銀英伝 銀英伝 ある女の一生 終 2015年06月27日 熱も下がった。完治の日も近いだろう。歩きたいなぁと窓辺の方を見ているとミュラー提督が帰ってくる。大丈夫ですかといえば嬉しそうに、ここ最近は比較的平和で宇宙に行くことが少ないという。宇宙海賊は?と尋ねると辺境に現れたりしているものの管轄外らしく少し残念そうにしているのを見るとこの人も帝国軍人なのだと思い出す。「如何しましたか?」「ミュラー提督は軍人でいらっしゃる。」「え?ええ。」「そんなに出撃がしたいものかしら」「そういうふうに聞かれると、はいと答えるしかありません」そうと言って再び窓の外を見る。不思議そうな顔をしてこちらを見ながらすぐにギョッとしたそれに変わる。だって、泣いているのだから。あたふたと夫人と呼ぶものの私は顔をあげることができずにいる。ハンカチを取り出して私に手渡そうとするものの微動だにしない私にどうすればいいのかと途方に暮れているようだった「あなたには申し訳有りませんが次に再婚するときは軍人と以外考えています」「どうして?」「あの人のように私を置いていくでしょ?」「っ」「もう嫌なの」「嫌?」「一人残されるのは」この地獄の様な悲しみなど味わいたくもない。かってに決めてかってに死んだあの人を恨めたらどんなに幸せか。なのに思い出す顔はどれも優しく微笑んでいる、私の後ろで難しい本を読んでいるあの姿だけなのだ。「貴方は優しい。」「夫人」きっとやさぐれてボロボロの心を貴方は癒してくれるだろう。そう言って顔を上げる。だけど貴方も私を置いていくでしょと言えば複雑そうな顔をする。素直で優しい人。あの人なら無理だなと言ってしまって終わることを言葉を考えて私に伝えてくれる。「それに貴方に嫁ぐには私は不釣り合い」「そんなこと。大体オーベルシュタイン閣下はどうなるのです。彼の方はずっと高い地位に居ました」「あの人はいかなる手を使ってもその事を口外せぬ様にしてくれました。それに対して、手段は一切選んでいないと思います。実際、私の出自はどう遡っても夫との結婚で始まるはずです。」「それは」「あの人だから可能だった。ともに歩き、生きていく上での荊を如何なる手を使ってでも排除できるあの人だから」「…」「普通。いえ皇帝陛下ですらそこまでは出来なかったでしょう。通常の神経ではできる事ではないですから。貴方には出来ない。出来ないから貴方なのです。」「そう、かもしれません。」「あのときの私は無知で幼かった。あの人の苦労など知らずに安穏と暮らしていけました。でも今となっては私を得るものの苦悩がわかります。ミュラー提督」「はい」「私は父親の顔を知りません。どこの誰で何をしていたのか。名前すら知らない。母は幼い頃売春の相手に殺されました。私は」「夫人」「幼い妹とともに店に引き取られて体を売りました。妹が殺されたとき、目障りだと言って裸のまま捨てられました。妹は軍人によって、甚振られ、殺されたのです。」「!」「だから私は軍人が嫌いなの。特に軍人然している人が。ビッテンフェルト提督がどんなにいい人だとわかっていてもどこか苦手なのはそれが理由です。」「…」どんな顔をしているのだろう。それすらわからない。「ですが何より怖いのは、パウルさんがいなくなってしまいそうで怖い」「夫人」「オーベルシュタインの名も別の場所て生きている私たちをつなぐ唯一のものだから。私は死ぬまであの人の事が好きだろうし忘れる事ができない。きっと貴方に嫁いだとしても比べてしまうわ。他の男を愛している女を愛せますか?一生。今は良くてもいつか疲れて傷つくわ。そんな事私が嫌」「…」「貴方まで巻き添えに出来ない」そう言ってしまって少しだけ楽になる。何も返事が返ってこないところを見るとやはり勘違いをしていたのだろう。「明日家に帰ります。今までありがとうございました。」「言いたい事は其れだけですか?」「は?」手を握られる。抱きしめられたと気づいたのかコロンが香ったためだろう。話し手とも言えず私は彼の名前を呼ぶのだった嵐の日 PR