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変換なしの雑食夢

ran

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浅葱色

「御簾越しで短時間ならばとの事です」
「…すまない」
「どのような場合でも退室は速やかにお願い致します」
「よく、会って下さったな」
「人は悲しい分だけ泣くと腹も括れますゆえ」
「左様か」



からりと開かれた障子の向こうに御簾が見える。きっとその向こうに奥がいるのだろう。姿がわからないもののいる事は気配でわかる。奥、と呼びかけたものの返事はないが確かにそこに彼女がいる。




「申し訳御座いませんでした」
「…」
「私の浅はかさと短慮の所為で貴方を傷付けてしまいました」
「…」
「どの様な弁解も御座いません。許されない事とわかっております。それでも私は貴方の側にいたいのです。」
「…」
「奥」
「…貴方様は」
「?!」
「誰に謝って居られるのでしょうか?」
「は?」
「子を成せぬ石女と豊臣にお返しくだされば全て丸く収まりまする」
「収まりません!私は貴方以外の女に興味はありません」
「…」
「貴方様はどう、お思いか存じ上げませんが私は貴方様をお慕いしておりました。」
「は?」
「ですからこの婚礼が決まりました折、天にも昇る心地でございました。あなた様の意思は関係ございませんでしたが…私としては本当にそうだったのです」
「それは…兄上と」
「たとえ秀吉様の妹御で無かったとしても。いいえ。私は秀吉様の忠実な一兵卒で御座います。其れは地位や立場など関係ございません。あの方のために戦い傍で死するのか私の望みでした。」
「…」
「貴方がお上り遊ばす以前にも縁談はございました。ですが…全てお断りしております。私は」
「初めて登城した折、弱き童はいらぬと貴方は仰いました」
「は?」
「一月後。私が餌付けしていた鳥たちは姦しいの一言で貴方の剣の露と成り果てました」
「何、を」
「箏は今でこそお聞きなられますが、あの折は騒音と」
「???」
「いちいち言い始めるときりがありません。が、私自身そうである様に梅の様に命を落とした者もおりまする。私がそこにあるが故に傷付き悲しみ命を落とすものがあの城に上がってどれ程居たか」
「奥」
「貴方にはわかりますまい」
「…」
「貴方の真心は私にとって凶器に等しい。」
「は?」
「その言には真実が無い」
「…」
「お気に召さぬなら切って捨ててください。あの時の様に、私を蹂躙し殺そうとした時の様に」
「殺そうとなど!」
「怠惰で下種な女」
「!」
「貴方の中の私の位置がよくわかりました」
「ちがっ」
「私を殺してくださいませ」
「っ!それは」
「生きていても何も楽しくは無かった。笑う事も泣く事も煩わしいと貴方がおっしゃったのですから」
「奥」
「松」
「お約束で御座います」
「だが」
「今は」
「…わかった。だが奥」
「…はい」
「私は貴方以外と添う気は無い。側も解散させた。」
「は?」
「…また来る」









浅葱色









「…刑部」
「全て真実よな」
「私は嫌われていたのだな」
「まぁ。致し方無い話よな」
「…」
「と言ったところで離れる事も無理ならば致し方あるまいに」
「ああ」こ

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瓶覗色

「刑部」
「やれ、三成」
「奥は?」
「今寝ているらしいが当分は動かぬとの事。」
「そう、か」
「真逆ぬしとて手練た女と処女を同列に扱うとは…子の事は?」
「聞いた」
「…三成」
「なんだ?」
「奥を大阪にもどしゃれ」
「何?!」
「豊臣の後継者として子を成すのが責務よ。」
「故に奥を大阪に戻せと?くだらん」
「しかし太閤の命とすれば如何する」
「…」
「我とて不本意よ。だがよくよく考えならしゃれ」
「私は」
「ん?」
「あの男が私の知らぬ奥を知っているかと思うと…どうすることもできなかった。声、表情。私の知らぬ奥を知っていることに苛立ちを感じた。だが…全ては私の短慮のせいだ」
「…」
「奥には笑っていてもらいたい。普通とは言えないが夫婦としてあの方を幸せにしたい。時をいくら費やしてもいい。私はあの方と共にありたいのだと再認識した」
「左様か」
「例え秀吉様の命としても其れだけは嘆願する。あれ以外いらん。もし離縁するのであれば今後一切誰とも添うつもりはない。側も。私には必要ない。侍女も一新する。」
「あいわかった」
「…怒らんのか?」
「ぬしが決めたことよ。我は従うだけよの」
「すまない」







瓶覗色







「奥方様」
「?」
「殿が来ていますが」
「と、のが」
「如何致しますか?」
「まだ身支度もできていませんので…お許し下さいと」
「では御簾越しでよろしいでしょう」
「梅?!」
「お加減が悪くなるとすぐにお帰り遊ばすとのことですから…いつまでもこのままという訳には参りませんよ」

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かくかくしかじか 1

「あの…」
「何か?」
「お忙しいのにすいません。松駒さんはご出勤ですか?」
「…」
「?」
「少しお待ちください」




そう言われたのでじっと待っているとさっきの定員さんが呼んできてくれたらしい。私は一礼してお礼を言うとびっくりした顔を一瞬された。




「お兄ちゃん」
「お兄ちゃん?!何松駒。妹いたの?」
「正確にいえば違うんですけど。で、どうしたの?」
「携帯電話。忘れて行ってたから持ってきました。すいません。仕事中に…皆さんもご迷惑をおかけしました。」
「うっわー!可愛い。」
「え?」
「ちょっ?!やめてくださいよ。」
「そーですよ。すっごく怯えているじゃないですか」
「えー?いいじゃん。歳はいくつ?名前は?」
「あ、あの。」
「…痴漢と変質者。どちらがいいですかね?」





さっきの定員さんが板状のものをちらつかせると青い顔をして距離を置いてくれる。お兄ちゃんを見れば苦笑していた。




「あの…」
「何か?」
「ありがとうございます」
「…」
「?」
「松駒さんの御血縁者とは思えないほどしっかりとしておられますね」
「ちょっ!それどういう意味?!」
「そのままですが」
「ぐ…」
「あ、そろそろ帰るね。邪魔になっちゃうので」
「え?!この暗闇の中帰るつもり?!」
「自転車で帰りますから大丈夫です」
「でも危ないよ」
「最近変質者も多いし」
「…防衛本能の欠如ですね」
「?」
「仁井君?」
「何かあったら目覚めが悪いですし、状況を適切に判断できないとその内痛い目にあいますよ」
「言い過ぎだって」
「仁井君も心配して言ってくれてるからね」
「???」
「…」
「私より可愛い子を」
「この暗闇ならわからないでしょ」
「?!」
「ちょっ」
「本当ですね!暗いともしもがあるかも」
「…松駒。この子天然」
「はい。いつもこんな感じです」
「…」
「仁井さん。ご教授ありがとうございます。」
「…はぁ」
「?」
「バックヤードで待っていてください。送っていきます」
「いえいえいえいえ!ご迷惑をおかけするのは」
「…松駒さん」
「ま、まぁ。本当に危ないから。待ってなよ」
「…いいんですか?」
「早く行かないとあと5分後に酔っ払いのお客様が来店されます」
「「「?!」」」
「?」
「は、早く後ろに行って」
「え?」
「この人と二人っきりになっちゃだめだよ」
「どういう意味だ」
「いらっしゃいませ」







かくかくしかじか









「…」
「寝てる」
「んー…?」
「…」
「おはよう」
「…」
「…」
「?!」
(あっ起きたな)
「すすすすすすすすいません!」
「何がですか?」
「皆さんが働いてるのに寝ててしまって」
「…気にしなくていいですよ。一般的に寝るのが普通ですから」
「…」
「何か?」
「仁井さんは優しいですね」

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松葉色

「奥方様」
「…」
「奥方様!」
「っ!」
「あ、あいすいませぬ。驚かせてしまって」
「い、いいの。ごめんなさい。」
「殿様からお手紙を」
「ひっ」
「え?」
「あ、ちがうの。その驚いて。置いておいてください。」
「ですが…今日はお返事をと」
「では文を…きゃあ!」
「墨が。今布団と着物をお持ちいたします」




あれから数日が経ったというのにと私は自嘲してしまう。
腕にあの時の痛みが走る。身体中にある痣と打ち身は事実を明確に突きつけるのだから居た堪れない。大きな声に慄き見えない影におののく。体も。血は止まったものの女としても役に立てなくなったこの体は大きな音をたてて崩れ落ちていくのだろう。



「情けない」



未だに立つことを許可されていないこの身が情けない。この両足で大地を駆け天を仰いでいたのはいつの日か。崩れ落ちそうな体と思考は嘆きしか生みはしない。
染み込んでいく墨のようだ。





「奥方様」
「っ!」
「服を」
「やっ!?…あ」
「大丈夫でございます。墨まみれになるおつもりですか」
「ま、つ」
「なんという姿ですか。夜通し歩いた松の方がまだマシな顔をしていますよ。」
「う…」
「う?」
「梅、が」
「娘も覚悟の上。後悔はありますまい」
「でも!」
「竹も梅も忍び。何より貴方の影武者。何度も死ななければならないときにもあなたの機転で生き残ったのです。弔われず草の者として死ぬ運命を貴方は養父母と家を与えてくださりました。」
「松。」
「言祝ぎも何もかも無縁な我らに幸せを与えてくださりました泣くのなら泣きなさい。でもそれ以上嘆くのはお止めなさい。梅が泣きますよ」
「う、」
「あー…墨が」
「う、め…」
「後で洗いますからね。」
「うー」








松葉色








「やれ…」
「何か?」
「墨だらけよな。奥は?」
「泣き疲れて眠りました」
「左様か」
「殿の文は預かれませんでしたので悪しからず。」
「ん」
「刑部様」
「何か?」
「獣に襲われた後のようでございます。」
「我の不首尾よ」
「あの二人はあの時より合わなかったのではないのでしょうか」
「今よりその話を持ち出すか?」
「もっと早くに言わなかったことが悔やまれまする。…殿は」
「今は抜け殻よ」
「自分勝手な男でございますな」

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