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変換なしの雑食夢

ran

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露草色

「少し疲れが出たのでしょう。薬を出しておきます。」
「ありがとうございます、先生」
「姫様も少しはお控え遊ばされませ。女子の遠出でも体が堪えますのにその上開城や同盟の交渉など…寿命を縮めてしまいます」
「私の行く場所は既に半兵衛や刑部に地ならしされた場所ですから。この間の甲斐は良き場所でしたよ。今度温泉に案内して下さるそうです」
「湯治ですか。いいかもしれませんね」
「ですが、私より兄様や半兵衛に刑部に治部。この四人の方が休んでほしいものですが…」
「皆様休息を取る方たちではありませんが」
「中国の平定を行っている最中ですからね。あ、先生」
「何ですか?」
「何日分か頂けますか?明日から四国に参ります」
「…」






ざばんと海の音が聞こえる。けれども私は船旅が会わないらしい。先生に怒られながらも薬を作っていただいたが船酔いで飲む事すらできずにいた。だらしねぇなぁと笑われてしまう。長曾我部元親その方に



「…長曾我部、様」
「良いって。初めての船旅だって聞いたからもしかしてって思ってたんだが…流石豊臣の姫でも海にはてんで弱いらしいな。可愛い嬢ちゃんだぜ。」
「たぶん陸地でもてんで弱いですよ」
「ははは!その通りだな。船着き場に来た時は何かの冗談だと思ったぜ」
「その冗談のような私に皆優しくしてくださいました。お礼申し上げます」
「いや気にすんな。如何だ?困ったことねぇか?」
「いいえ。本当に長曾我部様の軍は素晴らしいですね」
「お、わかるかい?」
「怠けている人が居ませんし、皆様は親切です。何より」
「ん?」
「船酔いすらされないみたい」
「は!ちげぇねぇな」



そう言って豪快に笑われて私の頭を撫でられる。ふふふと眼を細めるもののやはりいけない。船の揺れが厳しい。交渉の場を船上にしなくてよかったと呟けば今ならいい話し合いになりそうだと悪い顔をして笑われる。朗らかで豪快な方。そう思いながらキラキラと光る銀髪を見る



「珍しいかい?」
「?」
「銀の髪」
「いいえ。豊臣に2人いますから」
「へーそうかい」
「ええ。羨ましく思います。」
「そうか?困った事はねぇがよ。助かった事もねぇ。逆に鬼だとか言われるくらいだな」
「それは素敵な鬼がいたものですね」
「やめてくれ。男所帯だから、そういう切り返しに慣れちゃいねぇ」
「ふふふ。」
「あんた、不思議な女だな」
「単身で鬼ヶ島に来る愚かな女と?」
「いや、どっちかというといい女の部類だな」
「初めて言われました」
「いや、さな。あの能面面の毛利が危険を冒してまで奪いたかった女っていうのが気になってな。俺は四国で待つ約束だったんだがよ。きちまった」
「あら」
「竹中や大谷の野郎にいわねぇでくれたら助かる」
「言いませんよ」
「本当か?」
「ええ。先程迄弟君様がいらっしゃいまして貴方様がいるからこの船は揺れないのだと教えてくださりました。逆にこれ以上揺れるのかと戦慄しましたのよ?」
「そりゃあ、死にかけるな」
「いいえ。死んでしまいます。私が死ねば誰が悲しまなくても戦という遺恨がうまれます。それだけは避けたいのです。ふふふ。最悪の事態を回避できたお礼ですわ」
「普通、戦がしたいもんじゃねぇのか?」
「長曾我部様」
「?」
「貴方は私が鬼のように見えますか?」
「は?」
「如何ですか?」
「そりゃあ見えねぇな。あんたは親切で礼儀正しい。優しいし、うちの野郎どもにもすぐ人気者になっちまった。まぁあの豊臣の姫とはおもえねぇぐれぇにお日さんみたいなやつだと思ってるぜ」
「私も」
「は?」
「長曾我部様は皆様から深く敬愛されて慕われておいでです。他家の私にも親切にして下さるし、こうお話ししていても快い方だと。其れこそ海のような方だと思います」
「嬉しいこと言ってくれるぜ」
「ですが、もし私が恐ろしい顔をしていれば貴方様はきっとお戦い遊ばすことでしょう?」
「船酔いの女を?」
「嘘なのではないかとお疑い遊ばすはずです。」
「そりゃあなぁ。」
「私は万民が幸せであってほしいのです。勿論、一人一人を笑わすのは各々の努力によるところが大きい。何でもかんでもは出来ないのです。ただ、戦で家族を土地を全てを失うのは上の度量次第でしょう。上に立つものとしてそれだけのことは守っていきたい。私は兄様はこの国を平定できる力がおありと思っております。」
「ふーん」
「ですが、全てを焼き払った後の民のいない国に何の意味があるのでしょうか。あの方はそれが出来てしまう。全てに遺恨を残すことを厭わずに…それは何としても避けたい。私は、戦の無き世を作る兄様の思想に賛成しております。ただ、その世が来た時、一人でも多い民に安らかな状態で迎えてほしいのです」
「あんた」
「お解りください。戦いの世は哀しきものを増やすだけです。中国は豊かなまま。兵は少し編成いたしませんといけませんがよっぽどのことがない限り、命を奪う事はいたしません。民は何一つ変わらず。ところによっては歓迎していただけました。」
「そうかい」
「上が戦や何かで死んだ後、兵は安定を失います。長曾我部様」
「お、おい!座るなって。すごい顔色になって…」
「お願いでございます。我が豊臣にいらしてくださいませ。兵も民も。貴方様も。安らかな世を共に迎えましょう」
「頭上げてくれ!」
「お願い致します」
「…」
「私はこの船の方たちが好きです。だから死なせたくはない。誰一人として」
「…あんた以外とじゃじゃ馬だな」
「…」
「良いぜ。」
「!」
「但し、あんたのだ」
「は?」
「あんたの旗下なら馳せ参ずる。っていうので如何だ?」
「私は戦に出ませんよ?」
「出なくて良い。俺があんたの盾と剣になってやる」
「!」
「四国は豊臣でも太閤のものでもない。あんたのものだ。あんたが豊臣にいる間は傘下に入る。が、あんたにもしもの事があったら如何によって考える」
「ありがとうございます」
「はぁー。毛利が惚れちまうのも無理ねぇな」
「…」
「毛利の首実検したのか」
「はい」
「そうかい」
「丁重に供養させていただきます。」
「そりゃあなかなかこの世から旅立てねぇな」






露草色







「矢張り、熱が出ましたな」
「吉良、様」
「お休み中申し訳ありませんが、今長曾我部として豊臣に恭順の文を書き認めました。貴方も一筆と思ったのですが」
「書き、ます」
「おいおい!無理すんなって」
「紙と筆を…」
「はい」
「にしても別嬪な奴の字は別嬪だな」
「うふふ。お褒めいただいても何も出ませんよ」
「兄上の字は雄雄しすぎるのです」
「うるせー」
「初…」
「「!?」」
「文を。」
「御意。お言伝は」
「過労だから半兵衛のせいだと恨みごとは書きましたよ。ふふふ。衣食を長曾我部様が恙無くご用意してくださっていますのでよろしくと言っておいてください」
「は」
「…忍びか?」
「ああ。すいません。違うのです」
「忍びではない?」
「一緒に来ていた侍女です。私の生死だけ見届けて文を持って行ってくれる。この城の内情とか調べたりはいたしません」
「生死だけ…」
「本当に非力で。死地から実力で脱出など私は無理ですので…申し訳ありませんでした」
「あん?」
「お嫌でしたか?」
「そう見えるか」
「はい…ならば私の侍女をすべてお返ししてくださっても構いません」
「如何して?」
「それが今の私にできる唯一の誠意なのです」
「くくく。いいって。あんたがそういうのなら俺はあんたをじんじる。ただな」
「!」
「辛くねぇか?」
「辛くありませんよ。私は女子ですが奥に居て知らぬ殿方に嫁いだり人質に差し出されたりするよりもずっと幸せです」
「そう言えば姫君ご結婚は?」
「ふふふ。行き遅れですの」
「許嫁は?」
「いません、が」
「が?」
「昔いました。」

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錆青磁

「何故だ!何故。暗の穴倉などに行かねばならない!!!」
「やれ、落ち着け三成。」
「落ち着いて居られるか!このような間にも姫様が!!!」
「姫は安全よ。安全」
「…は?」
「本に我が姫から目を離すと思うか?」
「?!」
「ヒヒヒッ。ついて参れ、ん?」
「来たか!」
「待たれよ。やれ、暗」
「おーい刑部!迎えに来たぞ!」
「ヒヒヒッ。忍びが参ってなぁ一方的に拗らせた上に首切り落とされたわ。哀れよ哀れ」
「は?」
「ひでぇな。毛利に同情するぜ。」
「如何いうことだ?」
「すまんなぁ。賢人の配慮とはいえぬしにはちと嫌な思いをさせた。相手はあの毛利故ぬしのような素直な男に事の次第を話せなんだ」
「簡潔に言え!」
「毛利は姫の影武者に殺されて姫は暗の寝ぐらにおる。」
「?!」
「まだ寝てるぜ。しんどかったんだろうさね。おい、三成!特にお前のこといたく心配してたよ。」
「おい、暗!」
「何だよ」
「貴様の伝聞などどちらでもいい。早く姫様のところに案内しろ!もし傷一つついていたなら貴様の命はないと思え!!!」
「おい待て、普通騙した刑部に怒りの矛先を向けないのかよ!」
「半兵衛様と刑部の考えることだ。意味がありはしても私を騙すことはない。大体貴様と違い刑部は私を裏切らん!故に暗。もし姫様に何かあってみろ!貴様の首だけでは足りん!切り刻みこの世のすべての苦痛を与えてやろう!!!」
「なぜじゃー!!!」
「暗、ぬしの不幸を嘆いても栓無きことよの。とっとと案内いたせ。三成が落ち着いている間にのう」
「へーへー」







穴倉の奥も奥。小さな寝台に姫様はお眠遊ばしていた。急いで駆け寄ると体が上下していることでご無事なのがわかるものの、思わず呼吸と脈の確認をしてしまう。熱も、ない。ご無事にまちがいないとわかった瞬間その間に蹲ってしまう。そして姫様が無傷で無事な事を感謝するのだ。





「あの、三成、が!?」
「煩い。首を垂れろ!その首」
「ん…」
「?!」
「まだ寝ておられる。こちらに来ておりの薬の量を増やしたか?」
「何?!」
「増やしてねぇよ。ただ、思ったより飲むのが遅くなっただけだ」
「何故姫様に薬など!」
「全ては姫の為よ。眼前を穢すわけにはいかぬでな」
「お前さんたちにしては過保護だよな。いてててて!!!その鉄の塊ぶつけてくんな!!!」
「黙れ!姫様がお目覚め遊ばす」
「…」
「ああ、本当にご無事で」
「なぁ刑部」
「ん?」
「起きてる時と違いすぎるだろう。いつもならもっとそっけないぜ」
「あれもこれも葛藤よな。やれ、三成。」
「如何した」
「姫を運ぶか?」
「ああ」
「また何かあったら言ってくれ。姫さんなら何時でも歓迎だ。お前達は嫌だけどな!」





髪を撫でて許可を請う。決して返事はないだろうが請わずにはいられない。抱き上げだ瞬間瞳が動き、少しだけあの美しい尊眼見える。こんなに近くで…いや、見ること自体いつぶりだろうか。ぼんやりと空を仰ぐそれはまだ覚醒には程遠いことがわかる。
ふとこちらを見る。目が、あってしまう。それだけでも心臓が戦慄くというのに。そんな、愛らしく、笑わないでほしい。治部と呼ぶのではなくあの時のように私の名を呼び白い腕が私の首に回る。請うことさえ本来許されはしない、その腕が。




「さ、きち」
「姫様…」
「ヒヒヒッ。」
「あーあ。また寝ちまった」
「行くぞ、刑部」
「やれ。あいわかった」







錆青磁








「姫は如何だった?怪我してなかったかい?!黒田君に変な事」
「やれこれ。困った困った」
「如何しだんだい?!まさか」
「寝ぼけた姫が三成を離さんでなぁ。今寝所で立ち尽くしておるわ」
「何それ、みたいな」
「ヒヒヒッ」

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源氏鼠

「姫様を人質に?」
「ん?如何したんだい、三成君。そんなに怖い顔をして」
「い、え」
「元就君の妄言さ。元就君の嫁に寄越せってね。猫でももっと上等な扱いをされるよ。文にしてもひどく端的だったしね。大体姫は今の豊臣になくてはならない要の一つだからね。」
「はてさて、毛利は何故姫を?あれが嫁御欲しさに交渉して来るとは思えんが」
「揺さぶりかな?吉継君は如何思う?」
「ヒヒヒッ存外惚れたかもしれぬなぁ。あれはあれで男ゆえ」
「そうか…秀吉」
「ならん。」
「そうだね。僕もそう思うよ。」
「警備を固めるが得策か。拐かされでもしたら」
「やりかねないね。彼は緩急つけるのが好きだから。何より本気ならば何をしでかすか。…さて誰をつけたものか。」
「私が」
「三成君が?」
「不埒な輩より姫様をお護り致します!」
「そう、だね。吉継君の補佐に入ってくれるかい?」
「あいわかった」
「幽閉みたいになるけどね。少しの間奥座敷にいて貰おう。いいかい秀吉」
「半兵衛が言うのなら」
「待たれよ、賢人。姫を座敷牢に入れるおつもりか?それは!」
「…一時的にね。身の安全も大切だけど彼女は重大な情報を知り得ているから。拷問などに耐える事はできないだろうし」
「拷問?!」
「もしもよ。もしも」
「まぁ杞憂に終わればいいけどね。今は彼女を保護するのが先決だ」






奥座敷に移動するよと半兵衛様に言われてもなお姫様はあら大変ねぇとだけおっしゃってついてこられる。まだ治っておられない足を引きずって。お労しいと手を引ければどれほど良いか。然し乍ら姫に厭われたこの身でそれを行うのは憚れてしまう。場所が場所、なのだ。





「三成君と吉継君が護衛についてくれるよ」
「機密保持の為にですか?」
「それだけではないよ」
「ふふふ。」
「やれ、姫」
「冗談ですよ。治部と刑部には手間を取らせてしまいますが許してください」
「いえ」
「まぁすぐよ」
「この歳になって座敷牢にまた、入るだなんて」
「姫様」





聞こえるか聞こえないかの声に姫様は反応してくださりにこりと笑われる。大丈夫ですよとおっしゃりながら座敷牢に入られて正座されるのだ。



『佐吉、此処は寒いですね』




初めて見る姫様の顔。前髪をあげぬ、愛らしいいつものそれではなく。





「治部?」
「やれ、三成」
「っ?!な、んだ?」
「惚けるな」
「ふふふ。疲れているのですね。先ずはお休みください」
「なっ!」
「そうよな。」
「刑部!」
「一刻で良いのです。半兵衛」
「そうだね。三成君」
「です、が」
「休め」
「…秀吉様。わ、かりました。刑部と。一刻だ!すぐ戻る!!!」
「あいわかったわかった。」
「姫様。暫時御前から離れます!」
「はい。よく、御休み下さい」




源氏鼠





「姫」
「兄上。其れに刑部も半兵衛も。ごめんなさい」
「気にしなくていい。何より」
「兄様ももう。私にしては済んだ話ですもの」
「ぐ…」
「三成君はそうではないみたいだね」
「はてさて。」
「力のない私を厭うておいででしょうね。兄様。あまり治部に無理なお願いはしないよう、半兵衛に言ってください」
「だってそうでもしないと会えないじゃないか」
「刑部も」
「我は知らぬ知らぬ」
「もう」
「姫」
「兄様?」
「準備は」
「ふふふ」
「怒り狂おうなぁ」
「?そうかしら」

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丁子色

「帰ってきたの?如何だった?三成君に嫌がられたかい?」
「一層清々しいですね。誰のせいと」
「乱闘は?」
「ありませんでしたよ。何事も恙無く。治部から話を聞いておりますか?」
「ああ。」
「ならその通りだと思います」
「いや、ね」
「?」
「君の口から聞きたくて」
「真田様は噂通りの方で同盟なればと即締結して来ました。内容は我らよりでしたので。傘下にと申すより勇猛果敢な騎馬隊を有する武田は自由に戦っていただければ。何事もなければ誓約を破る御仁には思えませんので、今は様子見でよろしいかと。城内はうちと違い賑やかでしたが士気も高く良い兵でした。矢張り、あそこを落とすのは時と資金がかかり、見合うものとは思えません。」
「そうか」
「平野の城ですから攻めやすそうですが手薄になった大阪には背後に毛利が有りますので其方の仕舞が付くまでは関東遠征は難しいかもしれませんね。ああ、そうでした。治部と真田様が妙に馬があっておりましたよ。ふふふ。共に実直で素直な方でしたので。佐助様には婚儀縁について聞かれましたが人質は不要と申しております。」
「そう」
「これ以上私の配下は要りませんよ。兄様も半兵衛も女に興味はありませんでしょ?皆が献上して来る女なんと多いことか。帰る当てのないものたちは私の荘園で働いていたり、当てのあるものは突き返したりとして何とかしているのですよ。もういいです」
「此方が送るって手もあるけどね」
「姫は私しかおりませんので。行けばいいですか?」
「冗談だよ。三成君は如何だった?」
「いつも通りでした。逆に私が緊張してしまって」
「捻挫を酷くしたと」
「痛いです」
「まぁ当分交渉してもらうとこないし。少し休みなよ」
「ありがたいお言葉です事」
「剣があるなぁ」
「日頃の行いですよ」
「まぁいいや。ではね」
「半兵衛」
「ん?」
「…無理してはいけませんよ」
「うん。わかっているさ」










半兵衛が居なくなったのを見届けて私は足に巻かれた包帯を退ける。腫れが酷くなってしまった。濡らした手ぬぐいを置くだけで激痛が走る程度に。骨に異常はないのだろうかと思いつつもどちらにしたって固定して冷やすしかないのだから同じ事だろう。
庭を見ると沈丁花が咲いてある。良い香りがするなあと思っていたら居ても立っても居られなくなるので花を打ってきてもらう。5枝。兄様と半兵衛。私と刑部と、治部と。嫌がられるかもしれないなと思いつつ文を認める。信濃への礼を書けば良いだろうか?彼方から帰ってこない一方通行の文は不毛と思いつつもせずにはいられない。彼に嫌われていると知ってもなおこんな事をしてしまうのは偏に彼に恋しているからだろう。半兵衛と刑部しか知らない話。よく気にかけてくれる刑部と揶揄う半兵衛。




「姫様」
「使いをお願い。部屋のものに言って生けて差し上げて」
「はい」
「お願いしますね」





きっとまた返事など帰ってこないだろうなと思いながら私は沈丁花を抱いて横になるのだ。







丁子色








「姫様から石田様と大谷様に文とお花を」
「姫様からか?」
「はい」
「そこに置いておけ」
「ですが…」
「今手が離せん」
「はい」
「われも同じよ」
「あいわかりました」
「…行ったか。やれ三成」
「如何した?」
「姫の足は?」
「悪化された。歩かれたのだ仕方あるまいが…」
「骨に異常はないのか?」
「ああ」
「それはいい。我のようになっては大変よ。たいへん」
「…」
「三成?」
「私が行ったからだ。」
「?」
「姫様に無理をさせてしまった。騎乗ですらお手を触れるのを嫌がられたのだ。同乗すれば少しは」
「嫌がったのではあるまい。戸惑ったのよ」
「何故だ?!」
「主と同じ事よの。ヒヒッ。にしても良い香りよの」
「あ、ああ」
「ん?」
「礼を書かれてられる。あの方の為に私は何も出来なかったのに」
「…」
「何か、御心を慰めれるものはないか?いや、然し」
「文を書けば良かろう?返信を」
「憚られる」
「…左様か」

拍手

山葵

「足を痛めたんだって?」
「あら、半兵衛」
「もう君は!いったい幾つになっだと思っているんだい!」
「ふふふ」
「笑っても無駄だよ。ほら!」
「痛いわ」
「ふーん…思ったよりひどい有様だね。」
「ええ」
「痛みは?」
「今」
「其れは其れは」
「相も変わらず酷い男ですね。」
「開城説得に行って欲しかったんだけど」
「行きますよ」
「その足でかい?」
「其れが私のお役目でしたら」
「そうだね。君に一存するよ。でもその足だから…誰かつけよう」
「いつも通りで良いですよ」
「もしもがあってはいけないからね」
「もしもなんて隣り合わせですもの」
「まぁ。そうだけど」
「今回は何処に?」
「信州武田」
「あちらは確か…信玄公がよろしくありませんでしたね。誰か。滋養に良い薬を。人参がよろしいわ。あと食す物も。甘味にえー、と」
「君らしいね。田舎のおばば様では無いのだから。」
「あら、忠をつくせばきっとわかりあえまする」
「ん。そういうものかな?君の異常なまでの勝率にかけるだけだよ」
「はい。任されました。では行って参りますので降ろしてくださいませ」
「では。誰に見てもらおうか…うん」
「?」
「どうせそのままだよね。そこで待ってて。要るものは其処のものにいい給え」
「はい。すみませんがお願いいたしますね。」



そう言って私は縁側座る。紙に必要なものを書いて渡すと私にやることは無い。ふふふと笑いながら足をぶらぶらとしていると矢張り、痛い。足袋を履けるかしらと足首を撫でると少し腫れているものだから困ってしまう。素足はよろしく無い。年甲斐もなく枝を手折るのがよろしくなかったらしい。と思ったあたりで私に誰かの影がかかる。誰、かしらと見上げれば銀髪の男が立っていて瞠目してしまう。





「治部…?」
「…」
「…如何、致しましたか?」
「私が供に」
「…は?」
「ああ。いたいた。姫用意出来たよ」
「今、治部が」
「ん?君の人誑しぶりを見せる良い機会だろう?」
「人聞きの悪い。刑部を」
「と思ったけど。今忙しくてね。いないから説得できないよ。三成君」
「は!」
「姫を頼むよ。君は姫の命にだけ気を配れば良い」
「神明を賭して」
「…では参りましょうか。誰か。杖を」
「杖?」
「あと大きな足袋も」
「用意してる。」
「?」
「庭の花を打とうとして落ちて捻挫さ」
「花?」
「知っているのかい?」
「さあ参りましょう!」
「…三成君」
「は、い」
「よく見て勉強しておいで。彼女にしか無い武器と力をね」
「…」







山葵







「…」
「…」
「馬に乗れ、ば」
「お手を」
「ですが…」
「…」
「っと。」
「矢張りその足では」
「では誰か口取りを」
「私の馬に」
「?」
「何かありました困りますので」
「では。貴方の部下の何某かに」
「私では心許ないと?」
「い、いえ!そうでは無くて。お邪魔でしょう」
「…半兵衛様の命でございます」
「そう、ですか」
「はい」
「貴方が、私の命を聞くとは思えませぬが…。これはお願いです」
「願い?」
「もし、別した折何かありましたら何かありましたら貴方は単騎で兄様の元へおかえりくださいませ」
「は?」
「私は時間を稼がなくてはなりません。故に貴方では供はならないのです。ですが、命とのこと。お願いでございます。」
「…半兵衛様の命に神明を賭しております故。そのような事にならぬようお祈り申し上げます」
「矢張り、ですか。いよいよもって成功致しませんとね」
「お手を」
「いえ。自ら参ります」
「ですが…」
「参りましょう」

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