忍者ブログ
変換なしの雑食夢

ran

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

萩と鹿 3

「縁組?」
「左様」
「…末の妹はまだ髪を上げておりませんよ?」
「あれは好かぬなぁ。根性が悪い」
「6つの子に何をおっしゃいますか?」
「ひひひ。3つ子の魂という故なぁ。」
「では一体誰の?」
「主よ」
「は?」
「主と三成の婚儀が纏った故」
「何をとち狂ったのですか?吉継さん」
「いや何。面白そうとなぁ」
「私は雨竜家を」
「主の母上からのお達しよ」
「?!」
「あれも中々の人でなし故。早う見切られよ」
「元服が決まったのですか?一体いつ?!」
「ひひひ。また主だけ蚊帳の外よの。」
「吉継さん?」
「良い加減雨竜の母上には嫌気が来ておる。己が男児が可愛いのもわかるが…主に対する其れは実の親子の其れとは大きく違う。ぬしも、我の元へ来やしゃれ。何悪いことはせぬよ。ぬしを慕う部下もこちらに来られる様にしておるしなぁ。牟堂は早々に此方に来りゃる」
「牟堂は私の側近でしたから…そうですか。あの偏屈な老人が何の理由もなくそちらに行くはずはありませんから」
「主は今まで通り、抱き割の萩を掲げて戦さ場に出でもらう」
「?!」
「此れは賢人と我の考えよ。」
「石田様は何と?」
「主が好かぬのなら戦さ場に出ずに良いと。賢人に掛け合うという」
「其れは」
「?」
「私を見張るためですか?」
「ひ、ひひひ」
「?」
「其れがなぁ。主が戦さ場で野宿するのが気にくわんらしい」
「は?」
「強さはわかっておるが病はわからんと。急に主が風邪をひいたらと…ひっひひひ!」
「笑い声混じりで言わないでください」
「主の好きにすれば良いとは言うがな。ああ見えて優しい男故」
「…そう、かもしれませんね」
「?」
「あの方は純粋で潔癖で…真心を持って尽くさねばなりませんね」
「子供の様な男よ。興味の有無で態度が変わるのはいただけぬがな」
「ふふふ」
「後で三成も寄ると言っておったわ。よっく話しゃれ」
「はい」





萩と鹿 3






障子の前で躊躇する。後悔はないが、どうすれば良いのか考えが纏まりはしない。彼女にとってこの申し出は否なのか?そう聞いた刑部はいつも通り笑ってきかしゃれというのみだ。




「石田様」
「牟堂殿か?」
「主は中におりますよ?」
「そう、か」
「主!」
「何ですか?牟堂…石田様?」
「今、良いか?」
「え?はい。」
「…」
「どうぞ、中に」
「ああ」
「…」
「その、だ」
「?」
「…」
「…」
「萩も!散ってしまったな」
「?!」
「いや、まだだいぶ残っているが」
「っ」
「?」
「いえ、申し訳ございません」
「…笑うか?」
「本当に失礼を…ですが」
「何だ?」
「以前なら歯牙にも…況してや、戦女も廓女も買わない、石田様が」
「そういう不純なものは好かん」
「そうなのですか?てっきり私は」
「てっきりなんだ?」
「心に決めた方がいらっしゃるのかと」
「いる…其れは秀吉様だ。お前も一緒だろう?」
「忠誠をお誓いするのはそうですが…そうではなく」
「色恋など興味はない」
「?」
「いや、なかった。だが…そ、のだ」
「だが?」
「此処で。そこで寝起きたお前を見たときから、そのだ。何と言えば良い?愛しい…か?」
「私に聞かれましても」
「私も持て余しているのだ。こんな感情私は知らんからな」
「…」
「母御の話は聞いた。一度会ったが…お前に言うべきではないが。お前を蔑ろにしすぎだ。秀吉様の一兵卒として十分すぎるお前に対する礼がない!腹立たしいことこの上ない、が。其れでもお前の母御だ。好きにすれば良い。縁を繋いだままでも否でも。私は構わん。」
「…はい」
「嫁入り道具は無いとほざいて…いや言っていたが。心配するな。刑部と牟堂殿が用意した。少し足りぬかもしれんが…不自由は無いはずだ。もし何かあったら言ってくれ。私がすぐ用意させる。着のみ」
「?」
「…着の身着のまま着てくれればいい。滞りなく私が調える。いや、刑部と牟堂が、か?…いや、私が!」
「石田様?」
「何だ?」
「立ち話で宜しいのですか?」
「?」
「…」
「…」
「!?」
「っ」
「わ、笑うな!急いで要件をだな!」
「いえ、だって」
「だって何だ!」
「私の知っている石田様はもっと…恐ろしい方なのに」
「?!」
「其れ、が」
「お、い」
「?」
「私は、そのだ。…恐ろしいか?」
「はい…ですけど最近は」
「?」
「お優しい方だと」
「?!」
「石田様」
「なっんだ!」
「私は普通の女子の様に仕えることは難しいですし、何より、戦さ場に立つのを止める事は不可能でございます」
「ああ」
「其れでも良いと言ってくださるのなら。…喜んで私初めて家臣共々石田様のお役に立ちとうございます」
「…」
「正側何方かわかりませんが」
「正室に決まっている!」
「なら、もし他の方を貰うのでしたら、気兼ねなく。」
「?!」
「私の様な無作法ものより」
「バカか貴様は!!!!」
「?」
「私は女に興味は無い。いや、秀吉様と半兵衛様、刑部以外は興味が無い!だが、貴様は」
「私は?」
「守りたいと思ったのだ」
「?!」
「女など面倒だ!だが、貴様は…」
「あ、の」
「側にいてほしい」
「!」
「っ!すまん!わ、私の気持ちは以上だ!!!無理意地はせんから良く」
「ふ、ふふ」
「?」
「もし、秀吉様のお許しが頂けるのでしたら」
「!」
「貞心と真心を持ってあなた様に御尽くしいたします」
「ほ、んとうか?」
「はい」
「っ!」
「(顔真っ赤)」
「いや、其れよりだ」
「?」
「…私はこういう性格だ。気の利いた言葉も何もかもかけてやれん」
「!」
「何か不服があれば、直ぐに行ってくれ。…大切にする」
「…っ!」
「如何した?」
「い、え。石田様が余りにも」
「余りにも?」
「御可愛いので…」
「可愛い?!」
「だって!」
「カカカカが可愛いのは!お前の方だ!!!!」
「へ?!」
「や、やる!婚儀までは思った以上に早いからな!へへへへへ部屋は此処を寝所にする!私の部屋は北面だから彼方を執務室にするからな!」
「はい」

拍手

PR

萩と鹿 2

「お、い!」
「はい?あ、石田様」
「その縁に寝るのはやめろ」
「?」
「風邪をひくと」
「私も一応、野宿もしておりますから」
「?!」
「大事はないかと…」
「そ、だが」
「ですがお心遣い痛み入ります」
「?!」
「今日はどの様なご用件で御座いますか?」





そう言って身衣を整えて彼女は坐り直す。私は少したじろいで雨竜と姓を呼べば首を傾げてはいというのだから堪らない。昨日まで男だと思っていた自分を殴ってしまいたい。
彼女は華奢で可憐で…愛らしいのだから。




「!」
「い、いかがしましたか?急に頬を叩くだなんて」
「いや、己が気持ち悪くなっただけだ」
「?」
「気にするな」
「ですが…少しお待ちください」
「?」
「少し触れますよ?」
「っ?う、あ」
「叩きすぎですよ。腫れてしまって…少しでも冷やしたほうがよろしいですよ」
「すまない」
「桶に水をはってまいります。中座をお許し下さい」
「構わん!此れで十分だ」
「良いのですか?」
「ああ」
「ならば、白湯でも用意させます。誰か」
「…」
「で、ご用件は?」
「…」
「?」
「こ、れをだな」
「箱?」
「半兵衛様からだ」
「ああ。香」
「渡すように言付かって来た」
「其れは御足労をおかけいたしました」
「いや、そのだ」
「?」
「此れは私からだ」
「石田様から?」
「萩の礼だ」
「え?!あの…」
「気に入らないか?」
「櫛など、私の様なものに贈らずとも…良き方がおられますでしょうに。」
「おらん」
「石田様?」
「私は、この櫛がお前に似合うと思ったから渡した迄だ。」
「?!」
「気に入らんのなら、捨ててくれ」
「い、え」
「?」
「この様な、素敵な物をお送り頂いたのは初めてで御座います」
「そ、うか」
「ありがとうございます、石田様」
「三成だ」
「三成様?」
「また、この庭を見に来て良いか?」
「ええ、是非。心よりお待ちしております」







萩と鹿 2






「やれ、三成」
「何だ?刑部」
「従兄弟殿とは?」
「な?!」
「ひひひ。主とて人の子。」
「何を…私は」
「今度あれの縁談を叔母から頼まれた」
「?!」
「弟もそろそろ跡を継げる故」
「どういう意味だ?」
「あれは一時の繋ぎよ」
「!」
「来年には元服する故なぁ。とは言え一角以上の武人故縁組がないのも事実よ」
「なら」
「?」
「私が貰う。秀吉様と半兵衛様にご許可いただいてくる」
「ひひひ」
「不服か?」
「いや何。不服も何も我は歓迎よの」
「そうか」

拍手

萩と鹿 1

この大坂城の一角には萩が咲いている箇所がある。
白いものの奥に紅紫のものが咲いているそうだ。此れが憶測の域を脱せれないのはその場所が私の与えられた部屋から一番遠いところである事と其処の武将は口数の少ない好んで他者と交わる者ではなかったからだろう。
私ですらまともに話したことは無い。半兵衛様曰く終始あの様な状態だという事。私は私より無愛想な男を生まれて初めて見た。唯、それは不愉快でもないのは誰もが一目置く程の太刀の使い手である事と私と比べられても遜色無い忠誠を秀吉様に捧げている事の為だろう。故に皆それを受容していた。私とてそうだ。左翼に抱き割り萩が見えたらば彼方は私の手を煩わせる事は無いと思う程だ。背の小さい優男の旗印にその様な信頼感があるのだから不思議でならない


そんな男の部屋の前に私は立っている。半兵衛様に手紙を渡して来るついでにその萩の花をもらってきて欲しいとおしゃった為だ。




「おい、開けるぞ」




そう言って障子を開けると眼前に紅紫の洪水を見る。刮目するのがわかる。滝の様だと思うほどに咲き誇る萩を私は見た事がなかった。


どれくらいそうしていたのだろうか?にゃーという猫の鳴き声で我に返って猫の声のするあたりに視線をやると薄い紅紫の塊が目に入る。人、なのだろう。だが、降り積もった花びらのせいで其れが真実人なのかの判断も付きにくい。




「ん…」
「?!」
「…餌?」
「にゃー」
「少し、待って?」
「にゃにゃ」
「ふふふ。擽ったい」
「女?」
「え?」
「すまん!此処は雨竜の部屋だと聞いてきた」
「石田様?」






ゆっくりと猫を抱きながら起き上がったのは紛れもなく女で、私は柄にもなく焦ってしまったのだ。


其れは、後ろめたさでも何でも無い。唯、美しかったせいだろう。




薄い紅紫の衣装は花のせいで、淡い色の着物を着た女とこの萩の花はこの世のものとは思えない程美しく、神聖だった。






「お前は牟堂の処へお行き。牟堂」
「にゃ」
「?」
「すまないが、この子に餌を。」
「はい。…石田様?!」
「きっと竹中様の御用でお越しくださったのだろう?拙室で御座いますればお座りくださいませ」
「な?…は???」
「?」
「何…を」
「ああ。宜しければ縁に。見頃で御座いますれば」
「何を言っている?!」
「は?」
「お、まえは雨竜の奥か?」
「何、を」
「わ、私は!雨竜にこの書状を!」
「竹中様からの書状で御座いますね」
「だから!雨竜を出せ!!!」
「は?」
「奥方に手紙を渡すわけにはいかん!」
「あ、の」
「約束もせずに来てしまったからな!帰ってきたら」
「私が、雨竜です」
「連絡を!」
「石田様」
「奥方」
「私が雨竜家当主で御座いますれば、その手紙読んで差し支えないかと存じ上げます」
「は?」
「よろしいですか?」
「いや、だが」
「…」
「すまん」
「いえ」
「…」
「仔細あい承りました。萩の花は如何程用立てればよろしいでしょうか?」
「わからん」
「左様で御座いますか。では先年通り致しますので不足がありましたらいつでもとお伝え下さい」
「その前にだ!」
「はい?」
「女だったのか?!」
「え?」
「隠していたのか?!ならば」
「…っ」
「な?!」
「…っ、…くっ」
「如何した?!やはり私に知られては」
「い、え。大事ありません。」
「なら、いいのだが」
「ご心配おかけして申し訳御座いません」
「無理をするな!」
「はい」
「其れと」
「?」
「縁で寝るな」
「???」
「風邪を引いてはならない」
「?!」
「如何した?」
「い、え」
「雨竜?」
「ありがとうございます。」
「きや、その、だ。」
「?」
「気にするな。其れより、花を」
「はい」






萩と鹿







「はははははは」
「半兵衛様」
「や、れ!笑い、しゃるな」
「刑部!貴様ぁぁ!!!」
「いや、だって!雨竜君の事女だと思ってなかっただなんて!」
「し、しかし!半兵衛様」
「まぁ賢人よ。此れが三成の良いところ、よ」
「そうかもしれないね。あの子も人見知りが凄いから。今まで僕と秀吉、吉継君だけにならないと声を出して話さなかったしね。」
「何故だ、刑部」
「ん?あれは我の従兄弟故。ぬしには言うたぞ」
「…待て、女だと聞いていない!」
「性別など気にするぬしでもあるまいに」
「だ、が!」
「何、懸想したのでもあるまいに」
「な?!何を!!!」
「「…」」
「懸想、など!」
「吉継君」
「元々気立ての良い女よ」
「ふーん」
「は、半兵衛様?!」
「いや、ね」
「お、お待ちください!半兵衛様!!!半兵衛様ぁぁぁぁ!!!!」

拍手

父と母と子

「ここにいたのか!」
「佐吉様。如何いたしましたか?」
「父上」
「石田様が如何致しましたか?」
「そこに居る」
「…」
「?」
「何故でございましょうかね…」
「特段の意味はないはずだ…顔色が暗いぞ!如何した???」
「如何もしておりませんよ。」
「…佐吉」
「父上!」




佐吉様のお母上がお亡くなりになって早3年。少し前から世話係の一人として私は側に仕えている。佐吉様は性格は厳しいなりも優しい方で、私にまで心を割いて下さる。そんな愛らしい佐吉様に仕えるのは苦でないどころか私の生き甲斐なのだけれども…父上様に当たる石田様は無慈悲で有名なのだ。正確には叔父甥の関係らしいのだけれども今となっては事実上紛れもない父子だ。ただ、お母上がいらっしゃらない。刑部様曰く、父母とは呼ぶが兄弟の様なもので女気のない大阪ではあまりに不憫と竹中様の鶴の一声にて集まったのが佐吉様のお守役だ。5人の才女の中で私が一番若輩で彩色がなかった。しかし、殿下や竹中様、刑部様。何より石田様の一言で5人いた世話係も徐々に減らされ今となっては私だけになっている。いつ、私の番が来るかと戦々恐々としているのだ。この方の成長を見届けるのが私の生き甲斐なのだ。





「息災か?」
「はい父上。」
「そうか…おい」
「佐吉様に置かれましては恙無く」
「…」
「(睨まれてる?!)今は兵法の本を諳んじられて…」
「そうか。…しかし」
「父上!本当です!此れはよくしてくれています。」
「いや。疑っているわけではない」
「?」
「顔色が悪い…どうかしたか?」
「い、いえ!」
「さっきも言ったのです。でも…熱はないか?」
「佐吉様?」
「熱は、ないな。…本当に病ではないか?無理はしていないか???」
「…はい」
「お前はすぐ無理をするから!少し休めば良いのだぞ!私と居ても…大変だろう?」
「…佐吉様。」
「?」
「大変なことなどこれっぽっちも有りません。私にとってあなた様に仕えるのが幸せなのですよ」
「本当か?」
「はい」
「!」
「(ぱっーてなってる。可愛らしい!)ふふふ」
「!」
「笑ったら少し顔色が良いな…?父上???」
「石田様?」
「い、いや。なんでもない。…顔色も確かに良くなったな。」
「私にとって佐吉様はかけがいのない存在で御座います。佐吉様がお笑い遊ばしたら、其れだけで直ぐに元気になります」
「そうか!」
「はい」
「では待っていろ!父上!左近は何処ですか?」
「知らん…が、鍛錬場あたりだろう」
「行ってくる!」
「佐吉様?!待ってくださいませ」
「…追いかけなくても良い。待っていろと言われただろう」
「は、い。ですが…」
「過保護が過ぎてはならん」
「…はい」
「…」
「(ひどく居心地の悪い)」
「…感謝、する」
「…え?!」
「何だ?!」
「い、え。」
「言いたい事があれば言え!」
「私の方こそ。ありがとうございます」
「…?」
「佐吉様は私の命ですから」
「知っている」
「?」
「以前、あれが寝込んだ時にお前だけ水籠りをしていた。献身的な看病も」
「見られておいでで!」
「あの人見知りも随分懐いている。」
「今となっては嘘のようですね…ふふふ。」
「?」
「左近様にも大変お心を開かれて。何をしていただけるのかしら」
「本当に、母親の様だな」
「そんな!」
「?」
「恐れ多い」
「謙遜するな」
「本当に恐れ多い話です。私は佐吉様の一旦に関わることが出来ただけで有難いのですから」
「…佐吉のことばかりだな」
「はい」
「…羨ましくもある」
「?!」
「っ?!いや、すまん」
「石田様…」
「その、だ」
「佐吉様もお父上様との交流を心待ちにしておいでです!その様な言葉を頂けたと…とてもとてもお慶びに」
「…いや、まて。そういう意味」
「差し出がましくも私も嬉しく思います」
「…」
「今度皆様で紅葉狩りにでも…あっ!申し訳ございません。佐吉様のことになるとつい。お忙しい事も石田様がお心も割いていただいていることも重々承知なのに」
「…本当に。」
「申し訳ございません!」
「いや、すまん。そういう意味ではない。此れからも佐吉を頼む」
「…お許しいただけるのですか?」
「許すも何も。紅葉狩りの件。刑部にも伝えておく」
「!?」
「遠出は無理かもしれんがな」
「石田様」
「なん、だ?」
「ありがとうございます」
「…ああ」






父と母と子








「父上!」
「な、なんだ!」
「言えましたか!」
「…」
「早く母と呼ばしてください!」
「あ、ああ」
「(珍しく押し切られておるか)」
「刑部!」
「何、子は鎹という。佐吉。主がそそのかせ」
「唆すのですか!」
「母になってくれと言えば良い」
「はい!」

拍手

雨が、降っていた。

私の節目節目には良く雨が降る。
秀吉様との出会いも半兵衛様との出会いも。
刑部に会った時も。
そしてあれと出会った時は五月雨が降る折だった。


侍従として秀吉様の元に侍る1人として出会ったあれを見た時、私は庭の杜若を思い出した。それは着ていた装束が杜若の花の色に似ていたからかもしれない。唯、その姿形が雨に濡れても尚美しく咲き誇るあの花に似ていたのが理由の最たるところだと今でも信じている。多色塗りで煌びやかな反面毒々しい女たちとは違う単色塗りの凜としたあれは私の側に常にいた。
友として、一生伝えることはない気持ちを抱いた相手として常に側に居て秀吉様に尽くした。

三成殿は秀吉様の左腕で私は影でありたいとあれは良く言っていた。秀吉様がいないと生きていけないのだと。次いで言えば私が居ないのも同じだと。


常に私はあれをあれは私を信頼していた。刑部が其れを見て表裏よなと言っていたが私もあれも否定したことは一度もなかった。
使う武器、性質、喋り方、性別。反対であるあれと私の共通項は秀吉様であり、其れが全てであったのだ。あれは私に比べ疑心も強かった。其処は刑部と同じだと二人は良く私をからかったのだ。疑心の気薄な私を二人は笑い、支えてくれた。自然、刑部とも輩と呼べる間になったのだ。



疑心が強い分親しくなると義に篤く裏切りもしない。他の者がいない時はただの女のように話したり泣いたり怒ったり。何より大いに笑っていた。





そのあれが、唯一心を許さなかったのは家康だった。
良き友の一人となれるのではないかと言う愚かな私の言葉を珍しく言い淀みながら。それでいて明確な意思を持って拒否していた。徳川殿は我々と違うと。そう言って。
そしてあれは刑部とともに半兵衛様に願い出ていたのだ。必ず私かあれを側につけて欲しいと。どちら共を側から離すことはしないで欲しいと。私には理解不明だったこの願いを半兵衛様は快諾した。陣中にいても必ず何方かが秀吉様の側にあった。いや、何方かといえば私が戦さ場を駆けあれは側に居たのだ。秀吉様の為に戦えと言ったがこれも私の戦いだと言ってあれは一歩も引かなかった。これはとても珍しいことで、逆に私がたじろぎ半兵衛様と刑部との短慮という叱咤も相まって、折れることになったのは記憶に新しい話だ。




何故なのかがわかったのもまた、雨の折だった。
家康の謀反に対する急襲を逆手にとって大打撃を加えたあれは一人で家康と本田を相手にした。あれの軍の鬼気迫る攻撃は賞賛に値するものだった。

唯、あれを相手にするには此方も無傷ではいらなかったのだ





知らせを聞いて、あれの元へ駆けて行く最中も雨だった。




















「…」
「やれ、三成」
「刑部か…」
「また眠ったか?」
「ああ」
「ふふふ」
「?!」
「狸寝入りは品がないのう」
「すみません。狸寝入りでは無く、寝が浅くて」
「何か飲むか?」
「ふふふ」
「?」
「お二人が枕元に膝を突き合わせるだなんて…」
「我にとっては主は良き友の一人故」
「あら、嬉しいですね」
「わ、私もだ」
「三成殿は迎えに来てくれましたものね。」
「当たり前だ」
「ふふふ」
「そんなことより、傷痛みは?」
「なんとか。秀吉様と半兵衛様は?」
「お前が来てもいいというのならと仰っていた」
「お目汚しですよ」
「ひひひ。なれば我は如何する?」
「自虐的ですよ」
「主の話よな」
「私は…そうですね。雷に打たれたようだから…」
「其れがどうした。あまり話すな。本調子ではないから疲れるぞ」
「主は此れには優しいなぁ」
「三成殿は刑部殿にも優しいでしょ?」
「左様左様」
「っ?!お前達!」
「三成殿」
「…何だ」
「ありがとうございます」
「…何がだ?!」
「ふふふ」
「笑うな!」
「貴方様が助けに来てくださってどれ程嬉しかったか」
「…当たり前だ。そんな事より!早く休め!!」
「はいはい」
「早く良くなれ。…共に戦えなくとも、共に歩むことは出来る」
「!」
「どうかしたか?」
「い、や」
「はてさて求婚よな」
「そのつもりだが?」
「?!」
「つまらぬなぁ。からかい甲斐がない故つまらぬ」
「つまるつまらぬではない。良いな。早く良くなれ」
「…」
「おい」
「乙女心も解さぬ奴よなぁ。ひひひ。よかったのぅ」

拍手