哀れな三成 三成短編 2016年12月20日 私は誰にも愛されないのと彼女は悲しそうに笑って、そして泣いた。あれからは十数年間見つからなかった彼女はひょんなことから再会することができた。ライバル企業の事務員。其れももうやめるのだと彼女は言う。何故、と尋ねたところで答えてくれることはないだろう。その悲しそうな笑みを浮かべて有耶無耶にしてしまうだろうから。彼女はそういう所がある。言わないのだ。其れは私も同じかもしれない。私たちは若さで済まない程度に己のことを語らなかった。「秘書の方が呼んでますよ」「あ、ああ」「ご出世したみたいで」「ああ。」「大谷さん達も元気そう」「…」「では、私も仕事に戻ります」「おい」「?」「この後…昼食でも。いや、今日の晩空いていないか?」「は?」「ずっと探していた」「…ふふ」「おい」「もう終わった話ですよ」「終わってない!お前が一方的に」「十数年前の話をしているのですか?石田社長」「!」「失礼致します。」「まっ」「?!」「待ってくれ!話をして」「私は誰にも愛されてないんです。だから」「そんな事はない!私は」「誰も愛さないことにしたんです」「は?」「本当に失礼致します。」「ま、」いくら呼び止めても、抱きしめても。彼女は私の両手からすり抜けていく。明確な拒絶に愕然としながら追いかけていく。その頬を伝う涙を拭う許可を私に得られるはずはないことを知っていたとしても、其れを無視する事はできない。エレベーターホールでどうにか追いつき名前を呼ぶ。振り向いてすらくれない事実に心臓が引き裂かれる気がする。あの美しい笑みを。幸せそうに、蕩けるほどの甘い笑みを浮かべたこいつをここまで傷つけて、粉々にしてしまったのはまちがいなく己なのだ。「花」「何かご用ですか?」「すまなかった」「?」「あの時の私はどうにかしていたんだ。」「…」「私にはお前しかいない。私が結婚したいと願うのは」「なら、早々に私のことを忘れて誰かと結婚したほうがいいですね」「?!」「…」「は、な?」「時間を無駄にお過ごし遊ばさないでくださいね」「っ」「話を!」「何のですか?」「私と!お前のだ!」「ふふ」「?!」「私は誰も愛さない。…愛せない。愛したく無い。もう、構わないで」「嫌だ!」「一人で生きていくと決めましたから。本当に…あなたの事は私にとって終わったことです。」「花」「そんなに」「?」「そんなに大事なら…そんなに私が愛しいと思うのなら」「思う!そは今でも変わらない!!!」「何故、貴方は私を見つけてくれなかったの?」「っ」「何故貴方は私を裏切ったの?」「それは…」「愛するなんて都合のいい言葉。私を止めておくには十分すぎるほどに…でも貴方は私の事など愛してはいなかったのですよ」「私を否定する気か?!」「貴方が私を否定したのですから」「…」「本当に、失礼します」「謝罪すら」「?」「謝罪すら。弁解すら。その機会を与えてはくれないのか?」「私たちは大人ですから」「…」「謝って全て許される子供の時代は過ぎてしまったんですよ」哀れな男一人で生きると私は決めたのだ。失踪したとは大げさで、前から一緒に行こうと話して、ようやく取れた一緒の休みの日に合わせた旅行先で迎えを待ちながら、最初は薄っすらとそして確信を持って私はそう思ったのだ。一人で生きていこう。有難いかな仕事につける資格は人並み以上にある。今の貯金を切り崩さずいけるだけの給与があれば、退職金を貰えなくてもなんとかなる。6日間。その意思が強く明確になる程、彼が迎えに来るという希望は消えていった。どこに行こうか言う話も何もかも。彼にとっては記憶にすら残らない事だったのだろう。彼の言った「何もしても側にいる女」きっと「何もしてもいい都合のいい女」だったに違い無い。きっと雑賀さんと仲良くしてきいる事だろう。連絡すら無い彼を見ると都合のいい女は用済みになったようだ。帰ったらまず、携帯電話を解約して家も引っ越そう。憧れの東京暮らしは恐ろしく惨めなまま終わりを告げそうだ。憧れは憧れのままのほうが良かったのかもしれない。東京も、三成さんも。どこに住もうか。一人で生きていくのは東京の方がいいのかもしれない。憧れでは無い地に足をつけて住めばこんな気持ちにならずに済むだろう。猫を飼おうか。…いや、それこそ猫にまで見捨てられたら私は生きていけない。最低限。生きているのに必要なものだけ持って私は生きるよう。そう、すば何も辛くは無いのだから。失う辛さ、得れない辛さ。…裏切られる辛さを感じ無いためなら私は何もいりはしない PR