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変換なしの雑食夢

ran

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柿渋色

あれから治部を見かける度走って逃げられる。文字通り。風の様に。そんな彼を追い掛けるどころか話す事すらままならない。そう言うと刑部が面白そうに笑う。私としてはその対応が想定内のことなので苦笑してしまう。

「ところで」
「何かえ?」
「美しい方は見繕えましたか?」
「犬の子や猫の子ではなくてなぁ。中々」
「そうですか」
「姫はほんに良いのか?」
「何がです?」
「この婚姻よ」
「兄上に此処へ置かれた瞬間から諦めはついています。ですが…其れに巻き込まれる治部が哀れでなりません。私の様なものを押し付けられるのですから」
「其れはなかろう?主は立派な」
「力なく、豊臣のお役に立てないのです。此処では私の様なものより力がある者が良いのですよ。」
「ぬ」
「ですから。私が唯一お役に立てるのはこの様な事だけでしょう。十分に豪華な暮らしをさせて頂きました。其れもこれもこの日のため。」
「姫」
「勘違いなさらないで。悲観や絶望でもなく。況してや治部の事をどうこう言っているわけではないのですよ。あの方にはもっと美しく聡明な、そんな方を添わした方が幸せでしたのに…私のせいですね」
「…」
「刑部」
「何、三成は愚直なまでに真っ直ぐなやつよ。」
「だから…いえ」
「姫?」
「少し頭痛がします。」
「…なれば我は退室しよう」




パタリと閉じた障子を見て私は侍女に休みますと告げる。少しだけ疲れた。本当に。婚姻にしても何にしても。出家したかったのにと脇息にしな垂れる。頭を変に回しすぎたのだろう。頭痛が酷くなる。
治部は、この婚儀を如何思っているのだろうと思案して馬鹿馬鹿しくなる。あの人は、私ではなく兄上の血縁と結婚するのだ。

私を見てくれる人はいないのかもしれない。






「姫様」
「…ん」
「御床の準備ができました」
「ありがとう」



そう言って微睡みから覚めると肩に掛かった其れに驚く。銀と藤の羽織。 はらりと落ちて藤の紋が目に入る。
驚いて侍女を見ると石田様が来られていたのですとだけつれなく返される。




「治部が?」
「菓子と花を持参されて、御通しいたしましたら姫様がお休みだったので。お預かりしております」
「あ、はい」
「脇息でお休みになられませんよう。急な来客もありますから」
「…ごめんなさい」
「お衣を替えましょう」
「ええ」
「医師を呼びまして、薬を用意いたしました。口直しにお召しあがりますか?」
「いえ」
「?」
「後で食べます。枕元に置いておいても?」
「構いませんが」
「ではそのように」
「…少し休みますので人払いを」
「はい」




パタリと締められた障子の向こうに人払いをしても誰かが付く。雑兵にすら勝てない私はこうやって誰かの手を煩わせて生きなければならない。息が、苦しくなる。籠で飼われた鳥の様だと笑った所で私の声は聞こえない。今までもこれからも。私は兄のために生きて駒として死んでいくのだろうか?愛のある結婚を求める以前に私を見てくれる人は居るのだろうか。半兵衛と治部が兄を見つめる眼差しや刑部や左近が治部を見つめる眼差しまではい求めない。その一雫でいいから私を見て聞いてくれる人は居ないのだろうか。苦しいのだ。宙に消える私の言葉も意思も全てが限界なのだ。
「苦しい」と一言吐いたこのいつもの言葉は頭痛のせいか心中ではなく声に出してしまった。急いで口を押さえたものの、誰も心配なんてしないわねと自嘲してしまう。小さな声。きっと畳と障子に吸われて行ったのだろうと、おもったのに






「姫様?!」
「え?」
「お苦しいのですか?今、医師を」
「…治部?」
「…」
「?」
「っ!!!?申し訳ありません!お休み中に…私のようなものが…」
「え?あの。」
「医師をすぐに呼びます。お待ちになってください。其れまで、私の羽織を…」
「待って」
「…ですが」
「声」
「?」
「貴方には聞こえましたか?」
「姫様のお声を聞き逃すはずはありません。」
「そう、なの?」
「はい!」
「治部には私の声が聞こえていますか?」
「勿論です」
「…羽織」
「?!申し訳ございません!私物など姫様にお掛けするにはご無礼」
「ありがとうございます。先ほども」
「あ…」
「掛けて頂きました。重ねて礼を申します」
「そんな、恐れ多い!剰え勝手に御部屋に入る愚行を犯してしまい…」
「治部」
「…」
「ありがとう。」
「秀吉様の妹君であられる姫様に忠誠を誓うのは至極当然なことです」
「妹…そうね」
「姫様?」
「いえ、いいの。治部に謝らないと」
「私に、ですか?」
「ええ」
「?」
「兄上と半兵衛の言い付けとはいえ私の様なものと縁を結ばなくてはならないなんて…本当にごめんなさい」
「は?」
「私の様に取り柄もなく役に立たないものを押し付けられて本当に申し訳ないと思っているのです」
「何を仰せになられますか。姫様は秀吉様の妹君!尊い方なのでございます」
「私から兄上との縁を取ればただの女です。」
「その様な!」
「治部。貴方には三国一の美女で才女を側に。婚礼の時に連れてまいります。兄上には半兵衛から伝わっておりますので。…其れに貴方の本当に愛した方が出来たら仰って。側にしか無理でしょうが近くに」
「姫様!」
「…やはり頭痛がするわ。治部。下がって頂けますか?」
「ですが…私は!」
「治部」
「っ」
「羽織は後で持って行かせます。部屋の前の守りは他のものと変わって少し休んで」
「…あい、わかりました」









柿渋色








「石田様」
「貴様は姫様付きの。ご容態は如何だ?」
「少しお風邪を召した様です。熱はないのですが…頭痛がひどい様で。これは石田様へと姫様が」
「…」
「羽織でございます。あと、文もお入れ遊ばしているとのことです」
「あいわかった。」



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