自己嫌悪の三成 三成短編 2016年02月28日 「失礼いたします」「何の用だ!」「お着物の直しをお持ちいたしました」「そんな物!私のいない内に置いておけ!」「申し訳ございません」「…まだ何かあるのか?」「お茶を…」「いらん!大体書物をしているのだ!何かあったらどうする気だ!」「申し訳ございません」「フンッ!気の利かぬ奥だ。目障りだ!下がれ!!!」「…失礼致しました」いつも通りのやり取りすぎて悲しくなる。本当に夫婦なのだろうかという思案は一週間で回帰する。新枕を無言で共にしたのちにまともな会話などない。況してや枕を交わす事などありはしなかった。一年。嫌悪にまみれた日々だった。いや、永遠に続くのだろうそれに戦慄を覚える。嫌われているのだから致し方ない。太閤殿下が命じて致し方なく娶った女子が私なのだから。美しくも聡明なわけでもない。平々凡々な嫁御など目障り以外の何物でもないだろう。一層、お目通りせぬ方がいいのではと最近本当に考えているとくらりと眩暈がした。あ、旦那様の湯呑みが割れてしまう。また罵られてしまうという恐怖にそれを守ろうとしてしまった。だからと言ったら聞こえがいいが、自分の身の事を忘れてしまった。案の定、我が身は縁を投げ出され、庭に落ちてしまう。ごきりという嫌な音とぐさりと足に何かが刺さった痛みと。それらで覚醒するかと思ったのに。意識は遠のいてしまうのだった。目を覚ました時一番に思った事は部屋の中である。という事だった。きょろきょろと視線のみを使って周りを見渡すと此処が自室であること。如何やら寝巻きに着替えられている事。怪我が思いの外痛くない事。それらがわかって声を出してみようと思うものの声が出にくい。何より起き上がる事も難儀する。それを無理したのがいけなかった。「?!」「っ!」「起き上がらないで下さいませ!重症なのですよ?今は医師を呼んで参ります!」痛くないは寝ていたせいだった。馬鹿だ馬鹿だと思っていたが正真正銘の馬鹿だった。激痛に脂汗が出てくる。如何やら足と背中に何かあったらしい。強かに打って居りますから絶対安静でございます!と医師に叱られる。矢張り足に枝が刺さり運悪く貫通しているという事と背中は全体に青痣が出来るほどの打撲。なんと気がつかなかったのだけれど腕は折れているらしい。気が付きませんでしたと言えば固定していますからねと返される。「やれ、奥」「大谷様、このような…っう!」「動きなさるな。昨日まで生死の境を彷徨っておいでだった故」「?!」「主が庭に落ちてのち雨が降ってのう。低体温で見つかった時は死体と思ったほどよ。満身創痍の上に長時間雨に晒され案の定高熱が出てなぁ。本に危なかった」「そうですか」「だが良かった。我は、みつな」「…其の儘死んでいれば良かったですね」「は?」「さすれば、旦那様の憂いが一つ減りましたのに。」「お、奥?」「大谷様」「な、何か?」「本に私は愚図で気の利かぬ、役立たずでございますね」「ど、如何なされた?!」「いえ…今自分の至らなさに嘆いております。」「三成に」「彼の方は私の事など箸にもかけませんでしょうが…言わないで下さいませ」「は?何故」「これ以上目障りになりたくないのです」「そんな事はない。本にぬしのことを心配しておった」「ふふふ。そんな優しい嘘を吐かなくても良いのです。あの方が私を厭うておいでなのは知っておりましたから…」「奥よ。それは、いや」「大谷様?」「…ひひひ。主も中々大変よの」「いいえ。それほどでもございません」「そちではない…まぁいい。これは我よりよ」「?」「軟膏。傷によく効く」「!ありがとうございます」「今は第一に身体を治す事のみ考えられよ。全てはそれからよ」「はい」自己嫌悪な三成「三成」「…これを渡しておけ!」「そういうのがよろしくない。」「っ!」「歯軋りするではいわ。本に主は…惚れておるなら優しい言葉の一つや二つ」「むむむむむむむむりだ!」「なれば離縁だのう」「?!」「死ねば良いと言う奥がこの世の何処に居る?」「う…」「好かぬなら」「?!」「好きなら」「…っ?!」「そういう童のような意地悪など流行らぬわ。」「う、あ」「あれ?!殿!奥様殿がお見舞いに」「そんなわけあるか!!!己が身も守れぬ愚図に用はない!!!」「これ、三成」「…わかって居ります。申し訳ございません」「う…」「本に私は」「奥方様?!どうぞお泣き遊ばしますな…」「ふふふ」「っ?!」「はてさて。難儀よなぁ」 PR