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変換なしの雑食夢

ran

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いくひと 1

「郁ちゃん大丈夫?」
「熱かい?」
「ほら、これ差し入れ。少し食べて寝な」
「って言っても料理人の舌を満足させられるかね」
「気は心だ。…薬は?これよく効くから」


ありがとうございますと掠れた声で言うと皆は眉を下げてますます心配そうな顔をする。良いご近所さんであり常連さんだ。風邪のためお休みしますという張り紙でここまでしてくださるのだから。
たくさんの紙袋をカウンターに置いて皆さん帰っていく。ありがたいなぁと一礼して戸締りをしていると奥から人の気配を感じて頭を上げる。


闇に溶けてしまいそうな黒い人。
名前も知らない彼のせいで私はもう二度と経験したく無い経験を昨日してしまった。お陰で熱は出るし喉はやられてしまったし。裏口の鍵を勝手に開けて入ってきたことも文句言いたいし。結局無意味なのだろうけど。





「風邪?」
「心労です。」
「気が小さいね」
「人並み、ですよ」
「…熱」
「?」
「寝てな」
「そうして良いですか?」
「?」
「食事かと」
「…馬鹿を言うなよ」
「馬鹿ですか?」
「今日は休みだろ?休みの店で注文しねぇよ」
「…ふふ」
「ん?」
「いえ。ありがとうございます」
「…良いから寝てろ」
「はい…おっと」
「摑まれ」
「重くないですか?」
「少し太れ」
「…此処です」
「…」
「?」
「はや、く。寝てろ」
「はい」
「…」
「あの」
「何だ?」
「私の時は、優しくして下さいね」
「…は?」
「目撃者だもの。口封じするんでしょ?」




昨日、店を閉めようと掃除していた時ふらりと現れたのは見たこともない男性でしきりに警察をと頼まれる。私は何かに巻き込まれたのかと思いつつ携帯に手をかけようとした瞬間現れたのが眼前にいるこの人だ。



「あれはあいつが悪い。借りた金は返さない、人の女に手は出す…好き勝手生きた代償だ。」
「そうですか」
「…気分が悪いか?」
「え?」
「顔が青い」
「思い出して」
「とっとと忘れろ」
「昨日の今日ですもの」
「あんなクズのせいで体を壊すな」
「…」
「何だ?」
「口封じに来たのでは?」
「はぁ?本気だったのか?」
「え?ええ。」
「馬鹿馬鹿しい」
「しないの?」
「…しないことはねぇ。が。今回はしない」
「???」
「お前」
「はい」
「…郁」
「はい?」
「何で泣いた?」
「?」
「普通泣き叫ぶんだがな。お前、ぼろっとないで終わっただろう?」
「え?ああ。」
「何でだ」
「貴方が辛そうでしたから」
「…」
「あ、の」
「熱」
「?」
「上がってんな」
「少しクラクラします」
「口開けろ」
「?」
「薬だ」
「え?んっ」
「寝てろ」
「ききききききききキス!」
「ガキでもねぇだろ」
「初めてですよ!」
「…幾つだよ」
「えへっ」
「はぁ」
「?」
「調子狂う」
「ねぇ、殺し屋さん」
「あ?」
「ありがとう」
「…ん」






いくひと







翌日、目がさめると殺し屋さんがいたので私はびっくりしてしまう。
開口一番がおはようでもなけれで何故いるんですかではなく間の抜けた声だったので、殺し屋さんも笑ってしまっている。


「おはようございます」
「凄い声だな。熱も下がらないか…」
「昨日からいたんですか?」
「ああ」
「寝てます?」
「ソファでな」
「また、なんで」
「口封じ」
「?」
「普通は確かにするがな…お前はしない」
「は?」
「その証拠だ」
「…」
「何だ、その目は」
「いや、不意に来るのはやめてくださいね」
「しない。」
「ホラー系のああいうの苦手で」
「…俺を何だと思ってる?」
「殺し屋さん」
「不正解だ」
「?」
「おいおい教えてやるがな。名前も…まぁ、気が向いたら教えてやる」
「はぁ」
「取り敢えず朝飯だ。食べて寝てろ」
「はい」
「…何だ?変に嬉しそうだな」
「誰かに朝から優しくされるの初めてだもの」
「…そう、かよ。」




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