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変換なしの雑食夢

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落ち着かない三成 5

「いつ見ても奥方様の刺繍は美しいですね」
「ありがとう、藤川」
「いえ。今回は、何の図柄になさるのですか?」
「桃かしら」
「ああ!大姫様の所に御生れ遊ばされた姫様の産衣ですね」
「ええ。頼まれたのをこの際、ね。渡瀬殿にお願いしたら絹地と糸を用意してくださいました」
「姉様は裁縫苦手だから。ん。できた」
「お傷は痛み遊ばしませんか?」
「ええ。大丈夫よ。でも少し肩がこったからやめるわ」
「そうして下さい。」
「失礼致します」
「はい。あら、渡瀬殿」
「藤川殿。殿様と大谷様がお越しでございます」
「…見舞いで、ございますか?それとも」
「ただの見舞いでございます。奥方様の見舞いの品をいくつか選んでいるうちに…その」
「苦し言い訳ですわね」
「藤川」
「奥方様」
「そう、渡瀬殿を困らせない。ごめんなさいね、渡瀬殿。近頃過保護に磨きがかかっているの」
「奥方様!」
「…お通ししても宜しいですか?」
「ええ」





そう言うと渡瀬殿は明らさまにホッとした顔をするし藤川のご機嫌は滑降していく。ぶつぶつ言いながら脇息と打掛を持ってくる。怒ってはいけませんよと笑うと10日以上来ない人が!と怒り始めるので、旦那様が来ても喋っちゃ駄目よと告げておく。






「…」
「やれ、失礼する」
「旦那様に大谷様。このような姿で申し訳ございません。」
「やれ、それはこちらの不手際よ。申し訳ござらぬなぁ、奥方」
「いえ私が至らないせいで御座います。どうぞお許し下さいませ」
「手、を上げろ」
「ですが…」
「貴様が謝らなくてもいい」
「は、い」
「…傷は如何だ?」
「もうすっかり。良い医師をつけて頂きまして、ありがとうございます」
「当たり前だ…跡は?」
「医師は徐々に薄くなると。」
「そうか…」
「以前より渡瀬殿にはお伝えしておりましたが…お耳に入っておられますか」
「あ、その…」
「やれ、瀬。主は我に隠し事が?」
「申し訳ございません」
「大谷様。怒らないでくださいませ。私が伝えておくれとは申しておりませんでしたから…渡瀬殿も言いづらかったのだと」
「で、何だ?」
「旦那様。」
「?」
「私がこのようになったと言えども良き家柄の才息の小姓は必要で御座います。」
「な?!」
「ひひひ。主の方が柔らかいやわらかい」
「刑部!」
「文武に秀でた忠臣ほど大切にしなくてはなりませぬので。左馬は…可哀想なことをしてしまいました。」
「貴様を!!!射殺そうとした男だぞ!」
「最期に貴方様の名を呼んでおられました。…忠義の厚い方だったのでしょう。」
「?!」
「私も武家のでですから、お気になさらないでくださいませ。大谷様も」
「あいわかった」
「おい!!!」
「実際、小姓は必要よひつよう」
「ぐ…」
「あともう一つ」
「なんだ!」
「この傷は薄くなると言ってもあまりお目に入れて恥ずかしくないものではありません」
「?」
「もし御不快でしたり、諸々でご側室をお入れ遊ばされても里への気遣いは無用で御座います」
「!」
「はてさて我の姿よりマシに見えるがなぁ」
「大谷様は文武に秀で、旦那様の無二の友柄ではありませんか。私と一緒にしてはいけませぬよ。立場も何もかも違います」
「私を嫌うか!」
「嫌っておりませぬよ。…ただ」
「ただ、なんだ!」
「この世の習わしでございますから。」
「…」
「(三成がこの世の終わりのような顔を太閤以外にするとは…故の悲劇か)先のことはわからぬ故。」
「ふふふ」
「それはその時に話そうなぁ…ん?」
「ああ、それは」
「藤川」
「っ」
「ひひひ。今日は小鳥が囀らぬ理由は奥方のせいか」
「…」
「刺繍?桃?」
「ええ。姉様のお姫様に縫っている産衣です」
「?!」
「…産衣か?それは、すまぬ」
「?」
「我が触ってはならぬな」
「ふふふ」
「???」
「もし赤子が出来たら抱かぬつもりなのですか?」
「は?…赤子???」
「奥方様!?」
「今、ではなくていつかですよ」
「奥…」
「旦那様?」
「すまない」
「???」
「三成」
「私たちの子は、死んだ」
「…は?」
「あの折の怪我のせいで」
「私は、」
「知らなくても仕方がないと。医師にもそう」
「…」
「すまない、私は」
「旦那様」
「…」
「お気になさらないでくださいませ」
「?!」
「気が付かず、気を配れなかった私が悪いのですから」
「何を言っている?」
「本当に、ご迷惑をおかけ致しました。」
「あ、頭を上げろ!私のせいで!貴様も…子、も」
「…」
「頭を上げろ!上げろと言っている!!!奥」
「三成…」
「っ!」
「やれ小鳥。奥方を頼みゃるな」







落ち着けない三成 5








「では、お願いね。」
「はい」
「気をつけて」




そう言って私は一礼をして胸に抱いた荷物に力を込める。
あの後、奥方様は泣かずに「どこに埋められてしまったのかしらね」と仰った。この方が、無類の子供好きでいつか母親になったら沢山一緒に過ごしたいと言っていたのを知っている私が泣いてしまった。
埋められた場所は近くの寺社であること聞いて、代参するのだ。




「で、なんであんたがいるの!」
「いやー」
「大谷様に頼まれた?!私が間者するって!?」
「いやーそうのような。違うような」
「だからあんたたちなんて嫌いよ」
「えー?!」
「…どうせこの荷物の中知るまで帰れないのでしょ?」
「そーなんだよね。見せて?」
「…ついてきて」



寺に着くと場違いな男がいて。やっぱりここの家が嫌いだと思った。スタスタと付いてくる左近様を無視して私は御坊の元へ行く。



「藤川様…おや?島様まで。代参でございますか?」
「私は。こっちは間者です」
「ま?!言わないでよ!」
「間者…?よくわかりませんが。どうぞこちらへ」
「???」
「ここでお眠り遊ばしております。荷物は…供養して炊き上げますが宜しいですか?」
「主人にも御坊様の言う通りにときつくことっかっております。」
「荷物???供養?????お炊き上げ??????」
「ご覧になりますか?」
「産衣?おもちゃ???」
「あの世で寂しくないようにと。奥方様が用意されたものです。知っていたら一緒に埋めましたが…」
「致し方ありません。…確かにお預かり致しました」
「…泣かなかったから薄情だと思った?これ幸いに密告できると思った???」
「ごめっ!」
「奥方様は子供が大好きな方なの!妹君をそれは大切にしていらっしゃったのよ!いつか自分のこが出来たらって…」
「本当にごめん!」
「その赤子を奪って!その上傷つけて…何がしたいの!!!あの方はね!泣かないんじゃないの!泣けないの!!!」
「は…え?!」
「大好きなお母上をなくして喪も開けぬ前に!!!お父上様が…そのお母上を忘れて後妻を入れた時から。それまではよく笑って泣いておられたのよ!!!散々に泣いて、この世の慣わしねと言った以来泣かなくなってしまわれたのよ!」
「そ…なの?」
「男なんて、女を都合のいい置物程度にしか思ってないのよ!だから」
「藤川ちゃん!」
「私は男なんて…姫様を泣かせる奴なんて大嫌いよ!!!」

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落ち着かない三成 4

あれから数日。
怪我な痛いものの、命には別状はないらしい。思いの外怪我が浅かったのは藤川のお陰だと医師が言っていた。咄嗟に出した手で威力が削がれたという事らしい。それが無ければ死んでいたという事。本当に感謝しても感謝しきれない。
意外と言えば意外なのが島様で怪我をした藤川を懇ろに看病しているらしい。昨日より半ば無理矢理復帰した藤川曰くうざったいそうだけれども、見ている分には可愛らしいのでそう伝えておく。その時の嫌そうな顔が忘れられない




「奥方様」
「はい。渡瀬殿なのね。今日は。何ですか?」
「包帯をかえます」
「はい」
「…」
「藤川は?島様のいう事を聞いていますか?」
「…島様も頑張っておいでです」
「そう。気の付く女子だけども気の強い子だから」
「はぁ」
「私がぼぅっとしているからいつも盾になってくれるの。本当は優しい子なのですよ。渡瀬殿も嫌わず仲良くしてやってね」
「え?!あ…はい」
「それにしても」
「それにしても?」
「旦那様と刑部様が来ないわね」
「?!」
「ふふふ。」
「奥方様」
「貴方は刑部様の妹君と聞き及びましたが、とても可愛らしいかたね」
「!?」
「いえ、ね。特に何もないのよ。ご迷惑をおかけして逆にお詫びしたいくらい」
「そ、うですか」
「…」
「…な、何か?」
「貴方は私の侍女ではないし、里との密通を疑う方々の間者を兼ねている事は知っています。ただ、」
「ただ?」
「隠し事をするのなら、気づかれないようにしてほしいわね」
「え?!あ、あの!隠し事なんて!」
「…いいのですよ。きっと旦那様たちも私の耳に入れたくない事も沢山おありでしょうから」
「そのような事は」
「渡瀬殿」
「は、はい!」
「包帯、終わっているわ。」
「っ!」
「ご苦労様でした」
「奥方様!…い、え。失礼致します」





嫁ぐというのは敵陣に乗り込むようなものだと兄たちは言っていた。そのつもりで励めと。もし裏切れば死罪になってもおかしくはない。今まで、姉達が嫁いだ先は武家と言っても日頃は気の優しい義兄様達だったのにと思ったものの仕方がない。豊臣の縁がどれほど重要なものか、女子供でも分かる。年頃の合うのは前正室の子である兄達と同腹の私か、継室の異腹の妹等か。私が嫌と言えば妹達が今の私のようになっていたのだろう。怯えて色を無くしたこの子達だ。きっと涙に濡れて泣いて使える事ができないだろうし、何より。いらぬ疑惑を生むかもしれないただろう。何より次期当主の兄達と同腹の姉妹の方がより良いはずだと私が自ら願い出たのだから悔いも後悔もない。
私は。私という者は母が死んだのち49日の済んだすぐに継室が決まった時、死ぬほど泣いた。そして道化でもいい、泣かずに過ごそうと思って今日に至る。だから泣かないだろうし、逆に粛々と対応出来るはずだ。

でもふと思う。母の死んだ折。そのあと病のたびに。何より、今強く思うのだ。あの時、死ねれば楽だったかもしれない、と。







「…様」
「…」
「奥方様!」
「え?!ああ。ごめんなさい」
「傷が痛むのですか?」
「藤川?貴方休むと約束したでしょう?」
「奥方様の側にいるのが藤川の役目でございます」
「そう」
「それに」
「ん?」
「何やら私どもの耳に入れたくない事が有るようです。居心地は悪いし、うざったい!」
「うちに仕掛けるのかもしれないわね」
「奥方様!」
「冗談よ。父も兄も心酔しているもの。太閤殿下を」
「そうで、ございますよね」
「藤川」
「はい」
「手を握っていて」
「奥方様?」
「隠し事も陰口も…どうでもいいの。そんなことで乱れたりしないわ。でも、」
「?」
「少し、疲れたわ」
「お休みくださいませ。この藤川。ずっとお側にいますから」






落ち着かない三成 4






「行かぬのか」
「…」
「…言えぬのか」
「?!」
「…」
「…」
「そのような顔をするのだな、ぬしも」
「黙れ、刑部」
「ひひひ。主とて辛いのになぁ」
「…私のせいだ」
「あの小姓のせいよ」
「それでも、だ」
「不幸、よな」
「…」
「なれば、手放しゃれ」
「…」
「それも無理か」
「私は」
「どうしたいとわからぬほど愚図ではあるまいに」
「時間を戻したい」
「三成」
「奥…」

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落ち着かない三成 3

「あ、左近殿」
「チョリース!藤川ちゃん!いつも早いねー」
「…」
「すんません!」
「貴方は殿様の腹心と聞いてますが…なんていうか、こう」
「?」
「浮いてますね!」
「良い笑顔で抉ってきたね!本当に本当!三成様の事なら公私にわたって知ってるって!」
「真逆…!」
「?」
「貴方も小姓?!」
「ちがうー!!!!!!!」
「違うのですか?」
「違います!小姓は左馬だけだし、あいつもういないから深い仲のはいないよ。」
「知ってますけど」
「ぐ…」
「最近来た私でもわかる程度の情報で…威張るだなんて」
「あー!知ってるよ!!!あんたの知らない三成様!」
「へー!」
「…信じてな良いでしょ?」
「なら好きなものは?」
「秀吉様!」
「…そんな事誰でも知ってますよ」
「そっそーすね」
「本当に…」
「好きなほにゃららみたいに聞いてよ!」
「好きな食べ物」
「甘い物」
「意外ですね。好きな飲み物」
「お茶!」
「へー」
「好きな異性」
「巨乳の童顔」
「そうなんですか?!」
「そうっすよ!いっつも夜見世ではそう言う太夫を買ってますもん!」
「本当に…?」
「信じてないでしょ?!三成様も男なんっすから!きつい顔立ちや高飛車で無愛想な女よりかわいいほうが良いでしょ!巨乳で」
「其れでは私とは正反対ですね」
「奥方様と?そりゃ…って!えー!!!!!」
「おはようございます」
「い、いつから!?」
「私が奥方様の側から離れるとお思いですか?」
「ふ、藤川ちゃん!?」
「私は平々凡々で好みとは程遠いのですから旦那様もお嫌でしょうね。」
「ち、ちがいますって!」
「そんなに慌てなくとも。私は家同士の繋がり。いわば人質のようなものですから」
「いや、そうじゃないっす!」
「嘘を言ったのですか?」
「嘘…でもなくて」
「良いのですよ左近ど」
「女狐!!!!!!覚悟!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「?!」」






ドスッというと音が聞こえる。ふと、視線を下ろすと胸に矢が刺さっている。こみ上げるのはきっと血の味だろう。
視線を上げると左馬が居る。






「奥方様?!っ!左馬!!お前!!!!!」
「この女さえ来なければ!私は!!!!!」
「奥方様?!嫌!嫌です!!!」
「お、ふじ」
「タダで済むと思ってないよな!」
「そんなの!…三成様!!!」
「あっ!マジかよ!自決しやがった!!!」
「だ、れか!!!!奥方様を助けて!!!いや、です!ふじを置いていかないでください!!!!!」
「なき…むしね」
「っ!誰か!!!急いで医師を!!!!!其れと三成様と刑部さんにすぐ!!!」
「そら、が。くらい、わ」
「っ?!!!だ、め!!!寝てはいけません!!!起きて!!!目を開けて!!!」
「やれ!何…どういう事よ!!!」
「刑部さん!左馬が!!!」
「ぬぅ…医師は!!!!!」
「今ここに!!!!!なんていう事だ!」
「お、お願いです!私の血肉なんでも差し上げます!その代わり!奥方様を助けて!!!」
「藤川ちゃん!邪魔になるから!怪我してるじゃん!藤川ちゃんも早く治療を」
「お、く?」
「やれ三成」
「どういう…左馬?!なぜ、あれが?」
「ぬしに捨てられた恨みよの」
「な…」
「貴方の、せいだ!」
「藤川ちゃん!!!」
「やれ、落ち着きゃれ」
「貴方が、小姓を下手に捨てたから!!!奥方様に危害を加える輩を!!!人質としてここにあるだけなのにと!奥方様の憂いばかりを無用に増やして!!!」
「またしゃれ!」
「貴方が!奥方様から自由も笑みも何もかも奪ったんだ!其れに飽き足らず!!!命まで!!!貴方が!」
「藤川殿!!!!!!!」
「奥方様を殺したようなものだ!!!」









落ち着かない三成 3











「あの時咄嗟に藤川殿が手を出したお掛けで今の所一命は取り留めました。藤川殿も指を一本無くされましたが命に別状はありません」
「そう、か」
「しかし…」
「?」
「大量に出血された為まだ予断は許せない状態です。それ、と」
「何だ。言いにくい事か?」
「ご本人様もお気づきではありませんでしたが…この騒ぎのせいで流産遊ばしておいでです」
「?!」
「なん、と」
「意識が戻りましたら峠は越えたとお思いください。暫くはゆっくりと」
「あい、わかった。下がれ」
「は!」
「行ったか…三成」
「…」
「しっかりいたせ。」
「あの、女の言う通りだ」
「?」
「私は…なんて事、を」

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落ち着かない三成 2

完璧な目覚めと準備、天気。さぁ、佐和山に行こう!と経とうとしたその瞬間、旦那様の上司にあたる竹中様が「三成君と吉継君に頼まれて許可を出せなくなったんだ。君たちは佐和山ではなくて石田の屋敷に留め置くことになったよ。…え?!名前だしてはいけなかったの???…ん!僕の命令だよ!」と言って中止になった。…中止になったのだ。






「姫様」
「今は奥方よ」
「ああ、そうでした。後朝の文も頂けぬ奥方様で御座いましたね」
「草子の中の話を持ってこない。…何がしたいのかわからない方だわ」
「私自体、乳兄弟といえどもあなた様がいまいちわかりませんもの。…以前に見てしまった小姓との情事も顔色ひとつ変えなかったでしょ?宜しいので御座いますか?」
「???」
「殿様の御寵愛を」
「頂きたくて頂けるものではないし、あなたは男兄弟いないから見たことないかもしれないけど、兄様達も普通にしてましたよ。」
「は?」
「戦仕度が始まれば女なんて要らないものだし。産んで育ててならば側室で足りるわ。大体、家と家との結びつきの正室なんてこんなものよ。母上もそうでしたし」
「達観、しておいでですね」
「あーあ。息をして此処で死ぬのかしら?まるで金魚ね。金魚の方が美しい分マシな所かしら?」
「奥方様も十分お美しいですよ」
「ははは」
「…本当ですよ?もっとご自分に自信を持って下さいませ」
「自信、ね」
「何かなさいませんか?」
「とは言っても嫁入りの反物も全て縫い上げてしまったし、草子も読んだわ。庭も見た。義父上様達の文ももう書いてしまったし、何をするの?」
「琴などは?」
「嫁いだ早々に琴を弾いて怒られ、笛を奏でて叱られたでしょ?五月蝿いものは駄目よ。賄方は立ち入り禁止だし」
「本当に…」
「だから寝ます」
「体に悪いですよ」
「やる事ないもの」
「殿様に文でもお書き遊ばしたら?」
「其れも書いて怒られたでしょ着物も手紙もその場で破られたじゃない。」
「…」
「何故、私は此処にいるのかしらねぇ。」
「お家の為で」
「そうよ。家の為。早く子供ができれば良いのに」
「奥方様」
「そうすれば少しは解放されるのにね」
「…」
「?」
「逆にひどくなる様な」
「あー…否定できない」






そう言って私は庭を見る。咲いている花もない殺風景な庭。高い壁。少し広い座敷牢ねと言えばなんとも言えない顔をされる。





「寝るわ」
「はい」
「何かやる事がないか…大谷様に聞いてみて」
「何もないそうです」
「益々寝るわ」
「失礼致します」
「なんですか?」
「大谷様がお目通りをと」
「奥方様はもうお休みと申しなさい」
「ですが…」
「何か?!」
「い、いえ。昼餉をとおっしゃっておいでで…」
「奥方様?」
「え…と」
「寝ておいでです」
「え?」
「寝ておいでです!」
「…」
「そうお伝えください。昼餉は要りません」
「は、はい!」









「ちと、やり過ぎたなぁ。怒っておいでか?」
「あちらは皆様ご立腹の様子で御座います。」
「はてさて。賢人も我らの名を出すとはなぁ。困った、こまった」
「にしても。殿様、本当に宜しいので御座いますか?」
「何がだ!」
「女と言うものあの様にされると頑なになりまする。祝言を挙げた後もお相手なさらなかったのに、行く場所を規制して行う事を禁止すれば御心を乱す事は必定」
「っち!」
「一事が万事その様では御心を開いては下さいませぬ!奥方様の家は名門中の名門!何より太閤殿下も竹中様もお望みの相手!とっとと子を成しなされ!」
「刑部!貴様の姉だろう!!!黙らせよ!」
「姉上に意見するなど無理よ、無…ひひひ。ちとまずい」
「どうしましたか?」
「姉上、彼方」
「見なくてよろしゅうございます」
「「?!」」
「やれ、奥方。」
「大谷様」
「主は本に間の悪い」
「間も何も御座いませんよ。」
「?」
「私は左馬の様に武に秀でた美男子でも無ければ、美しい才女でもありません。」
「…何故左馬を?」
「天性でしょうね。私の間の悪さは」
「お、おい」
「色々お伝えしたかった事を思い出して起き出したのですがご迷惑をおかけ致しました。其れでは」
「ま、待て!」
「?」
「やれ、三成?」
「ひ、昼餉を食べていけ!」
「…」
「…な、なんだ?」
「外で左馬が待っておいででしたよ。」
「は?」
「昼餉を共に食べる約束をしたと。可愛らしい事です」
「?!」
「私は朝食べ過ぎましたのでご遠慮いたします。其れでは」
「ま、おい!」
「…また取次がやりにくくなる」
「左馬と約束などしておったのか?はてさて」
「他家に行く前に最後と思っただけだ。」
「忘れておったのに偉そうに申すな!」
「…はぁ。正室には嫌がらせをして小姓を可愛がる夫なんて結婚したくないわね。」
「ぐ…」
「ひひひ。女子に惑わされるとはなぁ」
「なっ?!あんな女!!!」
「…奥方様より預かった手紙です」
「「?!」」
「ぬ…」
「藤川殿?!いつの間に」
「先程からおりましたよ、渡瀬殿。」
「聞いて」
「おりましたが、何か?」
「い、いえ」
「佐和山に居られる大殿様宛の文です。確かにお渡しいたしましたよ」
「た、確かに」
「あ、そうです」
「何かありますか?!」
「奥方様も外に居られますよ」
「「「?!」」」
「其れでは失礼致します」












落ち着かない三成 2








「琴などは奏でても良い。従者を出すため事前に言っておけば城内の一部は言っても良い…とありますね」
「良いわ。遠慮しておく」
「そうですね」
「昨日の夜お渡りの時に言えば良いのに」
「来てすぐに抱いてそのまま帰るなんて…!!!」
「私よりあなたの方が怒っているわね」
「当たり前です!下女ではないのですよ!」
「怒っていても仕方がないわ。下げて頂戴」
「また召し上がらないのですか?」
「欲しくないのよ。仕方がないわ。」
「汁物だけでも」
「そうね」
「奥方様?」
「何?」
「何処かお悪いのですか?真逆!」
「月の物は在るのよ。何処も悪くはないわ」
「顔色も」
「大丈夫よ。平気平気」
「なら、良いのですが」

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落ち着かない三成 1

「左馬とは懇ろのご様子ですね」
「…は?」
「?」
「何故、」
「以前より知っておりましたが…」
「?!」





美しい小姓と懇ろなのですねと言えば殿様の目がまん丸に見開かれるので、逆に驚いてしまう。冷静な方だからまさかこんなに狼狽されるとは思いもしなかった。別におかしい事は言っていない。男色は普通だし、高貴だとも言われているわけだ。女の私から見ても、左馬は美しいし文武両道だ。旦那様の若衆にするのに何の不服もない。逆に私は綺麗でも美しいわけでもない。家と家との繋がりで父上と旦那様の上司である竹中様との話し合いで決まっただけだ。その程度の間柄だから寵愛されている訳でもなく、1日一度程度。何らかの形でお会いしているだけなのだ。





「席を、外す」
「え?ああ。はい」
「…」
「?」
「失礼する」




地雷を踏んだのかもしれない。そう思いつつも冷めていく朝食をじっと見つめる。如何すれば良いのかしら。まぁ、此処は旦那様の私室だし。明日には私は佐和山の城下屋敷に帰るわけだし。少し、大阪の街でも見て回り義父上様や義兄上様。皆のお土産でも買ってこようかしらと腰を上げる。




「奥方様?」
「少し、大阪の町を見て回りたいわ」
「それは…」
「いけない事なのかしら?」
「殿様の御許可を頂いておりませんから」
「そう…では私は此処で控えておけば良いのかしら?」
「い、いえ!その様な事はありません!!!」
「大阪城も勝手に歩けませんし。…歩いて良いところはこの二ヶ月で行き尽くしました。」
「そ、そうで御座いましたね。殿様は大変御忙しい方ですから…奥方様の御相手は中々難しいのです。」
「?」
「女人だけで歩ける場所は限られておりますし…えっと。草子!草子でも御読み遊ばされたら如何でしょうか」
「はぁ…」
「誰かあるか!奥方様は大変御暇にされてある。草子を持って参り…奥方様?!如何致しましたか?」
「やはり部屋で休みます。お休みなさい」
「え?!あの!しかし」




もう面倒臭い。面倒くさすぎて席を立つと今回の滞在で使わさせて頂いている部屋に帰ろうとする。この道中で旦那様と左馬の関係を知ったわけだけれども。まぁ忘れた頃にやってきては私を抱いてそのまま居なくなる殿様だからいつかは側室を置かれるのだろうなぁとは思っていたからあまり悲しくはない。そんなものだと思いながら休む支度をしよう。明日はかなり歩かなければならないし、逆に都合が良いわ。




「寝、るのですか?先ほど起きたばかりですよ」
「良いでしょう?明日はかなり歩かなければならないし」
「そうでございますが…殿様と御過ごし遊ばなくて良いのですか?これからは中々お会いできませんよ」
「あの方は大変御忙しい方ですから。」
「そうだとしても…」
「私などに時間を割いていただく事は出来ません。あなた達も少しお休みなさい。明日はかなり歩かなければいけませんよ」
「…わかりました。」




小袖を脱いで手渡すと渋々ながら受け取ってくれる。皆様にと言って書いておいた文を渡して私が出て行った後お渡ししてねと言いながら布団へ入っていく。
眠たくは、ないのだ。ただ、読み続けた草子も見続けた庭もこの部屋も煩わしくていけない。瞳を閉じて寝たふりをする。がやがやと聞こえる人の動きが耳にたつ。一層のこと耳栓でもすれば良かった。







落ち着かない三成









結局寝てしまったらしい。夜に目を覚まして失敗したなと嘆いてみる。仕方がない。寝直すかと瞳を閉じると外から声が聞こえる。




「やれ、寝ておられるのか?」
「ええ」
「嘘、ではないな」
「先ほどは確かに」
「左様か…」
「っち!」
「やれ三成」
「何もしない女が何故早々に寝るのだ!」
「口が過ぎよう。落ち着きゃれ」
「明日、佐和山に立ちます故」
「昼間も寝ていた!まさか」
「お身体は元気であられます」
「少し日延べをしたら如何か?この様に寝続けらるるのもちとおかしい」
「ですが…」
「そ、そうだ!何日か先延ばしにして医師に診てもらえ!も、し何かあれば」
「何か、でございますが?」
「病を得ていれば困る!」
「ひひひ、病を得ても郷に返せぬかえせぬ」
「なっ!」
「それは…どういう意味で御座いましょうか?奥方様ではお気に召されないと」
「はてさて…それは」
「私は元気でございますよ」
「「?!!???!?!?」」
「申し訳ございません。おやすみ中でございましたのに」
「いいえ。良いのですよ。」
「お、奥」
「明日佐和山に立ちます」
「あ、だが」
「出立は早う御座いますから、今此処でご挨拶させていただきます」
「日延べをしたら」
「御息災であられます様。彼方では義父上様と義兄上様の言うことをよく聞いて仕えます故。ではお休みなさい」
「?!まっ…おい!行ってしまった!!!」
「我に言うな我に。」
「っち!」
「中々もってなかなかよの」

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