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変換なしの雑食夢

ran

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珊瑚色

「石田様」
「何だ?」
「お酒」
「酒が如何した」
「おつぎしとうございます」
「いらん!」
「ですが」
「私は私の好きなようにする。」
「っ」
「やれ、三成。」
「こんな無駄な宴を開いたのか?この大阪城で!」
「これ。怒るな。おこる、な。これは賢人の言いつけよ」
「なに?!」
「なぁ賢人」
「半兵衛様?!」
「楽しんでいるかい?」
「見ての通りよ」
「んー。大阪一、京一の太夫を勢揃いさせたけど全然変わらないね」
「ほんにのう」
「秀吉様のご命令でなくば…半兵衛様」
「ストイックな君だからまさかとおもたけど。如何しようか。吉継君」
「さてなぁ。…ん?」
「如何したの?」
「姫は如何した?」
「姫様、だと?!まさか!このような場に?」
「いや流石に来ていないよ。」
「…では。姫様はお一人で?!」
「やれ、三成」
「まぁ。やっぱりそちらか。もうどっちでも良いよ。で、どちらにするの?」
「拒否する許可は?」
「降りるわけないでしょ?」
「…何方でも。直ぐ済ませて部屋に下がらせていただきます」
「んー…まぁ良いか。じゃあ君。三成君を頼んだよ」





向こうは騒がしいと宴の方を見る。確か、半兵衛が今日は美しい女性を呼ぶと言っていたなぁと思いながら琴を縁に持ってくる。美しい満月だ。芒も丸いお供え物もないからと、手折った梅の花と兄様に頂いた菓子を供える。彼方も騒がしいから大丈夫かしらと思案してそっと爪弾く。爪をつけずに引いたらまた、怒られるかもしれない。
美しい女性は治部の為に用意すると言っていた。褒賞という褒賞を固辞し続ける治部に一時の豪遊を。兵も疲れているからちょうど良いのだろう。飴と鞭を使う半兵衛らしい。




「どのような美しい人なのでしょうね」




きっと私のような貧相で面白みのない女とは違うのだろう。考えられぬほどの美女。垣間見たい気持ちもあるが恐れが勝る。現にみてはならないと兄上に釘を刺されたのだから。兄上は何をなさっているのだろう。優しかった兄上が人を馘いてまで手に入れたい天下はどの様なものだろう。
ここにはいたくない。何処か遠くに行きたい。誰も私を知る者がなく、気にもかけぬ様な!…そんな場所に。

嬌声が聞こえてきて宴の後が始まることに気がつく。少し顔を伏せて琴を爪弾く。その声を掻き消すように要らぬ思考が溢れないように。爪弾く音は後でお叱りになられるかも知れないけれども。こうしていないと私は私でいれなくなる。









「琴?」
「…」
「石田様?」
「姫、様」
「それにしても美しい音。…何処か、ん!」
「速やかに終わらせる。反論は許さない」
「ひっ」
「貴様を抱く愚行も何もかも秀吉様と半兵衛様の言によるものだ。声を出すな。」
「!?」
「この音を汚すことは何人たりとも許可しない」









珊瑚色








「…姫様」
「ん」
「風邪を召してしまいます」
「治部ですか?」
「はい」
「ごめんなさい。」
「?!」
「寝てしまったのね。治部が来ないと死んでいた所だわ」
「その様な!」
「ありがとう」
「恐れ多いお言葉。私はただ」
「でも良いのですか?」
「は?」
「半兵衛から聞いています。」
「…あの様な愚行。あなた様のお耳障り以外の何物でもないと」
「その様な事を言うものではありませんよ。治部」
「ですが」
「良き伴侶を早く見つけて私を安心させてください」
「…」
「兄上の支えにならん事を。切に」
「姫様」
「?」
「私は」
「豊臣の中で貴方ほど兄上に信を置かれる武将はなかなかいません。治部」
「っ」
「頬が赤い」
「は?」
「お酒を飲んで来られたのですね。今日はもうおやすみなさい」
「…姫様がお休み遊ばすまで此処でお守りを」
「大事ないですよ。其れに私は妹というだけで大層なものではありません。治部」
「そんなことありません!姫様は私のただ一人。仕えるべき女性でございます。秀吉様と姫様が御健息であられる事が私の最大の喜びなのです」
「ありがとう。ならば私の願いを聞いてください」
「…」
「今日は良くお休みなさい。貴方が私を慈しんでくださる様に私も貴方を心配しているのです。」
「その様な…?!わかりました。何かありましたら」
「ええ。お休みなさい。良い、夢を」




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胡蝶蘭

「っ…。はっ!」
「ちい?」
「い、や。やだ!助け、て」
「ちい、ちい。起きろ。」
「っ!?」
「私だ」
「三成、さ、ま?」
「ああ。水を飲むか」
「いいえ」
「どうした?」
「…」
「ちい?」
「夢ではありませんか?」
「夢の方がいいか?」
「…いいえ」
「私は嬉しい。こう貴方を抱いて寝れるのだから。嫌がると思ってだ、控えていたが。大きくなったな」
「三成様はお痩せになられました」
「私はやっとまともに寝られると喜んでいる。貴方が」
「ん」
「私横にいないと寝れない。食べたくもない」
「困った人」
「ちい」
「はい」
「恐ろしい夢を見たら私の名を呼べ。夢だろうが現だろうが必ず助けてやる」
「はい」
「やはり」
「?」
「離れて寝るからだ」
「ですが」
「こちらに来い。寒くてかなわない」
「…」
「嫌か?」
「嫌ではありませんが…」
「ちい」
「すいません」
「なら、手を出してみろ」
「?」
「手を握る分には構わないか?」
「…はい」
「これで安心だ。例え夢でも私は貴方の傍にいる。」
「…三成様」
「ん?」
「私を厭いませんか?」
「???」
「忌々しいや浅ましい女と思いませんか?あの、男に」
「言うな」
「ですが」
「いや、怒っているわけではない。わかっているということだ。わかっていることをわざわざ言って貴方が嫌な気分になるのは遺憾だからいいと言っているだけだ」
「は?」
「彼奴が、貴方によからぬ劣情を抱いていたのは気がついていた。」
「え?」
「会うたびに貴方のことを聞くからな。私でもそれくらいはわかる。何が何でも我が物にしたかったのだろう。其処には貴方の意思はない。だから私の子を孕んだ貴方を殺すかもしれない。良くて腹の子を堕しているだろうと。貴方悲しみを考えただけで腸が煮え繰り返る思いだった。だから、貴方の機転で無事にいてくれたとわかった時。どれ程嬉しかったか」
「…」
「身を守ることが貴方にとって拭いがたい恥辱だったのはわかっている。貴方を失って、奴の子を孕ませたと聞いた時。腹立たしいよりも貴方のことが気がかりだった。裏切りだと勘違いして自害されては困る。元気な姿で名を呼んでくれればあとは何でもいい。私は」
「三成様」
「貴方を尊敬している。親愛の情とともに尊敬の念を貴方に抱いている。其れはどんなことが起きようともなくなりはしない」
「私は」
「ちい」
「私、は」
「では一つだけ聞く。」
「?」
「一瞬でもあの男のことを愛したか?」
「!?」
「急に起き上がるな。…ちい?」
「三成様の馬鹿。」
「ん」
「私が、恥辱の中にあったのも。貴方の子を孕んでいたから。」
「痛い。叩くな、ちい」
「私は、尼になって、お婆様の菩提を弔うと思っていて。其れなのに。お武家様と、結婚までしたのは!」
「ちい」
「貴方を!愛していたから。」
「うん」
「他の誰でもない。貴方を愛していたからこうまでして生きているのです」
「ちい」
「其れなのに」
「すまない。意地の悪いことを言った。」
「馬鹿」
「ん。だが、今迄以上に貴方が愛しい」
「しら、ない」
「泣かないでくれ。ちい。」
「っ!」
「愛している。厭うことも嫌うこともない。」
「…」
「だから、こちらに来い。ちい。心配も憂いも恐怖も憎しみも。全て私が払拭してやる。」
「…はい」
「共に眠ろう。共に起きて共に育て、共に生きよう。」
「…はい」
「愛している」
「私も」
「ん」
「愛しています」







胡蝶蘭








「ちい」
「はい」
「産衣か?」
「はい。あと古い布を頂いたので襁褓も」
「大変だな」
「三成様との子ですから。苦にはなりません」
「そうか」
「で、其れは?」
「カゴを編もうかとな御隠居様にご指南頂いた」
「貴方様が?」
「何だ?」
「い、え」
「顔が笑っている」
「だって」
「昼餉までできる。刑部!」
「あいわかった。わかった。砂羽衣」
「はいはい。手伝いますよ」
「我らはゆるりとしようなぁ。」
「いいのですが?」
「あれは女子の皮を被ったゴリラよ。安心いたせ」
「砂羽衣!!!貴様!!!」
「いえあちらの方が」
「其れは万事合いの手よ。」
「…」
「喧嘩しりゃるな。ちい殿が困り顔よ」

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梔子

「…父上はお帰りになるかしら?そうね。貴方は心配しなくても父上が守ってくださいます」



腹を撫でるとお腹を蹴られて思わず笑う。勿論だとあの人が言っているようでおもわず笑ってしまう。
喧騒が酷い。焦げた匂いが近づく。これが真実の戦なのだろう。そう思いながら私は立ち上がる。此処には刃物がない。短刀すら危ないと言って下げられた。恭順の意を込めて過ごしていると断ち切りハサミだけは許された。貴方の着物を御支度したいと言えば早かった。今私のただ一つ。身を守るものだ。袂にそっとしまう。


「ないより、ましね。」




どちらが来たとしても私は無事で済まない気がする。だけれども




『ちい』




あの方がもし生きていてちいと呼んでくださるのならどんなお叱りでも受けよう。殺されても冷たくされてもいい。浅ましく生きてしまった科は償わなければならない。
生きておらず違うものとの戦いならばまた帰ってきてしまう。秘密が、気づかれては困る。
だから出来るだけ平素のままに。戦に怯えていなければいけない。何も知らない無垢な女のままで。




「つい」
「家康、様」
「ふふふ」
「傷だらけではないですか!?包帯を」
「いや、いい。もう長くはない。…貴方の居場所、を吐かすつもり、だろう。だが一つ…貴方に、聞きたい」
「?」
「三成が、生きていると言えば如何する」
「…」
「つい」
「…今は傷の手当を。いや、忠勝様は?」
「死んだ。全て無くなってしまった」
「?!」
「貴方を、手に入れるために。全部。」
「な、にを」
「一緒に死んでくれ。腹の子も。楽土で共に育てよう」
「う、」
「細い首だ」
「かっは」
「今楽に」
「っ!」
「ぐ!!!!!」






急いで距離をとる。手には鋏。血にまみれているそれを私は握りしめたままだ。絶望の目で見ている。それでいい。半年もの間恥辱の中でこの機会を待っていたのだから。私一人ではこの男を倒せない。だから、この時を夢にまで見ていたのたから




「遺言は?」
「…何故?」
「私が愛したのはあの方だから」
「そう、か」
「…」
「くくく。わしの」
「?」
「わしの子を宿してどこに行くつもりだ!!!」
「ふふふ」
「?」
「誰が貴方のこと言いましたか?」
「まさ、か」
「その顔が見たかった。この子を。あの方の子を守るためなら私は道化にでもなんでもなる。恥辱をうけ穢れようとも。」
「…酷い。女だ。」
「ふふふ。もう御休みなさい。」
「つ、い」
「さよなら」












血だまりの中ただ呆然と私は蹲る。終わった、のだろうか。
安らかとは言い難い顔。 業ねと呟いて庭を見る。




「ちい!!!」
「…石田様!」
「馬鹿者」
「っ」
「三成でいいと、言っただろう」
「は…い」
「ちい」
「三成、様」
「泣くな。済まない、遅くなってしまった」
「いいえ、いい、え。貴方が生きていて。私の名を呼んでくださるのなら
それで良いのです」
「…家康のとどめを刺したのか」
「はい」
「…手を出しみろ。」
「っ」
「ゆっくりで良い。」
「…」
「湯あみの支度をさせる。こんな汚れた血に染まり傷付く必要はない。」
「はい」
「子も…よく守ってくれた」
「ですが、私は」
「…」
「貴方様以外の。それもこんなっ」
「落ち着け。ゆっくりで良い。この城には用がない。秀吉様の指揮で灰燼に帰す。」
「伯父上も半兵衛様も生きておられますか?大谷様は?!」
「刑部!」
「っ」
「どのような状態がわからぬと言ってな。控えていた。」
「もう良いか?」
「大谷様…よくご無事で」
「ひひひ。猛獣を二人宥めるのは大変大変。ぬしが無事でよかった。」
「刑部が気づかなければ貴方を馘いていたかもしれんからな」
「?!」
「?」
「やれ三成」
「!私がではない!!!この男がだ!逆上してだな」
「…良いのです。そう言われのには十分なほどの事は」
「やれ違う、違う。三成は愚直というか…ぬしの子にこやつの子があると言った時。普通は腹の子を殺したのかとか言うと思いしゃるなぁなのに」
「刑部!」
「それが如何した!と言い切りよってなぁ。無事ならそれで良いと。ひひひっ。愛されておるなぁ」
「…」
「見るな。いや、そういう意味ではない…刑部」
「ひひひ。では行くかのぅ。もう一人の猛獣を止めなくては太閤が困る故」




そう言うと大谷様は私の頭を撫でる。ほろりと涙が溢れると三成様が困ったような顔をなさって私を抱き上げる。この身躯の何処にこんな力が有るのだろうか。不意にあの男の声が聞こえてくる。
見捨てるのか、と。
元より見ておりませんでしたので捨てるとは言わぬでしょう言えば恨めしそうに笑うのだった





梔子





「つい!」
「伯父上。半兵衛様。ようご無事で」
「君こそ。ああ。三成君との子も無事のようだね。」
「よく気取られず…誤魔化し切った。」
「…はい」
「何はともあれ。本当に無事で…三成君も大谷君も。ありがとう」
「もったいなきお言葉!」
「さぁ帰ろう。とは言ってもだね。」
「?」
「ここからは少し大阪が遠い。竹中の屋敷で見てもらうことになった」
「!?」
「勘違いならしゃるな。いつに無く賢人も舞い上がっておってなぁ言葉が足りぬ足りぬ。帰っても男所帯故。お産の知識の無い物ばかりでもしもがあれば一大事と最初から決まっていたのよ。今回このようなことがあってなぁ。竹中殿始め御家中が早く保護して連れて帰れと矢の催促よ。産後の肥立ちを加味しながら大阪に戻る予定。新しき棟も作って今か今かと待っておる。間引くなどと一抹も考えておらぬから安心しりゃれ」
「…三成様」
「私の子を間引くと?!そんな愚行断じて許すか!」
「何もお聞き遊ばさないのですか」
「あ、ああ!そうか。君こそお産の経験どころか女体について知らなかったね。あのね。子が出来て生まれ方は如何としても再びの出産は月日がかかるものだよ早くて3月。私の姉は半年以上かかっていたかな。だから。そのお腹の子が如何見ても三月以下の子に見えないのでね。間違いなく君と三成君の子だと言えるんだよ。」
「!」
「ひひひ。初々しい。」
「わたし、てっきり」
「本当に今まで心身ともに疲れていたと思う。実家ではないけど気心知れた場所だ。上げ膳据え膳で休みたまえ。お産もその後も大変だからね。ああ。そうだ。三成君も。お目付役は大谷君に頼もうか。砂羽衣殿にも手伝ってもらいたい。乳母は彼女が良いと前々から思っていたんだ。」
「は?」
「心配だからね。良いよね。秀吉」
「ああ」
「後の始末は僕たちに任せて。ああ。お産が始まったら言ってよ。お祖父上は言わないかもしれないからね。」
「…」
「うん!俄然やる気が出てきた!」

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黒百合

「…あら」
「如何した?」
「お腹を蹴りました」
「?!」
「ふふふ。元気で安心です」
「触ってもいいか?」
「ええ。貴方の子ですもの」
「…」
「ほら、また」
「本当だ。その、だ。」
「?」
「貴方はわしを恨んではいないのか?」
「何故です?」
「何故って」
「亡き伯父上初めて皆の菩提を弔って頂き、仇まで撃ってくださったのでしょう?感謝することがあっても恨むなんて…その上母としての悦びまで」
「つい」
「貴方こそ私の事を浅ましい女だと思っていないでしょうか?もう。私には貴方とこの子しかいないのです。御心が、逸れるのが。私は」
「ああ泣くな。泣かないでくれ。腹の子に怒られてしまう」
「家康様」
「心配しなくていい。わしが貴方を求めたんだ。」
「…本当ですか?」
「ああ」







にこりと笑って庭を見る。ふと空を見ると天に一筋。白い煙が見える。あれはと指差すと柔かな顔が一変し武者の顔になる。



「家康様?」
「っ。ああすまない。怖がらせてしまったな」
「嫌です。そんな恐ろしい顔。」
「ん。つい」
「はい?」
「何があっても此処から出るな。」
「…はい」
「忠勝」
「家康様」
「大事無いさ。すぐ終わる」
「はい」







黒松







「…久しぶりだな」
「…」




三成と呼べば狂気を孕んだ男が静かに歩いてきたと思ったら剣先が首を掠める。恐ろしく早く鋭い。この半年近く憎悪を膨らませていたのだろう。



「ちいをどこにやった!」
「今はついた。わしとよろしくやっているよ」
「愚劣な!」
「お前には悪いがな。お前が死んだとわかった瞬間、身を開いたよ。」
「もういい」
「身を守る術を持たん女子は哀れだな」
「その穢らわしい口を閉じろぉぉぉ!!!」
「わしの子を成したぞ!!!」
「なっ?!」
「やれ、三成。」
「…この場で引き裂いてやる!」




拍手

黒百合

「つい、殿?」
「は、い」
「貴方の肌を見ることなく三成はいなくなったのか…」
「いわ、ないで。」
「うつく、しい」
「早く、終わって。」
「つれないな」
「ん」
「貴方は何も心配しなくて良い此処に居れば何も恐ろしい事はない」
「は、い」




良い子だと言って私を撫でる手は無骨で傷だらけだ。あの、細い美しい手ではない。三成様と心で反芻する。ちいと私を慈しんでくれる声は聞こえない。ついと私を誑かす声が此処には満ちている。




あの日、あの人が死に豊臣が倒れたといったあの日。城内にあったのは葵の紋ただ、一つだった。そしてこの柔らかな監獄で私は人形のように生きている。この男の目的はわからない。伯父上や半兵衛様を屠ったのがこの男か否かもわからない。


ただ確かなのは生死を別しても私から三成様を奪ったのはこの男の狂気だ。



「お前を抱いて早2ヶ月。よく、孕んでくれた」
「…子を成せばお役御免でしたのに、ね」
「つれないことを言うな。ああ待ち遠しい。」
「意外と早いかもしれませんよ」
「ん?」
「母も祖母も早産だったそうですから」
「?!なら産衣の支度を急がさないとな」





私はどうなっても良い。ただ、この子だけは生み育てないといけない。私の愛したただ、一人の方の子なのだから。
どんなことがあっても産み落とさなくてはならない。誰を欺いても、誰に蔑まれても。今は生きてこの子を、この子だけを産まないとならない。



「貴方はわしを叩いたことがあったな」
「ええ。でも昔の話ですわ」
「それ、でも。わしはあの時より貴方が欲しくて欲しくてたまらなかった。」
「…」
「此処には私と忠勝しか来ない。貴方は」
「家康様?」
「わしだけのつい殿になればいい」
「っ?!」





くくくと笑うこの男は狂っている。
やけに不可視な不安は此処にあったのだろう。
そう思いながら私の腹を撫でる男をみつめるのだった










黒百合








「忠勝様?」
「…」
「食事、ですか?」
「…」
「ありがとうございます。ですが悪阻がひどくて」
「?!」
「水は飲めておりますから。ああ、そうだ。家康様は進軍ですか?」
「…」
「申し訳ありません。私のようなもののせいで貴方のような忠臣で武に長けた方を戦さ場に馳せ参じさせれないのは心苦しい限りです」
「…」
「子のことですか?まだわかりませんが落ち着くまで大人しくしておくようにと家康様の御下知です」
「…」
「少し横になっても?ご無礼をお許しください」
「…」
「正室は築山様が。私は元々農民ですから。徳川の名を貶めるわけには」
「…」
「ふふふ。あら?」
「?」
「向こうに人影が…」
「!」
「気のせいでしたね。…忠勝様」
「?」
「私はどのようなことをしてもこの子を守らなくてはなりません。大層な身分より、その事を案じているとお伝えください」
「…」



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