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変換なしの雑食夢

ran

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銀英伝

「お父様」
「ん?如何しました?」
「お母様は何時もどちらに行ってらっしゃるのですか?」
「ああ。お母様はね大切な方のところへ行ってらっしゃるのですよ」
「私やドミニクとクリフトフルやヘンリエッタよりも?」
「君達も大切だから安心して。」
「父上よりもですか?」
「ドミニク?」
「姉上もそれを心配しておいでなのです」
「?」
「先日同級生の…」
「ああ。駆け落ちですね。」
「母上は?」
「違いますよ。貴方たちを捨てていく筈がないでしょう。」
「なら」
「それに相手は随分前にお亡くなりになっているのですから」





あいも変わらず、静かな場所ねと私は花を捧げる。赤い薔薇はやっぱり貴方には似合わないわねと言いながら座り込む。


「パウルさんより年上になってしまったわ」


恐ろしいわねと言ってくすくす笑う。随分と年上のように思っていたのにね。そちらは如何なのかしら?歳は取るの?取って頂かないと会った時に困るわね。じゃないと、貴方はこんなおばちゃん嫌になってしまっているでしょう?


「ヘンリエッタが小等部に入ったの。可愛いのよ。有難いかな私に似なくて二人とも温厚よ。ナイトハルトさんに似たのね。ドミニクとクリフトフルももの静かだけど…軍人になってしまったわ。ラーベナイト夫人が泣いてしまったのよ。凛々しくなったって。私にはいつまでたっても可愛い息子でいて欲しかったのですけど。今となっては頼もしい子達ね。あの人が居なくとも守ってくれる、立派な騎士になったわ」



ナイトハルトさんが喜んでいたのよと言って私は彫られた名前に指を這わす。質素で名前しか書いていないそれは彼が生前に用意したもので相変わらず準備万全で嫌になる。「最愛なる吾が夫」と書いてやったのにと言えばラーベナイトさんが苦笑したな。これを阻止したかったの?


吾が最愛なる夫。

あの時死ぬなと言ってくれた貴方だから、私の定期連絡を苦虫を潰した顔をしながら聞いてくださっているのだろう。愛している。あの時よりずっと。

でも



「貴方と同じくらい愛している人ができた私を許してくれていますか?いつも聞いてるからいい加減嫌になってきているでしょうけど。ナイトハルトさんと共に生きて子供たちを育てて。私幸せよ。貴方と共に生きて入られたらと考えなくも無いけど…。」



馬鹿なのだから考えるなという貴方の声が聞こえそうね。きっとそう言っているのでしょ?やっぱり貴方の思い出を何も忘れられなかったわ。



「貴方。お願いよ。私の愛する息子たちを守ってください。私の愛する娘たちに幸せを。何より、」




砂色の人。貴方と違う愛で慈しんでくれる最愛の人。



「どうか、ナイトハルトさんとこの髪が白くなるまで共にいさせてね。私の最愛なる人たちを守って頂戴。誰でも無い、貴方だから安心して頼めるの。お願いよ」



なんて言っているかしら。返事くらいしてくれてもいいでしょうと言いながら私は立ち上がる。貴方の育てた憲兵さんが未だに助けてくれるのよ。とくすくす笑いながらまた来るわと踵を返す。



「あら、ナイトハルトさん」
「閣下はなんて?」
「馬鹿なのだから考えるなと言っているわ」
「彼らしいな」
「如何したの?今日は」
「うん。私ではなくて」
「?」
「子供達が」
「パウルさんの苦笑が眼に浮かぶわ」



そう言って車の方へ行く。距離をとって見守ってくれた憲兵さんも苦笑いだ。ああ、そう言えば駆け落ちした貴婦人がいたなぁ。それとたぶらせてしまったのかしら?と言えばそうみたいですと返事が返ってくる。


「あれは無理矢理だったからでしょう?」
「君は?」
「あら、まだ私の貞心をお疑い?」
「いや」
「いいわ。あちらに帰ってお話ししましょう」
「オーベルシュタイン閣下に殺されてしまうよ。」
「うふふ。」
「マインシャッツ」
「はい?」
「いや」
「もう。ナイトハルトさん」
「ん?」
「言わせる気?」
「出来れば」
「愛しているわ」
「オーベルシュタイン閣下と近付けたかな?」
「同じくらい好きよ。」
「…」
「ナイトハルトさん?」
「本当に?」
「…随分と前から。貴方もしかしてずっと」
「オーベルシュタイン閣下の足元くらいかと」
「呆れた。」
「君達の睦まじさを知っていたからね。」
「貴方が言った通り、私には唯一が一つでは無いわ。子供たちはもちろん最愛だしパウルさんも。」
「うん」
「勿論あなたも、私の最愛なる人よ。」
「マインシャッツ」
「知っているかと思ってた」
「お情けでして貰ってもらった様な物だからね。」
「怒るわよ!」
「すまない。」
「貴方こそ。引く手数多だったに」
「君に心を奪われてしまったからね。」
「いつ居なくなるかはらはらしてたのよ」
「そんな生易しい気持ちであのオーベルシュタイン閣下夫人に懸想しないよ」
「ふーん」
「結婚して何年?」
「17年」
「そんなに」
「あっという間でしたね」
「ええ」
「ナイトハルトさん」
「ん?」
「退役まで長生きしてよ」
「…」
「貴方が思っている以上に貴方が好きですから」
「うん」



きっと大丈夫だろうと思いながら手を繋ぐのだった






大切な人

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