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変換なしの雑食夢

ran

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蓮花

「…」
「何やら此処も花やんだか?」
「ああ」
「洗濯物に繕い物。三度の食事と大変よな」
「ああ」
「にしても」
「?」
「賢人が用意した部屋を厭い賄いどころの横。下女の部屋で寝起きしているらしい」
「は?」
「太閤も賢人も家格から言えば清貧だが。それに輪をかけて」
「あそこは…待て。昼食の時間よりお顔を拝してはおらん」
「そう、言えば」
「少し行ってくる。医師の準備を」
「あいわかった」



賄い方に行くとお姿がない。道中もなかったので裏の井戸かと外に出ると藍色の服が見えてゾッとする。



「ちい様?!」




叫んでも返事はない。静かに地に伏せられているまま。急いで駆け寄り掻き抱くと小さな声で呻いて、静かに瞳を開かれる。




「石田、様?」
「ひどい熱だ。申し訳ございません」
「…」
「医師は呼んだ。太閤と賢人は出払っておる故、文を書く。」
「やはり此処は寒い。…私の部屋にお連れするがよいか?」
「致し方あるまい。ぬしの万年床でも役には立とう。一度そこに休ませてちい殿に誂えた布団を持ってきりゃれ。ぬしの事。寝ずに看病する気よな。左近に声をかけておく。暫くしたら行く故。万事任されよ」
「すまん」



ちい様を寝かせると火鉢を持って湯を沸かす医師は少し考えてから過労からくる風邪だろうといって薬を置いていった。介護から葬儀、そして登城と疲れが溜まったのだろう。額に手を置くと熱い。苦しいのだろう。汗もかかず酷くうなされている。



「ちい様」
「…」
「っ…早く良くなってください」





額に手ぬぐいを置く。少しだけたじろぐと涙が溢れるのがわかる。
泣かないで、欲しい。そっと頬に触れると今までのどの女より愛しく思うこの気持ちを自覚するのだった




蓮花






「…」
「…」
「あ、の」
「良かった」
「は?」
「もう少し、寝ろ」
「あ、あの。石田様?」
「…」
「…」
「っ?!わ、私は!!!」
「こほっ」
「?!いや、申し訳ございません。倒れている貴方を見つけて…」
「看病、してくださったのですか?」
「…勝手に看病をしておきながら、寝てしまうなど。剰え女子の部屋で」
「ふふふ」
「?」
「石田様、寝跡」
「っ?!」
「ありがとうございます。御手を煩わせてしまって。それに、 こんな上等な床で…あ」
「?!如何致しましたか?気分が優れないのならば」
「いえ、石田様はどちらでお休みになられるのですか?」
「わ、私は部屋の隅にでもと思っていましたが…不覚にも」
「本当に」
「ちい様?」
「御優しい方ですね」
「は?」

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梅花

「おはようございます」
「?!」
「石田様?」
「いえ、おはようございます。」
「御早い御目覚めですね」
「姫様こそ」
「石田様」
「?」
「私は姫という身分ではありません。…あれでも其れでもお呼びください」
「その様な!あの」
「?」
「…尊名はなんと」
「尊名?」
「あなた様のお名前です。秀吉様に聞いても濁されてしまい…」
「石田様は本当に伯父上を尊敬なさっておられるのですね。」
「それは、はい。私の唯一ですから」
「貴方様は同族同血と言いますが私の毛色は伯父上と少し違います。第一此処では私も殿下と呼ぶこととなりました。私は下女ですし…どうぞ、一婢女としてお使いください」
「いえ、ですが」
「それに」
「それに?」
「私には名がないのです。仮称と代名詞で人は生きていけるものです」
「は?」
「亡き母は終と呼んでおりました。子がたくさんおりましたし、私が生まれる少し前に父が亡くなって。流石に終わりと書いてついなれば仮称でも哀れと竹中の方々や伯父上と御じじ様御ばば様はちいと。小さいちい。すべて呼称であり仮称です。母がいつかはつけてくれると思ったのですが、最後まで。私は名もない、その様なものですから」
「…」
「その様な顔をなさらないでください。もう慣れました。し不自由はないものですよ。」
「では私も」
「?」
「小様とお呼びしてよろしいですか?」
「あなたがそう呼びたいのなら」
「…小様。」
「はい。石田様。」




そう呼ぶと何か言いたそうにして朝の稽古に行って参りますと一礼される。本当に礼儀の正しい人だ。昨日の怒った姿が夢の様。と思いながら井戸に向かう。雑巾を洗い、箒を持つ。汚れは少ないものの綺麗ではない。落ち葉の少ない季節で良かったと思いつつ、半兵衛様の朝餉まだ?お腹すいたよーで今の時間を知る。ほんとうに。一回り上とは思えない。でも、少し懐かしい気もする。



「遅くなりました」
「いや、構わぬ。大方賢人に捕まっておったのだろう?ぬしも大変よの」
「気にかけていただいているだけありがたいと。朝餉をお持ちいたしました。」
「まともな朝餉は久方ぶりよな」
「大谷様も御苦労絶えませんね。昨日お伝えいたしました繕い物と洗濯物はこれで?」
「済まぬなぁ。」
「いえ。…包帯の換えは本当によろしいのですか?」
「良い良い。いつも三成が手伝ってくれる故。それに女子の見るものではない故」
「…何かありましたら言ってくださいませ。そのためにここにいるのですから。少しの間といえども。」
「本に変わった女よ」
「?」
「我を厭わぬか?」
「???」
「まぁ、いい。」
「はぁ。では一旦失礼いたします」
「のう」
「はい?」
「もっと笑えばよかろう?菓子が草子か?ぬしは何を見れば笑しゃる?」
「そうでございますね。きっと、そのうち」
「左様か。…ん」
「刑部」
「やれ三成」
「石田様。ご苦労様でございます」
「小様。」
「大谷様に朝餉を。…石田様はいかがいたしますか?」
「こちらで食べます。」
「朝餉をお持ちいたします。着替えも」
「いえ、あの…行ってしまわれた」
「ひひひ。苦しき恋慕よの」
「…」
「否定せぬか。にしても。笑わぬ太閤の姪御を好むとは。確かに顔立ち素作はよいが。取り留めてぬしの心を掴むとは思えぬが。」
「笑うところを一度見たことがある」
「ん?」
「一度だけだ」
「左様か」
「…にしても」
「ん?」
「なぜ姫様を御呼び寄せになったのに下女の様な扱いに…聡明な方だ」
「かの方を戦さ場に連れて行く気はない様だ。今は下女だがいつかは有力なものに嫁させるつもりよな」
「は?」
「あの様に静か故間違えるが先月前髪を上げたばかりよ。不思議とは思わんがの」
「そう、か」
「ひひひ。ぬしが執着とは珍しい。太閤の血縁は大切と見える」
「それは、そうだ。あの秀吉様の姪御。大切でないはずはない」
「失礼いたします」
「?!」
「お食事を。あと着替えも」
「あ、ああ。申し訳ありません」
「石田様」
「?」
「後生でございますからその様な喋り方は。一婢女として」
「しかし」
「ちい殿この漬物は美味よなぁ」
「刑部?」
「ありがとうございます。」
「「…」」
「どこかな?おーい!」
「あ、半兵衛様。洗い物は後から取りに参ります」
「は、はい」



「…ちい様」
「笑っておったな」
「ああ」
「すごい破壊力よな」
「言ってくれるな」




梅花




「はぁ」
「ちい様」
「石田様」
「雑巾掛けなど」
「え?ああ。すいません。御見苦しいところを」
「そう、ではなく」
「?」
「お疲れではありませんか?」
「はい。」
「ですが…」
「石田様もよくお召し上がりになられて…そろそろ私も」
「は?」
「いえ、家を開けっ放しは流石に」
「これから此処にお住まいになられるのでは?!」
「いえ。石田様の体調が戻るまでと。」
「…」
「それに此処は私には敷居が高くて。」
「その様な」

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金木犀

「ぬしが、太閤の姪御殿、か?」
「はい。貴方様は?」
「ひひひ。三成の友と申せばいいか。大谷という。」
「石田様の?」
「左様。ぬしにちとお願いってな」
「はぁ。…どうぞ縁に。」
「縁?」
「御武家の家とは違い客間はこの家にはありません。見ての通り、囲炉裡部屋とお勝手だけです。その様なところに御通しするわけにも参りませんし…。日も当たりますし、暖かいのでご安心を。今御座布団を」
「ありがたや。ありがたや。」
「少しお待ちください。…粗茶を」
「ひひひ」
「失礼いたします。その、ご用件は?」
「ぬしに頼みは他でもない」
「?」
「石田三成を知っておられるか?」
「何度か伯父上たちの文を届けて下さいましたので」
「その三成がなぁ」
「?」
「三成が食さぬでな…最近特にひどい」
「まぁ。お体の具合でも?」
「やれ、いつもの事だが今回は目に余ってなぁ。以前ぬしの食事は美味しいと言っておったのを思い出してな。ぬしのならと思い訪ねてきたのよ」
「はあ」
「ぬしに頼む話ではないが、何か作ってやれぬか?」
「ですが…」
「このままではやせ細って倒れてしまう」
「っ?!しかし。」
「いかぬか?」
「そう、ではなく。」
「?」
「半兵衛様でしょうか?」
「…本に。噂通りよの。しかし。三成が食さぬのも事実よ」
「申し訳ございません。半兵衛様は策は練られても嘘をつく方ではありませんし、貴方様を疑っているわけではなく、その」
「?」
「その様なことは御正室様や許嫁様がなさる事では、と。ご身分の高い方ですので…御相手がおられますでしょうし。その方のご心中をさっすると…はいとは言いづらいのです」
「ぬしにとって三成は随分優しい男と見える」
「違うのでしょうか?」
「あれは不器用でなぁ。故に我が駆り出される。」
「ふふふ。」
「ん?」
「とても仲がよろしいのですね」
「そう見えるか?」
「ええ」
「で、如何か?」
「半兵衛様には石田様が食すまで。華美な調度や支度は入りませぬと。一時的な下女と御思いくださるのなら。それに時折墓前を参らせてくれるのなら参りましょうとお伝えください。」
「あいわかった。では荷を纏められよ。直ぐに経つ故」
「直ぐですか?」
「早う帰って見張らぬとなぁ。我も大変…ん?これは?」
「以前御ばば様が亡くなる前に届けてくださったものです。風呂敷をお返ししたくとも何を中に入れようかと思案しているうちに…御恥ずかしい話です」
「あれはぬしへか」
「?」
「滋養に良いものと聞かれて我が用意立てたものよ。」
「貴方様が…。お話には聞いておりました。ではますますもって断れません。」
「誠義理堅い」










大阪城に着くなり半兵衛様に出迎えられて私は驚く。現金な方だことと思いながら一礼する。一応、大谷様と一緒に件の話をしたものの聞いておられるか否か…きっと後者だろうと思いながら裏口の場所を尋ねる。
にしても。簡素な割には掃除が行き届いていない。どういうことかしらと思いながら周りを見ると侍女どころか下女の姿が見えず驚いてしまう。




「驚いたかい?」
「お食事などどうなさっているのですか?」
「色々だよ。」
「…半兵衛様」
「僕たちの分まで作ってくれると助かるよ」
「繕い物と雑務もですね。」
「さすが小姫」
「矢の催促の理由がわかりました。以前おられた下女の方々は?」
「暇を出したんだ。あまりにもひどくて。其れでも徒士の方にはいるけどね」
「そうですか」
「うん。」
「私、お墓前りに行く時間ありますか?」
「んー?どうだろう」
「はぁ。童の折から思いましたが人使いの荒い。」
「6つの時分で家政を覚える才女だからね。仕方ないさ」
「大谷様」
「ん?」
「御恨みいたしますわ」
「ひひひ。総ては賢人のせい。我は知らぬ。しらぬ」
「…事情が事情ですから頑張ります。」
「ひひひ」







半兵衛様と大谷様を見送って荒廃した台所を見る。挨拶はいいとのこと。どうにかしろということだろう。ため息をつく暇はないらしい。埃だけだからまだ良いと自分を慰めながら私は食料庫へ向かうのだった






金木犀






「失礼いたします。昼餉をお持ちいたしました」
「いらん!」
「石田様」
「今は其れどころではない!さが、れ?」
「御忙しいのでしたら後でお持ちいたしましょうか?」
「…姫、様?」
「はい」
「っ?!な、なぜ!!!」
「大谷様に聞いておられませんでしたか?え?!あの、石田様?」
「刑部!!!!」
「どうしましょうなにかさけんで…」
「三成、はいる…ちい?」
「伯父上。お久しぶりです」
「何故、此処に」
「食事と下手間がいないので…半兵衛様に」
「そうか」
「お礼を。竹中の御隠居様に聞きました。」
「いや、我こそ」
「…お体を大切にと御ばば様が」
「ん」
「…お食事お持ちいたしたいのですが。石田様がどこかに行かれて」
「そうか」
「一度下げます。伯父上はどちらに?」
「部屋に。三成のも。皆そこにいる。お前も」
「私は良いです。皆様の分お持ちいたします。」
「…」

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芍薬

「…小姫、だよね」
「あら、半兵衛様に石田様。お久しぶりでございます。」
「どどどどど!」
「?」
「どうたんだい?!その髪!!!」
「髪?ああ。竹中の御隠居様たちが哀れんで下さりまして。幾ら何でも童一人は駄目だから形だけでもと。」
「ジジイどもが!」
「半兵衛様」
「僕がどれ程!断固抗議してくる!三成君!」
「は」
「小姫の護衛を頼んだよ!」
「あっ!半兵衛様…行ってしまいました。石田様」
「はい」
「どうぞ御座りになってください。直ぐに粗茶でも」
「いえ、そのような。それに」
「ああ。ふふふ。一人になってしまいましたから。御漬物と干物にしようかと」
「お手伝いを」
「御武家様に…それに殿方にして頂いては半兵衛様に叱られてしまいます。本当に御座りになってお待ちくださいませ。」
「しかし」





そういうものだから私は茶櫃を持ってくる。私も休憩いたしますからといえば仕方なさげに座るので思わず苦笑してしまった。





「きっと帰って来れば騒がしくなりますから」
「?」
「竹中の御隠居様とお父上様。半兵衛様はよく似ていらっしゃって。ふふふ。お母様やお姉様方の顔が思い浮かびます。」
「そうですか」
「はい」




そう言うと石田様は静かにお笑いになるので私は驚く。そんな、御優しい顔をなさるとは思わなかった。慕っていらっしゃるのですねといえばコクリと頷く。




「伯父上も半兵衛様も良き御近習を」
「いえ、私は」
「これからも伯父上を宜しくお願い致します」
「そんな!私など…」
「?」
「いう、その。まだまだ若輩者ですので」
「そうなのでしょうか?私は御武家様のことは知りませんが…半兵衛様が私的なことを用立てておられる様ですので随分と信頼している方だと思っております」
「…」
「石田様?」
「いえ。」




一口お茶を含んで私は席を立つ。野菜の手間は終わったから次は畑の手入れと。ああ、その前に仏前の花を換えないと。
庭木の花を少し切る。石田様の方に視線をやるとじっと見ているだけで続けてもいいとの事なのだろう。安心して私は微笑む。




「仏花ですか?」
「はい」
「以前ここに座らせていただいた折より少し広く感じる。」
「人一人いなくなるというのはそう言う事なのでしょう。物質的より精神的虚脱を感じます」
「姫様」
「はい」
「御寂しくはありませんか?」
「え?」
「…」
「寂しくないといえば嘘になります。ただ、竹中の御隠居様たちが時折。それに村の方々も親切ですし」
「秀吉様が」
「伯父上が?」
「用心などを考えて城に上がってほしいと。何より、その」
「?」
「女一人ではやはり。良き縁談に差し障ると」
「呆れた。でも伯父上らしい」
「…」
「用心も何も。大丈夫ですよ。童の相手をするものも…ああそういえば髪をあげましたね。それを加味しても。私に言い寄る物好きはいませんよ。寂しさも用心も竹中のご隠居様がよくしてくださいますし。…石田様?」
「いえ。なんでもありません。」
「なら、いいのですが…御ばば様。御好きなお花ですよ。石田様は御武家様なのでしょ?」
「え?」
「言い方が駄目でしたね。お家柄が」
「はい」
「私の父は農民です。」
「は?」
「伯父上たちはよく怒っていましたが、母が兄たちを産み、御じじ様や御ばば様が共に暮らしておりましたから、段々とお許し頂いたのです。ですからここは元々竹中家の土地。今はそれを私に貸してくださっているのです。短い時間なのかもしれませんが私が生まれて成長した大切な思い出はここにあります。ここに生きて一人で居るのも誰かに夜這われて子を成し育てるのも定めと思っております」
「姫様」
「ですから。お気持ちはありがたいのですが大阪には参らないと。もに何かありましてももう死んだものと御思いくださいとお伝えください。私はここからはなれたくはないのですから」





そう言って私は笑う。一人になって気が遠くなる様な短い間に考えた結論だ。なのに何故か石田様は辛い様な苦しい様な顔をされる。 のだった










芍薬








夜半過ぎに帰ってこられた半兵衛様は些かぼろぼろで。久方ぶりの親子ゲンカの凄さを物語っていた




「帰るよ!三成君」
「は」
「御気をつけて」
「良い?絶対つれていくからね!それまで風邪ひいちゃ駄目だよ」
「はい。半兵衛様もご自愛ください」
「うん」
「石田様も」
「姫様も」




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水蜜桃

「姫様」
「石田様?」
「此方を御ばば様に。滋養がついて良いと聞き及んでいます。」
「え?あの。」
「?」
「今日はどの様なご用件でしょうか」
「…?!」
「?」
「いえ、その。体の弱い友人に滋養のつくものを聞きまして」
「え?」
「姫様も、お顔の色が…ですので」
「其れで。わざわざ?」
「申し訳ございません。ご迷惑を返りみず」
「いえ、あ!宜しければ縁に御回りください。粗茶ですが」
「いえ!これをお渡ししたかっただけですので」
「ですが」
「失礼します」




そう言うとあっという間に走っていかれる。速い。とあっけにとられていると中から声がするのでハイハイと言いながら中に入る。御ばば様は嬉しそうに笑うけれどももう直ぐ居なくなってしまう。昨日の発作の時に医師にそう言われてしまった。もってあと2日。一緒に亡くなってもおかしくないと。




「ちい」
「この間来た御武家様が常に良いってわざわざ持ってきてくださったの。でもどうやって食べるのかしら?食べ方までわざわざ書いてくださってて。にしても…武家の人らしい字。」
「そうかい」
「後で食べましょうね。甘くて美味って書いていますから」
「なぁ、ちい?」
「何?」
「私は幸せだったよ」
「どうしたの?」
「…言いたいことを言わないと」
「御ばば様」
「ちい」
「…私も幸せでした」
「童のお前に苦労をかけたね。」
「いえ。御ばば様に私は何度も救っていただきました」
「ちい」
「?」
「私の可愛いちい」
「御ばば様?」












なんと人はあっけなく死んでしまうのだろう。苦しみしなかったのがせめてもの救いだった。
にしても伯父にも半兵衛様にも文は書いたものの音沙汰はない。御ばば様が死んで葬儀も済み100日も済んだ。武家の人たちは来ず身内としては寂しいものになってしまった。あの時は辛くて泣いてしまったものの今となっては其れで良かった気がする。行李にしまう御ばば様の遺品を見ながら最近そう思うのだ。きっと伯父たちは泣けないだろう。其れは其れで辛い話だ。私も私で泣かずにおれなかった。心ゆくまで泣かせてもらえた。そう思えば幾分気持ちが軽くなる。
父上と母上。死した兄弟。御じじ様御ばば様。その位牌の前で泣くこともなくなってきた。






「夕餉の支度をしないと。」




そうひとりごちて視線を上げると庭先に影ができたのに驚く。あの日の様に風の様に現れるのだから驚いてしまう





「姫様」
「石田様?」
「ご無事で!」
「?」
「あの日あの後大政所様の御逝去と聞きました」
「あ、はい。でも苦しまずに…何より大往生でしたから」
「…」
「石田様?」
「もう少し」
「え?」
「もう少しおそばにいれば…何かの慰めに成ったのにと。」
「…」
「すぐに出陣の触れで今日帰ってきたところです。」
「え?!」
「如何致しましたか?」
「そんな大変な時にわざわざ?怪我はありませんか???」
「大丈夫です。ですが…」
「石田様?」
「顔色が宜しくない。」
「っ」
「一人で泣いておられたのですね。」
「?!」
「私が見ても仲の良いお二人でしたから」
「っいえ。大丈夫です。ですから…その様に優しいお言葉は」
「姫様」
「泣いてしまいますから…お願いします。」
「泣いてください。私は気にいたしませんから」
「っ」
「…姫様」
「…」




両手で顔を隠して声を殺して泣いてしまう。御ばば様以外で初めての無償の優しさだったから。
すると石田様は優しく両手をとってギュッと抱きしめてくれる。ぽんぽんと頭を撫でてくれて辛かったでしょうというものだからますます泣いてしまう。








「っ!?」
「…御起きになられましたか?」
「え?!わたし…寝てしまったのですね」
「申し訳ございません。何を使えばいいのかわからず…私の羽織で」
「?!!」
「姫様?」
「すいません本当に…石田様のご迷惑に」
「いえ。」
「夕餉の…今何時でしょうか?」
「…」
「石田様?」
「私はもう暇を。これ以上ここにいては貴方様の名を。いくら前髪をお上げする前と言いましても妙齢の女性ですので」
「?」
「保護者のいない家に上がり込むのは些か。しかも夜に」
「!?」
「また参ります」
「え、あの」
「では!」








水蜜桃








「あれ?三成君。遅かったね」
「申し訳ございません。姫様がお休みしておられましたので…その」
「いやいいよ。君には一番の信を持っているから」
「…」
「御ばば様の件で落ち込んでなかったかい?」
「少し。」
「そう」
「…」
「僕も少し手が開く。秀吉は無理だろうけど。早く呼び寄せないと」
「はい」
「君には共を頼むよ」
「はい」

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