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変換なしの雑食夢

ran

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梨の花

「あ」
「あら」
「ここは大政所様のお住まいと聞いて」
「伯父上の近習の方ですね。半兵衛様も酔狂な」
「は?」
「縁に御回りください。粗茶で宜しければ」
「…」




縁に回ると少しの畑と井戸洗濯物が干されていて唖然とされただろう。以前来たお二人はこれを見てすぐに帰られたのだから。お茶を入れて縁に行くと驚いたことに近習の方は座らずに庭を見ている。いや、遠くの大阪城を




「粗茶でございます」
「あ、辱い」
「文を直ぐ書きますのでお待ちを。伯父上と半兵衛様のご厚意は嬉しいのですが…皆様にご迷惑をお掛けして心苦しい限りです」
「秀吉様の命ですから」
「ちい」
「あ、はい。」
「ちい?」
「この家の最後の娘なので。ちいと。伯父二人はご存知の通り伯父の下で働いておりましたから。父と母がここの家を継いで。もう私と御ばば様だけですけど」
「ちい」
「はい。おりますよ。お水ですか?」
「ん…ありがとう」
「良いんですよ。梨を頂いたの。召し上がりますか?」
「うんうん」
「御武家様は?」
「私は」
「あ、手紙でした」
「いや、先に大政所様に」
「申し訳ありません。直ぐに」
「本当に、構いません。お待ちいたしますので」
「…ありがとうございます」
「…いえ」




梨を剥く。半分を御ばば様に。半分を御武家様にお渡しすると大変恐縮される。御ばば様は若い子がしっかり食べなさいと笑うので仕方なくといったところだ。少しだけ待ってねと一口口に含ませると甘いと笑うので私も笑ってしまう。私は御ばば様の子の顔が好きだ。何度もなんども救われた。
ふふふと笑って筆を取る。書くことはいつも通り。だから其れほど時間はかからない。あとは乾くのを待つだけだ。



「もう少しで乾きます。」
「…はい」
「御ばば様。もう少し食べれる?」
「ちい」
「はい」
「可愛いねぇ。ちいが一番」
「ふふふ。ありがとう」
「ちいの子を見たかったけど無理の様だねぇ」
「何を言うの?私はここで御ばば様と一緒に生きるのだから。長生きしてね」
「そりゃあいい…そりゃ」
「御ばば様?」
「…」
「おやすみ遊ばされた様ですね」
「はい。」
「姫様は大丈夫ですか?」
「は?」
「お顔が」
「いえ、あ。はい。大丈夫です。文」
「え?」
「乾いた様です」
「…」
「これをお持ち下さい。お手間を取らせました」
「いえ、その」
「?」
「…失礼いたします」
「御気をつけて」
「姫様」
「あの、その呼び方は」
「…ですが」
「御武家様にその様に呼ばれると」
「石田三成です」
「え?」
「では」






梨の花








「あ、三成君」
「遅くなり、申し訳ございません」
「良いんだよ。至極私的な用事だから。どうだった?」
「色良いお返事は…お返事を預かっております」
「うん。大政所様の容態が芳しくないからか…あの年で一人で介護は無理だろうに」
「お顔の色が少し」
「そう」
「…」
「三成君?」
「はい」
「ふーん」
「?」
「まぁ良いよ。少しずつだ。何事も」

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沈丁花

「もし」
「ん?如何した童。お前の様なものが来る場所ではないぞ!」
「何より危ない。早く立ち去れ。」
「いえ、御取次を」
「取り付き?」
「父上か?なんていう名前だ」
「竹中半兵衛様を。小が来たと言えばお分かりになります」
「「は?」」





其れから城内は騒然としたらしい。まぁこんな大きな城の主人の側近の名を私みたいな子供が言うと可笑しいわねと内心思いながら御白湯を啜る。
庭は簡素だし花一つ生けていないのだから彼ららしいと思うものの表情は変えてはならない。だって襖の向こうからひしひしの視線を感じるのだから




「小姫!?」
「お久しぶりでございます。ご健勝」
「そんなことは良い!如何したの急に」
「急にではないのですが…手紙でお送りいたしましたが御読み遊ばしていませんね半兵衛様」
「う、戦に忙しくて」
「知っております。ですから伯父ではなく貴方様に御取次をお願いいたしました。伯父は?」
「ん?秀吉かい?元気にしているよ」
「…出てくる気はないのですね。…まぁ良いです。で」
「な、なんだい?」
「手紙は」
「読んでないよ」
「去る2年前。あなた方が御立ち遊ばして手紙が滞った折よりの話でございます。我が母上がお亡くなり遊ばれました。遺言はここに認めてまいりましたので。母らしい最期でございました。御ばば様は実妹の葬儀に来れぬとはと大層お怒りでしたが、菓子をお送りいたしまして詫び状を送っております。また文を御書きくださいませ。それと竹中の姉君はご出産致しまして男の子を御産みに。されど、旦那殿は外に女殿が居ましたので…私の判断で離縁いたしましたよ。あんなロクデナシ。だからやめろと言ったのです。丁度琵琶湖近くの地侍に良き縁がありましたから其方に嫁しました。今となっては良い夫婦です。あと、細々とありますが。お時間は平気でございますか」
「旭君は亡くなってしまったのかい?!」
「ええ。元々体の弱い方でしたから。風邪を貰ってそのまま。その時に下の子も。兄上は御家中に加えて頂いていますし姉も嫁いでいましたから。私だけが生き延びてしまいました。竹中の母君も息災で心配されておりました。文をあずかろうと言いましたら其れよりと薬を渡してくださいました」
「母上らしい」
「取り敢えず、それだけです。」
「もう帰るのかい?」
「ええ。」
「そう」
「御忙しい間に申し訳ございませんでした。竹中の姉上の差配に問題がなかったか気になっておりましたので。火急の用があればまた。」
「少しゆっくりしていけば良い」
「…いえ。其れでは伯父上によろしくお伝えください」





そう言って一礼して部屋を出る。顔色が良くて良かった。少しほっとする。言いたいこともたくさんあるし知らせなくてはならないこともたくさんあるけど忙しいお二人に迷惑はかけられない。
そう思いながら裏口で草鞋を履く。正門から入るのはさすがに憚られるからと言いながら杖を受け取る。不意に銀髪が目に入る。半兵衛様のふわふわした其れではなくサラサラとした美しい髪だ。驚いて見開くと彼方はの眉間にはひどいシワが寄る。慌てて目を閉じて一礼する。危ない。気の短さまで似ている様だ。
裏門を聞いてそこまで歩いていく。統制のとれた軍。





「城からの使いですよ」
「は?」


其れからひと月。前触れもなく伯父上の城から使者が来た。着物を着替えて登城する様にという偈ちは有難くはない。ただ平凡にもう長くはないだろう御ばば様を看取り畑を守って土に帰りたいと思っていた矢先の出来事なのだから






沈丁花







「ってさ。ここには来ないと。見事な字だよね。どちらにしても来年ようやく裳着の童ができる技ではないよ」
「あれの母もよく似ていた。ただ体が弱すぎたのだ」
「儚く散ってしまったらしいね。秀吉」
「何だ」
「僕はね。あの子を妹の様に思っていたよ。よく笑って愛らしい子だった。けどこの間あった時は能面のようだったよ」
「あれには己が母以外に我の家半兵衛の家と見てもらっていたからな」
「帰ってきてって、旭君が危ない時に書いてある。思わず泣きそうになったよ」
「ああ」
「此方にはあのこと年の近い者が大勢いる。ここで成人させて嫁がせたいんだ。良いかい?」
「好きにせよ」

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