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変換なしの雑食夢

ran

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白銀

「やれ三成」
「如何した刑部」
「帰ってきて早々、執務室に篭ったか」
「?」
「5日程になる。奥に会わしゃたか?」
「いや」
「ぬしに小言は無意味思うが二週間の帰参がひと月になり、挨拶そぞろに部屋にこもりよるのは如何かの」
「何が言いたい?」
「ぬしの愛しき奥方が賢人の妹姫に悋気してはならぬからの」
「何故だ?!あの方は尊敬できる方だ!教えを乞うて何がいけない」
「そう言う話ではない。ぬしも以前賢人に悋気しよったであろう?奥は己の心内を露わにせぬでなぁ。やれ、ぬしは致命的に不器用。奥は我慢強すぎる」
「そんな下賤な感情はない」
「下賤、のう」
「尊敬の念のみだ。あの方もそうであろう」
「(なまじ、たちが悪い)」
「…如何した?」
「いや、会いにいかぬのか?」
「まず風呂に入りひと眠る。」
「左様か」




障子の向こうが騒がしくて目が醒める。寝着を整えながら松の名を呼ぶと殿のお声が聞こえるので困った顔になる。多分休息と伝えてそれでも入ろうとなさったのだろう。少しお待ちくださいと打掛を取る。これ以上は休むことはできないだろう




「申し訳ございません」
「何故こちらで休んでいる?!」
「え?」
「寝所は横だ」
「あ、ああ。申し訳ございません。すぐに支度を」
「昼間から休むとは如何いうことだ?」
「その」
「執務や実務がない。褥すらないのだからきちっと起きていろ」
「なっ?!」
「松」
「…如何した」
「いえ、申し訳ございません」




興がそれだと言って立ち去るあの人は大阪に行く前とは別人の様で苦笑してしまう。成る程刑部様の言った致命的に不器用というのはこういう時にもわかるらしい。




「松」
「何で御座います」
「興が逸れるとこうなってしまうのですね。」










白銀








「奥」
「はい」
「妹姫様の話だが」
「はい」
「あの様に素晴らしい女は見たことがない。来週また、大阪に行く」
「そうで御座いますか」
「あなたも来い」
「…」
「如何した?」
「殿の思し召しなれば」

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菫色

「奥は半兵衛様の妹君を知っているか?」
「ええ。どちらの姉様でしょうか?」
「私とそう年の変わらない…半兵衛様と同じ白銀の髪と菫色の瞳の」
「でしたら三の姉様ですね。博学であられて私も手解きを受けました。先達ての大阪帰参の折にお会いなさったのですか?」
「そうだ。あの美しいまでに洗練された学識は賞賛に値できる。その上、半兵衛様と同じ剣をお使い遊ばされる様は何ともたとえ難く素晴らしい」
「そうでございますね。三の姉様はお優しくもあられて」
「ああ。私の様な浅慮を窘めて下さった」
「ふふふ」
「少し文を書いてくる。あの方の進軍の手助けをしなければ」
「では硯箱を」
「いやいい。執務室に行ってくる。ここにいる間考えていた草案がいま纏まった。」
「では無理をなさいませぬ様」
「ああ。ではな」





大阪から帰城なさって直ぐにそう仰って執務室に篭ってしまわれた。こうなっては私どころか刑部様ですら休息させるのに一苦労だ。





「帰ってきて早々悲しき限りよな」
「御政務で御座いますれば…御目障りにならない様にしなければいけませんね」
「にしても、度が過ぎよう」
「ふふふ」
「やれ、本来はぬしが怒るところよ」
「いいえ。私が憂うことない様にお心遣い頂いておりますのに」
「やれ、奥」




そう言うと困った様な顔をなさるので私も同じ様な顔をする。その表情は暗に他の女と遊んでいるのに良いのかと窘められている様で私も困る。三の姉様は私が見ても博学で美しくそして御強い。惹かれるのは無理のないことでしょうにと内心思いながら刑部様を嗜める。




「実際問題として。御子が産まれませんでしたら側は必要でございましょう?三の姉様がというわけではありませんが。覚悟はしているのですよ。」
「やれ、奥」
「ご寵愛を失わぬ様に必死な私と三の姉様なれば魅力が違います。」
「またその様な」
「ふふふ。覚悟はいつしていても良いということです。今すぐなのか先なのか。」
「来るか来ぬかもわからぬがなぁ」
「そう、でございますね」
「奥?如何した?」
「いえ何でも。そんな事より刑部様」
「ん?」
「無事の帰城何よりで御座います」






菫色








「奥」
「刑部様はお気づきになったかしら?」
「いえ」
「ならいいの。松。少し横になります」
「では殿にその様にお伝えしておきます」
「いいえいいの。執務室側ではなく私の部屋と言って与えてくださった部屋に床を。邪魔してはなりませんから」
「晩になって気が付かれるとそこから移動するのは些か」
「良いのよ。」
「では直ぐに」

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漆黒

「っ!ああ」
「…奥」
「ん…」
「…」
「みつ、なりさま?」
「いや、もう今日はしない。約束通り止める」
「ん」
「眠いか?」
「少し」
「無理をさせた」
「いいえ。」
「?」
「貴方に欲されるのは嬉しい話ですから」
「そう、か」
「御付き合いできない私が不甲斐ないのです」
「い、いや!そんな事はない。私も満たされているから」
「…本当に?」
「ああ」
「よかった」
「…」
「貴方様とこのまま一つになって仕舞えばいいのに」
「は?」
「喜びも嬉しさも愛おしさも全て伝わりましょうに」
「奥」
「はい」
「あまり煽らないでくれ」
「?」
「夜毎重ねているというのに本当に清廉なままだ。」
「ん…」
「済まないな」
「三成、様」
「これで本当に最後にしたい」







目を覚まして横を見ると奥が寝ている。そっと頬を撫でるとうっすらと瞳が開く。黒く長い睫毛に彩られたそれは私のものと違って繊細だ。少し焦点のあっていない瞳でこちらを見て綻ぶように笑うのを私以外知りはしないだろう





「みつなりさま?」
「ん?」
「ねないのですか?」
「目が覚めた」
「まだ夜更けではありませぬか」
「奥」
「三成様」
「起きてしまったか」
「いえ、まだ少しぼぅっと」
「貴方も寝が浅い」
「ふふふ。貴方様が無事でいて下されば寝られますよ」
「?」
「私には心配しか出来ませんから」
「心配しなくてもいい」
「ふふふ。私の仕事を取らないでくださいませ」
「奥」
「もう少し、横になりましょう」
「しかし」
「今はまだ御忙しくないでしょ?」
「…」
「三成様」
「…貴方だけだ」
「?」
「論でも無く崇拝でもなく私を丸め込もうとするのは」
「丸め込めません。」
「いや、いい。穏やかな柔らかさだ」
「お怒りですか?」
「貴方以外なら。…叫んでいるか」
「経験ありますわ」
「…言うな」
「三成様」
「ん?」
「何時、私を貰おうと思われたの?」
「?!」
「ふふふ。暖かい」
「揶揄うな」
「はい」
「私は」
「?」
「貴方の微笑みを見て嫌悪感も憎悪も何もかも全て手放して守りたいと思ったのだ」
「は?」
「何時だったか?裳着の後だ。」
「酷くご立腹でしたのに?」
「いうな。ただ」
「?」
「琴の音も筆の跡も私より幼い女のものかと戦々恐々としたのを覚えている。」
「戦々恐々?」
「どんな高飛車で面倒な女かと。だが…貴方はただ美しく微笑まれるのだ。秀吉様は雄々しく神々しい。故に守るなど烏滸がましい。」
「そうでございますね」
「貴方は…守りたいと。守らなければならないと勝手に思って今に至っている」
「…」
「奥?」
「ふふふ」
「顔が緩んでいる」
「嬉しくて」
「そうか」
「はい」
「奥?」
「抱きしめてくださいませ」
「…ん」
「また戦が始まれば離れてしまうのですから」
「ああ」
「愛しております」
「私もだ」








漆黒









「殿?」
「奥」
「朝餉の支度ができました」
「そうか」
「ひひひ。奥が居ればぬしのそれも治るか」
「刑部」
「刑部様も」
「あいわかった」
「島様は?」
「あれは他と食べる。食べる時だけでも静かなのがいい。」
「なれば我も」
「ふふふ。刑部様のはもう用意しているのですよ」
「早く来い刑部」
「私一人では逃げられますので」
「やれやれ。」

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濡羽色

「と、の」
「…奥?」
「奥はなぁ。手違いで媚薬などを飲んでしまわれたそうよな」
「なっ?!」
「まぁ思い余っての事故。怒るなおこるな」
「貴様!奥に何故その様なものを!!!」
「素直になれぬと泣いておりましたもので…では刑部様参りましょう」
「そうよな」



ぱたりと締められた障子の向こうで人払と叫ばれて途方にくれる。如何しろというのだ。一大事と言われて来た。ある意味、一大事だがこれは困る。先だっても泣かれたばかりなのだ。




「御前、様」
「っ」
「御前様…」
「苦しいか?」
「ん」
「何故飲んだのだ」
「御前様に嫌われたくないから」
「?」
「すごく悲しそうな顔、」
「あ、ああ。致し方ない。貴方が気にやむ事ではないのだが」
「?」
「性急にせずとも」
「貴方が他の人のものになるのは嫌です」
「は?」
「だって」
「…奥。以前も言ったが貴方以外の女を呼ぶ事も側に置く事もない」
「…」
「奥」
「私…御前様」
「っ」
「あつ、い」
「ま、待て!?効いてきたのか」
「ん。」
「う、」
「あう…ん。御前、様。くる、しい」
「…奥、私にも、限界が」
「…」
「そんな顔で見ないでくれ。また無理矢理してしまったら」
「無理やりでもいい」
「な」
「泣いていても止めないで」
「…」
「貴方の妻にさせてくださいませ」




潤んだ瞳。紅潮した頬。美しい唇。薬のせいとわかっている。こんなものでこの人を傷つけたくない。






「奥」
「はい」
「この褥の間だけでいい。」
「ん」
「名で呼んでくれ」
「名前?」
「そうすればきっと。貴方を優しく抱けるはずだ」
「抱いて、下さる?」
「ああ」
「触れて、下さる?」
「止まれないかもしれないが」
「それでも良い」
「奥」
「抱いて下さいませ。貴方を思って苦しいのです」
「…」
「三成様」
「っ」








濡羽色



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