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変換なしの雑食夢

ran

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死屍累々 13

「三成!」
「刑部か…如何した?」
「…」
「書類はそこだ。」
「やれ三成よ。随分と落ち着いているようよな」
「さてな」
「ひひひっ。昔の主を見ているようよ」
「そうか」
「なら、いい事よなぁ。」
「心平静で秀吉様の為に命をかけて生きるのが私の最上だ」
「主のそれが、あれの命の上に立っているのなら、な」
「…は?」
「ぬしは本に何も聞いておらぬな。まぁ致し方ない。…あれは自害した」
「じが、い?」
「今遺体を運び出しているところよ。」
「何故だ!里に」
「あれは一度里をでれば帰れぬ宿命よ。」
「刑部!」
「何よ」
「はっきり言え!」
「はてさて、あれの家は少々特殊よ。女子でも一兵卒とて…いやそれ以上よな。訓練されておる。そんな女子を一つの駒してそばに置いたり、そばに送ったり。あれの姉は毛利に送られ…あれの弟にあたる。それを暗殺した。あれは…有事の際主の盾になるようにと守り刀として賢人が選んだ。ただ、誓約として生きて一人で此処を出る事はないと両家で取り決めてある。」
「…」
「主が離縁し、此処から追い出したのだ。誓約として…あの真面目なあれの事よ。自刃したのよなぁ。賢人の前で…喉をついたそうよ。苦しんでいた所を」
「…いい」
「ん?」
「もう、いい」
「左様か」
「奥、は?」
「はてさて、主の奥はそこな部屋よな」
「ちがっ!」
「あれは主が手放した故、もう我らには関係ない」
「!」
「今生の情よ。今、賢人と無縁墓に葬る支度をしておる」
「何処、だ!」
「さてなぁ。北、よ。主とあれの今生の別の部屋よ」







走って北へ行く。何故、如何してはなく。ただ、奥に会いたいと。最後に会った部屋。何食わぬ、いつも通りの無表情でいた奥が何処に行ってしまったのだろうと思って周りを見渡すと半兵衛様を見つける。黒い砂利石の上に立って半兵衛様は少々面倒な顔をして私をご覧になられる。ただ、その足元は洗い流されたと言っても残る血の跡と蒸せ返るその匂いに満ちていた。





「お、く?」
「きたのかい?まだ済んでないんだよ」
「半兵衛様」
「彼女らしいよね。掃除のしやすい砂利の上で自害するなんてね。」
「発言、する、許可を」
「良いよ。」
「奥は?」
「君の部屋だろう?」
「いえ…半兵衛様」
「…君は、その純粋な白さが魅力的だけど。こうなると可哀想でもあるね。今の、まぁ。まだ許可していないから遊び女の一人だけど、五島に何て言われたんだい?」
「私が、奥を、壊してしまうと」
「ふーん…」
「半兵衛様?」
「里から来た侍女で、ましてや姉妹である彼女が誓約を知らないとは思えないね」
「…!」
「まぁ、過ぎたことだよ。表向きには病死にしておくよ。正室は喪中は空座だ。」
「お待ちください!」
「何だい?」
「今、何処にいるのですが?」
「ああ。もう埋葬したよ。」
「?!」
「というか投げ込んだというのが早いかな?」
「半兵衛様…」
「冗談だよ…ただね、豊臣とはもう無縁の仏だよ。君には関係ない」
「半兵衛様!」
「…血の涙を流すほどなら最初から手を合わせて生きて行けばよかったんだよ」
「っ」
「彼方」
「奥…」
「もう直ぐしたら…いや、良いさ。」
「半兵衛様」
「最後の別れだよ。僕も恩も義理もあるからね…あっておいでよ」
「許可」
「いいよ。早く」





指差された場所には荷車に白い布がかけられている。
めくる勇気がない。




あの下にある事実を認めたくはない





「奥」




痩せてしまった容貌に首に巻かれた白い布が赤く染まっている。
正反対に、血の気の引いた青い顔。私はそれに触れる。





「おい、起きろ。奥。起きないか…」




『貴方にとって無数ある花の中の一番出来損ないでしょうが私にとって唯一の旦那様ですから』




「貴様は私にとって美しい花だった。枯れてはならないと大切にしたいが仕方の分からぬ私は他の花にばかり気取られて…大切な花を蔑ろにしていたのだな。」






『ですが、楽しい人生でもありました。私としては精一杯生きましたから…ここで生死別として別れたとしても未練はありません。』





「私は後悔と未練ばかりだ。…奥、起きてくれ。」





『旦那様』






「奥」
「三成君…」
「奥!!!!」
「もう時間だ。」
「ま、て!連れて行くな!!!」
「頼んだよ」
「待て!待ってくれ!!!奥!!!!奥!!!!!!!」








死屍累々 13









「三成君は?」
「昔以上によく仕事をしておるよ。」
「食べず、寝ず…ね。」
「致し方あるまい。あれが元凶故」
「手厳しいね」
「五島という女も処分した。彼れに正妻はやらぬ、やらぬ」
「まぁね」
「主とて…」
「看病してくれたことかい?そうだね。口煩いし…でも優しい良い子だったね」
「ひひひ。」
「秀吉はこの件僕に預けてくれたよ」
「左様か」

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死屍累々 12

朝、左近の騒がしい音で目を覚ます。昨日は久々に褥を共にしたせいか瞼が重い。何よりも初めて見た奥への涙と苛立たしさの為に呼び寄せた五島を抱いた事への罪悪感とで気分が頗る悪い。不意に横を見ると寝ている五島。よく、似ているのだ。私の奥に。


『姉に恋をしていらっしゃるのでしょう。私を姉だと思ってくださっても構いません』



口からついて出た愁傷な思いと裏腹に求める所は大きな女だ。衣服に宝飾品。全く奥とは違うのだ。






「探せ!」
「今侍女たちが探しています!ただ、此処は大きいんっすよ。絡繰も多いから怪我してないか心配で」
「門番がいるはずだ!それに聞け!」
「あ!そっか!!!流石三成様!俺も行ってきます!」
「ふんっ!」
「三成、様?」
「早く着替えろ」
「姉が怪我をする事などありませんよ」
「…如何いう意味だ」
「あの人はただの…いえ。私から言う言葉ではありません。竹中様か大谷様に聞けばすぐに教えてくださいましょう」
「…」
「きっと、北へ行ったのでしょう。この部屋と姉の部屋はすごく近いから…」
「っ!」





その時初めて気が付く。白痴と言うには余りにも稚拙で、残酷な行為を私はしていたのだ。




「北」
「三成様」
「奥」
「私を姉だと」
「違う!触るな!!!」
「なら、何故」
「何故」
「姉を愛さないのですか?」
「愛す?」
「三成様?」
「愛するなど…私に理解できるはずもない」





絶望しなくてはならない。恋慕親愛の類の情を私は理解しかねる。幾ら、あれを思っても私はどうすればいいのかすら、解らず終いだ。慈しみ大切にする事以上に傷付けて壊してしまう事しかできない。


私は、あれを、どう、したい?






「貴方様は姉を見た瞬間に恋に落ちたのでしょう?」
「黙れ」
「でも、どうすれば分からない。大切であればある程貴方の両腕は姉から遠のく。傷つける事しかできませんもの」
「黙れ!!!」
「だから、私が丁度いいのですよ」
「何、を」
「姉と似た外を持つ、大切でない女の私が」
「…」
「傷つきもせず、壊れませんよ」
「…だが、貴様は奥ではない」
「ですから…私を奥にしてしまえば姉を貴方が壊さずに済みます」
「!」
「声も匂いも何もかも姉そっくりな生き人形でございますよ」
「っ」
「さあ、私の腹にあなたの稚児を、旦那様」









死屍累々 12










「…」
「此処にいたのか」
「…」
「また喋らんつもりか…まぁいい」
「?」
「離縁状だ。」
「はい」
「…此の期に及んで無表情か」
「長らくお世話になりました」
「…」
「五島を宜しくお願い申し上げます」
「あれを正室におく」
「はい」
「今すぐ、この大阪城から出て行け」
「あいわかりました」



そう言って私は一礼すると立ち上がる。いるものは少ない。嫁入り道具はそのまま五島のものとなるのだろう。荷物なんてあってないものだ。そして顔を上げると旦那様はもういなくなっていた。


あっけのない話だな思いながら笠を探す。いや、これも要らないか。




「間に合ったかい?!」
「竹中様」
「間に合った!」
「いえ、離縁状はいただきました」
「君がいればなんとかね…にしても行くあてが有るのかな?」
「さぁ。…お約束通りなら西に参るだけですよ」
「そうだね。でも…君はそれでいいのかい?」
「いい悪いも。一人で生きて大阪を出られず、と仰ったのはあなた様です」
「…」
「覚悟は出来ておりますよ」
「待ちたまえ!」
「介錯を」
「っ!!!」

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死屍累々 11

「三成とあれはどうだ?」
「んー…知らないみたいなんだよね。説明したと思ってたけど忘れてたかな?」
「そうか」
「別にそれはそれで良いけど…なんだかね」
「如何した?」
「何でもないさ。…思い過ごしだろうからね」



庭に出て花を摘むと旦那様が現れる。明らさまに嫌そうな顔をして、歯ぎしりをして。そこまで嫌ならこっちに来なきゃ良いのに。そう思いながら私は一礼してその場立ち去ろうとするものの腕を掴まれてしまう。振りほどさずにいればあからさまにホッとした顔をされるので私は少しイラっとして掴まれた腕を見る。この人は何がしたいのだろうか


「離してください」
「…だな」
「?」
「食べてないそうだな!」
「貴方様も。」
「私は良い!だが、貴様は病み上がりだろう!倒れるぞ!!!」
「大丈夫です」
「何を根拠に…」
「旦那様?」
「毛利が居ないからか?」
「何故そこに松寿丸様の名前が出て来るのですか」
「あいつがいた時には食べていたからだ!」
「言うほど食べておりませんでしたよ。」
「嘘をつくな!」
「偽りを申して如何するのですか」
「貴様は、嘘をつくからな!」
「あなた様は何をおっしゃりたいのですか」
「…貴様は私にではなくあれに嫁したかったのだろう。」
「好いた腫れたで正室は嫁げません」
「其れで…。仕方なく私の元に来たのだろう」
「…」
「何か言え」
「仮に、そうだとして何か問題でも?」
「なっ!ない!問題など無い!!!」
「ならば良いではありませんか」
「そういう話ではない!」
「貴方様も」
「私がなんだ!」
「惚れた腫れたで私を娶ったわけではないでしょう」
「!」
「例え、昔の初恋に怒られようとも私はここに嫁いでこの方貞節を守ってきております。」
「おい」
「そんなにお嫌いならば郷にお返しください」
「貴様は!恐れ多くも秀吉様から命じられて娶った妻だ!私情で別れられるか!」
「…命じられたから、ですか」
「!?」
「わかっております。あの誓約もなにもかも私情がひとかけらも入っていない事を」
「泣い、て」
「私は」
「!」
「確かに無表情ですが、心がないわけではありません。泣きますし怒りますし、嫌うこともあります」
「…」
「一々言わなくともわかっております。私は正室としての務めを果たしますれば、安心してくださいませ。側室も太閤殿下の許可がおりましたらお好きにしてくださいませ。」
「側室など!」
「以前仰った話は聞かなかったことに致します。一時の気の迷いを言質にする事はありません故御心配致しませぬように」
「何故だ!何故」
「…」
「私は貴様でなくてはならないと言ったはずだ!何故…私を裏切るのか!!!」
「失礼いたします」
「奥!」








死屍累々 11







『本当にこの子が男だったら』
『致し方ない。ただの家ではないからこそ女子のこれにも活路がある』
『にしても、殿様があまりに熱心で御座いますから顔が…』
『ああ、それなら他の姉妹をつければ良い。幸い器量は良いが才能が褥しかないのがいたはずだ。それを侍女にしておいて後に側にしてもらえば良い』
『良いですか?父上に言われた通りなさいなさい。我らはこうして今の世を生き抜いているのですから』





如何言って笑う母の顔が歪む。
夢、だったのかと思ったのは飛び起きて後で、冷や汗で濡れた寝着が肌張り付いて気持ちが悪い。着替えるかと床を離れた瞬間声が聞こえてくるのでそちらに顔を向ける。旦那様と五島の声。帰ってきた途端なのだから仲の良い事だと思う

きっと私は無表情だろう。


五島やほかの姉妹、女子たちの一部でも良いから表情を作れば良いのにと嘆くことがでくたらばどんなに楽だろうか



「着替えよう」



益々大きくなる嬌声。やはり、この部屋は五島にやって私は北へ向かおう、

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死屍累々 10

「奥方は毛利に懸想しておったか?」
「はい」
「…」
「…」
「否定、せぬのか?」
「していかがいたします?信実そうでありましたし、今でも淡い初恋は初恋ですので」
「似合わぬなぁ」
「まだ前髪も上げておりません折の話です」
「左様か。主もそのような時があったか」
「私の赤子でしたし、成長して大人になって老いて死にます。」
「ひひひ。本に今は美しき時か?」
「若いうちが美しいというのは男の勝手で御座いますよ。老成しても美しい人はたくさんおりましょうから」
「主らしい」
「さて大谷様。そんなことより衣装の丈を見せてくださいませ。新しい衣を誂えませんと」
「主も好きよなぁ」
「嫁いだからには出来るだけ安らかにお過ごしいただきたいのですよ」
「我は主の夫ではないがな」
「我が夫とは病の折より会っておりませぬ。またどこぞでなんぞしておられるのでしょう」
「冷や冷た」
「あちらには手紙を書きましたが真っ二つに切って送り返されました。」
「何かの間違え」
「お見せいたしましょうか」
「三成め」
「私の名も出さぬ方がよろしいかと。島様曰くご機嫌がすこぶる悪いとおっしゃっておいででしたからね。それに周りから何も言ってこないところを見るとお元気なのでしょう。なにより、旦那様は私がいない方が宜しいようですので」
「其れはないと言いたいが…」
「お気遣い忝なく思います。松寿丸様の事も内通などはありませんし、ましてやこの私が毛利家に嫁げるはずもない事はあなた様が良くご存知かと」
「何故、そう思わしゃる」
「そう返すからですよ」
「ひひひ」
「平々凡々の我家から此方に嫁げたのは私達の生業のせいで御座います。それを知らぬあなた様ではありますまい」
「さて、なぁ」
「別に良いのですけどね。さぁ、丈は取れましたし直ぐに直しておきます。ああそれと。太閤殿下の命で此れから竹中様のとこに参ります。」
「またか?」
「ここの軍師様方はご自分の体を軽んじられまするから。大谷様も食事をきちんと済ませてくださいませ」
「あい、わかったが…」
「?」
「主もくわしゃれ。痩せてきておる。」
「…あいわかりました」









死屍累々 10








「半兵衛様、お呼びでしょうか?」
「ふふふ、忙しいところ悪いね。」
「いえ…奥?!」
「一昨日より看病してくれてね。少し疲れが出たみたいだね。珍しく寝てしまったよ」
「…」
「あの机の上にある書類を頼むよ」
「は、い」
「内心穏やかではないかな?」
「い、いえ!」
「ふふふ。大切にしなさい。此れはただの女ではないからね」
「は?」
「君の懐刀になるはずだよ」
「???」
「あれ?聞いていないのかい…彼女は」
「…竹中様」
「っ!」
「おっと。時間切かな」
「少し寝てしまいました。申し訳ございません」
「構わないよ。丸2日寝てなかったのだからね」
「…お茶をいれて参ります」
「お、おい!待て!!!」
「っ」
「食べているか?!隈は仕方がなくとも痩せすぎだ」
「…」
「何だ」
「あなた様に言われるとは不覚と思っているのです」
「な?!」
「…失礼します」
「おい!待て!!!」

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死屍累々 9

「…」
「おい」
「はい?」
「調子はどうだ?」
「もう完治してます」
「医師」
「まだまだです!」
「…」
「貴様は!何度言えばわかる!!!」
「飽きたのです」
「貴様!!!!!」
「やれ、はい…何を叫んでおる三成よ」
「刑部!こいつが私に!!!」
「飽きました」
「可愛くねだりしゃれ」
「…」
「…」
「治りました」
「何も変わらん!」
「ひひひ。無理か、無理よな」
「刺繍糸でも頂けたら」
「そうやっているから熱が下がらんのだ!!!学習しろ!」
「…」
「飯も食えずにいるだろう!」
「やれ、奥方。ああ、そうよ。三成。毛利がまた来ているが」
「何?!」
「松寿丸様が?」
「通しゃるか?」
「許可しない!!!!!!」
「…」
「無表情でみりゃるな」
「…」
「な、にかいえ!」
「…」
「黙って寝るな!」
「…」
「っち!好きにしろ」
「良いようよ。」
「姫!」
「松寿丸様」
「労しい…我の元にいたらこんなことにはならない!やはり我のところに」
「風邪がうつりますよ」
「うつるものか!」
「貴方らしい」
「頭か?胃か?」
「…」
「頭だな。おい!大谷、医師に頭痛薬を持って来させろ」
「あいわかった。にしても襷とは何事よ」
「手拭いも…きちんと変えろと言うておるのに。乾いておる」
「面倒で」
「相変わらずよ…水指しはどこだ」
「…」
「貴様ら!!!揃いも揃って何をしている!!!!!」
「黙れ!」
「姫を殺す気か!看病もせずただ見ているだけとは!」
「松寿丸様…落ち着いて」
「姫!我の策に抜かりは無い!早々に治してやろう」
「貴方様も大国の主。そう長々と国元を離れてはなりませぬよ」
「な?!」
「ひひひっ。ぬしが女に尽くすとは」
「姫だ!」
「姫は姫和子と妹ですよ。私は野武士とか護衛と言われていたではありませんか」
「馬鹿を言うな。我は一度も言ってはおらぬ。そなたは我の姫君よ」
「お戯れを」
「…薬を飲んで寝ていろ!不愉快だ!」
「旦那様」
「やれ、三成よ」
「ふん」
「貴様などどうでも良い。姫、味噌汁を作ってきた。」
「あら…懐かしい」
「!!!!!」






死屍累々 9









「もう安静にしていたら2日3日で完治ですね」と医師に言われてわたしはほっとする。漸く溜まった仕事ができると思いつつ看病して下さった松寿丸様を見る。よかったなと言われるので私も静かに頷く。




「無理は禁物ぞ」
「はい」
「…やはり妻になってほしい」
「奥方様がいらっしゃるでしょう?」
「あれは」
「正室は家と家との結びつきと良く母が言っていました。己の好き嫌いではどうにもならないと」
「…」
「其れが理解できていない貴方様ではありますまい」
「だが…幼き時の約束は忘れたわけではあるまい」
「忘れておりません。…忘れられるはずもありません」
「姫」
「私は其れだけで生きていけます。もう貴方様も私も昔とは違うのですから」
「…」
「もし、ここで死んだとしても私は誰も恨みませぬ」
「石田とは…」
「…良く、わからないのです」
「?」
「厭われておりましたのに…急に側に来られるようになりました。」
「そうか」
「これも嫌がらせの一環か否か、私にはわかりかねます」
「…もし」
「?」
「何かあれば我のところに来い。」
「…はい」
「姫」
「松寿丸様?」
「愛しておる。愛しておったとは 言い辛いが」
「私も」
「このまま安芸に帰る。息災でな」
「貴方様も」

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