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変換なしの雑食夢

ran

落ち着かない三成 5

「いつ見ても奥方様の刺繍は美しいですね」
「ありがとう、藤川」
「いえ。今回は、何の図柄になさるのですか?」
「桃かしら」
「ああ!大姫様の所に御生れ遊ばされた姫様の産衣ですね」
「ええ。頼まれたのをこの際、ね。渡瀬殿にお願いしたら絹地と糸を用意してくださいました」
「姉様は裁縫苦手だから。ん。できた」
「お傷は痛み遊ばしませんか?」
「ええ。大丈夫よ。でも少し肩がこったからやめるわ」
「そうして下さい。」
「失礼致します」
「はい。あら、渡瀬殿」
「藤川殿。殿様と大谷様がお越しでございます」
「…見舞いで、ございますか?それとも」
「ただの見舞いでございます。奥方様の見舞いの品をいくつか選んでいるうちに…その」
「苦し言い訳ですわね」
「藤川」
「奥方様」
「そう、渡瀬殿を困らせない。ごめんなさいね、渡瀬殿。近頃過保護に磨きがかかっているの」
「奥方様!」
「…お通ししても宜しいですか?」
「ええ」





そう言うと渡瀬殿は明らさまにホッとした顔をするし藤川のご機嫌は滑降していく。ぶつぶつ言いながら脇息と打掛を持ってくる。怒ってはいけませんよと笑うと10日以上来ない人が!と怒り始めるので、旦那様が来ても喋っちゃ駄目よと告げておく。






「…」
「やれ、失礼する」
「旦那様に大谷様。このような姿で申し訳ございません。」
「やれ、それはこちらの不手際よ。申し訳ござらぬなぁ、奥方」
「いえ私が至らないせいで御座います。どうぞお許し下さいませ」
「手、を上げろ」
「ですが…」
「貴様が謝らなくてもいい」
「は、い」
「…傷は如何だ?」
「もうすっかり。良い医師をつけて頂きまして、ありがとうございます」
「当たり前だ…跡は?」
「医師は徐々に薄くなると。」
「そうか…」
「以前より渡瀬殿にはお伝えしておりましたが…お耳に入っておられますか」
「あ、その…」
「やれ、瀬。主は我に隠し事が?」
「申し訳ございません」
「大谷様。怒らないでくださいませ。私が伝えておくれとは申しておりませんでしたから…渡瀬殿も言いづらかったのだと」
「で、何だ?」
「旦那様。」
「?」
「私がこのようになったと言えども良き家柄の才息の小姓は必要で御座います。」
「な?!」
「ひひひ。主の方が柔らかいやわらかい」
「刑部!」
「文武に秀でた忠臣ほど大切にしなくてはなりませぬので。左馬は…可哀想なことをしてしまいました。」
「貴様を!!!射殺そうとした男だぞ!」
「最期に貴方様の名を呼んでおられました。…忠義の厚い方だったのでしょう。」
「?!」
「私も武家のでですから、お気になさらないでくださいませ。大谷様も」
「あいわかった」
「おい!!!」
「実際、小姓は必要よひつよう」
「ぐ…」
「あともう一つ」
「なんだ!」
「この傷は薄くなると言ってもあまりお目に入れて恥ずかしくないものではありません」
「?」
「もし御不快でしたり、諸々でご側室をお入れ遊ばされても里への気遣いは無用で御座います」
「!」
「はてさて我の姿よりマシに見えるがなぁ」
「大谷様は文武に秀で、旦那様の無二の友柄ではありませんか。私と一緒にしてはいけませぬよ。立場も何もかも違います」
「私を嫌うか!」
「嫌っておりませぬよ。…ただ」
「ただ、なんだ!」
「この世の習わしでございますから。」
「…」
「(三成がこの世の終わりのような顔を太閤以外にするとは…故の悲劇か)先のことはわからぬ故。」
「ふふふ」
「それはその時に話そうなぁ…ん?」
「ああ、それは」
「藤川」
「っ」
「ひひひ。今日は小鳥が囀らぬ理由は奥方のせいか」
「…」
「刺繍?桃?」
「ええ。姉様のお姫様に縫っている産衣です」
「?!」
「…産衣か?それは、すまぬ」
「?」
「我が触ってはならぬな」
「ふふふ」
「???」
「もし赤子が出来たら抱かぬつもりなのですか?」
「は?…赤子???」
「奥方様!?」
「今、ではなくていつかですよ」
「奥…」
「旦那様?」
「すまない」
「???」
「三成」
「私たちの子は、死んだ」
「…は?」
「あの折の怪我のせいで」
「私は、」
「知らなくても仕方がないと。医師にもそう」
「…」
「すまない、私は」
「旦那様」
「…」
「お気になさらないでくださいませ」
「?!」
「気が付かず、気を配れなかった私が悪いのですから」
「何を言っている?」
「本当に、ご迷惑をおかけ致しました。」
「あ、頭を上げろ!私のせいで!貴様も…子、も」
「…」
「頭を上げろ!上げろと言っている!!!奥」
「三成…」
「っ!」
「やれ小鳥。奥方を頼みゃるな」







落ち着けない三成 5








「では、お願いね。」
「はい」
「気をつけて」




そう言って私は一礼をして胸に抱いた荷物に力を込める。
あの後、奥方様は泣かずに「どこに埋められてしまったのかしらね」と仰った。この方が、無類の子供好きでいつか母親になったら沢山一緒に過ごしたいと言っていたのを知っている私が泣いてしまった。
埋められた場所は近くの寺社であること聞いて、代参するのだ。




「で、なんであんたがいるの!」
「いやー」
「大谷様に頼まれた?!私が間者するって!?」
「いやーそうのような。違うような」
「だからあんたたちなんて嫌いよ」
「えー?!」
「…どうせこの荷物の中知るまで帰れないのでしょ?」
「そーなんだよね。見せて?」
「…ついてきて」



寺に着くと場違いな男がいて。やっぱりここの家が嫌いだと思った。スタスタと付いてくる左近様を無視して私は御坊の元へ行く。



「藤川様…おや?島様まで。代参でございますか?」
「私は。こっちは間者です」
「ま?!言わないでよ!」
「間者…?よくわかりませんが。どうぞこちらへ」
「???」
「ここでお眠り遊ばしております。荷物は…供養して炊き上げますが宜しいですか?」
「主人にも御坊様の言う通りにときつくことっかっております。」
「荷物???供養?????お炊き上げ??????」
「ご覧になりますか?」
「産衣?おもちゃ???」
「あの世で寂しくないようにと。奥方様が用意されたものです。知っていたら一緒に埋めましたが…」
「致し方ありません。…確かにお預かり致しました」
「…泣かなかったから薄情だと思った?これ幸いに密告できると思った???」
「ごめっ!」
「奥方様は子供が大好きな方なの!妹君をそれは大切にしていらっしゃったのよ!いつか自分のこが出来たらって…」
「本当にごめん!」
「その赤子を奪って!その上傷つけて…何がしたいの!!!あの方はね!泣かないんじゃないの!泣けないの!!!」
「は…え?!」
「大好きなお母上をなくして喪も開けぬ前に!!!お父上様が…そのお母上を忘れて後妻を入れた時から。それまではよく笑って泣いておられたのよ!!!散々に泣いて、この世の慣わしねと言った以来泣かなくなってしまわれたのよ!」
「そ…なの?」
「男なんて、女を都合のいい置物程度にしか思ってないのよ!だから」
「藤川ちゃん!」
「私は男なんて…姫様を泣かせる奴なんて大嫌いよ!!!」

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