの側にいた。不思議と病はなくすくすく育ったその子の変わりに彼女は瘦せおとろえて代わりに死んだ。


それらを繰り返して子は病なく大きくなり、私は後継者として恐れ多くも太閤という偉大な名の跡を継いだ





「やれ、三成の側になくていいのか?」
「にゃー」
「左様か。ぬしは本に優しい子よな」
「にゃーにゃー」
「ひひひ。本来我の仕事ゆえ。ぬしには感謝してもしきれぬなぁ。」
「にゃ」
「にゃ」
「おい刑部。」
「おお!旦那様のお帰りよ。」
「旦那様?!私達は…おい!如何して刑部の膝に行く?!」
「にゃー」
「ひひひ。悋気よ悋気。」
「にゃー」
「今回は黒猫か」
「あれの髪によく似た色よ。惚れ惚れ」
「ふにゃ」
「愛い愛い」
「…刑部!」
「大人気ない男よ。のう。これは我の死に水を取りに来てくれたのよ。」
「な?!」
「我は一人で死するのが寂しい故。…本に優しい娘よな」
「…何度も命を救われた」
「ああ。主の為に何度も死んだか…だがな」
「にゃー」
「我の為に死のうとするのはいただけぬなぁ。と言っておる。我はこのまま死ぬつもりよの」
「おい」
「我とて主を置いていくのがこんなにも不安とは思わなんだ。…やれ、ぬしも心残りだったよな。我とて同じ。三成よ」
「?」
「我は寿命よ」
「…刑部」
「これのおかげでなぁ。主の命の心配をせずに済んだ故計略に心血を注げた。感謝する」
「バカを言うな」
「やれ、ぬしは我の為に死ぬるなよ。我の為に死ぬるなよ」
「にゃー」
「愛い愛い。」







その話をした次の日寝付いていた刑部は奇跡という所業で治癒し、部屋を追い出された彼女は縁の下で冷たくなっていた。



「本に優しい子よな」
「ああ」
「この骸は我が供養したいが…良いか」
「喜ぶだろう。あれは貴様に懐いていた」
「助かる」









守る女と三成








「おい」
「わん」
「わん以外言え」
「やれ三成」
「昨日夢で言っただろう」
「…夢は夢よ」
「それでも」
「?」
「私はこいつの声を聞きたいのだ。」








天下は太平。私は隠居となった。孫の顔を見れるとは思わなかった。
その時の彼女は白い犬だった。





「本に好きよな」
「当たり前だ。私は嫁にしたかったのだ…おい。欠伸をするな」
「わふっ」
「きちんと話を聞け」
「踠いておるよ。やれこちらにきりゃれ」
「きゅーん」
「愛い愛い」
「刑部!」
「本に」
「?」
「長く生かさせてもらった」
「…」
「のになぁぬしは子をなさず、三成のため生き死にを繰り返したなぁ。」
「わふ」
「ひひひ。頑固故本来の天命まで生かすつもりか」
「わふ!」
「この憎い可愛き者よ」
「おい」
「老齢でも悋気か」
「こちらに来い」
「…」
「おい」
「わふ」
「御手ではない」
「わふ」
「伏せではない」
「わふ!」
「おい」
「姿が変わっても変わらぬなぁ。」









その晩私は、自分の天命を知った。急な心の臓の病か。苦しんでいるとあいつが来た。



「わふわふ!」
「急な、事だ」
「わふ!」
「泣く、な」
「わふ!!!わんわんわんわん」
「誰も、呼ぶな」
「きゅーん」
「天命だ」
「…」
「お前と二人が、良い。」
「…」
「私は幸せ、だ」






ぽろぽろと犬の姿でなくあいつは昔と全く変わらない。
美しく、強く。優しく、愛おしい。


私の唯一の女だ。




きっと次に目を覚ました時には美しい彼女がいるのだろうなと思って私は笑うのだった

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忘れても忘れられない三成

「忘れてもいいのよ。いいえ。私の事など忘れてしまって」
『 』
「あなたの美しい未来に憂いがありません様に。兄上と半兵衛。刑部と共に…幸多い、事」





美しい女性なのだろう。ただ、病身で事切れる間際でもある。手首も痩せ細り頬も痩け顔色も悪い。のに美しいと思う理由は何なのだろうか?他の誰にも思った事のない感情。愛しい、のだ。私はこの人を。


涙を湛え最後の力を振り絞って言葉を紡いでいる。瞬きする事すら忘れて私はその姿を目に…いや、此の魂に焼きつようとする。その声を鮮明に思い出し、私は必死に何かを言っている。
それを聞いて嬉しそうに、哀しそうに微笑むのだ。






「やれ、三成」





そして此の夢を見るときは私は起きる事ができず刑部の声で起きるのだ。声も顔も何一つ起きても忘れられないのにその人の名前だけは思い出せない。






「また、例の夢か?」
「ああ」
「顔を洗え。豊臣財閥の左腕が涙目で出社する訳にはいくまい」
「…っ。またか」
「泣くほど恋しいのに名を忘れるか。今日は思い出せたか?」
「いや…刑部、貴様何か知っているか?」
「ぬしの夢の君を?知るわけあるまい」
「そうか…そうだな。すまない、あれを見ると平静でいられなくなる。」
「そう哀しそうな顔をするな。夢よ夢」
「ああそうだな」





そう言って私は立ち上がる。時計を見ればいつもより些か遅いものの十分に間に合う。刑部に礼を言えば、今から寝る故と返ってきて思わず眉間のシワが寄る。




「やれ怒るな怒るな」
「物書きだから仕方ない故許せ」
「…ん?何だこんな早くに」
「ああ。編集者よ。」
「非常識だ!」
「ヒヒヒッ我が遅筆故。印刷所も止めてあってなぁ。今からすぐに渡してやらぬと原稿が落ちる。」
「…」
「ほれ。早く持って行きしゃれ。」
「ああ」




そう言ってネクタイを締めて、玄関に出て行く。にしても、編集者でまた遊んでいるなと思っていたら、今回は遊びすぎたらしい。あの刑部が珍しい





「…何だ?」
「あ!申し訳ありません。私は豊臣書籍の編集者で、竹中と言います。大谷先生、は?」
「…見つけた」
「え?あの。きゃ!」
「私は豊臣秀吉様直轄の豊臣株式会社社長補佐石田三成だ」
「だだだだだ抱きしめないでください!」
「嫌だ。拒否は許さない!」
「三成、原稿を…ん?」
「大谷先生!助けて!!!」
「ひひひ。名を忘れたとしても魂は覚えておるか。のう。姫」
「その呼び方やめて下さい!そんな事より原稿!!!落ちる!!!」
「ほれ。三成。邪魔よ邪魔」
「離せ刑部!邪魔をするな!」
「もーどうにかしてください」
「ひひひ。我も知らぬが…ん。作品が書けそうよ。ぬし、誰か他のものを呼べ。我は新作を書く故」
「?!」
「刑部?」
「編集長!!!大谷先生が新作書くそうです!ええ。はい。かすがちゃんを寄越してください。私付きっ切りで見張りますから!」
「やれ、姫!」
「…」
「ひひひ。知らぬ男の胸に顔を埋めるとは。ぬしも存外淫乱よ」
「酷い!」
「刑部!!!私の物を侮辱する事は許さん!!!」
「おお怖や。ぬしは今も昔も変わらぬよ」
「?」
「いや何。此方の話よ」








昔を忘れても忘れられない三成







「ひひひ。ようや行きよったな」
「…」
「ぬしも大変よ。覚えておられるか?」
「少し。はぁ嫌な予感はしていだけど。せっかく忘れてもらっていたのに」
「夢で昔のそなたを見るらしいがの」
「…にしてもです」
「怒るな怒るな。我とて三成が哀れでの。ぬししか愛せぬ男故。」
「…」
「我も世話に手こずるのよ。楽がしたい」
「今本音を聞きました。はぁ。」
「ひひひ。ため息など。幸せが逃げよるよ」
「本当に。まぁいいです。新作は?」
「レンアイよ恋愛」
「?!」
「大作になろう」
「まさか!」
「ひ、ひひひ」
「そ、それだけは!!!」
「文字が湧き出るわ。…ん?」
「なんか玄関が騒がしいですね」
「刑部!!!」
「え?!」
「…やれ三成如何した?」
「出社して、秀吉様半兵衛様に今朝のことを言ったらありがたくも有給を頂いた。逃げてしまわぬようにしなくてはならないと」
「!?」
「左様か。あいも変わらずぬしには甘い。やれ姫。どちらに電話よ」
「…いえ。元凶に」
「?」
「そんな事よりお茶が飲みたい」
「はい。…石田さんは?」
「頂く」
「朝食は?」
「…」
「今から僭越ながら私が作ります」
「頂く!」
「あー楽よ楽。ぬしもここで暮らしゃれ。太閤には我からいう」
「太閤?」
「…断固拒否します!」
「いやまて。聞き捨てならない名が」

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不幸な女と幸福な女と三成

奥はただの飾りで、姫が本当の思い人の様だからねと竹中様に言われた瞬間心臓を掴まれる思いだった。影でどう言われても聞かないふりをすればよかった。だが目の前の人は私にとどめを刺すが如く、その事を言うのだ。



「ご苦労だったね。」
「あ…」
「赤子を」
「もう少し、だけ」
「…言ったよね。君は産むのが仕事。後は後継者足る様に僕が育てると」
「ですが…」
「君のお父上もそれが一番良いと。」
「半兵衛様」
「おかね!?」
「ああ。ありがとう。うん。三成君に似ているね。」
「私の!」
「奥方」
「っ」
「僕は君に失望しているんだよ」
「え?」
「最初は偽りだとしても肌を交わした仲だ。情も生まれるだろう。ましてや子まで成したというのに。三成君の中に君はいない。」
「その様な…確かに好き同士で縁を結んだわけではありませんが…」
「きっと今ここに彼を呼んで君を斬れと言ったら何のためらいもなく君を斬るだろうね」
「っ!」
「現に君の存在が邪魔だから殺してしまおうと思ったけど…姫に止められたよ。父親も夫も君を殺す事を厭わなかったのにね。」
「そんな…」
「そう思うのなら、着いておいで」







「姫様」
「治部?」
「我が子でございます」
「産まれたの?そう…もうそんなに経ったのね。見せていただけるの?」
「お約束でしたから」
「ああ。そこでいいわ。」
「?」
「ふふふ。可愛い。でももう奥方にお返ししないと」
「?」
「病になってしまったら大変ですもの。治部。奥方を大切になさってね」
「奥は関係ありません。…姫様。お気になさらず。抱いてやってください」
「ですが…」
「この子もそう望んでおります」
「…小さな手」
「本当ですね」
「貴方に似てるわ」
「そうでしょうか?」
「ええ。きっと貴方に似て凛々しく賢くなられるわ。それが見れないのが残念だけれども」
「姫様!」
「ああ。ごめんなさい。寿ぎを紡ぐ時に」
「これの母親は処刑されるのです」
「え?!」
「ですから…此の者も。」
「待って、どうして?!」
「理由は…それの父親とだけ。それ以上は耳障りです。」
「こんな可愛らしい子を?…治部。貴方に似た子を殺すのは私が許しません!半兵衛を呼んでくださいませ」
「ふふふ。どうしたんだい?そんな大きな声を出して」
「聞いていたのでしょ?この子のことです」
「ああ。処刑前に見せたのかい…姫にそんな酷な事しないで欲しかったけど。約束なら仕方ないよね。連れて行くよ」
「半兵衛」
「何だい?」
「…」
「ごめんごめん。君があんまりにも必死で可愛いからさ」
「私は何をすれば奥方やこの子の命が救えますか?」
「…奥方もかい?」
「駄目なのですか?」
「それは無理だね。」
「…治部」
「秀吉様、半兵衛様のお申し付けなれば致し方ありません」
「半兵衛…」
「君次第と思ってるよ」
「…なれば、子供だけでも。あ…」
「如何したの?」
「尼にしても駄目ですか?」
「尼?」
「自領の尼寺に…お願いです。こんな無垢な子から母親を奪わないでください。」
「はぁ…そんな目で見られたら仕方ないね。但し」
「?」
「3つ条件があるけどいい?」
「はい」
「1つは薬をきちんと飲む事。僕たちの無事を願って薬断ちを二度としない事」
「わかりました。」
「もう1つは三成君の正室になって貰う」
「!?」
「最後は此の子の養母となってもらうよ。これを守ってもらえるのなら母子の命は保証する」
「ですが…」
「不服かい?」
「いえ。私はここから出られぬ身。病身で治部を支えられましょうか?正室としての責務を負う事すらかないませんのに」
「君の責務は三成君が豊臣の正当な後継者であるという証だ。それ以外は早く良くなる事位だしね。彼方は吉継君と考えるから大丈夫だよ」
「治部」
「一命をとしてお守りいたします。私は貴方様が健やかであればそれでいいのです。時折。ここに来た時私の名を呼んでくださればそれで」
「…」
「如何するんだい?」
「お願いいたします」
「?!」
「はぁ。やっと肩の荷が下りたよ」
「姫様!」
「治部」






「ヒヒヒッ」
「嘘…」
「あのように笑う三成を見た事はなかったか?そうであろう。あれはぬしの手には入らぬもの故」
「大谷様」
「姫の慈悲はぬしにとって是が非か…わからぬ。わからぬ…」
「もう一度だけ!我が子に」
「聞かなんだか?あれはもうぬしの子ではない。その上ぬしの一族はもう骸よ。」
「!」
「やれ、外戚の政治は一番嫌われるわなぁ。恨むなら事もあろうに姫を毒殺しようした己が父親を恨め」












不幸な女と幸福な女と三成









「ヒヒヒッ。終わった終わった」
「吉継君?首尾は?」
「上々よ。やれ、姫は?」
「今三成君と庭に出ているよ」
「姫の労咳は治ったが…体の弱いのは如何にもしがたいなぁ」
「仕方ないよ。でも…見てごらん」
「初々しい」
「やっと見れたね。3年越しだった」
「ほんに無慈悲な話よな」
「いくらでもチャンスがあったのに棒に振ったのは彼方だよ」
「致し方ないなあ」
「…にしても三成君に似ているね。」
「ん?ああ。それか。名はなんと?」
「決めかねているみたい。」
「まぁ時は長い。ゆるりと決めるがよろしかろ」

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想う三成

今生において至上の恋は何かしらと問えば、治部は停止してしまう。それはそうだろう。まさに今、私は治部に縁談を受ける様に説得している最中なのだから。何を言っているのだろうかと思ったかしら?といえば首を横に振られる。
半兵衛の持ってきた縁談は傍目から見て些かの欠点もない。良い家柄。父親は武に秀でていて石田軍の門下に下るのならば一角の兵力になるし性分上裏切る事はないだろう、娘は美しく大人しい。一度だけ会った事がある。健やかで気立ての良い子だった。そんな彼にとって最良の縁談を何故か頑なにまで拒否するのだから困ってしまう。いや、それ以前の話なのだが刑部に頼まれたものの私は治部と二人きりで話したりした事はほとんどない。常に、刑部か半兵衛がいた。そうなると私たちの会話は間接的なものになってしまう。無口そうに見えて治部はよく話してくれる。正確には刑部に思い出話を言わせているというのが正しい。あの時、戦の途中でとだけ言って無言となる。そして刑部が話して私が聞くのだ。一度面倒になった刑部が自分で言えと言ったものの二、三度したら元どおりになっていた。だから私と彼の会話は媒介者がいて初めて成立する程度のものだ。


「姫様」
「はい」
「それは、どういう意味ですか?」
「深い意味はないの。ただ」
「ただ?」
「私は人様に嫁す事が出来ません。ご存知の通り、生来の弱さに病を得てから特に。床から出られたとしても兄様が用意してくださったこの離れが私の精一杯の行動範囲ですもの。」
「それは…ですが姫様に何かあってはなりません故!」
「ふふふ。治部も過保護ね。何もないわ。私に大しての価値はないもの。そんな私にも皆優しいわ。でも」
「?」
「時折考えるの。戦う事や皆の役に立つ事は無理だとしても…走ったり笑ったりするのに何の制約もない体で野山をかけたらどんなに楽しいだろうと。天を仰ぎ、地を蹴り、五感で風を感じると言うのはどう言うものだろうと。」
「姫様」
「誰かを恋しく思ったり、喧嘩したり、仲直りしたり。生涯とに歩けれたらと…ふふふ。戯言を言ってしまいましなね」
「戯言などではありません!」
「私の定めでは戯言なの。…話が逸れてしまいました。貴方は」
「私が?」
「定めとして誰かと番い子を成せるのならばそれは良い事なのですよ。」
「…ですが」
「私は貴方の子を見てみたいわ」
「?!」
「兄様も半兵衛も刑部もああだろうから。あの人たちに幸せを説いたとしても仕方ないわ…でも治部」
「私は」
「貴方は人並みの幸せも知ってほしいわ」
「……姫様」
「何?」




この心中を吐露する許可をと消え入る様な声で言われる。顔は見えない。平伏を止めてくれたらというと顔が上がる。初めて見る顔だ。少し焦っていて凄く苦しそうだ




「治部?」
「私はこの思いこそが…今生で至上の想いだと思っております」
「?」
「私は貴方をお慕いしております」
「…は?」
「やはりお気付きではありませんでしたね」
「いえ、だって。私は」
「貴方は体が弱くあられます。なので嫁いだり子を成したりできないのは幼い私が大阪に来た折より重々承知しております。」
「…」
「何より私が貴方を想う事自体烏滸がましいのも。…ですが、諦める事ができません。」
「治部」
「ですから、他の女など娶れなど貴方が言わないでください」
「私は…貴方に思われるのに足る人ではありません。」
「それは…私が決める事でございます」
「っ」
「私は秀吉様に半兵衛様、刑部。それに貴方がいればそれで」
「それでも」
「姫様…」
「私は貴方の子が見たい。」
「っ」
「貴方の子がこの豊臣を継ぐのを。それが…それだけが私の」
「ですが…姫様?!」
「ご、めんなさい。近づかないでください」
「!」
「貴方にうつってしまったら…治部」




咳き込んでしまうと治部が背中を摩ってくれる。それを拒否しようと手で押すもののその手を取られてしまう。私は、この手が好きなのだ。冷たくて大きく、硬いこの手が。佐吉と呼ばれまだ小さい折に刑部が連れてきた少年は今と変わらず無愛想で今よりずっと話さない人だったがこの手は変わらない。病の私を厭わず支えてくれる。大人ばかりの訪問者の中で唯一やってくる少年に恋心を抱いたのはすぐの事で。浅ましくもこんな体になった後も変わらず慕っている。秘めた想い。それが同じとわかった今私はそれだけで幸せなのだ。もう果ててもいいほどに



「治部」
「姫様」
「私の想いも、吐露しても」
「はい」
「いつか、私の体が治ったら、貴方の」
「…」
「奥方になりたかった」
「っ」
「でも私にはそれを望む体も時間も残っていないの。治部」
「はい」
「忘れて。」
「無理です」
「命令でも?」
「たとえ命じられたとしても。貴方の吐露を。この手の温かさを。その声を忘れる事などできません」
「そう」
「…側として娶ります」
「!」
「貴方の望みが私の子を見るのであれば…それは叶えます。ですから。姫も一つ私の願いを叶えてくださいませ」
「何?」
「体を治して私の室になってくださいませ」
「!」
「それ多くも秀吉様にそう乞う許可を」
「は、い」






そういっ私はうなづくと治部は静かに抱きしめてくれる。
ふわりと薫る香りは昔と変わらず優しい香りだった










想う三成






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