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変換なしの雑食夢

ran

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勝手すぎる三成 前

勝手にしろが夫、石田三成の口癖だった。
家の為、父母の為。大学を出ですぐに私は石田三成の妻に納まった。盛大な挙式。広い新居。誰もが羨む豊臣商事の副社長。玉の輿だねと言われる度に私の心は冷え冷えとするのだ。妹でも良いのだけどね。歳が離れているから君にしたんだよ。副社長就任と同時に彼をしっかりさせたかったからねと言ったのは確か養父の一人だった気がする。石田三成の副社長就任の出し物のような結婚だなとぼんやりと思ったものだ。
好きでも嫌いでもない男だったが、縁あって夫婦になったのだからできるだけ仲良くしたいものだと安易に考えていた私に石田三成は勝手にしろと言わんばかりな態度を取り続けた。夕飯は如何しますか?会社で食べる。貴様は勝手にしろ。おかえりは?勝手に寝ていろ。という日常から結婚式のドレスに至るまで彼は潔いほどに勝手にしろとと言い続けた。無論、私の顔など見てなど一つもなかった。
だから、私の中の石田三成と言うのは後ろ姿か横向きのイメージしかない。結婚式の写真すら私の反対側を見ている有様だから筋金入りだ。愚鈍と散々蔑まれた私でもここまで来ればこの結婚自体、崇拝している会長、社長両養父の二人の命で渋々ながら受けた、本来気に入らない事なのだと理解できた。その程度に蔑まれ嫌われて居るのだと。良く暴力がなかったものだと今になって思うがそれもきっと外聞が悪いから駄目だと養父に言い含められていた為だろう。
そんな程度に冷え切っている夫婦が夫婦であり続けられたのは彼にとっては「崇拝している養父の命」であり私は「両親の嘆願」に尽きる。このどちらかが欠けたらすぐになくなってしまう脆い関係のくせに、どちらかが欠けなければ何よりも強固な関係になるのだから不思議なものだ。社会性…と言えば良いのだろうか?そういうもので私たちは繋がっている。
だから石田三成が何処で何をしていようとも愛人を作っていようとも私は平気でいられたのだと思う。否、感情を停めていたから如何とも思えなかったの方が正しいかもしれない。まぁどちらでも良い。彼女達にも蔑まれ「お飾りの妻」と言われても私は素直にうなづく事ができたし「夫をよろしくお願いいたします」と形式通り台詞を吐く事ができた。本当によろしくしていただきたかったもののそれは不可能だと理解していたし、彼も知っていたと思う。好きでも無い妻と美しい愛人。天秤にかけて傾く方など決まっている。「今日は遅い。貴様は勝手にしていろ」そう言っては愛人を助手席に乗せて何処かに行く男が心底何を思っているなんて如何でもよかったし、其の儘帰ってこなくても良いのになぁとぼんやり思ってもいた。仕事をする事も却下され趣味もない私が誰も帰ってこない上お手伝いさんまでいる家に居てやる事などたかが知れている。気が遠くなるような長い時間の中で私は深く息をして目を閉じるだけなのだ。




「子供が出来ました」




その均衡を崩したのは例年より雨の降る梅雨時期の事だ。愛人と遊ぶだけ遊んで帰ってくると石田三成は私を抱く。手酷くなのか否かは私にはわからない。私の唯一がこの男である事は悲劇のような気がするし、逆に悦びと言うものを知らない方が良い事ではないかとも思い始めた矢先の話だった。夫婦だから避妊はしないのだろう。いつかは出来てしまうその命を眼前に突きつけてもいつもと変わらず勝手にしろと言うのだ。
産むな、という事なのか否か。解りかねる判断に悩まされるのはごめんだし、避妊すらしなかったのだから産めという事なのだろうと理解はしたもののその言葉は私の心の奥底に澱となって溜まっていった。





「勝手にすれば良い」






子供の病院は吉継さんが手配してくれた。養父も同様の彼は嬉しそうで誰が父親かわからないなぁと思う。養父も父母も吉継さんも皆悦び祝福する中で彼だけはその言葉を吐き続けた。その頃には「勝手にしろ」が肯定の意味ではないのかという仮説をたてたのだが、「勝手にしろ」と言った事が彼の意思に反していたら烈火のごとく怒ったのでそうでは無いとも知った。彼の勝手にしろは至極面倒な無関心なのだと心底思ったものだ。

そして恐ろしくもなったのだ。






『勝手にしろ。私に態々連絡してくるな』
「忙しい中申し訳ありません。」
『だから貴様は愚鈍と言うのだ。』
「はい」
『わかったら切るぞ!今忙しい』
「は、い」
『?』
「では」
『おい』
「?」
『泣いているのか?』
「…いえ」
『…貴様の様な愚鈍で感情の無い女が泣く事は無いな。子供の事は貴様が勝手に決めろ!大体、私の子か否かすらわからんのだ!いちいち私に聞くな』
「…」
『なんだ?』
「いえ…失礼します」






無機質な声は何よりも無慈悲で。私の憶測は当たっていたのだなと溜息を吐く。右手には一枚の紙。この結婚で父母は羽振りが良くなっただけで私の事など如何も思っていない事を痛感した。こと母は妹に良い大学と良い就職先。恋愛をして結婚しなさいね。恋愛結婚をした私たちは幸せよというのだ。私の前で平然と。父や妹がどれほど窘めてもそれは治りはしなかった。その程度なのだ。私は。体の良い道具。まさにそれなのだと思う。
この世に私の味方などいない。この子も。大事になんてしてもらえないだろう。私の可愛い子供。きっと愛人に子供でも出来たら蔑ろにされるだろう私の可哀想な子供。
そう考えるとつらくて泣きそうになる。ただ、泣いたところで何も変わりはしない。
結婚して3年。石女とも言われた。外れとも。養父の会長や吉継さんが居たら窘めてはくれるものの社長や夫は誰よりも辛辣だった。守ってくれる者などいはしない。父母すらそうだ。帰ってくるなと婚前に言われている。妹は来月から就職だ。…もう良いだろう。もう充分だろう。何より、私の心がもうもたない
机の上に封筒と指輪を置く。気づくのはきっと大分先だろうなとぼんやり思いながら私は鞄を持つのだった








勝手すぎる三成









あれから6年。私は小さな町に住んでいる。最初は臨月間近な女がふらりと現れたものだから訝しげに見られたものの慣れてしまえばみな良い人で子育てもいろいろ手伝ってくれている。



「母!」
「佐吉。おかえりなさい。保育園で琴ちゃんと遊んでたんじゃ無いの?」
「裏のおばさんが来て野菜を貰った。」
「あら!お礼言わないと。帰りに寄って帰ろうね」
「わかった!」
「あら!佐吉ちゃん来てたの?」
「こんにちは」
「すいません。保育所で遊んでたのですけど…」
「良いのよ!保育所の先生には言っておくわ。佐吉ちゃん。大野の婆ちゃまが会いたがってたわよ」
「行ってくる」
「手洗いうがいしてからよ」
「はい!」
「ふふふ。佐吉ちゃんもしっかりしてきたわね。」
「ここに来た時は首も座ってませんでしたから…何から何まで」
「本当はみんなの方が救われてるのよ。佐吉ちゃん位でしょ?ここに来て話聞いてあげてくれるの。みんな喜んでるのよ。」
「そう言ってもらえると助かります」
「あ!」
「?」
「そんな事より知ってる?今変質者が多いの」
「え?」
「保育園も明日から外遊び減らすようよ。佐吉ちゃんも気をつけないと。外に行く時は誰でも良いから大人を連れて行ってね。」
「はい」
「そろそろ上がる時間でしょ?気をつけてね」
「ありがとうございます。では、佐吉」
「あらら。大野の婆ちゃまが離さないわね」
「…母」
「構わないわ。主任。大野の婆ちゃまが気がすむまで私も何かしておきます」
「そう?悪いわね」





結局帰れたのは夕方で。佐吉曰く大野の婆ちゃまがおいしいお茶の入れ方を教えてくれているので聞いていたら時間を忘れてしまったと。少しシュンとした様が可愛いなぁと思いながら、構わないわというとホッとするのでますますもって可愛らしい。裏の山田さんにもお礼を行って帰路につく。今日は昨日作ったカレーかなと思いながら鍵を取り出す。
つい、と佐吉に裾を引っ張られる感覚に驚いて如何したのと尋ねると誰か来たと言われるのだ。




「誰か?」
「知らない人」
「?」
「ひひひ」
「っ?!」
「ようや見つけた、みつけた」
「よ、しつぐさん」
「母?」
「母?…ではこの子が?」
「誰かと勘違いなさっているのでしょう?帰ってください!」
「母?!如何した???」
「なんでも無いよ。さぁ。行きましょう」
「何がなんでもないだ!!!!」





その怒声を聞いて息が止まる。でもカタカタと震えるのだ。草食獣と肉食獣のそれを感じる。佐吉も困ったような顔をして大丈夫か?と言ってはくれるものの私としてはうなづくので精一杯だった








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