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変換なしの雑食夢

ran

真を芯に清して進す 4

部下にも寝て下さい、休んで下さいと言われたものの私は曖昧に笑う。寝れないのだ。寝る前にぐるぐると考えてしまって、寝る事が出来ずにいる。それと比例して食べる事が出来なくなった。なのに何故か頭は変に冴えているのだ。



「月瀬は?如何した?」
「他用でございます」
「…前もそう言っていたが?」
「この所鬼気迫ると申しますか…何かお心当たりはございませんか?我々も心配で」
「鬼気迫る?仕事ぶりがか?」
「ええ。こんな事…あの忌々しい折以来で御座います。化粧で誤魔化しておいでですから遠目には分かり難いかと存じますが、ひどい顔色なのです」
「左様か…太閤は?」
「恐れ多くも太閤殿下にも休むように申しつかっていたのですが…部屋で休んでいるように見せてその実、仕事をしておいでだった様です」
「ひひひ。あれらしい。ちと我も気をつけてみよう」
「ありがとうございます」
「刑部…なんだ?貴様は」
「月瀬の部下よ。下りしゃれ」
「はい、失礼いたします」
「月瀬の?どういう事だ?」
「いやなぁ…先に話した折ちと顔色が優れなかった故」
「顔色がか?」
「寝ておらぬのだろうとな。あれも主と同じで元々食の細い上寝も…如何した?」
「この間の書類整理の折」
「ああ。いつものかえ?如何した。喧嘩でもされたか?」
「拒絶された」
「…は?」
「なんだ?」
「やれ、三成。主まさか無体など」
「していない!…求婚したのみだ」
「ただ、手を触れてしまった」
「手、のみか?」
「怖がらせてしまった。嫌な思いをしただろう」
「…はてさて、やはり主は我の考えの斜め上をいきよる。急な思いつきというのではないとようよう知っておるが。」
「あれに少しだけ気がついて欲しかっただけだ。よりにもよって…他の女と子を作れだの言われたくは無い。私の心に決めた女は彼奴であり、他の女を求める気もないと。…侍童として秀吉様のそばに上がった時、あれを見た折より決めていた。」
「左様、左様。なのに、つれないのぅ。我とて似合いと思うがな」
「あれは男に恐怖を抱いている節がある。昔ほどではないが、今でも新顔は一人では近づかん。故に左近はあまり話した事がないはずだ」
「そう言えば…理由を知っておるか?」
「昔半兵衛様に恐ろしい目にあったからと聞いた事があるが…よくは知らん」
「左様か…ちと探ってみるか」
「すまん」
「我とて主の子を愛でたい故なぁ。出来れば月瀬との子が良い。月瀬の名に孕んだ意味を我とて知っておるからなぁ」
「…」
「太閤も賢人も。主らを夫婦としたいという思いは同じよ。太閤に至っては養女にするとて水面下でうごいておるし、賢人とて嫁入り支度をしておる。我らにとって二人は可愛い娘と息子よ」
「…ありがたく恐れ多い話だ」
「あれが他に思うものがあるのなれば話は違う。が…三成」
「何だ!」
「顔が恐ろしい…まだ居らぬ恋敵を憎悪で殺す気か?」
「腸が煮え繰り返る!」
「左様か…ひひひ」
「何がおかしい?!」
「いついかなる時も短気で叫ぶ主があれには叫ばぬ。それどころか逆に庇ったりするのだから心底れておるなぁ」
「当たり前だ!あれは…ああ見えて怖がりでよく泣く。」
「ひひひ。悪童に泣かされておるのを主が助けておったものなぁ…故に主とは良い関係だと思っておったが…男が怖いか…ん?」
「どうした刑部?」
「いや何。下衆の勘ぐりならばいいのだが、な。我はちと太閤の元に行ってくる。あちらもあちらで途方に暮れておるやもしれぬなぁ」
「私も行く」
「左様か」
「何だ?」
「いや…ては行くか」





からりという音がする。ふいと顔を上げれば太閤殿下の部屋からお二人が帰られところだった。…石田様はやはり食べておられないのかもしれない。少し顔色が悪い。
かと言って私にできる事など眼前から退く以外ないだろう。踵を返し来た道を歩いて行こうとした瞬間、眩暈がする。




「月瀬!」
「っ…石田、様?」
「刑部!医師を」
「あいわかった」
「足の、お早い事で」
「少し黙っていろ。…怪我は無さそうだが。痛い所はないか?」
「大丈夫、ですよ。石田様」
「なんだ?」
「打ち捨ててくださればよろしいのですよ」
「は?」
「私より、貴方様の方が、大事」
「馬鹿か!」
「っ」
「…大きな声を出した事は謝る。が、馬鹿は謝らんぞ!貴様は…私にとってかけがえの無い大事な女子だ。」
「私など」
「お前だから大事だ。二度と私などなど言うな。私にとって貴様は唯一無二の存在なのだからな」
「…」
「わかったか?」
「は、い」
「にしてもだ」
「石田様?」
「顔色が悪い。随分痩せたな。」
「ふふふ」
「笑い事では無い」
「ですが」
「私の無精を怒る貴様が私に叱られてどうする」
「本当に」
「お前は自己犠牲が過ぎる。少しは愛え」
「貴方様がそうして下さるのなら」
「…善処する」
「呆れた」
「ひひひ。仲直りか否かは知らぬが…医師も来りゃった。横になれる部屋に連れて行くか」
「歩きま、す」
「馬鹿を言うな。誰か」
「私が連れて行く。」
「左様か」
「石田様」
「貴様を他の男に触れさせるものか。」
「?!」
「悋気よ、悋気」
「え?!あの」
「…口を閉じていろ。舌を噛む」
「石田様?!っん!」






真を芯に清して進す







「…過労と言えばいいのでしょうか」
「どういう意味だ」
「寝ず。食べず。…月瀬様。」
「は、い」
「いつからですか?」
「え、と」
「きっと月末からだ」
「…絶対安静です」
「ですが」
「?」
「太閤殿下の為に」
「やれやれ、間に合ったようだね」
「半兵衛様」
「竹中様?」
「ほんー…とに君は!」
「?」
「そういう顔してもいけないよ!倒れる程仕事するって…君は女の子なのだからね。」
「女子と言われましても」
「僕と秀吉にすれば、長浜で君が仕えてくれた時から可愛い妹だよ」
「!」
「僕たちは大義として強兵を打ち出している。兵たるものは強くなければならない。ただ、それを支える君は確かに力は弱いかもしれないけれども、それを補う強さを持っているからね。」
「…竹中様」
「そういう意味で君は強い。僕が知能で秀吉を支えているように君は君の特技で秀吉を支えてほしい」
「…はい」
「ああ、泣かないで。ね?」
「あ、い」
「ふふふ。童の折に戻ったようだね。ね、秀吉」
「?!」
「秀吉様は隣室においでになっている」
「凄く心配しているんだけどね。恐ろしがってはならないと横にいるよ」
「真逆!天地がひっくり返ってもそんな事はありえません」
「ふふふ。だってさ、秀吉」
「…」
「太閤殿下」
「余り、」
「はい」
「体が強く無いのだ。時折熱を出してきたのだからな」
「そうだね。仕えて間も無いうちはよく看病したね」
「よく寝て、早く治せ」
「はい」
「心配をかけるな」
「っ」
「吾とて貴様を大事に思っている。貴様がこうなら心配でならない」
「…」
「やれやれ。本当に秀吉が好きだね」
「はい」
「ふふふ。心乱さなくてもいいよ、君と同じ崇拝だからね」
「そんな…ことは」
「三成」
「は」
「暫く、これの看病につけ」
「え?!」
「は!」
「あきらめ給え。君に言っているようなものだからね」

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