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変換なしの雑食夢

ran

想う三成

今生において至上の恋は何かしらと問えば、治部は停止してしまう。それはそうだろう。まさに今、私は治部に縁談を受ける様に説得している最中なのだから。何を言っているのだろうかと思ったかしら?といえば首を横に振られる。
半兵衛の持ってきた縁談は傍目から見て些かの欠点もない。良い家柄。父親は武に秀でていて石田軍の門下に下るのならば一角の兵力になるし性分上裏切る事はないだろう、娘は美しく大人しい。一度だけ会った事がある。健やかで気立ての良い子だった。そんな彼にとって最良の縁談を何故か頑なにまで拒否するのだから困ってしまう。いや、それ以前の話なのだが刑部に頼まれたものの私は治部と二人きりで話したりした事はほとんどない。常に、刑部か半兵衛がいた。そうなると私たちの会話は間接的なものになってしまう。無口そうに見えて治部はよく話してくれる。正確には刑部に思い出話を言わせているというのが正しい。あの時、戦の途中でとだけ言って無言となる。そして刑部が話して私が聞くのだ。一度面倒になった刑部が自分で言えと言ったものの二、三度したら元どおりになっていた。だから私と彼の会話は媒介者がいて初めて成立する程度のものだ。


「姫様」
「はい」
「それは、どういう意味ですか?」
「深い意味はないの。ただ」
「ただ?」
「私は人様に嫁す事が出来ません。ご存知の通り、生来の弱さに病を得てから特に。床から出られたとしても兄様が用意してくださったこの離れが私の精一杯の行動範囲ですもの。」
「それは…ですが姫様に何かあってはなりません故!」
「ふふふ。治部も過保護ね。何もないわ。私に大しての価値はないもの。そんな私にも皆優しいわ。でも」
「?」
「時折考えるの。戦う事や皆の役に立つ事は無理だとしても…走ったり笑ったりするのに何の制約もない体で野山をかけたらどんなに楽しいだろうと。天を仰ぎ、地を蹴り、五感で風を感じると言うのはどう言うものだろうと。」
「姫様」
「誰かを恋しく思ったり、喧嘩したり、仲直りしたり。生涯とに歩けれたらと…ふふふ。戯言を言ってしまいましなね」
「戯言などではありません!」
「私の定めでは戯言なの。…話が逸れてしまいました。貴方は」
「私が?」
「定めとして誰かと番い子を成せるのならばそれは良い事なのですよ。」
「…ですが」
「私は貴方の子を見てみたいわ」
「?!」
「兄様も半兵衛も刑部もああだろうから。あの人たちに幸せを説いたとしても仕方ないわ…でも治部」
「私は」
「貴方は人並みの幸せも知ってほしいわ」
「……姫様」
「何?」




この心中を吐露する許可をと消え入る様な声で言われる。顔は見えない。平伏を止めてくれたらというと顔が上がる。初めて見る顔だ。少し焦っていて凄く苦しそうだ




「治部?」
「私はこの思いこそが…今生で至上の想いだと思っております」
「?」
「私は貴方をお慕いしております」
「…は?」
「やはりお気付きではありませんでしたね」
「いえ、だって。私は」
「貴方は体が弱くあられます。なので嫁いだり子を成したりできないのは幼い私が大阪に来た折より重々承知しております。」
「…」
「何より私が貴方を想う事自体烏滸がましいのも。…ですが、諦める事ができません。」
「治部」
「ですから、他の女など娶れなど貴方が言わないでください」
「私は…貴方に思われるのに足る人ではありません。」
「それは…私が決める事でございます」
「っ」
「私は秀吉様に半兵衛様、刑部。それに貴方がいればそれで」
「それでも」
「姫様…」
「私は貴方の子が見たい。」
「っ」
「貴方の子がこの豊臣を継ぐのを。それが…それだけが私の」
「ですが…姫様?!」
「ご、めんなさい。近づかないでください」
「!」
「貴方にうつってしまったら…治部」




咳き込んでしまうと治部が背中を摩ってくれる。それを拒否しようと手で押すもののその手を取られてしまう。私は、この手が好きなのだ。冷たくて大きく、硬いこの手が。佐吉と呼ばれまだ小さい折に刑部が連れてきた少年は今と変わらず無愛想で今よりずっと話さない人だったがこの手は変わらない。病の私を厭わず支えてくれる。大人ばかりの訪問者の中で唯一やってくる少年に恋心を抱いたのはすぐの事で。浅ましくもこんな体になった後も変わらず慕っている。秘めた想い。それが同じとわかった今私はそれだけで幸せなのだ。もう果ててもいいほどに



「治部」
「姫様」
「私の想いも、吐露しても」
「はい」
「いつか、私の体が治ったら、貴方の」
「…」
「奥方になりたかった」
「っ」
「でも私にはそれを望む体も時間も残っていないの。治部」
「はい」
「忘れて。」
「無理です」
「命令でも?」
「たとえ命じられたとしても。貴方の吐露を。この手の温かさを。その声を忘れる事などできません」
「そう」
「…側として娶ります」
「!」
「貴方の望みが私の子を見るのであれば…それは叶えます。ですから。姫も一つ私の願いを叶えてくださいませ」
「何?」
「体を治して私の室になってくださいませ」
「!」
「それ多くも秀吉様にそう乞う許可を」
「は、い」






そういっ私はうなづくと治部は静かに抱きしめてくれる。
ふわりと薫る香りは昔と変わらず優しい香りだった










想う三成






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