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変換なしの雑食夢

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言えない三成

農民の私はいつか嫁いで、子を産んで家を守って死ぬと思っていた。今まで通りに田を耕して自然の中で生きる暮らし。そう思っていたのに兄は太閤などという恐ろしい身分になってしまい、はんべーと呼んで話を聞かせてくれた兄の友人は宰相として兄を補佐している。優しい二人は私の知らないうちに恐ろしい人になってしまった。よく笑う兄は笑わなくなり、優しかったはんべーは謀略家の顔になってしまっている。そして突然現れて唯一の血縁と言って私を大阪城のいう大層な城の一室に押し込めたのだ。
恐ろしい人たちに囲まれて私の人生は終わりを告げた。夢見た未来は来ないことを痛感していていたが、現実はもっと残酷で飼い殺しにあっている。兄と半兵衛様の言いつけけ通りに一角の姫君になって豊臣というのしとともに売られていくのだろう。それはそれは仰々しく、滑稽な張りぼてだろうに。




「…」
「失礼するよ」
「…」
「かわいくない顔をしない。君は」
「豊臣の姫君、なのでしょう?」
「そうだよ。まぁ昔から賢かったからそれなりになるのが早くて助かるよ。」
「そう」
「如何したの?」
「畑がしたい」
「畑?」
「村に帰りたい」
「それで、食べてなかったの?」
「わざとではないけど」
「知ってる。君が食べ物を粗末にするとは思えないからね。」
「体が重いの。」
「そうか…じゃあこうしよう」
「?」
「僕の講義に出る代わりに畑を耕していいよ。ただしここで」
「ここでぇ?!」
「ああ」
「こんなに土地が痩せてるのに…まぁいいわ。一人でさしてね。三棟以上よ!」
「はいはい。好きにすればいいよ」
「豆とー葉野菜とー。あと何かしら?ふふふ。」
「楽しそうだね」






そう楽しみだったのだ!ここに菜園を作っておいおい竃を作ろうと思ったのに。





「おい女!」
「また出た!」
「なんだと?!」
「あー!!!!そこ踏まないでください!生姜が!」
「は?す、すまん!」
「大谷さんに差し上げる約束をしているのです。ああ。良かった」
「…刑部にか?」
「生姜湯にしたら病にいいでしょ?石田様にもあげますね」
「…私にか?」
「手が冷たそうですもの。ま、出来るのは大分あとですけど」
「後か!」
「ええ。秋くらいかなぁ」
「…そうか」
「?」
「いや…気にするな!」
「はぁ…あ!」
「如何したの?」
「生姜嫌いでしたか?」
「いや、嫌いではない。」
「無理しないでくださいよ。…またここで何かされるんですか?」
「手紙をしたためる」
「へー」
「貴様はいつまでここに居るのだ?」
「連れてきた方に行ってください」
「…下手間が如何してこんな奥に」
「姫様のお慰みにですって!何度言えばいいのですか!」
「う…すまん」
「大体石田様なんて自室を賜って居られるのでしょう?そちらに行けば如何ですか?」
「ここが良い」
「我儘な…」
「我儘なのは姫様の方だ!散々駄々を捏ねてお前に畑まで作らせておきながら自分は何もせず…東の離れに移ってしまったではないか!」
「はぁ」
「はぁではない!少しは腹をたてろ!」
「本当に石田様は姫様嫌いですね」
「ああ。ああいう頭でっかちな女は気に食わん!」
「そうですか」
「学には秀でているのは流石と言いたいが戦場に出ない奴が覚えても仕方がない話だ。まして私はあんな女を恐れ多くも秀吉様唯一の血縁とは認めない!」
「へー」
「おい!聞いているのか?」
「あまり。あ、石田様」
「なんだ!」
「食べますか?」
「いただく」
「洗ってきますね」
「…ああ」





きっかけは忘れたもののなぜか石田様が入り浸りになってしまった。そして延々と姫としての私の愚痴と家康様の愚痴。兄がいかに素晴らしいかを説いていると言う訳のわからない状態になっている。時折大谷様もいらっしゃるが二人は完全に気がついていないらしい。化粧というのは偉大だ。






「美味しいですか?」
「ああ」
「石田様も酔狂ですねぇ」
「?」
「お忙しいのに」
「い、や。」
「?」
「お前は」
「はい」
「奉公は何時までだ?」
「あー。身内が縁談を決めるまでですかね」
「?!」
「年頃的にはいつあってもおかしくないですけど。石田様は?」
「わ、私は!」
「この間も縁談を断ったと大谷様が嘆いておいででしたよ。あまり無理をさせないでくださいね。」
「…」
「私のような婢女に構うより行くところあるでしょう?」
「わ、私は」
「?」
「その、」
「あー!そろそろ仕事に戻らないと!」
「な?!おい!」
「ではお怪我しませんように!」








言えない三成






「やれ」
「あ!大谷様」
「久しゅうなぁ。これは土産よ」
「?」
「饅頭よ」
「ありがとうございます。お茶淹れますね」
「すまぬなぁ。…時に主に尋ねたいことがある
「?」
「嫁がれるのか?」
「まだ予定はありませんよ」
「左様か」
「何嬉しそうな顔してるんですか?」
「いやなぁ」
「???」

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15年越しに告げる三成

「読んだ」
「ああ。渡しておいた新作か…どれだ?」
「男女問題」
「…恋愛小説といわしゃれ。どうだった?」
「焦れったいを通り越して呆れた。女がとっとと愛している言えば終いだろう」
「情緒のない男よのう。その駆け引きが良いのよ。今の女たちにはなぁ」
「意味がわからん。が」
「ん?」
「最後は悪くない」
「結ばれぬが…良いのか」
「ずっと側にはいられる。そこは好ましい」
「成る程。主らしい。書き直す部分もあるが…大体はこれでよかろう」
「刑部」
「ん?」
「誰が書いた?書き下ろしか?」
「そうよなぁ。」
「?」
「気になるか?」
「気になるの言えばそうだな」
「?」
「何処かで読んだ事がある気がする。が、名前が出ない。喉の奥に引っかかった小骨のようだ」
「ひひひ」
「?」
「本に主は面白い。やはり秘書課を止めて我と共に編集をせぬか?」
「貴様の道楽には付き合わん。大体、期限は後3年だ。そうすれば貴様もまた秀吉様の元に馳せ参じろ」
「しかしなぁ。主の審美眼は良いものなのだが。太閤の膝元には我がおらぬでも十分よ。病弱故。だから主がこちに来い」
「断る!」
「それは残念、ざんねん」
「で」
「?」
「誰だ」
「ひひひっ」
「おい」
「さて参ろうか」
「?」








呼び鈴の音で目を覚ます。ああ、転寝をしていたようだ。ひと伸びしてはーいと返事をする。築100年に近い古民家は文化的価値というより破格の安さが売りだった。おかげでよく声が聞こえる。一軒家を1LDKの値段で借りているのだから致し方ない。しかし、意外と気に入っている。初めて私が手にした自分の城なのだから。ただ。相手が相手なのだ。今でも何処かに黒づくめの男が目を光らせているだろう。適度に自尊心を満たして逃亡させないための布石。本当に嫌な男だ。




「はいはいっと。」
「やれ、嬢」
「あ。大谷さん」
「そのような姿で出てきてはならぬよ。」
「今終わったところなの」
「左様か」
「うん。」
「食べたか?…朝より以前の食事も」
「うんん。」
「ほれこれ」
「うわっ。野菜!」
「主の引きこもり体質にはほとほと困ったなぁ」
「出て行くと迷惑かかるし。」
「左様か」
「幽閉されているようなものよ。…入って大谷さんも食事まだでしょ?」
「実はなぁ。もう一人おるのよ」
「?」
「三成」
「…三成?」
「おい、刑部!ここは…姫様?」
「…久しぶり」
「!!!」
「やれ三成。今嫌な音がした。」
「卵買ってた?」
「ああ」
「残念なことになったね。」
「もったいない故濾して茶碗蒸しにでもいたそう」
「そうだね。三成さん」
「は、はい!」
「…ご飯食べて行きなよ」
「し、しかし!」
「それと」
「?」
「私は豊臣の後継者でもなんでもないから、さ。そう畏まらないで」
「え?あ…はい!」





割れた卵は思いの外ひどい有様ではなくて一息つく。荷物を受け取ろうとするものの、それを許さないのは相変わらずだ。ご飯作れないわといえば嫌々渡してくれる。本当に嫌なのだろう。かおが酷い






「まぁ良いや。座ってて」
「し、しかし」
「大谷さーん。書けたの机の上」
「あいわかった」
「三成さんも連れて行って」
「ですが」
「普通に食べられる?」
「あいも変わらずよ」
「そうなんだ」
「っ」
「やれ、三成」
「あ、ああ」
「そういえばのぅ」
「ん?」
「主のものを三成に読ましたよ」
「えー…。どうせ焦れったいとかでしょ?」
「ああ」
「いえ、その様な…」
「いや良いよ。あれはそういうのだし。三成さん、恋愛って感じじゃないし」
「どういうのか?」
「忠誠」
「…」
「ひひひ。」
「姫様」
「いつの時代よ。」
「嬢」
「私はもう豊臣財閥の姫様でもお嬢様でもないわ。」





あの日。あの時まで私はあの男が好きだった。本当に好きだったのだ。のに、他の男に嫁げという。自分よりふた回りも上の下卑た男の元へ。




「それでも」




愛した男はこの世の誰よりも私を女と見ていた。
使える女と。

全てが嫌になり私はあの家を出た。大谷さんにあったのもつい最近。ここも気に入ってたのになぁと思いながら引越しの手立てを考える。
おくびにも出さずに蒸し器のふたを開けると茶碗蒸しがいつもより歪にできていた



「…あの」
「三成さん?何?」
「聞こえませんでしたか?」
「ん?」
「…私にとって貴方は姫様なのです」
「ふーん」
「以前の様に」
「豊臣には帰らないよ」
「…以前の様に貴方が他の、人を見て」
「…」
「恋していたとしても。私は貴方には笑っていて欲しいのです」
「大谷さん!?」
「ひひひ。残念ながらこの事ばかりは我より三成が先に気づいたのよ」
「あの!?三成さんが!!!」
「私にとって女は貴方だけですから」
「…は?」
「恋しく思う相手の視線の先くらい。私にもわかります」
「え?あ…うわっ!?落とした!!!」
「ひひひ。姦しい」










15年越しに告げる三成







「姫様」
「また来たの?」
「許可は得ています」
「誰の」
「秀吉様の!」
「あーて言いたいこといっぱいあるけど良いや。さっき担当の子がお土産置いていってくれたの。いる?」
「お茶を淹れてきます」
「ありがとう」
「いえ」
「三成さんも忙しいのに大丈夫?」
「はい!」
「…兄様にアドレス教えた?」
「はい!」
「はぁ…寝てないって苦情が来たの。それ食べて帰りなさい」
「ですが…」
「…」
「…」
「…ご飯も食べる?」
「はい!」
「本当に…そっち仮眠室だから寝てなよ。出来たら起こし…顔赤いよ」
「ひひひひひひ」
「私も寝るけど、むさいおじさんも寝てる。一番寝てるのは大谷さんよ」
「…刑部」
「遅筆な私が悪いのよ。さて、と」
「お茶です」
「早くお嫁さんもらいなよ」
「!!!」
「三成さーん」
「…」
「…」
「…」
「…姫様が」
「まだそこまでは絆されんぞ!」
「っち」
「でもまぁ」
「?」
「恋人くらいなら格上げしてあげる日も近いかもねー」
「!?!?!??」






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守る女と三成

美しい女だった。
誰よりも強くあろうと努力を惜しまない女だった。
熱り立つ男共を冷静に抑えられる稀有な女だった。
幼い折より寝食を共にし、秀吉様の為に生きようと誓い合った友だった。


私が初めて共に生きたいと切望した女だった。





「…誰?」
「…」
「お願い。背中に立たないで。見えないから刀を振り回すわけにいかないの」






先だっての戦で目を失った。もうあの美しい両目を見ることは出来ないと今この状態で深く知る事になる。私は彼女の前で柄に手をかけているのだ。本来なら窘められたり、逆に怒られたりするのにそれすら気がつかない。懇願し刀に手を伸ばすことすらできないでいる。
秀吉様の一兵卒としての死。そして戦人であり両目を失った彼女は女として妻として求められる事はないだろうと刑部が言う。戦人故の恐怖と、両目を模した女を求めるものはいないと。それ以上に。半兵衛様が危険であると判断されたのだ。今の彼女は赤子と同然でもし捕らえられ拷問されでもしたら機密が漏れてしまうと。





「?」
「…」
「三成…かしら?」
「…」
「…」
「何故、わかった?」
「ああ。やっぱり三成だわ」
「おい」
「貴方は何も言わないと思ったから。他なら何か言うはずでしょ?用があれば、特に」
「そう、か」
「ありがとう」
「?!」
「もう私は無理ね。半兵衛様にも三行半を突きつけられたみたいだし」
「…」
「戦人としての駒にも人質としての駒にもならないもの。」
「…」
「…泣いているの?」
「!」
「涙の匂いがするわ」
「…殺すように言われた」
「そう」
「だ、が」
「馬鹿ね」
「?!」
「死ねと言われたら私は自分で死ぬのに」
「な」
「あなたにそんな事させないわ」





そういった刹那彼女は髪に挿していた簪で胸を一突きする。
『もし武器も何もかも取り上げられて捕虜になるくらいなら私は私の手で死んでやるわ。この簪はその為のものよ。女っ気とかそういう風に思わないでちょうだい。』
そうった言葉がよりによって聞こえてくる。思い出したくない。聞きたくない。



失いたくない!






「っ!」
「みつ、なり」
「あぁ…血が…」
「喉を突けば、良かったけど」
「何故だ」
「ん?」
「何故、私を置いていく」
「置いて…いないわ。」
「何故だ!何故お前が!こんな、めに」
「三成」
「!」
「三成…手を出して」
「あ、ああ!私はここだ」
「三成の手だ」
「おい」
「…貴方は秀吉様をお支えしてね」
「!」
「私は姿を変えて貴方を、守るわ」
「おい…」
「両眼のないものが側にいたら殺さないで…私だから」
「死ぬ事は許さない!」
「…貴方の子も孫もずっと。石田の護りになるわ。けど」
「?」
「人として、あなたと会うのは。…会う事はこれで最後」
「!!」
「三成」
「何だ!」
「生きて…」
「死ぬな」
「ずっと…貴方の側にいるわ」
「ああ…」
「ふふふ。苦しい」
「!」
「でも最後が貴方…」
「?!おい!!!」
「よかっ、た」






そう言って彼女は二度と目を開けなかった。苦しんで苦しんで、あっけなく死んでしまった。
葬儀も質素に行い土へ帰って行った彼女の墓に行くのが私の平素の日課になった。誰も止めない。止めることができないその行為を私は行った。秀吉様ですら黙認してくださったのはありがたかった。
向かわれが終わった後、不思議なことが起こった。



死ぬ直前に彼女が言った通り両目を喪した動物が現れるようになったのだ。



一度目に現れたのは白い猫だった。

現れるや否や刺客に襲われるのを教える為それらの顔を引っ掻いて無残に切り刻まれた。私はその骸を抱いて盛大に泣いた。


二度目に現れたのは白い鼠だった。

害獣と皆が嫌ったものの、私は側に置いた。
鳴きもしない静かな鼠だった。戦場にも連れて行く有様は皆笑いはしたが刑部だけは違い彼女の名を呼んで可愛がっていた。
幾つかの戦場でその鼠が珍しく鳴いた。何事かと驚き聞いたがただ泣くばかりで私は大いに困った。刑部に聞きに行くかと床を立って刑部の部屋に着くか否かの時。屋敷が揺れた。部屋は燃えていて暗殺を企まれたことを知った。彼女はその炎で燃えてしまった。





三度目は黒い犬だった。
戦場に立つ彼女のように勇敢で良からぬものを押し返していた。
だが私に向けられた毒矢の盾になって死んでしまった



四度目は白い蛇だった。私には寄らず無理やり娶った嫁との間に生まれたこの側にいた。不思議と病はなくすくすく育ったその子の変わりに彼女は瘦せおとろえて代わりに死んだ。


それらを繰り返して子は病なく大きくなり、私は後継者として恐れ多くも太閤という偉大な名の跡を継いだ





「やれ、三成の側になくていいのか?」
「にゃー」
「左様か。ぬしは本に優しい子よな」
「にゃーにゃー」
「ひひひ。本来我の仕事ゆえ。ぬしには感謝してもしきれぬなぁ。」
「にゃ」
「にゃ」
「おい刑部。」
「おお!旦那様のお帰りよ。」
「旦那様?!私達は…おい!如何して刑部の膝に行く?!」
「にゃー」
「ひひひ。悋気よ悋気。」
「にゃー」
「今回は黒猫か」
「あれの髪によく似た色よ。惚れ惚れ」
「ふにゃ」
「愛い愛い」
「…刑部!」
「大人気ない男よ。のう。これは我の死に水を取りに来てくれたのよ。」
「な?!」
「我は一人で死するのが寂しい故。…本に優しい娘よな」
「…何度も命を救われた」
「ああ。主の為に何度も死んだか…だがな」
「にゃー」
「我の為に死のうとするのはいただけぬなぁ。と言っておる。我はこのまま死ぬつもりよの」
「おい」
「我とて主を置いていくのがこんなにも不安とは思わなんだ。…やれ、ぬしも心残りだったよな。我とて同じ。三成よ」
「?」
「我は寿命よ」
「…刑部」
「これのおかげでなぁ。主の命の心配をせずに済んだ故計略に心血を注げた。感謝する」
「バカを言うな」
「やれ、ぬしは我の為に死ぬるなよ。我の為に死ぬるなよ」
「にゃー」
「愛い愛い。」







その話をした次の日寝付いていた刑部は奇跡という所業で治癒し、部屋を追い出された彼女は縁の下で冷たくなっていた。



「本に優しい子よな」
「ああ」
「この骸は我が供養したいが…良いか」
「喜ぶだろう。あれは貴様に懐いていた」
「助かる」









守る女と三成








「おい」
「わん」
「わん以外言え」
「やれ三成」
「昨日夢で言っただろう」
「…夢は夢よ」
「それでも」
「?」
「私はこいつの声を聞きたいのだ。」








天下は太平。私は隠居となった。孫の顔を見れるとは思わなかった。
その時の彼女は白い犬だった。





「本に好きよな」
「当たり前だ。私は嫁にしたかったのだ…おい。欠伸をするな」
「わふっ」
「きちんと話を聞け」
「踠いておるよ。やれこちらにきりゃれ」
「きゅーん」
「愛い愛い」
「刑部!」
「本に」
「?」
「長く生かさせてもらった」
「…」
「のになぁぬしは子をなさず、三成のため生き死にを繰り返したなぁ。」
「わふ」
「ひひひ。頑固故本来の天命まで生かすつもりか」
「わふ!」
「この憎い可愛き者よ」
「おい」
「老齢でも悋気か」
「こちらに来い」
「…」
「おい」
「わふ」
「御手ではない」
「わふ」
「伏せではない」
「わふ!」
「おい」
「姿が変わっても変わらぬなぁ。」









その晩私は、自分の天命を知った。急な心の臓の病か。苦しんでいるとあいつが来た。



「わふわふ!」
「急な、事だ」
「わふ!」
「泣く、な」
「わふ!!!わんわんわんわん」
「誰も、呼ぶな」
「きゅーん」
「天命だ」
「…」
「お前と二人が、良い。」
「…」
「私は幸せ、だ」






ぽろぽろと犬の姿でなくあいつは昔と全く変わらない。
美しく、強く。優しく、愛おしい。


私の唯一の女だ。




きっと次に目を覚ました時には美しい彼女がいるのだろうなと思って私は笑うのだった

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ツンデれる三成 5

「…誰もいないな。…入るぞ」
「すぅ」
「寝てるのか?…だから誰もいないのか。」
「…ん」
「?!」
「すぅ」
「…寝言か。(まだ熱も高いな。汗が酷い。ついている奴に言って着物を着替えさせないと)」
「…ち、うえ」
「?」
「母上」
「魘されているのか?」
「死な、ないで」
「(そう言えば両親や家を戦で失ったと言っていたな)」
「私を、一人にしないで…」
「心配ない。…手を取るぞ。決して疚しい心があった訳ではないからな。私がお前の傍に居る。刑部も居る。決してお前を孤独にしない。だから…泣くな」
「…」
「お前の泣き顔は私の心を傷付ける。だから見たくない…起きたの、か」
「…」
「(寝惚けているな)心配ない。側にいる。寝ろ」
「…いちた」
「!」
「会いたかった、一太」
「?!!!?!?!?」









目を覚ましたら泣いていたのに気がつく。父も母も…一太ももう居ない。やっぱり夢だったかと思いながら涙を拭っていると起きたの?という同僚の声が聞こえる。ただ、笑っている顔はどこかぎこちなくて引きつっているようにも見える。如何したのと言いたいが声は出ない。すると刑部様が来たらしく同僚は何やら話して出て行ってしまった。刑部様は窒息死寸前だ。




『何を笑っているのですか?』
「ひひひぃ!」




笑ってこちらを見てくれないので私は仕方なく彼らの視線と先を見る。




見るのではなかった。






「や、やれ。ぬしの部屋は台風でも通過したか?」
「…」
「ひひひぃ!」
『笑いすぎです』
「いやしかし。いなくなったと探していたら主のところに忍び込んでいたとは…ひひひ。艶っぽい話にもならず部屋を切り刻むのは本に三成らしい。ぬしに気づかれずな」
「…私の給金は幾らくらいになるのでしょうか?」
「ん?」
「他家へ給仕いたします。」
「其処が滅びるわ」
「はぁ。熱があがります」
「そうよなぁ。して」
「おい!!!!!!」





小気味のいい音を立てて殿様が現れる。言いたいことはごまんとある殿様はかなり憤慨しな様子で刑部様にまくし立てている。本当に他家へ給仕したい。



「本にお主は待つことが出来ぬな」
「早く聞け!」
「…自分できかしゃれ」
「…」
「…」
「お、い」
「はい」
「一太は誰だ」
「一太?」
「…ああ」
「………何故、殿様が知っているのですか?」
「ん?」
「殿様には関係がありません」
「っ!」
「一太の事を知る為にこの様な事をなさったのですか?」
「は、いや!違…」
「やっぱり出て行きます!!!」
「ま、待て!熱が上がる!」
「何処ぞで死に絶えたとしてももうここには帰りません!」
「寝ていろ!私が悪かった!」
「殿様なんて大嫌い!!!!!!!」
「!????!?!???!!」
「当たり前よなぁ。」








ツンデれる三成 5






「まぁ怒られるな」
「…殆ど支給品ですので別にいいのですが」
「我とて主がいなくなるのは寂しいさみしい」
「!」
「老い先短い我の願いよ」
「…刑部様、殿様と確か同じ年の生まれでしたよね」
「ひひひ」
「…」
「にしても三成が悋気とは。随分と人らしい」
「悋気って…」
「にして一太とは何処ぞの馬の骨か」
「?」
「我とて妹然の主が良からぬ輩に手がわれるのは些か…事と次第によっては相手を…」
「飼い犬です」
「人か?」
「飼い犬が人の訳ありません。犬です。しかも雌。適当でズボラな父が一太とつけてしまったのでそれ以外反応しなかったらしく…」
「…」
「何か?」
「存外ぬしも大変よ」

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ツンデれる三成 4

「…おっと」
「さこんさま?」
「ほら本気でやばいって!」
「まだだいぢょうぶ!」
「大丈夫じゃないよ!ふらふらじゃん!」
「はなせー。」
「ああ!もう」




ふらふらのまま廊下の掃除をする。きっと今熱はひどいことになっているだろう。涙目だろうし。かといって掃除をサボる訳にもいかない。左近様がいささか邪魔だか取り敢えず廊下ふきを続ける。邪魔なので容赦なく邪魔と言いながら。






「やれ左近。」
「刑部様ー!ダメっすよ!全然言うこと聞いてくれないっす!」
「ぎょうぶさま。いまおちゃを」
「よいよい。ぬしはまだ止めぬのか?」
「なにかおちどが?」
「無いよ。だがなぁ。」
「?」
「本にぬしの体が心配よ」
「ぎょうぶさま…!」
「ということで休まれよ。三成」
「え?!」
「行くぞ」
「うっわ!はなしてくださいませ。いつのまに」
「馬鹿か!熱が出て土色の顔をした女をそのままにして置けるか!」
「歩けます!」
「貴様の足では日が暮れる!どうせ真っ直ぐ歩けんだろう!」
「う…」
「み、三成様。もう少し優しい言葉を」
「何がだ!早く…ん?」
「うぐ…」
「な?!」
「はてさて。どうすれば三成にわかろうかのう?」
「ぎょ刑部!!!」
「我の輿にきりゃれ。送る故。」
「ぎょうぶさま」
「裏切る気か刑部!!!」
「ぬしのいう台詞か…大事無いか?」
「あい」
「寄越せ!」
「寄越せと言われてもなぁ…犬や猫でもあるまいに」
「ぐ…こちらに来い!」
「…」
「はてさて、困ったなぁ。」
「私が看病する」
「けっこうです」
「…心配なのよ」
「当たり前だ!何かあったら如何する!私が想うこいつが…」
「…殿様」
「その、だ。…刑部の輿ではお前は運びにくい。こちらに来い」
「…」
「ひどい熱だ。もう何でもいいからこちらに来い!」
「…」
「如何する?」
「へやのまえ、まで」
「!わかった!早くこちらへ来い!」
「三成。雄弁は銀よ」
「…わかっている」






大谷様の輿の上にいたのでおずおずと手を伸ばすと殿様の手がそれを掴む。ほとんど食べないくせにと思ってもやはり殿方だ。大きくて冷たい手だった




「あ」
「?!」
「笑いよったなぁ」





不覚にも安心してしまったのは人生史上初の高熱のせいと思いたい







ツンデれる三成 4






「三成よ」
「なんだ!」
「ぬしはお産を待つ夫か何かか」
「?!」
「…訂正する。熱が出て寝込む妙齢の娘の部屋の前に陣取るな。他の侍女たちが恐ろしがって迂回する羽目になっておる」
「あれが元気になるまで執務はここでする」
「やれ」
「なんだ?」
「あれからの手紙よ」
「何?!…部屋に帰れと書いてある。おい!何故だ!!!」
「いかぬよ。今喋れぬ程度に喉を痛めている…ふむ。三成」
「な、何だ?!」
「ぬしの執務は滞り無いよの」
「当たり前だ!」
「為れば蜂蜜を買ってきりゃれ。花梨があったはずよ。漬けて飲ませようかのう」
「行ってくる!左近!!!」
「準備バッチリですよ!」
「行ってくる!」
「気をつけてなぁ。…行った行った」
「ありがとうございます、刑部様。あのままおられましたら休むこともままなりませんでしたでしょう」
「ほんになぁ。空回るのよ。この後花梨漬けを作らす故しっかり寝られよと伝えてくれ」
「はい。ああ。嬉しそうに手を振っています」
「本になぁ。早う良くなれ」

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