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変換なしの雑食夢

ran

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水色

「今日もまた」
「あら、美しい撫子ですこと。」
「手紙に添えるのには可憐で御座いますが」
「これ!姫様がお優しいからといってあなた方が出しゃばりますな!」
「良いのよ。松。竹に梅。花差しを。このままでは余りにも可哀想ですから」
「はい」
「織部が良いわ。」
「玻璃は?華奢だから似合うと思うの」
「そうね。」
「早くおし!!!」
「きゃー怖い。」
「早く参りましょう、松様の雷が落ちてしまうわ」



ぱたぱたと出て行くのを忌々しげに見つめるので私は苦笑してしまう。養育を間違えたと育ての母が言うのだから仕方がない。私はくすくす笑って健やかで天真爛漫な二人が好きよと答えて文に目をやる。
鮮やかで繊細な和紙に書かれている治部の文字は彼の姿に似合て繊細だ。美しい羅列を見て松ですら感嘆したのだから。代筆、かもしれませんねと仇を見るかの如く付け加えたのが彼女らしいところでもある。
代筆、なのだろうか?そうかも知れないし、祐筆に書かせているのかも知れない。私は治部の手を知らないから是非がつかないのだ。




「今日は何と?」
「花の礼に贈った織物を褒めてくださってます。ふふふ。今日は其れだけ」
「懲りずに。結納の日取りが決まらないものだから焦っておいでなのです」
「ふふふ。松の治部嫌いも此処までくれば大したものね。筆を。返事を書きます」
「はい」



松は治部が嫌いらしい。理由は剣があるかららしく何でも過ぎたることは毒と同じですなと言うのが初めて会った時の感想。私としては親子かと思う程度に似ていると思うのだけど。



「書けました」
「持って行っておきます」
「お願いね。ねぇ梅」
「はい?」
「私が此処を去ると此の局には誰か入るのかしら」
「さぁ。私には存じ上げません」
「そう、ね。…あなたもあの二人も此処に残るのだから寂しくなるわね」






脇息から離れて庭に出ますと私は言う。供は入りませんという。
誰にもついてきてほしくない。少し考えたい。

治部の事。


私を娶り後継者になる夢が潰えたと思ったのだろうか?結納の事も先のことが決まらないのは半兵衛が時をよんでいるからだろう。私にはよくわからない時節の変化というものを。きっと治部は待てと言われればずっと待つ。兄上の命なら尚更だ。私もそう。似た者同士なのかも知れない。其れが此処まで違うのは偏に。私が弱いからなのだろう。



「あら。此処は半兵衛庭。」
「やれ、賢人よ」
「何だい吉継君」
「結納の件、ぬしは如何考えている?」
「二人を添わせて。後継者としての地位を絶対にしないと。その為の結婚だよ。美人の側室も見つけたし。そろそろ動かないと」
「ひひひ。姫も哀れよの」
「知らないさ。彼女の役割は其れだからね。例え嫌がろうとも無理矢理だ。その分今まで贅沢に暮らしただろうと。もし拒否すればあの子の身の回りのものを殺していく。多分一人目くらいで根を上げるよ。まぁ。出家がしたいと言われた時には焦ったけど」
「そうよな」
「三成君も例え醜女だろうが命なら逆らわないからね。…まぁああいう性格の子だから姫も生傷絶えないかも知れないね」
「ふむ。獣に人を嫁がせるか。あれは手酷く抱く故姫は喰い殺されよう」
「其れも承知の上だ。」
「ひひひ。と言いながら…ん?」
「誰だい?!」
「あ…」
「姫?!」
「…やれ、聞いておったのか?」
「…」
「これはだね。」
「知っておりましたの、で。ご安心を」
「え?」
「これ。姫」
「私は私には価値がないことを一番よく知っております。ので、盾にされようが人柱にされようが致し方ないと…知って、」
「待って!」
「…失礼いたします」




泣いてしまってはいけない。ずっと堪えていたものを、湧き出て来るこれを止めなくてはならない。必死に走って私の局に戻ろう。
今は泣かないから。お願いします。誰にも会いませぬようにと駆けていく。のに





「姫様?」
「じ、ぶ?」
「なっ?!」
「っ」




なぜこうまで会いたくない人に会ってしまうのだろう





水色





「じ、ぶ?」




半兵衛様と姫様の庭園を分けるかのようにある小道を歩く。
刑部に呼ばれてだがきっとお叱りを受けるのだろう。気がそぞろだ。姫様に柔らかい拒絶を受けた折より。

がさりと庭木が揺れる。突然の事で柄に手を掛けた瞬間、菫色の打ち掛けが見える。

姫様は驚いたようにこちらを見ている。其れは私も同じだろう
何時もは纏められている髪も乱れ、少し汗ばんだ肌。今まで見た何よりも美しく清らかなのだ。なのに、

「何があったのですか?!何故」
「治部」
「泣かれておいでなのですか?」
「何でもありません」
「ですが…」
「姫!何処だい?話をさせてくれ」
「半兵衛様?」
「っ」
「待って下さい!」
「触らないで!」
「っ」
「私を一人にして…」
「姫、様?」
「花も手紙ももう要りません。だから私に構わないで。」




そう言うと踵を返してご自分の庭に走っていかれる。



「触らないで」



明確な拒絶を受けたのは初めてかも知れない。その台詞に身を固め掴めずにいた不甲斐なさを恥じ入るのだった


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