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変換なしの雑食夢

ran

勝手すぎる三成 8

何らかの理由で記憶が無くなっていますねと言った瞬間三成は唸った。整合性の取れていない記憶喪失は、所謂嘘に近いものかと思われたがどちらかと言うと精神的な防御作用のようなものと結論付けられた。心のバランスを保つために忘れてしまったのだろうと。
ただ、此処は専門の医師がいないからと転院を勧められた。其れに便乗して連れて帰ろうといったものの三成の顔色は悪い。

三成を忘れてしまったのだ。其れはもう一片も残さずに。


「佐吉」
「母?」
「あの人は如何して母を悲しそうに見るのかしら?」
「…」
「其れに佐吉に少し似てるわ」
「な?!」
「ふふふ。」
「私は母に似てる。血液型が同じだ!」
「手の形も似ているわね」
「…ん」
「耳の形は…誰に似ているのかしら?」
「母?」
「ねえ、佐吉」
「何だ」
「母はとても大切なものを忘れてしまったのかしら」
「…とても辛いことだ」
「そう」
「あの男のことなど忘れたほうがいい」
「佐吉?」
「やれ、入る」
「はい…えっと」
「我も忘れたか?」
「何処かで?」
「…ひひひ。我は佐吉のお友達よ。時代劇仲間故。なぁ、佐吉」
「ああ!」
「そうでしたか」
「そして主とはずっと昔からの友人のようなものよ」
「?」
「此処ではなぁ、ぬしを見られぬのでな。転院致すがよろしいか」
「え?!ですが」
「もうちと精密に検査する場所に行く。ゆるりとなぁ、佐吉ももちろん」
「…私は貴方様の友人と仰いますが。そこまでして頂ける関係ではないかと」
「する関係なのよ」
「…」
「やれ、三成」
「はいるぞ」
「あ」
「?」
「あの時の。この方もそうなのですか?」
「こいつは敵だ!」
「佐吉?」
「やれ、佐吉。違う違う。味方よ味方」
「???」
「これからの面倒は全て私が見るから安心しろ…良いな」
「ふふ」
「?!」
「母?」
「やっぱり佐吉とそっくり。困った時に歯を食いしばりながら話すの」
「私はしてない!」
「そうね…歯を痛めますよ…?」
「三成?」
「…すまん、少し出る」
「え?!私?」
「ひひひ。許しゃれ。」
「何故、泣いてしまったのかしら?」






勝手すぎる三成 9







あれよあれよというまに私は東京に連れてこられる。大きな病院の特別室はとても居心地が悪いものの佐吉が寝られるベットがあって其れは其れで良いのかもしれない。昔住んでいたあたりだと言われてもピンとこない。母も父も顔が思い出せないのだから仕方がない。きちんと記憶にあることは佐吉のことだけど其れもあやふやなところが多いのだ。あの子の父親の顔も思い出せない。

なにより、大谷さんと石田さんが何者なのかちっとも思い出せないのだ。今は休みの消化中よと言っていつも佐吉を見てくれる大谷さんと違い石田さんは仕事があるからといってずっと側にいるわけではないものの毎日必ずお見舞いに来てくれる。とても優しい良い人なのだろう。最初疑っていた自分を恥じ入るのだ。



「今日もいらっしゃったのね」
「三成か?」
「私が寝ていると花を挿して行ってくださるから。」
「アネモネか」
「申し訳ないんです」
「好きでやっておることよ」
「御礼を言いたいのですけど…すぐ帰られるでしょ?言う暇がなくて」
「いわしゃれ。喜ぼう」
「でも…」
「手紙を書いたらどうか?」
「リハビリがてら良いですね。あと」
「ん?」
「佐吉は仲良くできていますか?」
「あれはどこにおっても変わらぬよ。」
「其れが一番怖いですね」
「1日目に悪餓鬼が絡んできたのを叩きのめしていたわ」
「?!」
「男はそういうものよ」
「胃が痛い話です」
「ひひひ。して検査は聞いたか?」
「異常ないそうです。頭の傷はまだかかりそうですけど。」
「左様か」
「傷が治ったら仕事探さないと」
「佐吉を見ながらか?…無理が祟ったのよ。少し休みゃれ」
「ですけど」
「三成も哀しもう」
「…聞いてみます」
「そうすれば良かろう。にしても」
「?」
「よう笑うようになったなぁ」
「???」
「…いや、気にしりゃるな」
「ええ」



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