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変換なしの雑食夢

ran

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放置する三成

子供ができましたと言えば、三成様は停止して漸く、そうかとだけ呟く。そしてそれ以降御渡りどころか朝餉も別となり、戦に行ってしまわれた。よくあることだ。戦前は朝餉を取らずに用意をするからいつもならああ戦が近いのかと思うのだけれども今回は子供が出来た私を厭うたのだと思ったのだ。どちらなのは分からないが。まぁ前者だろうけど。
元々結婚意識の薄い旦那様だった。父としても同じだろう。叔父である太閤殿下から下賜された嫁は目の上の瘤だと当初から言われていた。元来口数の少ない旦那様と無愛想な私。いや違う。根本的に昔から苦手とした太閤の姪。其れが私だ。半兵衛の悪趣味によって組まれた縁組の中でもピカイチな組み合わせだと思うのだ。義務による同衾もこれで終いだ。一層の事私にでも旦那様にも似ていなきゃいい。太閤殿下に瓜二つなら泣いて喜ぶだろう。そういう男だ。
其れから半年。悪阻を終え戌の日を終え。全て一人で采配してこなしていく。産婆の手配も済んで、出産も一人でするのかとと思った臨月に近い頃に旦那様が前触れも無く帰ってきた。音も沙汰もなかった。文一つよこさぬひどい男である。



「おかえりなさいませ」
「あ、ああ」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「あ」
「三成様!!!」
「左近か。火急の用か」
「ええ!あ、申し訳ありませんでした!奥方様がいたんですね」
「いや、構わん。入れ」
「でも…」
「良いのですよ、左近殿。では旦那様。失礼いたします」
「え?!」
「おい…」
「火急の知らせに私がいては何かとお目障りでしょう」
「そんな、事は」
「自室に控えております。では失礼いたします」
「あ、ああ」




そう言って私は顔を見ず一礼する。
お腹が痞えて歩きにくいと思いつつ侍女に腕を借りて立ち上がり部屋を出る。本に酷い男だ。









「横ににられますか?」
「ええ」
「目眩などは?」
「目が回りそう。気分が悪いわ」
「近頃、貧血が非道うございますね」
「仕方ないわ。」
「お疲れが出てきたのでしょう。もう臨月近くですのでごゆるりとお体をお休めくださいませ」
「ええ」
「ですか」
「?」
「この後刑部様が御目通りを願う出ておりましたが」
「どうせ、側の話でしょ?私は用済みですから」
「奥方様」
「お好きになさったら良いのにね。あ、そうそう。面会だったわね。…そうね。床から出れずによければ」
「お伝えしておきます」
「もし寝ていたら起こして頂戴」
「いえ、あの」
「…外にいらっしゃるのね。いいわ。お通しして」
「はい…刑部様!」
「案内くらいさせますよ」
「ヒヒヒッ。我とて居ても立っても居られない程でなぁ。おうおう。大きゅうなられたな」
「ああ。お知らせする前に戦に立たれましたからね。勝ち戦おめでとうございます」
「いや、なに。…いつよ」
「再来月かしら?後ひと月半から其のあたりまででしょう。小舅殿」
「ヒヒヒッ。ようやったようやった。やれ、三成は?」
「知っていますよ」
「其れは当たり前よ。男の子なら嫡男なのだから。そうではない。今どこよ」
「さぁ…」
「さぁ?」
「今挨拶はしてまいりました。左近殿とお話しなさっておいでだと」
「あのうつけ者は」
「?」
「主とて良いのか?」
「何がですか?」
「せっかくの赤子よ。」
「子は楽しみでございます」
「なれば」
「私は我が子として。あの方は太閤の血縁としてでしょう。為れば産まれた後に意味を成すというものです」
「は?」
「男親というのはそう言うものでしょう?子を駒にしかお見になりませぬから。半兵衛にしても太閤殿下にしてもそうでございます。実家の父母も。男の子をと言うばかりで。貴方様もそうでございますね」
「いや、何。そう言うわけではないが…奥よ。皆楽しみにしておるのよ」
「ありがとう存じ上げます。で、御用は?」
「その、なあ。主の顔を見に来ただけよ。」
「左様で御座いますか。」
「それに」
「?」
「本心を言ってしまえば主のいう通り太閤始め皆、男の子を待っておる。」
「そうで御座いましょうね。」
「三成と主の子がどう言う意味を持つかも聡い主ならようわかっておろう」
「ええ。ですからこの様な結婚を半兵衛が画作したのではないですか。年の頃合が丁度良いのは私だけでしたから。扱いにくい嫁で御座いましたな。」
「いや、何。そうでもないが…如何した?」
「旦那様の側の件でございましょう?」
「…本に主は。聡過ぎるわ。」
「言いにくそうでしたから。どうぞお好きになさって。私は用済みですから」
「これ、奥」
「この半年、放っておいたのです。後ひと月ほおっておても同じ事でしょう。」
「…そう言うわけではないのだがな。」
「刑部様はとても賢い方ですからはっきりとわかっておいででしょう。」
「ぬ…」
「…少し疲れました」
「奥」
「刑部様…奥方様は本当にお加減がお悪いのです。今は皆様がお帰り遊ばしています故気丈しておいでですが、本来床から上がれるほどお元気ではないので御座います」
「これ」
「…どう言う事か?」
「元より体の丈夫な方ではないので御座います。出産など…。ですがお家のためと。其れなのに差配に手配。家人のことまで気にかけて下さり、皆案じておでなのです。差し出がましくも何度か文をお書きいたしましたが…ご返事もなく。どうぞお願い申し上げます。今は御前よりお下がりくださいませ」
「…止しなさい。申し訳有りません、刑部様。」
「い、や。主は」
「はい」
「体がそんなにも弱いのか?」
「ある程度に。」
「知らなんだ…とは言えすまぬ。何の手助けも出来なんだ。」
「いいえ。謝らないでくださいませ。」
「ちと聞きたい」
「はい」
「三成は」
「知っておいででした。」
「左様か…」
「奥方様、少しお休みくださいませ。顔色が」
「大事。ありませんよ。」
「いや、すまぬ。我は帰る故ゆるりと」
「ありがとうございます」






そう言うと悲しそうな目で私を見て部屋を出て行かれる。ハズレを引かされたと思った様ねとくつくつ笑うと侍女が静かに泣くのだった。









放置する三成







目を覚ますと当たりが薄暗い。朝なのか夕なのか、わからないと思いながら水差しを見る。ゆっくりと起き上がって一口水を含むと枕元に箱がある事に気がつく。
お守りと張子の犬。こんなものあったか?と思っていたら侍女が部屋に入ってくる。



「起きられて大丈夫ですか?」
「ええ。これは」
「左近様が…安産祈願で有名なのだとか」
「そう、ありがたい話ね。」
「これは刑部様から」
「砂糖菓子?」
「力がつくと」
「二人に礼をしないと。嫁入りの際持ってきた茶器をお渡しして。」
「はい」
「でこれは?大量のお守りと札ですが」
「…殿からです」
「…そう」
「ご寵愛下さっておいでなのです。ですがあの御気性ですからわかりにくく」
「ええ。知っていますよ」
「なら」
「大事なのは子でしょうから。ふふふ。ご覧なさい。男の子祈願ばかり。」
「奥様」
「良いのです。お礼をしないと。叔父上から頂いた香炉と。私はこの様な状態ですので、文を代わりに書いてください。殿と後二人に。」
「…はい」
「捻くれ者でダメね。素直に喜べないの」
「いいえ。」
「このまま」
「奥様?!」
「…もう少し休むわ。よろしくお願いします」

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