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変換なしの雑食夢

ran

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15年越しに告げる三成

「読んだ」
「ああ。渡しておいた新作か…どれだ?」
「男女問題」
「…恋愛小説といわしゃれ。どうだった?」
「焦れったいを通り越して呆れた。女がとっとと愛している言えば終いだろう」
「情緒のない男よのう。その駆け引きが良いのよ。今の女たちにはなぁ」
「意味がわからん。が」
「ん?」
「最後は悪くない」
「結ばれぬが…良いのか」
「ずっと側にはいられる。そこは好ましい」
「成る程。主らしい。書き直す部分もあるが…大体はこれでよかろう」
「刑部」
「ん?」
「誰が書いた?書き下ろしか?」
「そうよなぁ。」
「?」
「気になるか?」
「気になるの言えばそうだな」
「?」
「何処かで読んだ事がある気がする。が、名前が出ない。喉の奥に引っかかった小骨のようだ」
「ひひひ」
「?」
「本に主は面白い。やはり秘書課を止めて我と共に編集をせぬか?」
「貴様の道楽には付き合わん。大体、期限は後3年だ。そうすれば貴様もまた秀吉様の元に馳せ参じろ」
「しかしなぁ。主の審美眼は良いものなのだが。太閤の膝元には我がおらぬでも十分よ。病弱故。だから主がこちに来い」
「断る!」
「それは残念、ざんねん」
「で」
「?」
「誰だ」
「ひひひっ」
「おい」
「さて参ろうか」
「?」








呼び鈴の音で目を覚ます。ああ、転寝をしていたようだ。ひと伸びしてはーいと返事をする。築100年に近い古民家は文化的価値というより破格の安さが売りだった。おかげでよく声が聞こえる。一軒家を1LDKの値段で借りているのだから致し方ない。しかし、意外と気に入っている。初めて私が手にした自分の城なのだから。ただ。相手が相手なのだ。今でも何処かに黒づくめの男が目を光らせているだろう。適度に自尊心を満たして逃亡させないための布石。本当に嫌な男だ。




「はいはいっと。」
「やれ、嬢」
「あ。大谷さん」
「そのような姿で出てきてはならぬよ。」
「今終わったところなの」
「左様か」
「うん。」
「食べたか?…朝より以前の食事も」
「うんん。」
「ほれこれ」
「うわっ。野菜!」
「主の引きこもり体質にはほとほと困ったなぁ」
「出て行くと迷惑かかるし。」
「左様か」
「幽閉されているようなものよ。…入って大谷さんも食事まだでしょ?」
「実はなぁ。もう一人おるのよ」
「?」
「三成」
「…三成?」
「おい、刑部!ここは…姫様?」
「…久しぶり」
「!!!」
「やれ三成。今嫌な音がした。」
「卵買ってた?」
「ああ」
「残念なことになったね。」
「もったいない故濾して茶碗蒸しにでもいたそう」
「そうだね。三成さん」
「は、はい!」
「…ご飯食べて行きなよ」
「し、しかし!」
「それと」
「?」
「私は豊臣の後継者でもなんでもないから、さ。そう畏まらないで」
「え?あ…はい!」





割れた卵は思いの外ひどい有様ではなくて一息つく。荷物を受け取ろうとするものの、それを許さないのは相変わらずだ。ご飯作れないわといえば嫌々渡してくれる。本当に嫌なのだろう。かおが酷い






「まぁ良いや。座ってて」
「し、しかし」
「大谷さーん。書けたの机の上」
「あいわかった」
「三成さんも連れて行って」
「ですが」
「普通に食べられる?」
「あいも変わらずよ」
「そうなんだ」
「っ」
「やれ、三成」
「あ、ああ」
「そういえばのぅ」
「ん?」
「主のものを三成に読ましたよ」
「えー…。どうせ焦れったいとかでしょ?」
「ああ」
「いえ、その様な…」
「いや良いよ。あれはそういうのだし。三成さん、恋愛って感じじゃないし」
「どういうのか?」
「忠誠」
「…」
「ひひひ。」
「姫様」
「いつの時代よ。」
「嬢」
「私はもう豊臣財閥の姫様でもお嬢様でもないわ。」





あの日。あの時まで私はあの男が好きだった。本当に好きだったのだ。のに、他の男に嫁げという。自分よりふた回りも上の下卑た男の元へ。




「それでも」




愛した男はこの世の誰よりも私を女と見ていた。
使える女と。

全てが嫌になり私はあの家を出た。大谷さんにあったのもつい最近。ここも気に入ってたのになぁと思いながら引越しの手立てを考える。
おくびにも出さずに蒸し器のふたを開けると茶碗蒸しがいつもより歪にできていた



「…あの」
「三成さん?何?」
「聞こえませんでしたか?」
「ん?」
「…私にとって貴方は姫様なのです」
「ふーん」
「以前の様に」
「豊臣には帰らないよ」
「…以前の様に貴方が他の、人を見て」
「…」
「恋していたとしても。私は貴方には笑っていて欲しいのです」
「大谷さん!?」
「ひひひ。残念ながらこの事ばかりは我より三成が先に気づいたのよ」
「あの!?三成さんが!!!」
「私にとって女は貴方だけですから」
「…は?」
「恋しく思う相手の視線の先くらい。私にもわかります」
「え?あ…うわっ!?落とした!!!」
「ひひひ。姦しい」










15年越しに告げる三成







「姫様」
「また来たの?」
「許可は得ています」
「誰の」
「秀吉様の!」
「あーて言いたいこといっぱいあるけど良いや。さっき担当の子がお土産置いていってくれたの。いる?」
「お茶を淹れてきます」
「ありがとう」
「いえ」
「三成さんも忙しいのに大丈夫?」
「はい!」
「…兄様にアドレス教えた?」
「はい!」
「はぁ…寝てないって苦情が来たの。それ食べて帰りなさい」
「ですが…」
「…」
「…」
「…ご飯も食べる?」
「はい!」
「本当に…そっち仮眠室だから寝てなよ。出来たら起こし…顔赤いよ」
「ひひひひひひ」
「私も寝るけど、むさいおじさんも寝てる。一番寝てるのは大谷さんよ」
「…刑部」
「遅筆な私が悪いのよ。さて、と」
「お茶です」
「早くお嫁さんもらいなよ」
「!!!」
「三成さーん」
「…」
「…」
「…」
「…姫様が」
「まだそこまでは絆されんぞ!」
「っち」
「でもまぁ」
「?」
「恋人くらいなら格上げしてあげる日も近いかもねー」
「!?!?!??」






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