忍者ブログ
変換なしの雑食夢

ran

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

秋桜

「失礼いたします」
「?」
「お食事をお持ちしてもよろしいですか?」
「ああ」
「では此処に」
「待て」
「!」
「な…」
「す、すぐに持ってきますので」
「あ、ああ」




バタバタと顔を仰ぐ。できるだけ平静を保ったものの触れられるといけない。きっと顔が真っ赤だっただろう。
食事をどうしようかと思っていたら大谷様がお勝手にいて驚く。いや、それより





「…お食事をもう一膳、お部屋にお持ちしましょうか?」
「おお、ちい殿。ちとぬしに聞きたいことがある」
「それより、そちらにおられますお武家様は?」
「(無表情になったか。よかったよかった。二人ともきっと後ろに気づいておらぬからなぁ)これは左近。三成の近習よ。」
「ちぃす。俺は左近。三成様の左腕になりたいんっすよ」
「は、はあ。」
「で稽古をつけてもらっているんっすけど。最近狂惶並みに恐ろしくて…理由?知らない???」
「狂惶?」
「いやー夢に出るくらい怖いんっすよ!何てったって狂惶の歩いた後には屍しかったー!!!!!痛いっすよ!刑部さん」
「ひひひ。ちい殿。此奴は狂言つきでな気にしりゃるな」
「…左近様」
「何っすか?」
「私にはわかりかねます。」
「そ、そうっすか。」
「大谷様ご用件は後でよろしいでしょうか?三成様にお食事をお持ちしたのちすぐにお伺いいたします」
「ひひひ。いや何すぐ済む」
「ですが…」
「(嫌ったか。良かった良かった。ちい殿の嫌いなタイプ故、案の定よ)内容はほとんど同じ故…」
「は?」
「三成に懸想した、か?」
「…は?」
「いや、三成が避けられていると嘆いておってな。如何したものかと思っていたが…そうであったのなら我とて嬉しい」
「…」
「まぁ、その顔を見ればわかる故。だが露骨に避けると三成が傷つく。あれは好意と悪意の領界を分からぬ男でな。己が言でぬしを傷つけたのではないかと珍しくなぁ…」
「う、あの。その様なことはないので。恐れ多いことですし。いえそれより。申し訳ありません」
「刑部さん混乱しちゃったっすよ」
「良い良い。向こうであれも混乱しておろう。」
「げ?!居たんっすか???」
「ひひひ。明日の稽古の前に遺言を聞こう。」
「わー!俺土下座してきます!」
「いってしまったか。ん?」
「刑部様」
「何か」
「あの、お願いいたします。もう少ししたらきっと元に戻ります故、お許し下さいとお取りなしください」
「熱病が治ると?」
「表に出ぬ様尽力します」
「にしても」
「?」
「ぬしも良い趣味をしている。今はあまり見せぬが激しく短気短慮よ?良いか?」
「ですが…あの方は私の欲しい言葉を下さいました」
「?」
「必要な子と。」
「左様か」
「下女の私が恐れ多いことは望んでおりません。ただいまは、お側に入れれば。それで」
「…」
「…あの」
「ん?」
「今叫び声が?」
「あ、ああ。気にしりゃるな。いつもの事よ」








秋桜







「…賢人」
「ん?吉継君。如何だいあの二人。恋仲になりそうかい?」
「普通ならば、な…単刀直入に聞くがちい殿は誠、太閤の血縁か?」
「そうだよ。母親の旭は、秀吉の同腹の妹だ。」
「では父親は?」
「如何いう意味だい?」
「農民の末娘ということだが…本当は誰よ、ということだ。」
「…」
「太閤の姪なれば政略の駒にもなろう。教養も品性、その容姿ですら姫としては申し分ない。のに姫として公表せぬし自身も表に出ることを厭う。美しいもの女らしい格好どれも嫌い、一介の下女として働いている。これは合点がいかぬ。太閤より、ぬしが過保護なのも。」
「やっぱり君には隠し事はできないなぁ。いいも言ってみて。見当はついているんだろう?」
「ちい殿はぬしのお子か。しかも姦通の不義理の子」
「そうだね。僕の欲と旭の欲のせいで彼女は生きづらいようだ」
「そうか。この事は?秀吉と僕の実家。そして君と彼女自身。知っているのはこの辺りかな?」
「ちい殿も」
「僕が旭を捨てた後、呪詛の様に紡いでいたそうだ。本当の夫が死んだのち目付けを含めて秀吉の里を僕の実家に移したんだよ。」
「左様か」
「聞かないの?」
「興味は薄くてなぁ。それよりいまはあの二人がうまくいくことだけ気がかりよ」
「もしそうなれば。秀吉の養子にして後継者にする予定だよ。まぁ。三成君はそのつもりだから。ちいに関してはその時の都合だね」
「都合、か」
「うん。僕が一番大切なのは秀吉だからね。」
「そこだけ相容れぬなぁ」
「当たり前だよ。」

拍手

PR

月見草

《私は此処一番の女なの。》
《貴方のお母ちゃんは寂しい人だった。あなたにもその影がある。だからと言ってあなたもそうなる必要はないよ》
《みんな愛してくれた!なのにあんたの父親は!》
《要らない子。不義理の子。私の》
《私を終いにした呪いの子》





悪夢は寝床を選ばないらしい。冷や汗と倦怠感も。何一つ変わっていない。…彼岸が近いからだろうか?母が近い気がする。お婆様なら良かったのにと頭を振ってふらりと立ち上がる。行燈に火をつけて今自分のいるところを確認する。伯父上の居城。その奥にある私室の一つ。
少し喉が痛い。水をと立ち上がり井戸へと行く。




女になど生まれたくなかったとこの夢を見るたびに思う。いや、私は生まれるべきではなかった。名もなくあまり会うことのない兄弟。頼るべき伯父上は母の狂気を知っているのだろうか。
気分がひどく悪い。吐いて仕舞えば楽だろう。女になどなりたくはなかった。だんだん女になる自分が恐ろしい。丸みのある体。要らないのに。日々大きくなっていくのみでしぼむことのない恐怖。





「おい」
「…」
「誰…ちい?」
「三成様?」
「どうしたこんな夜に。そんな処に蹲って…具合が悪いのか?」
「…怖いのです。」
「おい」
「なぜ女などに生まれてしまったのでしょう。」
「ちい?」





両手で顔を覆う。前髪を上げた。大人になった私はいつか伯父上の決めた人に嫁いで子を成すだろう。母親を知らぬ私が母になってしまう恐怖。
恐ろしい。くるしい。気持ち悪、い





「ちい?!」
「っかは…」
「落ち着け。良いか。私を見ろ。そう、ゆっくりだ。ゆっくりで良い。息を吐け。ゆっくり。次は吸え」
「みつ、なりさま?」
「怖い夢でも見たのか?」
「え?」
「落ち着け。此処は秀吉さまのお膝元。この世で一番安全などころだ。それに半兵衛様も刑部もいる。勿論、私もだ」
「…悪夢を見るのです」
「?」
「狂気に死んだ母の夢です」
「そうか」
「大人になどなりたくなかった。母のような女などには、決して!」
「待て」
「え?」
「貴方は貴方だ。大人だろうが子供だろうが。貴方は貴方の母親ではないだろう?何故そんなことを言う?」
「…」
「落ち着け。何があるのか。あったのか。私は知らんし聞かないが。貴方は初めて会った時より変わらない。」
「私は要らない子ではないですか?」
「そのように言うものがあれば斬滅してやる」
「不義理の子でも」
「不義理を果たしたのは貴方ではないだろう。そういう戯言を言うのは己に後ろめたいところがある故だ。決して貴様せいではない」
「…」
「そんなことに悩まされていたのか?」
「…はい」
「では私がそんな愚劣な讒言を否定して引導を渡してやる。貴方は私には必要な女だ。義理堅く裏切らない。それは秀吉様の御血筋だからではない。あの方はあの方だから意味がある。故に他の兄弟生い立ちには一切の興味はない。だが貴方は別だ。私は貴方そのものに賞賛すべき価値があると思っている。」
「…」
「顔色も呼吸も戻ったな。着替えて休め」
「…」
「ちい」
「う…」
「どうした?」
「いえっあの!すいませんでした。お休みなさい!」








月見草





「…」
「やれ三成よ。左近が嘆いておったぞ。日に日に稽古が戦さ場より恐ろしくなるとなぁ」
「そうか」
「やれ如何した?」
「ちいが近づいてくれない」
「ん?そういえば。なにかしたか?」
「していないはずだ…しかし」
「ひひひ。恋煩いよなぁ。」
「…」
「否定もせぬか」
「しても意味が…ちい。」
「っ?!三成様。」
「どこに行っていた?顔が赤い…まさか病か?!」
「いう、その…刑部様?!」
「そういうことか。初々」

拍手

「…」
「…」
「…」
「…」
「…ふう」
「お茶で御座います」
「すまん。」





「老夫婦?」
「熟年夫婦といわしゃれ。…最近は縁で二人で仕事をしていることが多い故。微笑ましいものよ」
「本当にね。見た目だけはお雛様とお内裏様の様だよ。戦一辺倒の彼に春が来たなんて」
「親代わりとして感無量よな」
「相手がちいなのも良いね。流石三成君。見る目がある」




針山に針を刺して背を伸ばすと三成様が見ていて思わず固まってしまう。何と、無礼なことをしてしまったのだろうと急いで謝ると少しだけ微笑まれて構わないと言ってくれるものだから居た堪れない。
三成様は書類を纏めていらっしゃって私は繕い物をする。お互いが暖かい日差しに誘われてこの妙な空間を作って早一週間。少し気を緩め過ぎていたかもしれない。気をつけないと思案しているとちい殿と声をかけられる



「はい」
「百面相になっていた」
「あ、ああ。すいません。」
「何故謝る?」
「竹中の御隠居様に」
「半兵衛様の?」
「もし万が一武家に奉公へ行くことになったら一切笑わずにいろと言われて育っていました。恐ろしい狼のような獣物に食べられてしまうからと」
「それは」
「だからお武家様には出来るだけ近づくなと。伯父上も半兵衛様ももうお武家様だから無闇に笑ってはならない。それを見た他のお武家様につて行かれるから…幼い折でしたがすごく怖く…三成様?」
「…」
「!」
「ん?」
「まさか…」
「いや?!その様なことはない!決して貴方をそんな目には」
「お武家様はやはり狼を飼われているのですか?見たことがありませんが…」
「それは、その。ああ。飼っているから。私や刑部、秀吉様、半兵衛様のみがいる時以外はその戒めを守ったほうが良い」
「わかりました。あっ」
「如何した」
「半兵衛様には内緒にしてください。もし聞かれたら御隠居様が鬼に食べられてしまうのです」
「ん…善処する」
「もう一服?」
「貰う」






緑色の茶を淹れて手渡すと再び書類に戻るかと思ったら繕い物の方に意識を向けていられたので如何しましたかと尋ねる。


「着物だが」
「はい」
「支給のものを着ないのか?」
「あんな上等なものもったいなくて」
「然し」
「私は下女ですし…本来この様に良くしていただくわけには」
「下女だろうが何だろうが私は私の好きな様にする。」
「…」
「貴方も貴方で気兼ねをしなくて良い。ただ」
「ただ?」
「…なんでもない。」
「?」
「そういえば、着物を縫うのは得意か?」
「まぁ一般的には」
「一式作ってもらいたい。」
「生地は如何致しますか?」
「下賜されたものがある。」
「わかりました。後で寸を取らせてください」
「ん」
「あら、三成様」
「なんだ?」
「桜が一輪咲いています」
「…本当だ」
「美しいですね」









「刑部さーん。老夫婦化してるっすけど良いんすか?」
「賢人と同じことを言うなぁ」
「そういや、半兵衛様は?」
「鬼となっ爺様を喰らうのよ」
「うわー。怖いっすね」



















「三成様」
「いや、そのだ」
「じっとしてくださいませ。寸が」
「…」
「少し細すぎですよ。」
「貴方が来てから少し太った。」
「…もう少し献立を考えます。」
「今ので良い」
「ですが」
「十分美味い」
「!」
「如何した?」
「い、え。」
「そうだ。街に行くぞ」
「は?」
「貴方も一つ誂えて花見に行こう」
「花見ですか?」
「ああ。」
「別に誂えずとも」
「気に入らんか?」
「…あまり女性らしい装いはすきではなくて。働きやすいこの姿が一番私らしいのです」
「そう、か。なら。そのままで良い」
「はい」
「やれ、三成よ。…これは邪魔をしたか?」
「花見へ行くぞ!」
「また急よな。」
「花が咲いてからだ。刑部貴様も来い」
「は?」
「なんだ?不服か?」
「いや、二人でまいりゃれ」
「刑部様は行かないのですかお弁当を用意いたしますから」
「ぬ…」
「行きましょう」
「行くぞ!拒否は認めない」
「…誠ぬしらは」
「「?」」
「いやなんでもない。何でも」

拍手

菖蒲

「ちい?何処だ」
「三成様?お茶ですか???」
「いや、その。で休まないのか?」
「?」
「その、だ。菓子を貰ったのでな。如何かと」
「まぁ。では大谷様もお呼びいたしましょう」
「ああ。声を掛けておく。」
「まぁ。可愛い」
「…」



そう言って嬉しそうに笑う顔には硬さがなくなっせいる。大政所様と共にいる時までとは言わぬもののそこに近しい表情になるので思わず顔が綻ぶ。



「では」
「三成ーーーー!」
「?!」
「家康か?こんなところまで何用だ!」
「今度の出兵について兵の…ん?」
「?!」
「お前の後ろに誰かいるのか?」
「見るな穢れる!」
「酷いなぁ…おっ。」
「三成様…」
「奥へ行っていろ。すぐに戻る。おい家康!ちいをその様に不躾に見るな!怯えるだろう!この筋肉達磨。」
「ちい殿か。儂は徳川家康。三成に虐められてないか?」
「貴様…」
「…はじめまして。こちらの屋敷付きの下女でついと申します。」
「つい?」
「はい。其れと三成様は良くしてくださります。」
「は?」
「では、失礼します」
「…」
「三成様。お茶をお持ちいたします」
「これな奴に茶などいらん」
「ですが」
「つい殿」
「…はい」
「良い女だ。」
「…は?」
「どうだ儂付きの侍女に。」
「っ!」
「ああ。三成の背に逃げてしまった。…三成?」
「退け、去れ、去れ、退れ、散れ、消えろ!」
「わっ!抜刀するなよ。」
「こうべを垂れるか?此処ではてれば良いがちいの眼前に貴様の首など粗忽なものを晒すのは目障りだ。さぁ選べ」
「いや、ははは。」
「家康ぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「…やれ騒がし…ちい殿危ない。こちへきりゃれ」
「わっ。大谷様」
「刑部!助けてくれ」
「何。馬に踏まれていなくならしゃれ」
「わわわっ!忠勝!」






茶櫃をもって縁先に行くと項垂れる三成様としゃくしゃくと笑う大谷様がいて苦笑する。なるほど短気とご自身で言うだけはある。そう思いながらお茶の準備をしていくと淡々としておるなぁと言われるので再び苦笑する。聞いておりましたからと言えばと静かに確実に項垂れるのでどうしたものかと思案する



「やれ落ち込むな。」
「然し」
「ちい殿は歯牙にもかけぬよ。なぁ」
「はい。驚きましたが、仲のよろしいことと」
「ひひっ」
「あれとは!仲など良くないのです」
「三成様」
「いや、その、だ。…やはり短気短慮だ」
「主らしく一番いかぬとこよな。」
「お茶を飲んで落ち着いてくださいませ。逆に言えば」
「ん?」
「私はあの様な殿方が苦手ですので助かりました」
「は?」
「苦手とな」
「はい。…可笑しいでしょうか?」
「いや、なぁ。ちい殿はどの様なとこ方が好きか?」
「え?」
「刑部!」
「なに髪上げも済んだ故いつ嫁がれても不思議はなかろ?」
「考えたこと、ありませんでした。」
「左様か」
「そう、ですね。夜の様な静かで御優しい方が良いです。」
「夜、なぁ」
「ええ。あまり騒がしいのは苦手です。ので…あ」
「如何した?」
「先程のお菓子」
「あ、ああ」
「すぐに持ってまいります。お待ちくださいませ」






「夜、なぁ」
「何だ」
「優しい」
「…」
「まぁがんばりゃれ。」
「なにを?!いや。貴様に隠しても仕方がない。が、…そうか。」
「ん?」
「家康は好かんか」
「いやも嫌よもとあるのでな」
「?!」
(本に揶揄い甲斐がある)
「三成様、大谷様?」
「?!」
「やれ美味そうな菓子よな」
「はい。…三成様?」
「いや、何でもない」






菖蒲





「やれ、ちい殿」
「はい」
「何故徳川にはついとおっしゃった?」
「願掛けです」
「?」
「もう会いませぬ様にと」
「ああ。終いか」
「はい」
「何故嫌う?あったばかりよな」
「実は一度」
「?」
「文を届けてくださったのですがついといなくなってしまって本田様は覚えておいでだったみたいですけど。…如何してもああよく言って大らかな方は」
「ひひひ。人気があるのでな」
「そうなのですか?…そうかもしれませんが私はその枠ではないだけでしょうね。…でも如何して?」
「…こちらの屋敷に越してくる」
「のでしたら私は帰ります」
「冗談よ。然し」
「?」
「三成には懐くのになぁ」
「三成様は御優しいです。今日も厭う私をお護りくださいました。」
「…ぬしと三成の相性は良いと見えるなぁ」
「いいえ、恐れ多い。近習の筆頭と下女。武家のあの方と駆け落ち紛いで農家に嫁いだ娘の子である私では身分も立場も違います。」
「いちいち気にするとは思えんが」
「だから大谷様がいらっしゃるのでしょう。」
「ぬ…」
「私は大それた事など思いも願いもしておりません。ただ、少なからず良き縁で出会えた三成様と貴方様には御健常であって欲しいのです」う「?!」
「?」
「我もか」
「はい。」
「ぬしは我を厭わぬか」
「?はい。私、三成様と貴方様が共にあるのが好きです。」
「ではなく」
「?」
「我の病よ」
「病…と言われましても。特には気になりませんが。強いて言うならば包帯の変えや洗濯をお手伝い出来ればと」
「…本に変わっておる」
「そうでしょうか?」

拍手

牡丹

「此処で暮らすのですか?」
「うん。給金もあるし。いいだろう?」
「御ばば様の家は?」
「父上と母上が面倒見てくれる。元々祖父の隠居場所だ。あんな辺鄙なところに君を独り置いておけない」
「位牌は?」
「後日父上が持ってくる。」
「…」
「ちい」
「はい」
「そんな顔をしないで。何も僕は此処に閉じ込めようと思っていないよ。買い物だってなんだって行けばいい。三成くんか吉継君を護衛につけるよ。けどね、君を狙う男どもの巣に君を置いてはいけないよ」
「…はい」
「ああ、泣かないで。ちい?」
「わかっています。母も。伯父上と半兵衛様の言うことを聞く様にと言っていました。」
「…」
「掃除の続きを」



そう言って一礼して部屋を出る。ぽろぽろと溢れる涙を拭って井戸端に着いたものの涙は止まらない。泣き虫。そう笑って桶をとる。
彼処は私の全てだった。建てつけの悪い戸。庭の梅。畑に機織り機。おくど。秋の稲。青空。御ばば様のいた部屋。欠けた碗。

全てが満たされていたのに。私の安住の地、だったのに。





「ちい様?」
「っ!」
「如何したのですか?」
「目に、ゴミが」
「少し目をつぶって」
「あの」
「…碗を」
「石田様」
「目が痛みます。」
「大丈夫ですから」
「涙で取れましたか?」
「はい」
「ちい様」
「半兵衛様に此処で働く様に言われました」
「そう、ですか」
「はい」
「残念です」
「?」
「あまりうれしくなさそうだ」
「生まれてずっと彼処で暮らしていましたから。不思議といい思い出しか思い出さなくて」
「…」
「帰りたい」
「私は」
「石田様」
「わがままを御許しください。私はいてくれて嬉しく思います」
「そう、なのですか」
「此処の下女初め侍女がいないのは私のせいなのです」
「石田様の?」
「私が短気で短慮な為。恐れてやめるのです」
「石田様は御優しいのに?」
「そうおっしゃるのは貴方様だけです。」
「そう言えば…最初に此処に来た折。怒っておいででしたね。」
「はい。貴方様がきてこの自室近くでは丸くなったと刑部が言います」
「良いことですか?」
「きっと」
「…まだ私は誰かのお役に立てるでしょうか」
「はい」
「…石田様」
「なんですか?」
「お願いがあります」
「何なりと御命じください」
「時折。本当にお手すきの時で良いのです。お墓参りに連れて行っては下さいませんか?」
「…」
「す、すいません!我儘を。忘れてください!」
「ち、違います!その」
「無理なお願いをして」
「ちい様」
「本当に」
「聞いてください。」
「石田様」
「此処に居てくださいますか」
「え?」
「…」
「怒っておられませんか?」
「怒ってなどいません。で」
「私の様なものがお役に立てるのなら」
「っ」
「い、石田様?」
「よかった…」
「は、離してくださいませ」
「?!申し訳ございません」
「あと」
「?」
「私のことはおいとかそこのとかで」
「無理です」
「なら」
「?」
「呼び捨ててください」
「は?」
「様は少し恐れ多くて」
「…ちい」
「はい。石田様」
「私も」
「?」
「下の名で構いません」
「ならば敬語もやめてくださいますか?少しでも良いですから」
「…」
「石田様?」
「善処、する。」
「ありがとうございます。三成様」












牡丹





「初々しいね」
「…」
「伯父上として心配?」
「いや、良い縁組だと思うが内心穏やかではないのはお前の方か?」
「僕には笑わないもの」
「あれは竹中のものに気兼ねをしているだけだ。また昔の様になろう」
「そうだ!秀吉。ちいの離れを作ろう。祖父のところの様に。畑を作って。」
「ああ」
「あの垣根よりこちらは僕たちに取っても彼にっても安住の地にしたいからね。」

拍手