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変換なしの雑食夢

ran

守る女と三成

美しい女だった。
誰よりも強くあろうと努力を惜しまない女だった。
熱り立つ男共を冷静に抑えられる稀有な女だった。
幼い折より寝食を共にし、秀吉様の為に生きようと誓い合った友だった。


私が初めて共に生きたいと切望した女だった。





「…誰?」
「…」
「お願い。背中に立たないで。見えないから刀を振り回すわけにいかないの」






先だっての戦で目を失った。もうあの美しい両目を見ることは出来ないと今この状態で深く知る事になる。私は彼女の前で柄に手をかけているのだ。本来なら窘められたり、逆に怒られたりするのにそれすら気がつかない。懇願し刀に手を伸ばすことすらできないでいる。
秀吉様の一兵卒としての死。そして戦人であり両目を失った彼女は女として妻として求められる事はないだろうと刑部が言う。戦人故の恐怖と、両目を模した女を求めるものはいないと。それ以上に。半兵衛様が危険であると判断されたのだ。今の彼女は赤子と同然でもし捕らえられ拷問されでもしたら機密が漏れてしまうと。





「?」
「…」
「三成…かしら?」
「…」
「…」
「何故、わかった?」
「ああ。やっぱり三成だわ」
「おい」
「貴方は何も言わないと思ったから。他なら何か言うはずでしょ?用があれば、特に」
「そう、か」
「ありがとう」
「?!」
「もう私は無理ね。半兵衛様にも三行半を突きつけられたみたいだし」
「…」
「戦人としての駒にも人質としての駒にもならないもの。」
「…」
「…泣いているの?」
「!」
「涙の匂いがするわ」
「…殺すように言われた」
「そう」
「だ、が」
「馬鹿ね」
「?!」
「死ねと言われたら私は自分で死ぬのに」
「な」
「あなたにそんな事させないわ」





そういった刹那彼女は髪に挿していた簪で胸を一突きする。
『もし武器も何もかも取り上げられて捕虜になるくらいなら私は私の手で死んでやるわ。この簪はその為のものよ。女っ気とかそういう風に思わないでちょうだい。』
そうった言葉がよりによって聞こえてくる。思い出したくない。聞きたくない。



失いたくない!






「っ!」
「みつ、なり」
「あぁ…血が…」
「喉を突けば、良かったけど」
「何故だ」
「ん?」
「何故、私を置いていく」
「置いて…いないわ。」
「何故だ!何故お前が!こんな、めに」
「三成」
「!」
「三成…手を出して」
「あ、ああ!私はここだ」
「三成の手だ」
「おい」
「…貴方は秀吉様をお支えしてね」
「!」
「私は姿を変えて貴方を、守るわ」
「おい…」
「両眼のないものが側にいたら殺さないで…私だから」
「死ぬ事は許さない!」
「…貴方の子も孫もずっと。石田の護りになるわ。けど」
「?」
「人として、あなたと会うのは。…会う事はこれで最後」
「!!」
「三成」
「何だ!」
「生きて…」
「死ぬな」
「ずっと…貴方の側にいるわ」
「ああ…」
「ふふふ。苦しい」
「!」
「でも最後が貴方…」
「?!おい!!!」
「よかっ、た」






そう言って彼女は二度と目を開けなかった。苦しんで苦しんで、あっけなく死んでしまった。
葬儀も質素に行い土へ帰って行った彼女の墓に行くのが私の平素の日課になった。誰も止めない。止めることができないその行為を私は行った。秀吉様ですら黙認してくださったのはありがたかった。
向かわれが終わった後、不思議なことが起こった。



死ぬ直前に彼女が言った通り両目を喪した動物が現れるようになったのだ。



一度目に現れたのは白い猫だった。

現れるや否や刺客に襲われるのを教える為それらの顔を引っ掻いて無残に切り刻まれた。私はその骸を抱いて盛大に泣いた。


二度目に現れたのは白い鼠だった。

害獣と皆が嫌ったものの、私は側に置いた。
鳴きもしない静かな鼠だった。戦場にも連れて行く有様は皆笑いはしたが刑部だけは違い彼女の名を呼んで可愛がっていた。
幾つかの戦場でその鼠が珍しく鳴いた。何事かと驚き聞いたがただ泣くばかりで私は大いに困った。刑部に聞きに行くかと床を立って刑部の部屋に着くか否かの時。屋敷が揺れた。部屋は燃えていて暗殺を企まれたことを知った。彼女はその炎で燃えてしまった。





三度目は黒い犬だった。
戦場に立つ彼女のように勇敢で良からぬものを押し返していた。
だが私に向けられた毒矢の盾になって死んでしまった



四度目は白い蛇だった。私には寄らず無理やり娶った嫁との間に生まれたこの側にいた。不思議と病はなくすくすく育ったその子の変わりに彼女は瘦せおとろえて代わりに死んだ。


それらを繰り返して子は病なく大きくなり、私は後継者として恐れ多くも太閤という偉大な名の跡を継いだ





「やれ、三成の側になくていいのか?」
「にゃー」
「左様か。ぬしは本に優しい子よな」
「にゃーにゃー」
「ひひひ。本来我の仕事ゆえ。ぬしには感謝してもしきれぬなぁ。」
「にゃ」
「にゃ」
「おい刑部。」
「おお!旦那様のお帰りよ。」
「旦那様?!私達は…おい!如何して刑部の膝に行く?!」
「にゃー」
「ひひひ。悋気よ悋気。」
「にゃー」
「今回は黒猫か」
「あれの髪によく似た色よ。惚れ惚れ」
「ふにゃ」
「愛い愛い」
「…刑部!」
「大人気ない男よ。のう。これは我の死に水を取りに来てくれたのよ。」
「な?!」
「我は一人で死するのが寂しい故。…本に優しい娘よな」
「…何度も命を救われた」
「ああ。主の為に何度も死んだか…だがな」
「にゃー」
「我の為に死のうとするのはいただけぬなぁ。と言っておる。我はこのまま死ぬつもりよの」
「おい」
「我とて主を置いていくのがこんなにも不安とは思わなんだ。…やれ、ぬしも心残りだったよな。我とて同じ。三成よ」
「?」
「我は寿命よ」
「…刑部」
「これのおかげでなぁ。主の命の心配をせずに済んだ故計略に心血を注げた。感謝する」
「バカを言うな」
「やれ、ぬしは我の為に死ぬるなよ。我の為に死ぬるなよ」
「にゃー」
「愛い愛い。」







その話をした次の日寝付いていた刑部は奇跡という所業で治癒し、部屋を追い出された彼女は縁の下で冷たくなっていた。



「本に優しい子よな」
「ああ」
「この骸は我が供養したいが…良いか」
「喜ぶだろう。あれは貴様に懐いていた」
「助かる」









守る女と三成








「おい」
「わん」
「わん以外言え」
「やれ三成」
「昨日夢で言っただろう」
「…夢は夢よ」
「それでも」
「?」
「私はこいつの声を聞きたいのだ。」








天下は太平。私は隠居となった。孫の顔を見れるとは思わなかった。
その時の彼女は白い犬だった。





「本に好きよな」
「当たり前だ。私は嫁にしたかったのだ…おい。欠伸をするな」
「わふっ」
「きちんと話を聞け」
「踠いておるよ。やれこちらにきりゃれ」
「きゅーん」
「愛い愛い」
「刑部!」
「本に」
「?」
「長く生かさせてもらった」
「…」
「のになぁぬしは子をなさず、三成のため生き死にを繰り返したなぁ。」
「わふ」
「ひひひ。頑固故本来の天命まで生かすつもりか」
「わふ!」
「この憎い可愛き者よ」
「おい」
「老齢でも悋気か」
「こちらに来い」
「…」
「おい」
「わふ」
「御手ではない」
「わふ」
「伏せではない」
「わふ!」
「おい」
「姿が変わっても変わらぬなぁ。」









その晩私は、自分の天命を知った。急な心の臓の病か。苦しんでいるとあいつが来た。



「わふわふ!」
「急な、事だ」
「わふ!」
「泣く、な」
「わふ!!!わんわんわんわん」
「誰も、呼ぶな」
「きゅーん」
「天命だ」
「…」
「お前と二人が、良い。」
「…」
「私は幸せ、だ」






ぽろぽろと犬の姿でなくあいつは昔と全く変わらない。
美しく、強く。優しく、愛おしい。


私の唯一の女だ。




きっと次に目を覚ました時には美しい彼女がいるのだろうなと思って私は笑うのだった

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