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変換なしの雑食夢

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芯を真に清して進す 5

「思った以上だ」
「?」
「寝ていろ」
「これが、済みましたら」
「先ほど聞いた」
「ですが…殿下のおわす大坂において」
「今は滞りない。心配するな」
「…」
「筆は洗っておく。寝ていろ。」
「石田様」
「何だ?」
「寝ておりますから…その」
「そう言って寝ないだろう。嘘を言うな」
「本当に休みます。…石田様こそ休息を」
「?!」
「如何、いたしましたか?」
「何、でもない」
「あ、の」
「が、他のものの前では言うな」
「?」
「感違いする輩が出てくる」
「…」
「寝ていろ。机を借りる。あちらで書類を纏める」
「え、はい」
「(気が付いていないか)」
「……あ、の」
「?」
「石田様」
「何だ」
「私がここに来た理由をご存知で御座いますか?」
「いや…何の話しだ?」
「私は、貴方様にそう大切にして頂けるほどの価値がないです」
「?!」
「私は」
「…」
「…」
「おい」
「?!」
「昔の私は、脆弱だった。だが今は秀吉様の一兵卒として存在している。…昔は昔。今は今だ。言いたくないことまで言わなくていい。」
「っ」
「私は私が知る限り、お前のことを良いと思う。それで十分だ」
「わ、たしは」
「…ああ」
「私は」
「泣くな…落ち着け」
「おもちゃ、でした」
「…は?」
「男の、玩具でした」
「…」
「年端もいかぬ女の子を集めて、甚振り、切り刻み、悦にいる。そんな男の玩具でした」
「っ」
「ある人、私は攫われたそうです。と言っても私の初めての記憶は臭く汚い小屋で徒と泣いていたことですから攫われたと言われても最初はよくわかりませんでした。…目の前で幾人もの徒が、殺されました。私は…何故か気に入られておりましたから。食事や日々の世話をしていましたので気分で殺される事は有りませんでした。…ただ、毎夜毎夜が恐ろしかった。」
「…」
「子供ではなくむりやり暴かれて女になるこの身体が今でも憎いのです。あの日、あの時、唯嵐が去るのを堪えるしかできなかった己が憎い。生父母の嘆願によって秀長公が動いても居所が掴めるだけでした。殿下と竹中様が助けてくれて初めて私は私の生父母の顔を見ました。あの時の事は今でも忘れられません」
「そうか」
「一年、療養と教育の為彼方でお世話になりまして大坂に参りました。後は貴方様のご存知の通りです」
「…」
「私は」
「…」
「貴方様に嫁げるような者ではありません」



そう言って私は布団の上で座り、平伏をする。この話をした以上ここにはもういられはしないと思いながら。
すると石田様は何故が立ち上がりもせず、私の顎に触れ、無理やり顔を上げられる。息を飲む。自分の喉が鳴るのが聞こえてくるようだった。私は、ここに居てはならないのだろう。出て行けと言われても仕方がない。
銀色の瞳が細められる。恐ろしい反面、美しいと思うのだ。この人は。只々白く清く美しい。






「月瀬は」
「は、い」
「お前の名だ。恐れ多くも初陣の褒美として私が秀吉様に御願いして付けた名だ」
「は?」
「…余りにお前が秀吉様が付けてくださったと喜ぶものだから言い出せなかった。許せ」
「い、え。それは…その。あまり良い思い出が有りませんでしたから」
「月は私を初めて会った折お前が似ていると言ったからだ。」
「?!」
「瀬は私の故郷の湖だ。それでだ。…月ヶ瀬にしようとしたら刑部に露骨すぎると。がを隠して月瀬にと」
「え、ええ。私もそうとは聞いております。理由は聞いておりませんが…元々月ヶ瀬だけど月瀬にしようと言われましたから。月ヶ瀬は梅の名所だから、大和の梅が大坂にと」
「瀬は背…でもある」
「!」
「色々他にあるが…要約すると私がお前の伴侶でありたいとある意味願を掛けた名だ。」
「あ、」
「重いだの露骨だの散々言われたがそれ以外思いつかなかった。秀吉様も同じ梅ならいつかは大阪の梅になろうと。そうなったら名実ともに妹背となるだろうからと…そう思っていた」
「知りませんでした」
「当たり前だ。今初めて言った」
「でも、如何して?」
「私はお前に会った時より、お前を好いている。それは今も変わらん。」
「ですが…」
「変わらんと言っている。」
「…」
「あれが、離反した折」
「石田様?」
「憎悪にまみれ、雨の中慟哭しか出来ない私の元へお前はなれない馬に乗って迎えに来てくれたのを覚えているか」
「迎えに行ったというか…ご迷惑をおかけして」
「…否定は出来んが、抱きしめて泣いてくれた時。私がどれ程救われたか」
「…」
「私の道は秀吉様と半兵衛様が示してくれる。その道を刑部が案内してくれる。…その道に立って前を向いていられるのはお前がいつの後ろにいるからだ。出会った時から、何度もお前に救われた。その事は紛れもない事実だ」
「!」
「お前が私を厭うのならば仕方がない。が、そうでないのなら」
「石田様」
「私の妻になってほしい」
「…」
「…」
「…」
「無理か?」
「あ、」
「…すまない。体調も戻らないうちに。…横になれ」
「う…」
「刑部によく言われる。堪え性がないと。すまない」
「ち、が」
「?」
「ちが、うのです。私が!」
「如何した?」
「私が、あなた様の隣にいても、いいのでしょうか」
「?!」
「石田様?」
「隣に、いろ。私自身が望んでいる」
「!」
「早、く肯定しろ。出なければ」
「でなければ?」
「刑部に相談してしまう」
「っ?!くっ…ふふふ」
「笑うな。仕方がないなろう!これ以上私には対処できない!」
「だっ、て。ふふふ」
「…お前は笑った顔の方がよく似合うな」
「私も柔らかなお顔が好きですよ」
「貴様しか知らんだろうがな」
「それは…ふふふ」
「貴様はよく笑うからな。」
「泣き顔は秀吉様と半兵衛様、刑部に貴方様しか知りませんよ。唯、大人になってからは貴方様だけですけど」
「お前の泣き顔は心の臓に悪い」
「そうですか?」
「笑わせたいが方法がよくわからん。だから側に居てやることしかできない」
「其れが一番嬉しいですよ」
「そうか」
「はい」
「…」
「…」
「…おい」
「はい?」
「答えだ」
「…貴方様の側に居てもいいのならば」
「良い!」
「…ならば。正室は無理でも」
「正室だ!無駄な事を考えるなら素直にハイと言え。良いか?」
「石田様」
「私の妻に」
「はい」
「…」
「石田様?」
「…嘘偽りないな」
「ありません」
「っ!!?と、とりあえずだ。横になれ。寝ろ。良いな」
「はい」
「…早く元気になれ。私より一秒でも長く生きてくれ。良いな」
「其れは…はい、と言い難いですけど」
「お前のやつれた顔はもう二度と見たくない」
「はい」
「…その、だ」
「?」
「大切にする。ついてきてくれ」
「はい」








芯を真に清して進す









「…寝た、か?」
「やれ、三成」
「刑部か。漸く肯定した」
「誠か?!」
「早、く。秀吉様、の許可を」
「やれ、三成…ひひひ。寝てしもうたか」
「如何だった?」
「やれ賢人よ。首尾よう行った」
「ふふふ。其れは良かった。新居を用意しないとね」

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真を芯に清して進す 4

部下にも寝て下さい、休んで下さいと言われたものの私は曖昧に笑う。寝れないのだ。寝る前にぐるぐると考えてしまって、寝る事が出来ずにいる。それと比例して食べる事が出来なくなった。なのに何故か頭は変に冴えているのだ。



「月瀬は?如何した?」
「他用でございます」
「…前もそう言っていたが?」
「この所鬼気迫ると申しますか…何かお心当たりはございませんか?我々も心配で」
「鬼気迫る?仕事ぶりがか?」
「ええ。こんな事…あの忌々しい折以来で御座います。化粧で誤魔化しておいでですから遠目には分かり難いかと存じますが、ひどい顔色なのです」
「左様か…太閤は?」
「恐れ多くも太閤殿下にも休むように申しつかっていたのですが…部屋で休んでいるように見せてその実、仕事をしておいでだった様です」
「ひひひ。あれらしい。ちと我も気をつけてみよう」
「ありがとうございます」
「刑部…なんだ?貴様は」
「月瀬の部下よ。下りしゃれ」
「はい、失礼いたします」
「月瀬の?どういう事だ?」
「いやなぁ…先に話した折ちと顔色が優れなかった故」
「顔色がか?」
「寝ておらぬのだろうとな。あれも主と同じで元々食の細い上寝も…如何した?」
「この間の書類整理の折」
「ああ。いつものかえ?如何した。喧嘩でもされたか?」
「拒絶された」
「…は?」
「なんだ?」
「やれ、三成。主まさか無体など」
「していない!…求婚したのみだ」
「ただ、手を触れてしまった」
「手、のみか?」
「怖がらせてしまった。嫌な思いをしただろう」
「…はてさて、やはり主は我の考えの斜め上をいきよる。急な思いつきというのではないとようよう知っておるが。」
「あれに少しだけ気がついて欲しかっただけだ。よりにもよって…他の女と子を作れだの言われたくは無い。私の心に決めた女は彼奴であり、他の女を求める気もないと。…侍童として秀吉様のそばに上がった時、あれを見た折より決めていた。」
「左様、左様。なのに、つれないのぅ。我とて似合いと思うがな」
「あれは男に恐怖を抱いている節がある。昔ほどではないが、今でも新顔は一人では近づかん。故に左近はあまり話した事がないはずだ」
「そう言えば…理由を知っておるか?」
「昔半兵衛様に恐ろしい目にあったからと聞いた事があるが…よくは知らん」
「左様か…ちと探ってみるか」
「すまん」
「我とて主の子を愛でたい故なぁ。出来れば月瀬との子が良い。月瀬の名に孕んだ意味を我とて知っておるからなぁ」
「…」
「太閤も賢人も。主らを夫婦としたいという思いは同じよ。太閤に至っては養女にするとて水面下でうごいておるし、賢人とて嫁入り支度をしておる。我らにとって二人は可愛い娘と息子よ」
「…ありがたく恐れ多い話だ」
「あれが他に思うものがあるのなれば話は違う。が…三成」
「何だ!」
「顔が恐ろしい…まだ居らぬ恋敵を憎悪で殺す気か?」
「腸が煮え繰り返る!」
「左様か…ひひひ」
「何がおかしい?!」
「いついかなる時も短気で叫ぶ主があれには叫ばぬ。それどころか逆に庇ったりするのだから心底れておるなぁ」
「当たり前だ!あれは…ああ見えて怖がりでよく泣く。」
「ひひひ。悪童に泣かされておるのを主が助けておったものなぁ…故に主とは良い関係だと思っておったが…男が怖いか…ん?」
「どうした刑部?」
「いや何。下衆の勘ぐりならばいいのだが、な。我はちと太閤の元に行ってくる。あちらもあちらで途方に暮れておるやもしれぬなぁ」
「私も行く」
「左様か」
「何だ?」
「いや…ては行くか」





からりという音がする。ふいと顔を上げれば太閤殿下の部屋からお二人が帰られところだった。…石田様はやはり食べておられないのかもしれない。少し顔色が悪い。
かと言って私にできる事など眼前から退く以外ないだろう。踵を返し来た道を歩いて行こうとした瞬間、眩暈がする。




「月瀬!」
「っ…石田、様?」
「刑部!医師を」
「あいわかった」
「足の、お早い事で」
「少し黙っていろ。…怪我は無さそうだが。痛い所はないか?」
「大丈夫、ですよ。石田様」
「なんだ?」
「打ち捨ててくださればよろしいのですよ」
「は?」
「私より、貴方様の方が、大事」
「馬鹿か!」
「っ」
「…大きな声を出した事は謝る。が、馬鹿は謝らんぞ!貴様は…私にとってかけがえの無い大事な女子だ。」
「私など」
「お前だから大事だ。二度と私などなど言うな。私にとって貴様は唯一無二の存在なのだからな」
「…」
「わかったか?」
「は、い」
「にしてもだ」
「石田様?」
「顔色が悪い。随分痩せたな。」
「ふふふ」
「笑い事では無い」
「ですが」
「私の無精を怒る貴様が私に叱られてどうする」
「本当に」
「お前は自己犠牲が過ぎる。少しは愛え」
「貴方様がそうして下さるのなら」
「…善処する」
「呆れた」
「ひひひ。仲直りか否かは知らぬが…医師も来りゃった。横になれる部屋に連れて行くか」
「歩きま、す」
「馬鹿を言うな。誰か」
「私が連れて行く。」
「左様か」
「石田様」
「貴様を他の男に触れさせるものか。」
「?!」
「悋気よ、悋気」
「え?!あの」
「…口を閉じていろ。舌を噛む」
「石田様?!っん!」






真を芯に清して進す







「…過労と言えばいいのでしょうか」
「どういう意味だ」
「寝ず。食べず。…月瀬様。」
「は、い」
「いつからですか?」
「え、と」
「きっと月末からだ」
「…絶対安静です」
「ですが」
「?」
「太閤殿下の為に」
「やれやれ、間に合ったようだね」
「半兵衛様」
「竹中様?」
「ほんー…とに君は!」
「?」
「そういう顔してもいけないよ!倒れる程仕事するって…君は女の子なのだからね。」
「女子と言われましても」
「僕と秀吉にすれば、長浜で君が仕えてくれた時から可愛い妹だよ」
「!」
「僕たちは大義として強兵を打ち出している。兵たるものは強くなければならない。ただ、それを支える君は確かに力は弱いかもしれないけれども、それを補う強さを持っているからね。」
「…竹中様」
「そういう意味で君は強い。僕が知能で秀吉を支えているように君は君の特技で秀吉を支えてほしい」
「…はい」
「ああ、泣かないで。ね?」
「あ、い」
「ふふふ。童の折に戻ったようだね。ね、秀吉」
「?!」
「秀吉様は隣室においでになっている」
「凄く心配しているんだけどね。恐ろしがってはならないと横にいるよ」
「真逆!天地がひっくり返ってもそんな事はありえません」
「ふふふ。だってさ、秀吉」
「…」
「太閤殿下」
「余り、」
「はい」
「体が強く無いのだ。時折熱を出してきたのだからな」
「そうだね。仕えて間も無いうちはよく看病したね」
「よく寝て、早く治せ」
「はい」
「心配をかけるな」
「っ」
「吾とて貴様を大事に思っている。貴様がこうなら心配でならない」
「…」
「やれやれ。本当に秀吉が好きだね」
「はい」
「ふふふ。心乱さなくてもいいよ、君と同じ崇拝だからね」
「そんな…ことは」
「三成」
「は」
「暫く、これの看病につけ」
「え?!」
「は!」
「あきらめ給え。君に言っているようなものだからね」

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真を芯に清して進す 4

毎月の終わり。私は私の執務室で、石田様と帳簿を整理する。出資から始まり戦仕度への手伝い諸々。大体二人で行うのだけれども、雑賀様との件で些か気まずい。そう思っているのは私だけらしく、石田様はいつもどおりだから益々気まずい。



「…」
「…」
「あら…」
「ん?」
「この書類は誰が?」
「……左近だな」
「途中で桁を間違ってます。…訂正しても?」
「頼む」
「…」
「…」
「…」
「…おい」
「はい?」
「腕は」
「え?ああ…本当にお恥ずかしい話です」
「何を言っている。私が不用意だっただけだ。」
「ふふふ。石田様らしい」
「すまなかった。刑部にも周りが見えていないと言われてしまった」
「私などのことを気になさらなくても良いのですよ。石田様は尊い方なのですから」
「…」
「さてと、これで終わり…石田様?」
「お前は私を尊いと良く、言う」
「はい。あなた様は殿下の左腕。尊いと申しても差し支えないかと」
「そうか」
「石田様?」
「では聞くが」
「何でしょうか?」
「お前が尊いという私が」
「?」
「望んでいるといえば」
「何の話ですか?」
「お前を…望んでいるといえば。」
「何を」
「お前は私の元に来るのか?」
「…冗談にしては」
「私が冗談を言う性質か否かよく知っているだろう?」
「っ」
「妻になって欲しい」



そう言って私の手を触れようとするので思わず、手を退けてしまう。きっと顔は青くなっているだろう。
目が見開いて、静かに瞳を閉じた石田様は「そうか」とだけ仰って席を立たれた。







「月瀬」
「あ、はい。竹中様」
「心ここに在らずかな?」
「仕事で不手際でも」
「ないよ。完璧だね。」
「なら何故」
「昔の君みたい」
「!」
「下を向いているよ」
「そう、でございますか?」
「秀吉も心配してる」
「?!」
「ふふふ。君も秀吉が好きだね」
「とても、好きです」
「珍しい」
「崇拝していると思っていただければ」
「ふふふ」
「命の恩人だからではありません。あの時、あの方とお会いして全てがひっくり返る感覚を覚えました。」
「三成君と同じ事を言うね」
「私は」
「君は確かに弱いよ。でも、君がいないとこの大阪は整然とした秩序を維持することが難しいだろうね。それほど君は僕たちにとって無くてはならない存在になっているよ」
「世辞でも嬉しゅう」
「世辞を僕が言うとでも?」
「…いえ」
「三成君なら長浜からの付き合いだろう?秀吉の為に裏方も表方も尽くすのだからこんなによう話はないと僕は思うのだけどね。」
「石田様には」
「強く美しい子。君は容姿も良いし、武勇で誉れ高い家の出だ。不足はないはずだよ」
「です、が」
「こんなにも歯切れの悪い君は初めて見たよ。…本心を言いたまえ。」
「私はあの方に…相応しくありません」
「だから」
「私は」
「月瀬?」
「愚劣な男からすら身を守れないのですから」
「…」
「彼の方にはふさわしくないのです」
「君はあの時の事を…」
「忘れられるはずもありません。」
「そう、か。…すまない。てっきり忘れていたと」
「いえ…忘れられないのは私の弱さです。今でも、やはり二人きりは怖いものですよ」
「今でも?」
「…少し」
「そうか…」
「半兵衛様?」
「それは、君にとっても辛いことかもしれないけれども」
「?」
「僕たちにとっても辛い事だね」








真を芯に清して進す









「やれ、月瀬」
「はい、大谷様」
「最近ちと表に出ぬなぁ。久しいものよ」
「ふふふ。本来私は裏方でございますから」
「ひひひ。ぬしは本に嘘が下手よの」
「ふふふ。今日は何か?」
「三成が食せぬでな」
「あら」
「主に振られた傷が癒えぬらしい」
「御冗談を」
「本当よ、本当。気晴らしに遠出と思うたが」
「私は仕事が」
「左様か…にしても」
「?」
「ぬしもひどい顔よ。寝ておるか?」
「はい」
「本に嘘が下手よの」

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真を芯に清して進す

「おい。どういうことだ」
「何がだ」
「なぜ私の横で食べる?!」
「…私に言うな」
「っち」
「舌打ちする様な男など嫌われるぞ」
「何の話だ」
「だだ漏れだ。月瀬殿の事だ」
「あいつの眼には私など映っていない」
「そうか?」
「私と同じだ。立場は違うが…秀吉様のためだけに生きている」
「成る程、な」
「何だ?」
「貴様が好むはずだ」
「…秀吉様に忠誠を誓うから好ましいのではない。あれはあれだから好ましい」
「熱いことだ」
「そんな事より!」
「面白そうだしな。契約は続ける。姫もこちらについたのだろう?」
「あの姦しい女か」
「言うてやるな。世間一般ではあれが女だ。私も可愛らしいと思うがな」
「ふんっ!」
「くくくっ。本当にわかりにくい男だな」
「煩い」
「月瀬殿の言葉だ」
「…」
「世話になっていると言っていたがな」
「こちらの台詞だ。あれは自分を過小評価しすぎだ」
「みたいだな。奥ゆかしいと言えばいいのか?」
「秀吉様にとって無くてはならん存在だと誇っていれば良い」
「惚れ気を聞かされるとはな」
「事実を述べたまでだ。」
「ひひひ。盛大に勘違いしておるがな」
「大谷」
「どういう意味だ、刑部」
「ぬしのも想い女は自分では無く、雑賀を想うておると解釈した様よ」
「…」
「石田もこんな顔が出来るのだな」
「…何故、そうなった?!」
「知らん」
「意外に私心は抜けているからなぁ」
「…何故、私が!」
「おい待て。それはこちらの台詞だ」
「あれは何処だ!刑部!!!」
「あれは、ほら。あちらよあちら」
「!」
「…そっくりだな」
「太閤の前ではいつもああよ。そっくり。そっくり」
「…片思いだな」
「別段、あれとどうこうなりたいと思っているわけではない。ただ、あれ以外に番おうとは思わんだけだ」
「それを片思いというのよ」
「っち!」
「ふふふ。お前も人間だということか」
「黙れ!」
「石田様?」
「?!」
「月瀬殿…何か用か?」
「石田様、怒らない怒らない」
「…」
「怒って食事を食べてもよくありませんよ」
「何度も聞いた」
「美味しくありませんでしたか?」
「…美味い」
「あら、嬉しい」
「?」
「ひひひ。太閤、賢人、三成と我の分はこれが作るのよ」
「一度古いものを太閤殿下のお膳に上げようとしたものがおりましたから…それ以来私が」
「これのなら三成も食すでなぁ」
「しっかり食べて太閤殿下の為お尽くししましょうね」
「…ああ」
「仲が良いな」
「そうだ!おい。」
「私でございますか?何か用か不手際でも?」
「私の心に決めた女はこれでは無い」
「え?」
「私は仕事仲間だ」
「違うのですか?」
「ひひひっ。ぬしの勘違いよ」
「…とてもお似合いですのに」
「私に言わないでくれ。選ぶ権利はあると思う」
「漸く石田様のお子が見れるかと思いましたのに」
「?!」
「やれ、話が飛びすぎよ」
「大谷様でもよろしいのですよ?殿下のお子も竹中様のお子も。それはそれは可愛らしいでしょうに。」
「我を好む女がいりゃるか。ひひひっ、無理よ無理」
「…ふふふ。いたらよろしいのですか?」
「やれさて、怖い怖い。ぬしは言質を取りしゃるからなぁ」
「月瀬殿」
「雑賀様?…御心を変えて下さいましたか?!」
「違う…が、そうだな」
「?」
「貴方が子を産んでやれば如何か?」
「私がですか?」
「ひひひ。なれば我より三成よ。頃合いも良い」
「御冗談が過ぎますわ。石田様には強く美しい奥方様が」
「貴方ではいけないのか?」
「ええ。私ではダメです」
「何故?」
「今ここで私が裏を抜けましたら皆様方に迷惑がかかります。嫁ぐとなるとこの大阪を出ねばなりません」
「まぁなぁ」
「佐和山のお城も大切な石田様の城でございますから。そこを支えられる奥方様でなくては」
「石田が嫌ではないのだな」
「嫌といいますか…殿下の左腕たる方をその様に見たことが無いですから…石田様?」
「私は…」
「ふふふ。何より私は殿方が恐ろしゅうてならないのです。ご存知でございましょう?」
「っ?!」
「何の話だ?」
「はてさて…我には…とんと」
「私も、恐ろしいのか?」
「普通にしている分には全然。私達は殿下に仕える同胞ではありませんか」
「…」



そう言って月瀬殿は困った様に首を竦めて、大それた事を言って申し訳ありませんという。きっと途方に暮れた石田の顔を見て再び勘違いをしたのだろう。同胞というのが烏滸がましいと。
この一週間、大阪に滞在して彼女の並外れた忠誠心と能力の高さに驚いた。成る程毒舌な大谷まで彼女を褒めるはずだと。その上そういう所を偉そぶらず、誰にでも親切で丁寧だ。良い娘なのだと思う反面それはきっと自信の無さから来るものだということにも気がつく。兵を殊の外丁寧に扱うのもそのせいだろう。





「月瀬殿」
「はい」
「石田の奥は美しいだけではなく強くなければならないのか?」
「やれ、雑賀」
「どういう意味だ?」
「いやなに。気になってな。此処までの能力があるのにも関わらず己を誇示しない」
「昔からそうだ。これの美徳だ」
「謙遜なら美徳だが些か度がすぎる」
「何?!」
「石田様…落ち着いて下さいませ。雑賀様、謙遜でも自信がないのでもありません」
「ほう…」
「雑賀!!!貴様!」
「い、石田様」
「これ以上これを愚弄するのは私が許さん!!!」
「落ち着いて!…っう!」
「?!」
「やれ、大事無いか?」
「すまん!当たったか?何処だ…見せてみろ」
「大丈夫です」
「痣になっている…すまん。左近!何処だ!!手桶に水を張れ。手拭いも」
「石田様…大丈夫ですから」
「動くな。じっとしていろ…腕と言っても跡になったら困る」
「…」
「月瀬殿」
「…雑賀様」
「?」
「きっと貴方様なら腕を振り払われた程度で…少し物が当たった程度で…怪我など致しませんでしょ?」
「ああ」
「当たり前だ。お前と雑賀では…おい、如何した?」
「だから、なのです。私は弱い。秀吉様の為戦うことすら出来ません」
「人には適材適所がある。貴方は私とは違うからな」
「ひひひ、ぬしは戦わぬとも我らが」
「違う…そういうことでは無いだろう!おい…」
「石田様」
「泣くな」
「申し訳…ありません。ふふふ。私は弱くていけませんね」
「?」
「貴方様の様に強く太閤殿下の為戦える方の奥に私など弱い者がなる訳にはまいりません」
「な?!」
「ひひひ。そういう事か」
「昔から何度も申し上げております。左腕には相応しい方を。…雑賀様」
「断る」
「つれない」
「私には誓い合った男がいるからな。あと姫も」
「鶴姫様も…ですが?残念」
「支えるものとして貴方は最高だと思うがな…ああそんな目で見ないでくれ」
「申し訳ありません。元来諦めが悪くて…石田様?あの、何方に?」
「刑部!」
「あいあい」
「しっかり冷やせ」
「え?!ああ。はい、ありがとうございます。あの、何方へ?」
「秀吉様の元だ。…私が帰ってくるまで此処にいろ。良いな」
「はい」








真を芯に清して進す 3









「あの子のそういうところがいじらしくて好きだけど…ふふふ。困ったね」
「半兵衛」
「ごめんよ秀吉。でも…あの三成君がだよ?家康君の離叛の際も彼女の前では語勢を荒げなかったし、何より憎悪に落ちずに済んだ。そういう意味でも彼をより人らしく大人にする。僕にとっての君である様に彼には大谷君がいるけどももう一人の精神的支柱となりつつあるのがね、実に興味深い。…あっ!そういう意味では無いよ?ただ、そう思うだけさ。興味深いのではなくて親心に近いのかもしれないね」
「我の養女として娶らせれば良い。出生にしても何ら困らんし…大和もあれのことは評価している。」
「そうだね…でも」
「?」
「もう少し様子を見てみよう。愛しい子らが如何なるのか。見守るのも大切だよ」

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