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変換なしの雑食夢

ran

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水仙

「…戦、ですか」
「ああ。この大阪を攻めんとする愚か者がいる。私はそれを迎撃してくるので何日か帰らん。帰るときは文を書くので、それまで空気の入れ替えを頼む」
「は、い」
「如何した?」
「…」
「ちい?」
「その、あの。…申し訳ございません」
「怒っていない。安心して言ってみろ。」
「部屋は、いつお帰りになっても大丈夫なように整えておきます。」
「?」
「食事も庭の手入れも。何一つ抜かりなくしておきますので、ご安心を。」
「ん」
「です、が」
「?!」
「…」
「な、泣くな。なぜ泣く?!」
「三成、様」
「如何した?」
「ご武運をお祈りしております」
「それはいい。しかし」
「…」
「どうぞ」
「どうぞ?」
「怪我など」
「怪我?」
「なさら、ないで。無事に。帰って、きて」
「ま、まて。ちい。泣きすぎていて何を言っているのか」
「三成ーおい?!泣かしたの?!」
「家康!黙れ!」
「ど、如何した?何かされたのか???言われたのか???」
「違い、ます」
「嗚咽が凄すぎてわからん。三成!あれ程女子には優しくと!」
「!」
「わっ!いたっ?!ちい殿!!!叩かないでくれ!!!」
「三成、様を悪く言わないで!!!」
「?!」
「家康様なんて嫌い!」
「な?!」
「ち、ちい!落ち着け?今日はおかしいぞ?」
「うわーん!」
「ますます泣いたではないか!この筋肉狸!刑部を呼んでこい!」
「わ、わかった!!!」







水仙







「…」
「珍しいこともあるよな」
「…どうにかしてくれ」
「致し方ない事よの。戦など知らぬ上、最近大切なものを喪し。剰え様やできた懸想の相手が死地に行く心地だったのだろう。その上、徳川がぬしにあらぬ疑いをかけた故辛いのと悲しいのと。混ざったのよなぁ。」
「ぐすん」
「まだ、14故致し方ない。」
「かといって背中に抱きつかれるとやりにくい」
「左様か。なら」
「?」
「やれちい殿」
「大谷様」
「可哀想になぁ。我が甘味をやろう。三成も退いて欲しいとのこと。哀れよ哀れ。やれ我の元へこりゃれ。輿に乗せたもう」
「…あい」
「?!」
「ひひひ。」
「ま、待て」
「みつなりさま?」
「いや、そのだ」
「お邪魔をして、すいません。」
「ちがっ?!」
「素直にいわしゃれ。」
「他の男の元へ行くな」
「…大谷様です」
「刑部でなければ…いや、いい。そうではない。」
「?」
「手柄を立てる。恩賞を頂けたら、貴方とのことを頼みたい」
「…」
「良いか?」
「…手柄を立てなくて良いで、す」
「?!」
「違う違う。落ち着きゃれ」
「貴方が無事ならそれで良い。私はそれが良い」
「は?」
「ちい殿はぬしの安否が心配なのよ。大丈夫と言っているが…ひひひ。恋は盲目よの。ぬしと相手なら相手の方が哀れよなぁ。」
「…」
「すいません。ご武功を立てる必要をわかっているのですが…」
「い、や。あのだ。」
「?」
「怪我なくはわからない。」
「!?」
「!だが無事に帰ってくる!必ずだ!!!」
「…あい」
「泣かしゃるな。三成が困り顔よ」
「絶対、ですよ」
「嘘は言わん」
「はい」
「だからだ。そんな顔しないでくれ」
「うう」
「…刑部!」
「抱き締めてやる程度の甲斐性を見せしゃれ」

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「老い先短い我のためにも無理か?」
「う、ですが…この様な高価なもの。日に焼けた私には」
「地が白い故安心しりゃれ。」
「大体どこから」
「衝動買いよ」
「大谷様」
「残す相手もおらぬでな。誠困ったこまった」
「…一度だけですよ」
「!」
「そのあとは着ませんから」
「それは良かった。よかった。やれこれが良い。着りゃれ。今日は城下に参ろうな」
「私、仕事」
「機嫌の悪い三成の相手は骨が折れる。甘味でも買って紛らわそうぞ」
「う。はい」





目の前の着物を見てため息をつく。若い娘の好む色ではないのがせめてもの情けなのだろう。体を洗って着替えると思わずため息を付いてしまった。石田様は先日から政務で佐和山というところに行っているらしい。三成様の居城があると半兵衛様から教えていただいた。此処からそう遠くないそこはどの様なところだろう。多分私の心を知っているのは大谷様のお優しさと悪戯心だろう。




「大谷様」
「ん?ああ。用意が済んだか?」
「はい。」
「似合っておる。では行こう」
「お荷物お持ちいたします」
「構わぬ構わぬ」
「ですが…」
「今日は我と逢いびきよ」
「は?」
「というより太閤に頼まれた」
「伯父上にですか?」
「急な来客で客間に通す折、主の姿では逆に浮くのでな。目立たぬ様にしてくれと」
「…なぜか体良く良い着物を着ろと言われている様な」
「本来喜ぶとこよの」
「大谷様にご迷惑をお掛けしてまで」
「なぁに。好かぬならせんよ。我とて好き嫌いはしっかりしておる。」
「…」
「但し、覚悟しりゃれ」
「は、はぁ」





そう言って城下を歩く。初めての城下は嫌なほど静かでよそよそしい。ばたりと閉まる音口さがない言葉。こんなに冷たい場所なのだろうかと思っていれば表情がないよのと言われる。




「ええ、ですが」
「気にしりゃるないつもの事よ」
「いつもの?」
「これも我の不幸…ん?」
「…」
「やれ可愛い顔が勿体無い。その様に脹れるものではない」
「もう帰りましょう。こんな情のない場所で買い物なんて」
「ひひひ。此処が特にひどいだけよ。にしても」
「?」
「ぬしは怒られるか?また、何故」
「私は私の大切にしなければならない人にひどい仕打ちをされて笑うほどひどい人間ではないと思っていますが?」
「ぬ?」
「三成様、大谷様。お婆様が居なくなって途方にくれる私に誰よりも優しくしてくださった方です。」
「我はしておらぬよ。すべて三成のおかげよ」
「三成様から聞き及んでいます。わたしを看病するため、三成様が動ける様に差配をしてくれたり、時折置いてくださる甘味も。三成様とは違う形としても貴方様からのご恩は感謝しても無下にするものではないと思っているのです…ああ、大谷様」
「ん?怎?」
「石を投げてやっても良いでしょうか。もう!腹立つ!!!」
「意外と御転婆よな。この辺り昔、辻斬りが多発してなぁ。我が治癒の妙薬を作るために殺しておると言われたのよ。」
「辻斬りをですか?…大谷様なれば刀でなくそのふわふわした球体で捻り潰しましょう。熊の肝ではないのですから…」
「いや、強ちなぁ」
「ご入用なら私を召し上がってくださいませ」
「…これ、外聞の悪い」
「私一人なら変な噂も流れませんし。大体戦さ場に立たれる方が屍に困るとは思えません。少し考えればわかるものでしょうに」
「意外と毒舌よな」
「いえ、申し訳ありません。無償腹が立って!」
「ひひひ。我は故にぬしを虐げられず愛でたいのかもしれぬなぁ」
「?」
「ぬしは三成に必要な子と言われたらしいが我もそうよ。」
「お、大谷様がですか?」
「ん?不思議であるまい。この病を得たものの定めよ。そこ折三成に隠居を申し出たら許可が貰えなかった。見捨てる気かとなぁ。見捨てるも何も厭うとこよなと言い含めたものの理解が得られず。まぁそれはそういうものかと諦めた。が、我の中に一つの概観が生まれた。この者の禍は我が払い咎は我受けると。」
「そうでしたか」
「ひひひ。ぬしにもある」
「?」
「我と同じよなと。不必要と言われるのは思いの外答える。初めて会った折の悲しい目は我は忘れられぬ。もうその様な目をせぬで良い様に差配をしよう。」
「恐れ多いことです!そんな、私の様なものに」
「我を厭わず。剰え必要とするものへの手向けよ。さてついた」
「…」
「この歳になって癖の強い弟と愛らしい妹ができたのはありがたい話よな」
「此処は?」
「この世で二番目に我を大切とした女子がいる。…馬鹿故うつらぬようにな」
「刑部さん!人の店先で私を蔑まないでください。」
「わっ」
「ひひひ。久しいなあ。息災か?」
「もう!元気なのは良いですが難読問題のような文止めてって!あ、初めまして。これの妻の砂羽衣です。」
「ご、ご結婚さていたのですか?!」
「これの戯言よ。砂羽衣。」
「あだー!それでこつかないで!」
「馬鹿故平気よ。」
「もう!さあさ。お入りください。頼まれたのは用意してます」
「ん。」






そう言って入ると夥しい着物と小物。小間物まで。ひひひと笑う大谷様は出どこのほとんどは賢人と太閤よと言って笑う。それはそれで恐ろしい。何より、貰わぬと大変な事よなという台詞と本当に女気のない城ねと嘆く砂羽衣様の無言の受け取れが何よりも恐ろしい。
来客時にあの格好は駄目というのにも一理あるからますますもって困っているとお店の番頭さんが来客を告げる。




「刑部!この馬鹿女の店に何故呼んだ!」
「もう!治部様。馬鹿とはなんですか!今まで服支度をして差し上げたご恩をお忘れかしら」
「何を惚けたことを言う。貴様の雑で縫い目の乱れた着物に価値があるか。ちいの作ったものを見てみろ。これほど見事に作っても何も言わぬ謙虚さを見習え!」
「あら、まぁ。お熱いことで。さすが懸想相手にはお優しい」
「やれ、砂羽衣」
「当たり前のことをいう…来客が居たのか?」
「困ったこまった」
「?」
「その恩もない私が見立てたのですよ!さぁいかがです!」
「…ち、い?」
「あ、の。三成様。お帰りなさいませ」
「…」
「落ち着きゃれ。」
「この馬鹿女。頭を垂れろ!その首切り落として!」
「きゃー!怖い怖い。ちい様助けて」
「わっ!」
「貴様!ちいから離れろ!」
「離れたら死んでしまうから嫌ですわ」
「刑部!」
「やれどちらもどちらよ。ちい殿が困っている。」
「っ」
「誠愛い話よな。」
「…」
「あ、の?」
「い、いや。なんでもない」
「お、お刀を収めくださいませ」
「ああ。」
「助かったー。」
「ぬしも悪戯が過ぎる。ちと、灸をすえるか。三成」
「何だ!」
「我は今宵此処で泊まる故。ちい殿と先に帰られよ。」
「わかった」
「ちい殿。衣装は後で送るゆえ。ああ。甘味どころはつれていってもらわしゃれ」
「はぁ」
「参ろう」
「はい」






「初々しい!」
「悪戯が過ぎる」
「だって」
「まぁいい」
「んっふー。吉継さん」
「はぁ。ぬしももの好きよなあ」














「…」
「…」
「ちい」
「はい」
「変わりなかったか?」
「今の今までは。」
「そうか。その衣装は」
「伯父上からの命です。凄く恥ずかしくて」
「そうか?似合っている」
「っ」
「ちい?」
「あの、ありがとうございます」
「いや、それと」
「?」
「馬鹿女とえの話だ。」
「砂羽衣様?」
「本当の事だ」
「!」
「私はお前に懸想しているが、無理な見返りは求めていないし欲しくない。」
「は、い」
「だからきにし…ちい?」
「少しだけ、ていいですから。袖をもたせて下さい」
「そんなに少しでいいのか?」
「今の私にはいっぱいいっぱいです」
「くくく。初だな。まぁいい。離すな」
「はい」

拍手

秋桜

「失礼いたします」
「?」
「お食事をお持ちしてもよろしいですか?」
「ああ」
「では此処に」
「待て」
「!」
「な…」
「す、すぐに持ってきますので」
「あ、ああ」




バタバタと顔を仰ぐ。できるだけ平静を保ったものの触れられるといけない。きっと顔が真っ赤だっただろう。
食事をどうしようかと思っていたら大谷様がお勝手にいて驚く。いや、それより





「…お食事をもう一膳、お部屋にお持ちしましょうか?」
「おお、ちい殿。ちとぬしに聞きたいことがある」
「それより、そちらにおられますお武家様は?」
「(無表情になったか。よかったよかった。二人ともきっと後ろに気づいておらぬからなぁ)これは左近。三成の近習よ。」
「ちぃす。俺は左近。三成様の左腕になりたいんっすよ」
「は、はあ。」
「で稽古をつけてもらっているんっすけど。最近狂惶並みに恐ろしくて…理由?知らない???」
「狂惶?」
「いやー夢に出るくらい怖いんっすよ!何てったって狂惶の歩いた後には屍しかったー!!!!!痛いっすよ!刑部さん」
「ひひひ。ちい殿。此奴は狂言つきでな気にしりゃるな」
「…左近様」
「何っすか?」
「私にはわかりかねます。」
「そ、そうっすか。」
「大谷様ご用件は後でよろしいでしょうか?三成様にお食事をお持ちしたのちすぐにお伺いいたします」
「ひひひ。いや何すぐ済む」
「ですが…」
「(嫌ったか。良かった良かった。ちい殿の嫌いなタイプ故、案の定よ)内容はほとんど同じ故…」
「は?」
「三成に懸想した、か?」
「…は?」
「いや、三成が避けられていると嘆いておってな。如何したものかと思っていたが…そうであったのなら我とて嬉しい」
「…」
「まぁ、その顔を見ればわかる故。だが露骨に避けると三成が傷つく。あれは好意と悪意の領界を分からぬ男でな。己が言でぬしを傷つけたのではないかと珍しくなぁ…」
「う、あの。その様なことはないので。恐れ多いことですし。いえそれより。申し訳ありません」
「刑部さん混乱しちゃったっすよ」
「良い良い。向こうであれも混乱しておろう。」
「げ?!居たんっすか???」
「ひひひ。明日の稽古の前に遺言を聞こう。」
「わー!俺土下座してきます!」
「いってしまったか。ん?」
「刑部様」
「何か」
「あの、お願いいたします。もう少ししたらきっと元に戻ります故、お許し下さいとお取りなしください」
「熱病が治ると?」
「表に出ぬ様尽力します」
「にしても」
「?」
「ぬしも良い趣味をしている。今はあまり見せぬが激しく短気短慮よ?良いか?」
「ですが…あの方は私の欲しい言葉を下さいました」
「?」
「必要な子と。」
「左様か」
「下女の私が恐れ多いことは望んでおりません。ただいまは、お側に入れれば。それで」
「…」
「…あの」
「ん?」
「今叫び声が?」
「あ、ああ。気にしりゃるな。いつもの事よ」








秋桜







「…賢人」
「ん?吉継君。如何だいあの二人。恋仲になりそうかい?」
「普通ならば、な…単刀直入に聞くがちい殿は誠、太閤の血縁か?」
「そうだよ。母親の旭は、秀吉の同腹の妹だ。」
「では父親は?」
「如何いう意味だい?」
「農民の末娘ということだが…本当は誰よ、ということだ。」
「…」
「太閤の姪なれば政略の駒にもなろう。教養も品性、その容姿ですら姫としては申し分ない。のに姫として公表せぬし自身も表に出ることを厭う。美しいもの女らしい格好どれも嫌い、一介の下女として働いている。これは合点がいかぬ。太閤より、ぬしが過保護なのも。」
「やっぱり君には隠し事はできないなぁ。いいも言ってみて。見当はついているんだろう?」
「ちい殿はぬしのお子か。しかも姦通の不義理の子」
「そうだね。僕の欲と旭の欲のせいで彼女は生きづらいようだ」
「そうか。この事は?秀吉と僕の実家。そして君と彼女自身。知っているのはこの辺りかな?」
「ちい殿も」
「僕が旭を捨てた後、呪詛の様に紡いでいたそうだ。本当の夫が死んだのち目付けを含めて秀吉の里を僕の実家に移したんだよ。」
「左様か」
「聞かないの?」
「興味は薄くてなぁ。それよりいまはあの二人がうまくいくことだけ気がかりよ」
「もしそうなれば。秀吉の養子にして後継者にする予定だよ。まぁ。三成君はそのつもりだから。ちいに関してはその時の都合だね」
「都合、か」
「うん。僕が一番大切なのは秀吉だからね。」
「そこだけ相容れぬなぁ」
「当たり前だよ。」

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月見草

《私は此処一番の女なの。》
《貴方のお母ちゃんは寂しい人だった。あなたにもその影がある。だからと言ってあなたもそうなる必要はないよ》
《みんな愛してくれた!なのにあんたの父親は!》
《要らない子。不義理の子。私の》
《私を終いにした呪いの子》





悪夢は寝床を選ばないらしい。冷や汗と倦怠感も。何一つ変わっていない。…彼岸が近いからだろうか?母が近い気がする。お婆様なら良かったのにと頭を振ってふらりと立ち上がる。行燈に火をつけて今自分のいるところを確認する。伯父上の居城。その奥にある私室の一つ。
少し喉が痛い。水をと立ち上がり井戸へと行く。




女になど生まれたくなかったとこの夢を見るたびに思う。いや、私は生まれるべきではなかった。名もなくあまり会うことのない兄弟。頼るべき伯父上は母の狂気を知っているのだろうか。
気分がひどく悪い。吐いて仕舞えば楽だろう。女になどなりたくはなかった。だんだん女になる自分が恐ろしい。丸みのある体。要らないのに。日々大きくなっていくのみでしぼむことのない恐怖。





「おい」
「…」
「誰…ちい?」
「三成様?」
「どうしたこんな夜に。そんな処に蹲って…具合が悪いのか?」
「…怖いのです。」
「おい」
「なぜ女などに生まれてしまったのでしょう。」
「ちい?」





両手で顔を覆う。前髪を上げた。大人になった私はいつか伯父上の決めた人に嫁いで子を成すだろう。母親を知らぬ私が母になってしまう恐怖。
恐ろしい。くるしい。気持ち悪、い





「ちい?!」
「っかは…」
「落ち着け。良いか。私を見ろ。そう、ゆっくりだ。ゆっくりで良い。息を吐け。ゆっくり。次は吸え」
「みつ、なりさま?」
「怖い夢でも見たのか?」
「え?」
「落ち着け。此処は秀吉さまのお膝元。この世で一番安全などころだ。それに半兵衛様も刑部もいる。勿論、私もだ」
「…悪夢を見るのです」
「?」
「狂気に死んだ母の夢です」
「そうか」
「大人になどなりたくなかった。母のような女などには、決して!」
「待て」
「え?」
「貴方は貴方だ。大人だろうが子供だろうが。貴方は貴方の母親ではないだろう?何故そんなことを言う?」
「…」
「落ち着け。何があるのか。あったのか。私は知らんし聞かないが。貴方は初めて会った時より変わらない。」
「私は要らない子ではないですか?」
「そのように言うものがあれば斬滅してやる」
「不義理の子でも」
「不義理を果たしたのは貴方ではないだろう。そういう戯言を言うのは己に後ろめたいところがある故だ。決して貴様せいではない」
「…」
「そんなことに悩まされていたのか?」
「…はい」
「では私がそんな愚劣な讒言を否定して引導を渡してやる。貴方は私には必要な女だ。義理堅く裏切らない。それは秀吉様の御血筋だからではない。あの方はあの方だから意味がある。故に他の兄弟生い立ちには一切の興味はない。だが貴方は別だ。私は貴方そのものに賞賛すべき価値があると思っている。」
「…」
「顔色も呼吸も戻ったな。着替えて休め」
「…」
「ちい」
「う…」
「どうした?」
「いえっあの!すいませんでした。お休みなさい!」








月見草





「…」
「やれ三成よ。左近が嘆いておったぞ。日に日に稽古が戦さ場より恐ろしくなるとなぁ」
「そうか」
「やれ如何した?」
「ちいが近づいてくれない」
「ん?そういえば。なにかしたか?」
「していないはずだ…しかし」
「ひひひ。恋煩いよなぁ。」
「…」
「否定もせぬか」
「しても意味が…ちい。」
「っ?!三成様。」
「どこに行っていた?顔が赤い…まさか病か?!」
「いう、その…刑部様?!」
「そういうことか。初々」

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「…」
「…」
「…」
「…」
「…ふう」
「お茶で御座います」
「すまん。」





「老夫婦?」
「熟年夫婦といわしゃれ。…最近は縁で二人で仕事をしていることが多い故。微笑ましいものよ」
「本当にね。見た目だけはお雛様とお内裏様の様だよ。戦一辺倒の彼に春が来たなんて」
「親代わりとして感無量よな」
「相手がちいなのも良いね。流石三成君。見る目がある」




針山に針を刺して背を伸ばすと三成様が見ていて思わず固まってしまう。何と、無礼なことをしてしまったのだろうと急いで謝ると少しだけ微笑まれて構わないと言ってくれるものだから居た堪れない。
三成様は書類を纏めていらっしゃって私は繕い物をする。お互いが暖かい日差しに誘われてこの妙な空間を作って早一週間。少し気を緩め過ぎていたかもしれない。気をつけないと思案しているとちい殿と声をかけられる



「はい」
「百面相になっていた」
「あ、ああ。すいません。」
「何故謝る?」
「竹中の御隠居様に」
「半兵衛様の?」
「もし万が一武家に奉公へ行くことになったら一切笑わずにいろと言われて育っていました。恐ろしい狼のような獣物に食べられてしまうからと」
「それは」
「だからお武家様には出来るだけ近づくなと。伯父上も半兵衛様ももうお武家様だから無闇に笑ってはならない。それを見た他のお武家様につて行かれるから…幼い折でしたがすごく怖く…三成様?」
「…」
「!」
「ん?」
「まさか…」
「いや?!その様なことはない!決して貴方をそんな目には」
「お武家様はやはり狼を飼われているのですか?見たことがありませんが…」
「それは、その。ああ。飼っているから。私や刑部、秀吉様、半兵衛様のみがいる時以外はその戒めを守ったほうが良い」
「わかりました。あっ」
「如何した」
「半兵衛様には内緒にしてください。もし聞かれたら御隠居様が鬼に食べられてしまうのです」
「ん…善処する」
「もう一服?」
「貰う」






緑色の茶を淹れて手渡すと再び書類に戻るかと思ったら繕い物の方に意識を向けていられたので如何しましたかと尋ねる。


「着物だが」
「はい」
「支給のものを着ないのか?」
「あんな上等なものもったいなくて」
「然し」
「私は下女ですし…本来この様に良くしていただくわけには」
「下女だろうが何だろうが私は私の好きな様にする。」
「…」
「貴方も貴方で気兼ねをしなくて良い。ただ」
「ただ?」
「…なんでもない。」
「?」
「そういえば、着物を縫うのは得意か?」
「まぁ一般的には」
「一式作ってもらいたい。」
「生地は如何致しますか?」
「下賜されたものがある。」
「わかりました。後で寸を取らせてください」
「ん」
「あら、三成様」
「なんだ?」
「桜が一輪咲いています」
「…本当だ」
「美しいですね」









「刑部さーん。老夫婦化してるっすけど良いんすか?」
「賢人と同じことを言うなぁ」
「そういや、半兵衛様は?」
「鬼となっ爺様を喰らうのよ」
「うわー。怖いっすね」



















「三成様」
「いや、そのだ」
「じっとしてくださいませ。寸が」
「…」
「少し細すぎですよ。」
「貴方が来てから少し太った。」
「…もう少し献立を考えます。」
「今ので良い」
「ですが」
「十分美味い」
「!」
「如何した?」
「い、え。」
「そうだ。街に行くぞ」
「は?」
「貴方も一つ誂えて花見に行こう」
「花見ですか?」
「ああ。」
「別に誂えずとも」
「気に入らんか?」
「…あまり女性らしい装いはすきではなくて。働きやすいこの姿が一番私らしいのです」
「そう、か。なら。そのままで良い」
「はい」
「やれ、三成よ。…これは邪魔をしたか?」
「花見へ行くぞ!」
「また急よな。」
「花が咲いてからだ。刑部貴様も来い」
「は?」
「なんだ?不服か?」
「いや、二人でまいりゃれ」
「刑部様は行かないのですかお弁当を用意いたしますから」
「ぬ…」
「行きましょう」
「行くぞ!拒否は認めない」
「…誠ぬしらは」
「「?」」
「いやなんでもない。何でも」

拍手