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変換なしの雑食夢

ran

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藤紫

「…」
「心配いりませんよ。竹中様も存じ上げていますから。必ず参ります」
「やっぱり御忙しいんですもの。…松、参りましょう」
「はい」



そう言って私は車を降りる。大丈夫きっと来ると思えばすごい音ともに車が横付けされるものだからびっくりしてしまうと見慣れた車でもう一段びっくりする



「刑部!行くぞ!!!」
「ま、またしゃれ。ぬしは良いとして我は動けぬ」
「なっ?!大丈夫か?」
「飛ばし過ぎよ。まだギリギリ間に合う故」
「だが姫様を待たせるなど万死に値する愚行!刑部!!!背中に」
「ぬしは我をおぶって登場する気か?」
「なれば」
「…あの。刑部様」
「「ん?」」
「急いで水で冷やしてきたので。大丈夫ですか?」
「ひ、姫様!!!」
「石田様も。御髪が」
「っ?!」
「汗も…松?」
「私が介抱致しますのでどうぞ先に」
「そうよなぁ。早うせよ。遅れしゃる」
「ですが…」
「ま、参りましょう」
「石田様」
「御手を」
「はい」




そう言って手を取られた瞬間どきりとする。線の細い人だと思っていたけれどもやはり兄様が評する兵。殿方なのだと。



「あっ」
「如何致しましたか?」
「石田様は許嫁様は?!」
「は?」
「まさか奥方様など」
「許嫁も奥もいません」
「…良かった」
「姫様も」
「私は行き遅れですので」
「?」
「16にもなって結婚していないのですから。兄様と半兵衛が見つけてくれないのです。ですからこんなお手数をおかけしなければならなくて。心苦しいです」
「い、え。」
「石田様はおいくつなのですか?」
「今年で…20?ですか」
「ふふふ」
「何か?」
「ご自身のお年を疑問文で言われるのが石田様らしくて」
「申し訳ありません」
「いえ。今日は宜しくお願い致します」
「私こそ。」





招待状を渡してコートを預ける。石田様の燕尾姿は初めてだった。流石ファンが多い方だ。顔が赤いかもしれない。いや、何好んでこんな小娘…というには歳は重ねているけれども。相手しなくとも素敵な方の一人や二人いらっしゃるのにと自己嫌悪に陥る。ふと視線を感じて顔を上げると目を見開いている石田様と目があう。




「石田様?」
「い、え。あの」
「本当に申し訳ありません。私なんて」
「あの」
「この際。付き添いとか保護者とか。もう皆様にご紹介いたします」
「…美しいと。」
「は?」
「姫様はやはり誰よりも何よりも美しい」
「っ!!!」
「参りましょう」
「あ、あの!」
「はい」
「石田様も本当に素敵です。比べていいのかわかりませんが半兵衛よりもずっと」
「半兵衛様に比べましたら私など芥と同じです」
「そんなこと」
「姫さん!石田の旦那!いらっしゃ…如何したの?二人とも顔が真っ赤?」
「黙れ貴様!!!その首即刻跳ね飛ばすぞ!」
「お招きありがとうございます」
「あっはー。顔正反対だよ…石田の旦那。言ってること禍々しいけど姫さんのエスコートはしっかりなんだね。姫さんも挨拶前にその人止めて」
「刑部様がいらっしゃらないから…」
「やめてって言えばいいから!怖いって!石田の旦那。何?武道会と間違えたうっかりさん枠になってるよ」
「石田様」
「…姫様」
「他家です。」
「ですが」
「駄目ですよ」
「…あいわかりました」
「(流石猛獣使い!)で先に踊る?」
「先に挨拶に」
「今はやめてた方がいいよ。伊達の旦那とうちの旦那が暴れているからね。石田の旦那」
「何だ?」
「大谷の旦那と竹中の旦那から要請されてるから。早く踊って見せつけておいで」
「参りましょう」
「ですが」
「姫様」
「っ」
「(相思相愛かな?うちの旦那は出る幕なさそうだね。)いいって。大将にも言われてるし」






藤紫






「(踊るもすごく御上手)石田様」
「何か?」
「御上手ですね。」
「姫様の名に触ることあってはなりませんから」
「ふふふ。私の方が駄目ですね」
「いえ。あなたはここにいる誰よりも美しい」
「…?!」
「私にとっては間違いなく。」
「う…」
「どうかしましたか?」
「あなたも」
「?」
「この会場の誰よりも素敵です」
「…」






「hey 真田幸村。見てみろよ!あの陛下様々の石田が女連れだぜ」
「姫様ぁぁぁああああ!!!!!」
「ah?真逆?!あれが!?!!??」
「ああ。初々しいですな。信玄公」
「ははは。あの姫がああ美しい顔をするのか」
「ありゃ駄目っすよ。姫さんもベタ惚れみたい」
「まぁ陛下に頼まれていたからな。少し刺激が強すぎたやもしれぬ…片倉殿。佐助。いいのか」
「は?」
「?」
「二人が乱入していったぞ」
「わぁーーーー!!!!!」
「政宗様ぁぁぁ!!!!!」

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鉛白色

「やれ姫」
「あ、ああ。刑部様。ご機嫌麗しく存じ上げます」
「ひひひ。主の顔はそれは程遠い。今回は顔が真っ青よ」
「…武田様の佐助様は」
「知っている」
「その兼ね合いで彼方と少し縁がありまして…なんと申し上げましょうか。破天荒な方でございましょう?今回は急な思いつきをされて舞踏会を開催されるらしいのです。私にこないかと」
「また…あの御仁が珍しい」
「はぁ」
「で何故それほどまでに気落ちならしゃる?」
「こう言う時には婚約者と一緒にお伺いするのが慣例なのですが…私この歳になっても婚約者などおりませんし。同級のものも次々子が出来母親になってまいります。この歳で女学校に通える事は大変有難いのですが…その。裏を返せば婚期が…」
「主の場合気にすることでもなかろう?」
「そう、なのですが…また半兵衛と踊るとなると馬鹿にされてしまうなぁと」
「?」
「半兵衛にです。」
「ああ。ぬしは随分とからかい甲斐がありそう故…そうよ」
「刑部様?」
「少し来なしゃれ」



そう言って歩き始めるので私は急いでついていく。輿と言うのはこんなにも早いものかと思っていればひひひと笑われる。以外と半兵衛に似てますねと言えば我は三成の参謀故と返される。成る程。半兵衛と同じだ



「入るぞ三成」
「どうした刑…姫様?!」
「姫からのお願いよ。ぬし、今度の武田舞踏会に同伴しりゃれ」
「は?」
「刑部様!石田様はとても忙しくて。私の御相手などする暇は!」
「その暇を作るのは我の仕事よ。」
「まて、話が見えん」
「これを見よ」
「信玄公が舞踏会?武道会と書き損じたのではないか?」
「いやぁなぁ。ここだけの話」
「?」
「姫を真田と婚約させたいようよの」
「は?」
「のための舞踏会よなぁ。如何する?」
「…」
「あの、お二人で何を」
「秀吉様や半兵衛様はなんと」
「え?ああ。聞いておりませんでした」
「もし、ご許可いただけましたら不肖三成。姫様のお供となります」
「え?あの」
「不遜な輩に姫様を近づけなければ良いのだな!」
「ひひひ。その通りよ」
「刑部様。趣旨が違うような」
「…松殿!」
「用意はいつでも」
「松?!いないと思いましたら」
「用意は万全よ。さぁ我が聞きに行こう。ぬしらは衣装を見繕いなされよ」
「は、はぁ」
「(真田、家康。後あの…まぁ良い。姫様に何かして見ろ!殲滅してくれよう!!!)姫様」
「はい」
「参りましょう」
「い、良いのですか?」
「勿論です」
「(何故だろう。武道会に行く前の様な…)其れは良かったです」





鉛白色





「色は何色しましょうか?」
「一層行くまで内緒で良いよね」
「半兵衛に松に。やけに楽しいみたいですね」
「13歳で裳着して早3年。漸く竹中様以外の御相手。」
「本当にねぇ」
「誰のせいですか。」
「ドレスは薄紅のがあっただろう?」
「え?」
「如何したんだい?」
「あの、松」
「ああ。あの髪留めならば此方は如何ですか?」
「藤紫か。いいね。(何三成くんとの仲そんなに進んでたの?)」
「では靴は此方に(中途半端でヘタレてますのでこれが精一杯でしたがね)」

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紫根色

「姫様」
「あ、石田様。お帰りなさいませ」
「女学校の帰りですか?」
「いえ…その」
「?」
「孤児院の訪問帰りです」
「は?」
「そちらの関係は私がしておりますので…少し問題があって。今日は女学校も早く終わりましたから。学校の近くでもありますし」
「そうなのですか」
「石田様が孤児院とか反対されているのは知っておりますので…」
「はい」
「…申し訳ありません支離滅裂な説明で」
「いえ。ですが」
「はい」
「ある程度なれば兵学校に入れてしまった方が効率的です」
「は?」
「何か?」
「効率性で考えてはならないところです。えっと、ああ!例えば科学に進めば偉大な発明を」
「確率的に致命的に低いことを申し上げているのです。この数百年のうちその様な人物はいませんでした」
「…では言い方を変えます」
「?」
「以前の孤児院では多くが男は兵役に女は売春になります。兵役も鉄砲玉の様な扱いで」
「戦では必要な時がありますので」
「…石田様はやはり軍人なのですね」
「はい。」
「わかりました。」
「姫様?」
「少し寄るところを思い出しました。」
「では一緒に」
「いいえ。私と松で十分でございます。失礼いたします」
「…ですが」
「今から売春宿へ訪問します」
「松?!」
「なっ!その様なところへ?!危のうございます」
「…いいえ。危なくはありません。」
「姫様」
「赤子にミルクを渡しに行くだけです」
「…もう!松」
「いいでしょう別に。男と女では見方が違うでしょうし事情も違います。兵士に暴漢がいるのもまたこの方には理解の範疇を超えていますので」
「どこの部隊ですか?」
「それは内々に。我等が動いております」
「左様か。なれば」
「石田様?」
「やはりお送りいたします」
「助かります。さぁこれを」
「ま、松?!石田様に何を!」
「荷物を持って頂くのです」
「時々貴方がわからなくなります」
「いいんですよ。そう言うものですから」





帝都より少し行ったところの売春宿は捕虜や敵兵の妻。遺児や寡婦の行く末であり一般的な女は近づかぬ場所なのに。姫様がお越し参られると歓声とともに向かい入れられる。何故?と思えば此処の主の嫁御を助けられたからだと松は言う。半兵衛様も知っているどころか巻き込まれたということ。成る程 。刑部の言っていた通り、昔の姫とは違う。あの方は城から出ることはなかった





「あー姫さん!また来たの?」
「佐助様。」
「粉ミルクです。あと医療品と日用品なども」
「悪いね。武田だけでまかなうの大変なんだよ。で」
「?」
「なんで石田の旦那連れてきちゃったの?!!!」
「あら、いけませんでしたか?」
「松!お前わかってやってんだろ!」
「猿飛!説明しろ!!!」
「石田様!赤子がいますから声をあげませぬ様」
「ぐ…」
「あらら。流石姫さん。此処は武田と真田忍び隊が維持してんの。元々ね。まぁひどい有様だったし。たまたまうちの嫁さんと松が知り合いで。その関係で姫さんがこう言うとこの状況知って組織だたせてくれたってわけ。かすがを助けてもらったから命の恩人だし。なにより、さ。お館様も気に入っちゃって。」
「…」
「歯軋りを止めなされ。姫様がご覧遊ばしたら驚き怖がります」
「いやー!もううちの子の所行っちゃった?よかったね」
「弱腰で行けず仕舞いなら他の殿方が掻っ攫っていきますよ。」
「え?何々?!もういいんだったらうちの旦那に!」
「貴様…頭を」
「石田様。松。帰り…何事ですか?」
「ひ、姫様?!」
「虫です。今日の所は帰りましょう。また日を改めて」
「ええ。あ、真田様に宜しくお伝えくださいませ」
「はいはいっと!」
「姫様」
「あと子供達にお勉強頑張る様にと。また参りますね。石田様」
「参りましょう」
「じゃあね。」




そう言って車に乗り込むとバックミラー越しにむすっとした石田様のお顔が見えて驚いてしまう。御不快でしたかと言えば違うらしい。困った。何故怒ってらっしゃるのかわからない



「…真田とは」
「真田様?」
「仲がよろしいのですか?」
「何度かお会いいたしましたが、その」
「何かされたのですか?!」
「いいえ。流石名門甲斐武田を担う方。そのような事はないのですか。伝言のようで話が難しくて」
「…ああ」
「やはり有名なのですね」
「はい。姫様は」
「?」
「あの様な男が好きですか?」
「?!」
「くくく」
「ま、松!笑わないで。石田様も」
「いえ。何かありましたら半兵衛様に御報告せねば」
「竹中様は知っておいでです」
「…松。もう石田様も御揶揄い遊ばさないで」
「…」
「私は兄様と半兵衛に選ばれた方と結婚するはずですから。兄様も半兵衛も未婚を通すみたいですので。私がこうと決めた方などではいけないでしょう」
「そうなのですか?」
「ええ。ですが。せっかく家族になるのでしたら仲睦まじく暮らしたいものです」
「…」
「石田様も!私のよりご自身のことを」
「そう、ですね」






紫根色






「ヘタレ」
「ぐ…」
「どうしたの松君」
「どちらか決めなされ!ふらふらと。」
「…ああ。姫の事かな」
「申し訳ありません」
「良いよ。きっと君も贖えないだろうから」
「っ!」

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小豆色

「やれ姫。」
「あ、刑部様…で良かったのですか?」
「ん。我はそちらの方が反応しやすい。にしても」
「?」
「まるで親の仇の様な顔をして何を見ているのかと思えば…菓子か」
「ええ。牡丹餅です」
「の様よなぁ。」
「そうなんです」
「で何故牡丹餅を苦虫つぶした顔で睨んでいる?」
「いえ、ですね。侍女たちと話していたらですね。石田様が」
「三成が?」
「すっごく食が細くて。あの半兵衛でもかなり食べるので…最初は味や好き嫌いがあるのではと思ったのですが…どうもそうでもなさそうですし。このままでは倒れてしまうと勝手に心配してしまい。昔、兄様に石田様と徳川様がお餅で喧嘩したのを思い出して。ああ、甘いものならと結論が出たのです」
「ああ。あったなぁ。そんな事が。で、牡丹餅か」
「作って後にはたと。私、あの方に嫌われておりますので…」
「は?」
「作ったもののどうしたものかと。侍女たちに頼めば必ず私の名が出るでしょうし。こういう時に兄様も半兵衛もいませんし…」
「ひひひ。」
「こう言う処が駄目なのでしょうね。お気に触るのだと思います」
「そういう訳では…姫」
「はい?」
「自らお作りなさったといったが」
「ええ。下手の横好きですが」
「ひひっ。なれば我が持って行こう」
「本当ですか?」
「あれの体調管理も我の仕事故礼を言うのはこちらの方よ」
「大変ですね。」
「以前は最終太閤に頼んでおったが。ひひ。時折姫に頼まなくてはな。あれば欲に疎い故睡眠もないがしろにする。生き急ぐなというのだがなぁ」
「…息災でいて下さればいいのですが」
「?!」
「刑部様?」
「いや、何。本にそうだと思っただけよ。では持って行こう」
「はい。お願いします。あっこれは刑部様のです」
「我の?」
「はい。…お嫌いでしたか?」
「いや…」
「無理はなさらないでくださいませ。あの」
「ひひひ。本に姫は良いお子だ」
「まぁ。此れでも一応成人済みなのですよ」
「膨れなさるな。まるで頬がお多福よ」
「もう。」
「では行ってこようかのう」





そう言うといそいそと箱の蓋を閉め、風呂敷を包み始める。姫の紋をあしらった其れ。こう言う処が前の姫より抜けていて愛らしい。賢人曰く、情操教育を見直したらしく、豊臣のために人柱となれなど口が裂けても言わなかったらしい。礼を重んじ作法に精通する。学をよくよく行う。其れで今の姫がある。本当に幸せそうに笑う。純朴で素直。あの姫もそう育てていたらあの様なことにはなるまいにと思案して止める。実に馬鹿げた話だ。己が身に降りかかる不幸と同じ。ただ、三成も姫も其れを厭わぬだけだ。今回も下宿を辞退する口実に使おうと思案したものの無意味なことと知る。根が変わっておらぬのだ。姫も、三成も。ただ、片方は朗らかに片方は弱腰になっているだけだ。




「やれ、三成。入るぞ」
「なんだ刑部」
「…また食べぬか。」
「今はいらん。」
「左様か。なれば此れは如何する?」
「何だ其れは」
「さる方がぬしのくわぬ様をいたく心配されてなぁ」
「?」
「此れを我に渡してくれと。」
「…牡丹餅か。左近に与えろ。」
「いいのかえ。」
「何がだ」
「其の紋」
「!」
「御自らお作り遊ばれたものを」
「なっ?!」
「ぬしが食の細いのが心配でいそいそと拵えたものを。良いのだな」
「…」
「我も頂いた。では左近めに持って」
「待て!」
「ん?」
「こちらに渡せ」
「いや何。無理をせずとも」
「刑部!」
「ひひひ。すまぬすまぬ。本にぬしは面白い」
「人を揶揄うな」
「姫が好きなら好きと言って差し上げればよかろう。」
「また傷つけてはいかん」
「左様か」
「…旨い。」
「本に困っておいでであった。ぬしに嫌われていると思っていたからな。昔のままよ」
「だが」
「歪なものが歪なままで続けるより素直になれば活路も開こう。二度と手を離さねば良い話だ」
「貴様だから言うが」
「何」
「私は姫を通してあの頃の姫を見ている。其れはきっと死ぬまで続く。だから」
「其れは今の姫に近づいておらぬ故。今の姫そのものを知らぬのに表面だけ比べてどうする気だ?あの方と根は一緒。姫は姫よ。難しく考えしゃるな。あれはぬしだけの所為ではない。引き金は確かにぬしだったがなぁ。其れに影響する要素が多々ありすぎた。」
「…」
「もうちと大切にしりゃされ。添う添わぬを度外視して。せっかくの縁よ。姫がぬしを嫌うのであればこの様なもの作らぬでなぁ」
「ああ」
「後で礼を考えようなぁ」
「そうだな。…そうしよう」





小豆色






「やれ、姫」
「刑部さ…石田様も?!」
「姫様」
「あ、の!その。私。向こうにいますので」
「お待ちくださいませ」
「っ!」
「す、すいません。その。」
「はい」
「お礼を申し上げたくて」
「刑部様?」
「すまんすまん。ついぽろりと」
「そんな…石田様も申し訳ございません。」
「いえ!その…とても美味しくて」
「は?」
「お礼申し上げます。」
「…」
「手を出し下さいませ」
「え?」
「お気に召すかどうか分かりませんが。」
「髪飾り」
「その美しい御髪によくお似合いかと…姫様?!」
「やれ姫。如何した?」
「なぜお泣きに?お気に入りませんでしたか?私のどこかが恐ろしかった」
「嫌われていると知っておりましたから…食べずに捨てられていると」
「は?」
「すべて食べよったよ。左近にも誰にもやらぬとけち臭く」
「刑部!恐れ多くも姫様が御自らお作り遊ばれたものをあれに渡せると思うか!」
「ひひひ。なぁ。嫌っておらぬよ。ただ、不器用を拗らせているだけよ」
「刑部!」
「本当に、食べてくださりましたか?」
「勿論です」
「嬉しい」
「っ」
「ありがとうございます」
「また、何か作られた折には…是非」
「勿論です!」
「っ」

拍手

東雲色

「箏の音?」
「うん。姫が弾いているのだろう?」
「…」
「やれ三成」
「申し訳ありません。こちらが次の作戦立案書です」
「…いいね。異存はないよ。」
「身にあまるお言葉。不肖三成身命をとして当たらせていただきます」
「その勢いで姫と婚約してくればいいのだけどもね」
「其れは」
「残念だね。前の君と同じ様に今と君も後継者ではなく左腕として生きるつもりの様だ」
「…」
「この世は前とは違う。前ならとっくに死んでいる僕ですら元気だし、吉継君も昔とは違う。何故君はそうまで頑ななのだい?」
「姫様は?」
「覚えていないよ。不自然な程に。一度僕も訝しんでみたけれども…ね。全然尻尾を出さないもの。あれで隠しているのなら其れは達人の域だ。あの子にそんな芸当はできないよ。嘘をついたら泣くんだから。きっと忘れてきているのだと思うし。思いたいね」
「そう、ですか」
「だから昔の姫に操立てしなくていいんだよ」
「あの時」
「ん?」
「姫が事切れた時。彼女は私の腕の中においででした。悲しそうに微笑んで。御苦しかったでしょうに。辛かったでしょうに。其れなのに元凶である私に恨み言ひとつ言わずに亡くなりました。あの」
「三成」
「暖かい、柔らかな姫様が冷たく固いものになっていく様をこの腕は忘れられずにいるのです。尊眼を開けられる事もその口唇で言葉を紡がれなくなる事も。」
「そうだね」
「もう、あの様な事になるのは耐えられないのです。如何かお許し下さい」
「まぁまだ急ぐことではないからね。」
「…」





箏を運んでいると自分の非力さがよくわかる。松は悠々と運んでしまうのにと思えばすごい形相でこちらに向かってくる石田様を見つけてしまう。怖い!自分が一兵卒になった気がして戦々恐々してしまう。



「お貸し下さい」
「え?あ。」
「この様な重いもの。お一人で運ばず誰かにお言いつけください。」
「えっと。はい。わかりました」
「…姫様?」
「ありがとうございます」
「っ!」
「でもどうしてここが?」
「半兵衛様と彼方で執務をしておりましたらお姿をお見かけして…」
「し、執務をなさっていたのですか!申し訳ございません!お邪魔をしていたのでは」
「?」
「箏の音も耳障りではありませんでしたか?」
「いえ。」
「あー…もう私は本当に気が利かなくて。本当に見苦しいところばかり見せてしまいます」
「その様な事はありません。」
「何かあったらおっしゃってくださいませ。もう。家族の様にものなのですから」
「家族?!」
「はい。私は兄様以外同腹の兄弟はおりませんので。家族というのには縁がなかったのです。その折、半兵衛がえー…と同じ釜のご飯を食べて同じ屋敷に暮らしたら血の繋がりなどは関係なくて家族だと言ってくれました。すごく嬉しくて。家族はこうやって増やすことも出来るのだなぁって。本当に本当に嬉しくて…あ!ですが石田様がお嫌でしたら」
「いえ」
「では」
「…資格がないのです。私には」
「資格?」
「箏はどちらへ?」
「部屋、に」
「では先に持って行っておきます」
「…ありがとうございます。」







東雲色








「石田様」
「…松殿。その顔は覚えている、か」
「ええ。貴方が禍々しいまでに狂兵になっていく様まで全て」
「そう、か。なれば」
「何故姫様に辛く当たるのです」
「姫様を私に近づけてはならない。貴方が一番理解しているはずだ」
「ええ。ですが…貴方は姫様を守るといい慈しむといい家族になるといいました。唯一の妻として生涯愛するという契りすら何一つ守りませんでした。」
「知っている。」
「何度貴方を恨もうとしたか。何度姫様の後を追おうとしたか。其れを偏にしなかったのは事切れる最期に貴方を殿と呼んだからです」
「…」
「その時まで貴方の唯一でいたいほど貴方を愛していたのですから。貴方が思っているよりずっと。姫様は貴方の妻になれる事を喜び、力ないご自身の事で苦悩なさっていたのです。」
「そんな事も私は知らなかったのだな」
「また今生においていかがする気ですか?」
「私は」
「先ほど姫が泣いておいででした。」
「なっ?!」
「弱き私がいては目障りなのだろうと。今の姫は昔の姫とは違います」
「…」
「家族にならぬつもりなら中途半端な優しさはあの方を傷つけるだけです。もし、」
「?」
「今生においても貴方が姫様を泣かすのであれば私は貴方を許しはしない。どんな事が起きたとしても貴方を殺します」
「心得た」

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